月が揺蕩う復活譚   作:マスター冬雪(ぬんぬん)

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本当に無謀な事をした……(声震え)
死ぬかと思ったけど生きてる。
捏造過多ですし、ミカさんが使ってる技は色々引用してます。活劇とかグラブルとか。戦闘シーンはお察し。オレ達のミカさんはさいきょうなんだ……!
まだ炎が使えないので以下略)しましたすみません。

前半はいつものようにヴァリアーの日常。
中盤から本編です。

読みにくかったらすみません。私にはこれが精一杯。
勘弁だ。

あとがきは三日月が三日月になる前のお話。
見なくても本編には関係しないと思われます。

1万6000字超えちゃったよ……



第4話

剣戟の音が鳴り響く。銀が閃き、幾つもの軌跡が互いの命を奪わんと苛烈に鍔迫り合う。

 

「流石だ。また腕を上げたな」

「この程度じゃねぇぞォ゙!!」

 

切り払い、振り下ろし。再び距離を取った2人は同時に地を蹴った。

 

 

前日の夜から朝方に掛けて、三日月とスクアーロは一般隊員4人1組をそれぞれ率いてザンザスに敵対する人物を暗殺、目撃者は全て殲滅した。ボンゴレからの疑いの目は気にせずに、だ。計画まで後3日に迫った今日(こんにち)、そのような雑事を気にする必要はないのである。

互いに並々ならぬ剣士故、その性質を生来の友のように、或いは長年の好敵手のように理解し合うまで、そう時間は掛からなかった。

今回の獲物はスクアーロには物足りないものであったらしい。折角計画前でしなくてもいいSS級の任務を攫ってきたというのにとんだ無駄足だと不服であったのだ。より強者を。自分の剣技の血肉とするため、血に飢えた鮫は止まらない。上司も上司であれば部下も部下である。

半端な血の臭いによって気が滾るのも仕方ないと、三日月は睡眠時間、日頃の楽しみである茶会に加え、下町へ散歩に出掛ける時間の全てを返上し、スクアーロの決闘相手を名乗り出た。

 

 

「あらあら、スクちゃんったらとっても楽しそうねぇ」

「それ言うなら三日月もじゃね?」

 

昼前とはいえ剣戟の音が中庭から響けば何事かと様子を見に来るも無理もない。半刻前から一般隊員なり、見物人であるベル、ルッスーリアら幹部も顔を出す。

 

「ゔお゙ぉ゙ぉい゙!!とっとと本気を出せぇ゙三日月ぃ゙い゙!!」

「はは。ならば、こう言わせてもらうか。……早く俺に本気を出させてみせよ」

「上等だぁ゙あ゙あ!!!」

「……うるせー……」

 

2人にしてみれば、周りの事などとっくに考えに無い。

喰らい付くような突きの連撃を、舞うような刀捌きで受け流し横合いから払う三日月は、ほんの僅かな隙を作り、針に糸を通す様に隙を縫う。下方より斬りあげられるそれは金の残滓すら幻視する程鋭く、美しい。スクアーロは剣の平でそれを受け流し、位置を変え、より側面から袈裟がけに斬り伏せんとする。

激しく両者の間に火花が散る。

 

「良い剣だ。荒いが、その荒さがいい」

「言ってろぉ゙!!」

 

限りなく身体を伏せて獰猛に貫くのがスクアーロの剣だとすれば、三日月の剣はまるで1本の棒が身体を支えているかの如くブレない体幹で、受け流し、舞うように鋭く斬り捨てる。

互いに違う歩幅で、同様に絶えず足を運び、剣客独特の間合いと駆け引きで己の全てをぶつけ合う。

刃を剥き、本気で相手を刈り取らんとするそれはある種の芸術だ。そしてこれ位では相手は倒れぬという信用すらある。

何十合もの打ち合いの後、2人は互いを弾き距離を作る。

 

「お、最後かな?」

「みたいね。出るわよ……」

 

高まる戦闘の熱を敏感に察したベルとルッスーリアは両者に注目する。

 

「最後にするか」

「行くぞぉ゙!!」

 

殺気は可視化しかねない程、風すら巻き起こし。

緊迫は唐突に途切れた。

 

鮫特攻(スコントロ・ディ・スクアーロ)ォ゙!!」

 

足元の芝生すら切り刻みながら高速で駆け出すスクアーロの大技。積み上げた剣技の集大成。剣帝を打倒せしそれは間合いに入ったもの全てを切り刻む。

 

─────スクアーロ殿も、レヴィ殿も、名のある技を持っている。それは自信の証左、磨き上げた技術の証明。

─────ならば俺も倣ってみるべきか。

 

ここで、初めて三日月が構えた。

 

 

「名付けるならば─────五阿弥の閃(ごあみのせん)

 

身体の捻りを加えながら抜き放った刃は幾条もの金閃となってスクアーロに襲い掛かる。……否、それはあまりの剣速に、まるで1度刀を振ったとしか見えぬ、正しく剣の極致の一端。

複雑な軌道はまるで三日月。縦、横、斜め。唐竹割り、切り上げ、逆袈裟。全方位からのそれはスクアーロの身体を引き裂く─────事はなく。

 

「オレの剣に合わせて、全て弾いた……だとぉ゙?!」

 

からり、と。抉れた土に斬鉄されたスクアーロの剣が落ちる。

そう、三日月はスクアーロの剣の軌道を見切り、そこに剣閃を置いたのだ。あまりの絶技にスクアーロは驚愕する。

 

「いや……全て、とはいかなかったな」

 

三日月は切れた頬を指で撫ぜる。

三日月の纏う制服はあちこちが浅く切れていた。それが物語るのはスクアーロの剣の速さと技の練度、三日月の技の未熟さだ。

スクアーロの技は完成されたものだが、スクアーロ自身の肉体は未だ発展途上。

そして何より技の完成度が完全であるからこそ(・・・・・・・・・)、それが三日月が付け入る決定的な隙となったのだ。

 

「スクアーロ殿の技を目にする機会は山とあった。それがあれば、大体の剣の軌道は読める」

 

人間誰しも、無意識に癖が出る。よくよく観察した三日月は、それを利用したのだ。……それでも咄嗟に誤差を無くし、躊躇いなく危機に飛び込み行える程にはどれだけの鍛錬を重ねたのか……想像するだけで気の遠くなる道程であるのは確かである。

数ある有利と不利と地の利の中、三日月が斬られたのは、偏にこの戦いの中でスクアーロが成長したという事。

 

「また、速くなったな。スクアーロ殿」

「……嘗めやがって……」

 

痛烈に舌打ちをして三日月を睨み上げる。

 

「最後のは何だぁ゙」

「技だ。スクアーロ殿らの研鑽の(つい)、少し羨ましくなってな。作った」

「その程度の浅ェ練度でこのオレに使いやがって……全力でもねぇ癖にその始末じゃ使えねぇだろうが!その上刃が消耗してやがるじゃねぇかぁ゙!!」

「うむ、耳が痛いな」

 

三日月ならば傷を負わず切り抜けられただろう。刀に対するダメージを限りなく減らせただろう。その技の練度が少し上回れば、完全に敗北したのはスクアーロの方だった。

それを理解するが故に、スクアーロは怒る。

 

「いやはや、だがな、誇って良いぞ。剣技自体は奥伝位にも達しているし、その技は既に水月位に程近い。(くらい)という型に収められぬ力量も勿論あるが……うむ、やはりお主は剣客だ。俺も励まねば」

 

世界は広いな、と含み笑う三日月は先程とは一転好好爺然としている。きりりとした鋭い気配はとうに無い。

 

「本気でやらなかった癖に何を、」

「今、取り返しのつかぬ怪我を負う訳にはいくまいよ」

 

ボス殿のさぽぉとをするスクアーロ殿は、特に。

声を潜めた三日月の言にスクアーロは閉口した。

 

「お主が今の俺程に器が成熟した時、怪我も命も度外視して……本気でやろう」

 

鞘に刀を収めた三日月は手入れせねばと刀を撫ぜる。

 

「スクアーロ殿、剣の予備は?」

「あるに決まってんだろぉ゙」

「それは良し。では暫し休憩としよう」

 

 

 

 

 

 

三日月は一般隊員が利用する食堂を利用する事もたまにある。隊員との関係は良好である。最初は三日月の容姿も相俟って、実力を疑われ絡まれたが、そこは実際傭兵経験もある三日月。

破落戸と間違われかねないような管巻きをスルーし、嫌がらせは持ち前の天然さで逆に周りを脱力させ。

身に降りかからんとする暴力は穏便な力技で捩じ伏せた。

 

「む?鍛錬か?はっはっは、若者は元気で良いなぁ。どれ、じじいが揉んでやろう」

 

三日月の言葉である。

その言動もあり、隊員は三日月をじいさん、じじいと呼び親しまれる迄に到った。三日月が幹部候補と知った時の彼らはどのような反応をするのか、三日月は少し楽しみである。

 

「じいさん、今度はアンタ何やったんだ」

「何の話だ?」

「またスクアーロ様から斬り掛かられてただろうが。他の隊員が話してたぞ」

 

やらかした前提なのは一先ず置いておき、三日月は首を傾げる。

食堂の人員である料理長は三日月に定食のトレイを渡しながら苦笑う。気配を探れば何人もの隊員が聞き耳を立てているのに気付く。

 

「手合せをしていただけだぞ?」

「……お前さん位だよ、幹部様と手合せなんぞ」

「じいさんの言動にスクアーロ様がキレてたんじゃなくて?」

「じいさん天然だから仕方ねぇよ。事実はどうだか、」

「お前雨部隊だろ。聞いて来いよ」

「お前が行けよ。オレはまだ死にたくない」

 

一般隊員からしてみれば、幹部は上司も上司。機嫌=命に直結しかねない危険人物である。特にベル直属嵐部隊は数が少ないが最も入れ替わりが多い危険区域だ。

因みにマーモンの霧部隊は特殊な体質、能力持ちしか入れず、レヴィの雷部隊は別名雷撃隊といい、レヴィが選んだエリート中のエリートしか入る事は許されない。

一番人気(マシとされているの)はオッタビオ率いる雲部隊であった。しかしオッタビオはザンザスの腹心という事もあり、最近は雲部隊として出動する事は殆どなく、基本他の部隊に仮配属されているが。

思いも思いに語る皆を穏やかに笑って聞き流すと、三日月は定位置に座って食事に手を付け始める。

 

「……米が食いたいな。今度聞くか」

 

三日月は人知れず現れては忽然と消える為、半ば妖怪扱いなのは公然の秘密である。

 

 

 

 

 

 

三日月は食事を終えるとあてられた自室に戻り、刀を抜く。

刀の手入れである。

三日月はその様子を他者に見せる事は無い。少なくとも、自身が人の身ではないと知る者が出来るまでは。

 

 

刀は三日月自身だ。もっと言えば三日月宗近は付喪神である。

 

 

『器物百年を経て、化して精霊を得てより、人の心を誑かす、

これを付喪神と号すと云へり』という言葉がある。

ある世界、三日月が"三日月宗近"として歩み始めた場所では世界各地で未曾有の大事件が多発していた。今そこで生きていた筈の人間が存在ごと消え去るという、"あってはならぬ"事件。その原因は時を遡り、望まぬ歴史を改竄し修正しようと目論む者達によるものだった。人が消えたのは、過去死ぬ筈の人間が生きてしまった事により存在そのものが無かったことになったという事。敵は強大であり数多。時の政府はそれをテロ行為と看做し、対抗策を講じる。

─────物の魂を発起し心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる技を持つ……審神者と呼ばれる者達によって、付喪神達は肉の器を得た。

付喪神とは人に造られ、使われ、信仰される事によって生まれる。人を愛し、人の為に心を砕く。末端ではあるがと彼らは謙遜するが、紛れもなく慈悲深い神々のひとり。

 

顕現されし人の姿をした刀剣を"刀剣男士"と呼ぶ。

 

その慈悲深き本霊より分けられ、打たれた鉄に宿った分霊の一振が三日月宗近だ。

 

 

神は人を愛し、慈しむ。

"彼ら"は友誼で結ばれており、互いが互いを補い合って、審神者の霊力無き今も肉の器を保っている。

……その噺はまた、然るべき時に語られるであろう。

 

ともあれ。

 

刀が折れれば三日月は死に、三日月自身が大きく損傷すれば刀にも影響する。刀を差し出すという事は、命を他者に握らせると同義。

それに何よりも、彼が"友"から譲り渡された大切な姿形だ。無茶はすれど無理はしない。彼のいのちは、彼一人のものでは無いのだ。

 

審神者程ではないが、彼の手で摩耗を減らす事は出来る。まがい物故の裏技、彼自身のものである膨大な霊力を生む魂から、肉体という器に蓄積した霊力を取り出し、刀の治癒に注ぎ込むのだ。自己治癒と相違ない行為であり、それを行えば暫くの間三日月の肉体の結合率が著しく下がる。つまり、三日月自身の肉体が脆くなるのだ。要するに転ぶだけで骨が折れる。じじいである。

 

 

刀の切羽と鐔を抜き去り、はばきを取る。刀身を右手に持ち、上質の布で刀身を拭い古い油を取り去り打粉を打ち、拭い去る。それを何度も繰り返し、刃紋と地鉄を見つつ刀身に新しく油を塗る。余計な油を布で拭う。刃を再度はばきを入れ、切羽、鐔、切羽と装着し、目釘を入れつつ鞘に収める。

 

この作業中、霊力を刀に注ぎながら、である。

"彼が三日月となった時"から、手入れは彼自身が行ってきた。慣れたものである。

 

「こんなものか。……やはり、うむ。審神者殿程上手くは出来ぬか」

 

中傷ですらないほんの少しの摩耗ですら、三日月の手ではかなりの霊力を使う。更に一時的とはいえ肉体が脆くなっては世話もない。幾ら魂の生み出す霊力の量が並外れているとはいえ、刀はやはり刀なのだ。使う者にはなれない。

三日月は肩を竦め、身体を柔らかなベッドに投げ出した。

幹部候補といえど部屋は一般隊員と同じ広さのものを一人用に渡された程度、幹部らのものより数段型落ちするが、家具の一つ一つはそれに相応しい。身を包む柔らかな感触に身を預けた三日月は暫しの休息を摂るのであった。

 

 

 

 

 

「ザンザス様!!これはどういう事ですか!!」

 

その晩、三日月は夕餉に幹部の使う晩餐室へ向かっていた時の事だった。ボスの執務室からオッタビオの大声が聞こえて、三日月は不思議そうに首を傾げる。

 

「ベル殿?マーモン殿?」

「あっ、三日月……しーっ」

 

人差し指を立てて声を出すな、と言うベルに頷き、三日月は2人と同様に盗み聞きを始める。

どうやら漸くオッタビオに強襲計画の資料が渡されたらしい。それも作戦の最重要である下準備の段階と細かな実行時間を抜いた、当日限りの予定表。

オッタビオには、ギリギリまで内密にされていた情報。

それが、その意味が、理解出来ないオッタビオではない。

 

「ボンゴレ本部を強襲など……!貴方は本当に、ボンゴレを敵に回すおつもりですか!?このヴァリアーを潰したいのですか!!」

 

今までの全てを吐き出すように、オッタビオは言い募る。

その言葉は聞き手であるベルやマーモンが眉を寄せる程には、忠言と言うには過ぎた言葉だった。

 

「今ならまだ間に合います!こんな馬鹿な事は止めてください!此処には書いてありませんが、私の知らない所で他の幹部らにボンゴレ内の敵対人物の暗殺を命じたのですね?!っ、今からでも私が本部に掛け合って助命を乞うて─────」

「─────おい、オッタビオ。テメェはいつからオレに命令する程偉くなった?」

「ッ!!?」

 

ザンザスにとって、憎い相手に頭を下げて助命を乞う等。その言葉は琴線に触れる。

 

「テメェはオレを唯一理解していると思っているみてぇだが……自惚れんじゃねぇよ。オレを理解する者など、この世の何処にも存在しねぇ」

 

オッタビオは凄まじい衝撃を受けただろう。長らくザンザスを支え、幼い彼を見守り続けたが故に。人生の大半を捧げた相手に、オレはお前を信用していないと言われたも同然なのだ。

 

「……貴方は、変わられてしまった。一体何があったというのですか……。相手は、貴方の父君であらせられる9代目なのですよ?実の親に対する情はないのですか。……貴方の抱える怒りとは、何なのですか……」

「……」

「……貴方は、何も私に話してくださらない。何故……私は忠実に、貴方だけに従っていたというのに、」

「情など知った事か、クソの役にも立つか。全ては力だ。お前達カス共は唯、オレを伏して仰ぎ、崇め立てればいい」

 

オレがボンゴレ10代目だ。

 

その言葉にベルは機嫌よく、かっけー!と口角を上げる。

 

「言いてぇ事はそれだけか」

「……失礼します」

 

此処で慌てるのはベルである。盗み聞きがバレるのはよろしくない。マーモンは溜息を吐いて幻術を行使した。

 

「……っ、」

「……」

 

三日月の隣を抜けていったオッタビオの顔は酷く澱み、苛立ちと悲しみと憎悪が混在していた。

 

 

 

因みにその後直ぐにやって来たスクアーロが燃やされた。ザンザスを食事に呼ぼうとしたのだが、彼の怒りは天元突破していたらしい。執務室は全焼である。

ベル、マーモン、三日月は寸でのところで回避したのだった。

 

 

 

 

 

「オッタビオは計画に参加しねぇ゙。雲部隊は三日月、お前が直々に指示を出せぇ゙」

 

作戦前日。この5日間連日の如く連綿とした計画を立ててきたが、漸くそれが牙を剥こうとしている。細心の注意を払い行動を起こしてきたが、ボンゴレは未だにヴァリアー暗殺部隊の真意を掴みかねている。まさか、ボンゴレの裏の爪牙である彼らが叛逆を起こそう等とは、夢にも思っていないのだ。

それを嘲笑い、油断ならない大舞台に武者震いをする。

 

「ああ。拝命仕った」

 

三日月は感傷を切り捨てる。やはりそうなったか、と。

三日月はオッタビオを見限るどころか今でも友と思っているが、それと仕事は別の話だ。人を率いるのだ、私情を挟んで人死にを増やすつもりは毛頭なかった。だからこう思うのだ。

 

人の数だけ思想も異なる。人の考えは少しの巡り合わせで大きく変わる。これはいつかは表れる相違であり、訪れる相反であり、そしてそれが今だっただけの事なのだ、と。

 

オッタビオが決めた事なのだ、三日月は何も言わず受け入れるだけだ。例えその道がもう二度と、交わる事がなかったとしても。

三日月はいつものようにゆるく微笑んで頷く。

 

「よぉ゙し。最後に最終確認をするぞぉ゙。一言一句でも忘れたら3枚に卸す」

 

 

 

 

 

 

「と、いう事でな。事情(ワケ)あって俺が雲部隊を指揮する」

「「「……」」」

 

三日月によって集められた雲部隊分隊長。作戦室のひとつを貸し切って、地図を広げながらの言葉だ。勿論オッタビオが作戦に参加を拒否したとは口にしない。別口の任務で不在、という事にし、此度の作戦には確実にいないと告げて。これ程の大任務、拒否など有り得ぬのだ。本来ならば。

彼らは互いを見合わせ、サァッと血の気の失せた顔で90度の礼を見せた。

 

「「「今までの御無礼大変申し訳御座いませんでしたァァァ!!!」」」

 

幹部候補、という肩書きは案外重いものだ。何せそれは次期幹部入りは確実であり、その実力を十二分に有しているという事なのだから。現幹部、ボスによる、他方に行かぬようにする、キープの意味合いが強い。

 

つまり、優遇するので他の所に行かないでね!という事である。期待のホープというどころではない。

 

「うむ、構わんぞ。苦しゅうない……なんてな。寧ろこれからも気軽に呼んでくれ。まだ暫定に過ぎぬしな」

「そ、そういう訳には……」

「……では、命令だ。任務中は構わんが公私を分けよ。良いな」

「は、はい……!」

 

公ではなく私を定めるというのは違う気もするが、と三日月は考えながら、今回の作戦の趣旨を伝えようと口を開く……前に。

 

「その前に、立場等、煩わしいもの全て差し置いて聞きたい事がある」

「は、?なんでしょうか?」

「これからボンゴレ本部に攻め入る事になるが……お前達はそれを良しとし、従うか?」

 

途中で投げ出され、逃亡はまだしも情報漏洩は避けたい。例え前日に迫った今、何をしようと止まらず、作戦を今更聞いたとしてもどうしようもなくなっているとしても、だ。

 

「……、……失礼を承知で。確かに我々は死にたくありません。殆ど死にに行くような任務など真っ平御免です」

 

息を呑みながら1人が語る。

 

「しかし、我々は破落戸、傭兵崩れの集団ではありますが、今まで高ランク任務をこなしてきたという自負があります」

 

「路地裏で野垂れ死んでいたであろう我々を拾い上げて頂けたという御恩もあります」

 

「我らヴァリアー暗殺部隊雲部隊一同。少しばかりの死線などおそれる道理がありましょうか」

 

 

真っ直ぐ見つめる3対に、三日月は嬉しそうに頷く。

 

「お前達の覚悟、しかと受け取った。これより先は地獄の一丁目。お前達の命、この俺が預かる」

「「「はッ!!」」」

 

 

 

 

作戦は夜に紛れて静から動に、唐突に始まった。

水面下での事がほんの少し氷山の一角として顔を出したに過ぎないと知るのは、一体いつになるか。

 

『支部襲撃班A、強襲成功。これより籠城に入ります』

 

『同じくB、作戦開始』

 

『同じくC、作戦開始します』

 

 

「15分後旗を掲げろ。20分後、本部を強襲する」

 

幾つもの支部を一斉攻撃すればボンゴレ本部も只事とは考えない。先ず敵対ファミリーからの夜襲を疑うだろう。しかしそれならば同盟ファミリーの参戦も考慮しなければならないが、本部強襲の少し前にヴァリアーの旗を掲げれば内輪揉めとして抑止される。

これはボンゴレの内乱であり、他者の介入は極力避けるものと扱われるのだ。マフィアの常識は斯くも悠長だ。それでボスを失っては世話も無いだろうに。

 

勿論ヴァリアーに緊急制圧依頼が来ているが旗を掲げた途端取り下げられ、本部から更なる制圧部隊が派遣されるだろう。それが彼らの意図するものとは知らず。

 

 

皆、情報は漏洩したものと考えて行動している。それ程作戦に余裕が無いという事であり、普段から死線を潜り抜ける彼らが常より意識している事であるからだ。中でもベルは薄々と何となく、三日月とマーモンは確実であると考えている。

故にヴァリアークオリティと謳われる程の作戦通りに任務を遂行を出来る彼らであるのに、当日の作戦の殆どが戦略ルートの設定、敵戦力情報共有のみという遊びがあり過ぎる作戦なのは、ある種見せ札であったりする。

 

何せ幹部以外に課された命令はたった一つ。

 

敵性体は全て殺せ。

それだけなのだから。

 

 

 

 

 

 

「─────愈々(いよいよ)だ」

 

狭い仮設の建物の中で幹部らはボスの号令を待ち侘びる。

皆一様に適度な緊張感と抑え切れない高揚に笑みを浮かべ、己が崇めるボスに勝利と栄光を捧げんと誓う。

ザンザスは怒りをその眼に映し、告げる。

 

「今こそこの手で老耄共を引き摺り下ろす。このオレが最強だと知らしめろ、ドカス共」

 

その様子は嵐の前の静けさ。荒れ狂う憤怒を、赫怒を、然るべき時に、然るべき相手に向ける為に。

月明かりは雲に遮られ、奇襲には最適な宵が広がる。

彼らは闇夜に動き出す。

 

 

 

 

 

本部から戦力が出払ったと同時に潜伏したザンザス率いる幹部、エリート中のエリートである生え抜きのヴァリアー隊が動き出す。入念なる下準備によってボンゴレ内の過激派を味方につけた事もあり、多くの戦力が外部へと向かっていった。

 

「じゃ、三日月、……とレヴィ。派手にやれよ♪」

「応。任せよ」

「オレはついでか!?」

「二人共頑張ってくるのよ〜♥」

「包囲されたら籠城になって長引くからね」

 

潜伏場所から一先ず先に。 三日月は東、レヴィは西から。制圧部隊を闇討ちし、部隊を破壊しながら少しずつ本部へ向かう。彼らの役目は城を敵勢力に包囲されないよう考慮しながら、思い切り暴れ回る事。

 

「レヴィ殿」

「む……なんだ、三日月」

 

レヴィは雷撃隊を、三日月は雲部隊を連れ、隠密行動をしながらだ。作戦は開始されているが、2人に気負いはない。

 

「これから戦が始まるが……どうだ、賭けでもしないか」

「……賭け、だと?」

 

不謹慎な、とレヴィは眉を寄せる。

元来真面目であるレヴィだ、名誉あるボスからの任務に俗なものを付属させるのは好ましいとは思わないのだ。

 

「内容はどれだけ軍勢を討てるか。報酬は……そうさな、負けた方が勝った方に1度、何かしらボスからの賛辞を受ける機会を作る、でどうだ」

「ぬっ!」

 

この言葉を聞くまでは。

レヴィの行動理念に沿った賭けの内容だ。しかもそれを切り出したのは飄々と事を熟すあの三日月。賭けの報酬も期待出来る。それに討った敵の数を数える等片手間でも出来る為、レヴィは逡巡の後受諾した。大規模破壊するのだから数えられない?それはヴァリアークオリティで解決である。

 

「……では、作戦通りに」

 

 

 

 

 

レヴィの士気はこれ以上ない程に上がっていた。その理由には三日月との賭けという分も大きい。その様子は雷撃隊も顔を見合わせて苦笑いする程である。

己に厳しく他者にも厳しく。ボスであるザンザスの為ならば命すら捨てる忠誠心。弛まぬ努力によって得た力。何よりも誰よりも作戦通り完璧にこなしてみせる揺るぎなき力量。意気込みが空回りする事もあるが、雷撃隊の皆はそれも踏まえてレヴィを慕っていた。

 

「行くぞ……全てはボスの為に!!」

「「「はっ!」」」

 

レヴィは背中の電気傘(パラボラ)を射出し、雷撃隊総勢37名は対象を囲うように駆け出す。

その姿が敵の車の中……運転手の視界に入る前に、レヴィの絶対不可避の陣は組上がる。

囲うように円状、上空に浮き上がった電気傘(パラボラ)は傘を開き、ばちり、ばちりと帯電する。

 

「レヴィ・ボルタ……!!!」

 

バチン!!

極限まで帯電した電気傘(パラボラ)から、凄まじい電撃が迸る!

 

どおおおおおおんっっ!!

 

射程内にあった車体を容赦なく打ったそれ()は、雷撃隊の精密射撃により軋んだ給油口から漏れ出したガソリンに引火。後続車を巻き込んで大爆発を齎した。

 

凄まじい爆音と共に大きな火の手が天を焦がす。

これよりレヴィ・ア・タン率いる雷撃隊が、攻勢に入る。

 

 

 

 

 

 

三日月はその身に戦装束である群青の袴を纏い、その上から隊服を羽織る珍妙な格好をしている。これは三日月の本気の証だ。どれだけ動こうと落ちないようルッスーリアに頼んで固定紐を付けてもらい、隊服自体にも部分部分に金のアクセサリーを取り付けた特別仕様である。

ボンゴレ本部の目と鼻の先、三日月は善も悪も度外視して刀を抜く。

 

 

 

『……陽動、ですか』

『ああ。俺は破壊行動を命ぜられているからな』

三日月は地図のとある部分に駒を置きながら言う。

『故に自然と目が俺に向く訳だ。……お前達にはその隙に、敵の主力を担う者を暗殺してほしい』

 

 

 

 

「さて……そろそろ配置に着いた頃合か」

 

雲部隊の皆は三日月とは逆に闇に紛れやすいよう、肌の露出を極限まで少なくし、消音器付きの銃を携え、離れた位置にて待機している。

三日月はレヴィと賭けをするが、三日月にとってはザンザスからの賞賛はどうしてもと欲しいものではない。偏にレヴィが肩肘張って余計な緊張が入っていた為、気を逸らそうと口にしたに過ぎないのだ。勿論反故にする気もないが。

 

「これで空回りしなければ良いが」

 

数を数える、という行為は案外馬鹿にならない。人間素数を数えれば何とやら、緊張を解すには理性に働きかければ本能にブレーキが幾分かは掛かるというもの。

三日月の視界に、道を走る車が前方を照らして向かってくるのが入った。

 

「……開幕の号砲は派手な程良い、か。うむ、」

 

三日月の刀が淡く金の光を零す。

 

「最初から、本気を出そう」

 

己が主に捧げよう。三日月はそう言わんばかりに左足を引き、刀を引き、刃を天に翳す。

三日月は雲部隊に言った。……けして刀の先に居てはならぬ、と。

 

「ヴァリアー暗殺部隊幹部候補、三日月宗近。推して参る」

 

流麗に、只只迅く。

迫り来る鉄の塊目掛け……その刀を振り下ろす!

 

「ハァァァッ!!」

 

─────斬。

人の耳では耳鳴りが遮るまでに凄まじい轟音。その軌跡、斬撃となりて。

 

二重の斬撃は人外の膂力も相俟って深く地面を削り、巻き上げながら更に暴虐の嵐となり、地上の三日月となっては切先で夜闇を切り裂き、前方を掻き乱す。

 

鉄塊など。人体など。

切り裂く為に生まれし神霊の一端、魂の生み出す霊力を多分に含んだ異界の剣士の力には、紙切れも同然であった。

 

 

 

 

 

 

「……始まったなぁ゙」

 

ほぼ同時、2箇所から轟いた爆音。時間きっかりだ。

陽動にまんまと引っ掛かった外部の見張りを瞬く間に暗殺し、彼らは状況を開始する。

 

隊員は広大なボンゴレ本部……城の内部を幾つものルートに分かれて下から順に、幹部であるルッスーリア、ベルフェゴールは3階、5階窓から侵入し、それぞれ爆発物を仕掛けながら戦力にダメージを与えていく。

 

しかし、それすらも囮だ。本命はザンザスとスクアーロ両名による9代目の暗殺。

 

スクアーロは9代目の護衛に付いているであろう守護者を、先回りしたルッスーリアとベルフェゴールと共に引き付ける。

その間にザンザス自身が9代目を討つ。

 

マーモンは既に動いており、上階にて連絡系統を麻痺させ、隊長格の始末に奔走している。

 

 

 

スクアーロとザンザスは只管に前へ、緊急用の秘密の通路を通り、先へと急ぐ。

隊員はその道を切り開き、迫る追っ手を撃ち殺し、道を塞いで殲滅する。

 

「ひゃっほぉ狩り放題じゃん!!しししっ!」

 

幼いながらも卓越したナイフ捌き、そしてその陰で緻密に隠されたワイヤーによる罠に刻まれ、バラバラ死体になっていくボンゴレファミリーの黒服たち。笑いながら、返り血に身を汚しながら。地獄の一幕のような血の池と、この世のものとは思えない人間の悲鳴を量産していく様は、まるで悪魔。

試すように貫き、遊ぶように突き刺し、気紛れに切り刻む。

それは確かに、切り裂き王子(プリンス・ザ・リッパー)の名に相応しい。

 

「ここら辺に爆弾をー……っと。次はあそこか。ん、敵はっけーん!死ねっ!!」

 

 

 

 

 

 

「コレクションは、……今は仕方ないわね。油断してるとボスにカッ消されちゃうわ〜」

 

品定めはするけど〜っ!

膝に埋め込まれた鋼鉄(メタル・二ー)により攻撃力を増したムエタイの脚技が、俊敏に接近しては敵の顎を割り、 肋を突き破り、鳩尾を抉り抜く。

ベルフェゴールが一対多に優れるとすれば、ルッスーリアは一体一に長けている。

ベルフェゴールが苦戦するような相手でもその行動を読み切り、その独特なステップで翻弄し蹴り砕く。

それは銃相手でも対応し切るもので、幹部に相応しい身のこなしで堅牢なボンゴレの守りを内側から食い破っていく。

 

「んん〜もうちょっと上腕二頭筋鍛えて出直してき、てッ!」

「がはぁッ!!」

「貴方は背筋が足りない、わッ!」

「ぐほぉッ!!」

 

前言通り、品定めしながら。

 

 

 

 

 

ザンザス、スクアーロは人が誰もいない通路を最短距離で走り抜ける。

 

「ゔお゙ぉい゙マーモン!9代目の居場所は変わってねぇだろうなぁ゙?!」

『変わってないよ。どうやら9代目自身がボスを迎え撃つみたいだね……周りには嵐と雷。雲、雨、晴は外に向かった。レヴィと三日月には連絡済みだよ』

「嘗めた真似してくれんじゃねぇか」

 

それはつまり、護衛の数を減らしてもザンザスらの相手が出来ると言われたも同然。

こめかみに青筋を立てたザンザスは走るスピードを早め、遂に辿り着く。

 

「カス鮫。テメーは守護者を叩け。老耄はオレが殺る」

「あ゙あ?!1人でなんとかなるとでも思って……、ッ!!」

 

スクアーロは途中で言葉を噤む。

ザンザスの赫眼にはもう、スクアーロの姿は写っていない。それどころか目の前の道ですら怪しい。

悍ましい程の殺意を、憎悪を宿す血走った目は、最早ボンゴレ9代目の命しか見えていない。

 

「……分かったぁ゙。だが、負けたら許さねぇぞぉ゙ ザンザス」

「誰に物を言っている」

 

スクアーロとザンザスはそこで二手に分かれる。

スクアーロは、ボス同士の戦いに雑音を入れない為に。

ザンザスは、唯……憎き父親を殺す為に。

 

 

 

 

 

 

通信を切ったマーモンは更に城の中を動く。

彼の役割は連絡手段の麻痺と司令塔の暗殺といった、戦場を混乱させる事……は、実は二の次であった。

戦場を駆け回るマーモンは最もと言っても過言ではない程には戦争状況を把握している。何せ霧部隊が重要箇所を抑え敵情を観察している為だ。

 

その情報がマーモンの元に一手に集まり、必要なものだけを値する者へ発信する。これが第一に課せられた任務である。

 

幻術で姿を隠しているとはいえ、マーモンに油断はない。アルコバレーノであるマーモンは自身のおしゃぶりを封印している事で本領を発揮できない状態にあるからだ。……そしてそれにもうひとつ、とある理由があった。

ボンゴレ本部西棟。通信機器は非常時の為に個々で管理されている為、マーモンの移動量も自然と多くなる。

 

「ボスには追加で相応の金を払ってもらわなきゃ。割に合わないよ」

 

人使いが荒いと文句を言いながらも為すべき事は完璧に遂行する。

 

「(9代目霧の守護者が見当たらない。内部に入り込んだ()を探しているのは確かだね……)」

 

そう、マーモンの懸念はひとつ。同じ術士である9代目霧の守護者、クロッカン・ブッシュだ。

術士としての純粋な力量はマーモンの方が軍配が上がるが、姿を隠したマーモンを見破る可能性、というのは大いにある。

マーモンはクロッカン・ブッシュを相手にするつもりはない。

 

……その僅か数分後、広い城の中で盛大な鬼ごっこと隠れんぼが開始するのだが、……マーモンの知る由もない。想定内ではあるが。

 

「む……!居たぞ!ヴァリアーのマーモンだな?!」

「ムム……相手にしてられないよ。時間の無駄だね……!」

「待て!逃げる気か……ッ!」

 

幻術で作った囮を撒き散らし、マーモンは駆ける。

 

 

 

 

 

「雷撃隊!此処に9代目守護者が1名来ると連絡があった!」

 

レヴィは城に向けて前進しつつ、後方から来る戦力を削っていた。雷撃隊の被害はないとは言い切れない。レヴィ自身度重なる連戦に、電気傘(パラボラ)を握る手に力が入り過ぎて固まりかけている。

相手方は作戦を変え、ヒットアンドアウェイでレヴィらを取り囲み、常に人員を散らし、レヴィ・ボルタの餌食にならぬよう警戒している。

 

「明らかな時間稼ぎ……だがオレとしても敵の足止めは出来ている」

 

レヴィの頭に過るのは三日月との賭けである。

 

「い……いやいやいや、欲張ってはならん!」

 

だが、レヴィは冷静だ。

 

「しかし……オレが守護者を討ち取れば……」

 

──────よくやった、レヴィ。流石はオレの右腕だ。

──────頼りになる。これからも頼むぞ。

 

「ボスぅ─────!!!」

 

 

訂正、レヴィは冷静ではない。通常運転だ。

彼は歓喜に顔を緩めるが当然の事ながら妄想である。

 

「!お前は……ヴァリアーのレヴィ・ア・タンだな……?!」

「ぬ!?……貴様は9代目晴の守護者ニー・ブラウJr.……!」

 

頬に蜥蜴のタトゥー。9代目守護者の中でも若い部類に入る彼は引き連れた部下に雷撃隊を相手するように言い、レヴィと向き合った。

 

「良い心意気だ……お前達!此奴には手を出すな……!」

「この方が勝率が高いというだけだ……勘違いするなよ」

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

9代目雨の守護者ブラバンダー・シュニッテンと雲の守護者ビスコンティは、切り拓かれた森の惨状に車外に出て警戒する。

ボンゴレ本部は周辺に広大な森が広がる場所があるが……その殆どが土色に捲れ上がり、切り倒されている。

 

「鋭い風でも通ったような切り口……」

「このような事が出来る者がヴァリアーにいたとは……」

 

静まり返ったそこは既に攻め落とされ、制圧された事の証左。

9代目の采配で守護者2人がかりで向かったのは正解だったと、2人は警戒を上げる。

 

 

 

「─────ふむ、本命が来たか」

「「!」」

 

月明かりが丸く切り抜かれた広場の中央を照らした。

黒い外套はヴァリアーの証。和装を纏う男。

涼やかな落ち着いた声音とは裏腹に、その姿は血潮で滴った。

 

「誰だ……貴様は、」

「俺か?俺はヴァリアー暗殺部隊雲部隊隊長代理、三日月宗近と申すもの」

 

瞳には浮かび上がるような下弦の月、その滴るような美しき顔ばせは、頬を濡れる赤すらその貌を彩る芸術のようだった。

周りには死屍累々。積み上げられた屍山血河。

─────死神。その刀の輝きは振り翳される大鎌。

 

「9代目の雨、ブラバンダー・シュニッテン殿と雲のビスコンティ殿だな?幹部が2人とは……さて、困ったな」

 

三日月は刀の血糊を払う。

2人からすれば、彼はヴァリアーらしいとは思えない空気を纏っていた。

言うなれば、温厚。清廉な月夜。

 

「何故……お前達はボンゴレを裏切った」

「おいブラバンダー!」

 

ヴァリアーは或る意味荒くれ者の集団。代理とはいえその部隊長に話し合いは無用だろう。ビスコンティはブラバンダーを諌めるように口を挟む。が、三日月はそれに返した。

 

「はて……生憎俺は入って半年程。ボス殿のお考えはとんと分からん」

 

予想外の朗らかな笑顔と声。

 

「ならば、」

「しかしな、まあ、ボス殿がそう無意味にこんな事を起こす御方ではないという事は、入って間もない俺でも察するさ」

 

ボス殿は9代目の息子なのだろう?と、三日月は言う。

子は親の背中を見て育つのだ。態度に出ぬとも、確かに似るのだと。

 

「些か苛烈だが、その身にその紅き炎宿したからには、抑えきれぬ衝動もあっただろうが……真実はボス殿と9代目殿のみが知る、か」

 

じじいの話に付き合わせてすまなかったな。

三日月が2人に刃を向けた事で、各々武器を取った。

影のような人影が取り囲む。

 

「……誘われたか」

「すまんな。代理とはいえあやつらの命を預かっているのだ。隊長とは隊の皆を生かしてこそ……。まあこの布陣は、……所謂保険に過ぎん。挟み撃ちを受けぬ為に。お主らを逃がさぬ為にな」

 

一戦、御相手願おう。

三日月は深く、笑った。

 

 

 

 

 

「漸く来たのかよスクアーロ」

「おっそいわよー!もう始まっちゃってるんだからぁ!」

 

ベルフェゴールは何とか紙一重で無傷、ルッスーリアはベルフェゴールを庇ったのかあちこちが傷だらけで、辛うじて2人の守護者の猛攻を抑えていた。

 

「悪かったなぁ゙ッ!!」

「くっ……」

 

スクアーロの剣による一閃を弾いた9代目雷の守護者、ガナッシュ・Ⅲ。

 

「剣帝スペルビ・スクアーロ……」

「ガナッシュ、まさか不利だと思っちゃいないだろうな?」

 

その横に並ぶのは嵐の守護者コヨーテ・ヌガー。

 

「……まさか!」

 

9代目が最も信頼する右腕達だ。苦しい戦線となる事を、スクアーロだけではない、ルッスーリア、ベルも確信した。

 

だが、それがどうしたというのだ。

 

「ゔお゙お゙ぉい゙!!よく言ったァ゙!!その余裕ごとたたっ斬ってやるぞォ゙!!」

「うるっっせぇんだよクソ鮫!」

「鼓膜破れちゃうわぁ〜!」

 

 

自分達はボスを信じ、ボスに勝利を捧げる──────。

 

 

此処にいない幹部も、唯それを思い得物を振るうのだ。

 

 

「ルッスーリアぁ゙!もうベルを庇うなぁ゙。ベルぅ!テメーは最初から飛ばしていけぇ゙!」

「はぁ〜い!本領発揮よぉ〜♥」

「うっしししし!やりぃ。張ったトラップに引っかかんじゃねぇよ、先輩?」

「……"誰に物を言ってやがる"。テメーらこそ纏めて卸されねぇように精々気を付けろやァ゙」

「私達仲間よねぇッ?!」

 

 

獰猛に笑んだ幼い幹部らは、一斉に古兵(ふるつわもの)に飛び掛かる。

 

 

 

 

 

そこは今は使われていない広い空洞のある地下水道だった。

幾つもの巨大な柱が立ち並び、石造りで床と壁を埋めた避難場所兼、最終防衛地点。此処から外へ出る一方通行の道が多数に広がる、ボンゴレボスに伝わる場所。

 

「……来たか、ザンザス」

「……ッ!!クソジジイ……ッ」

 

悲哀の目でザンザスを見る、9代目ボンゴレボス……ティモッテオ。

ザンザスの手に持った拳銃に力が入る。

 

「こうしてお前に会うのはいつぶりか」

 

……、……何を話すかと思えば。

ザンザスは煮え滾る憤怒を押さえ付ける。

 

「よくも、ほざけたな……。……今やボンゴレ本部も風前の灯火だ」

「……」

 

これがオレの力だ。

この炎に傅き、跪け!恐れ慄くがいい!!

このオレが手にした地位は!力は!!

権威あるボンゴレすら落とせる程に……!!

 

「貴様を殺し、オレがボンゴレを手に入れる」

「……ボンゴレファミリーのボスの座は、手に入れるものでは無い」

「!!」

 

ザンザスの怒りが溢れる。

 

「その目で……」

 

ティモッテオの瞳に宿るもの。

只管の哀しみ。諦念。

 

そして──────憐れみ。

 

 

「その目で、オレを見るんじゃねぇッッ!!」

 

 

お前は決してボンゴレファミリーを継げぬ、と。

見透かしたような目。

ザンザスの中で憎悪が膨れ上がる。

 

 

 

 

放たれた憤怒の炎は周囲の水分を消滅させる(消し飛ばす)

老人らしからぬ動きでそれを躱したティモッテオは、己の武器である杖に炎を灯しながら、しかしザンザスに攻撃する事はない。

 

「どうした老耄ッ!!この炎が恐ろしいかッ!!」

 

空洞を支える巨大な柱をも削り、風化させる。

7代目ボンゴレボスが使用した炎を充填できる拳銃は、2代目ボンゴレボスも使ったという憤怒の炎をより、増幅させる。

ザンザスは自分に1度足りとも攻撃をしようとしないティモッテオに更なる苛立ちを隠せない。

 

「ザンザス……っ」

「オレは……オレが!!」

 

"怒りの暴発(スコッピオ・ディーラ)"─────ッ!!

白熱した極太のレーザーがティモッテオが元いた場所に大穴を開ける。

 

「このオレこそが……ッッ!!」

「ザンザス、もうやめるんだ……今なら、」

 

"今なら"?今なら、何と言うつもりだ。

許されざる事をした。

ザンザスには分かっている。

そしてティモッテオも分かっている筈だ。

分かっている癖に、また、ザンザスを裏切る事を言うのか。

上限かと思われた怒りは、憤怒の炎の威力と共に上昇していく。

 

「てめぇはオレを裏切ったんだ!!他でもないお前が!!!」

「何を……」

「父親面すんじゃねぇ!!反吐が出る!!!」

 

無償の愛など最初からなかったのだ。

幼いザンザスの頭を撫でて、お前は私の息子だと。

 

最初に言ったそれすらも。

 

「ザンザス……ッ!お前は、何故……ッ」

「うるせェ!それはてめぇが1番よく知ってる筈だ!!」

「ああ、まさか……」

 

 

「──────────────、───────────」

 

 

「わかったか!!だったら死ね!!!"決別の一撃(コルポ・ダッディオ)"ォォオオオオ!!!」

 

 

 

その炎は地下水道全てを破壊し、倒壊させかねない、ザンザスの魂の一撃。

 

 

ティモッテオは遂に杖を振るう。

後悔と、大きな悲しみを封じて。

 

彼はザンザスの父である前に。

 

 

 

ボンゴレファミリーの9代目ボスなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

集められた幹部らは葬式も斯くやといった様子だった。

皆治療痕のない場所は見当たらない程であり、ベルに至っては出血の為か気絶から覚めない。

それは俺も同じく。幹部2人、強者だった。

これからの俺達は恐らく首謀者として殺されるか、もしくは軟禁、またはボンゴレの小間使いか。

いや、はや。まさかボス殿程の御方が、そう簡単に死にはしないだろうと思っていたのだが。

 

「……」

 

被害は大体150。取り壊しはないだろうな。今までヴァリアーがこなしていた暗殺任務が本部に雪崩込むのだから、最低限の機能は残す筈。しかし二度と反乱が起こらぬよう幹部は……いや、彼ら程の腕を一挙に失えば損害は取り返せない。ならば監視付きで任務を行う事になる……これが現実的か。部隊は崩して再編し直し、我らは馬車馬の如く働く事になりそうだな。

 

カリカリと筆を走らせて丸を付ける。

 

 

「……ねぇ、ミカちゃん?……さっきから一体何してるの?」

「ヴァリアー隊の現状と被害、今後の処遇をな、考えていた」

 

レヴィ殿に胸ぐらを掴まれ立ち上がる。

 

「!!貴様、見損なったぞッ!!ボスが戻られない時に何を……ッ!!」

「だからこそだろう?」

「なんだと!!?」

 

俺はほんのりと笑みを浮かべて手を重ねる。

 

「ボス殿が戻られた時、隊が内部から壊滅したとあらば。顔向け出来んではないか」

「……っ!」

 

息を呑んだのはレヴィ殿か、その他か。

 

「まだボス殿が死したとは限るまい。我らが信じずして誰が信じるのか?」

 

死体を見た訳ではないのだから、はは。希望を捨てるには早過ぎるぞ、若人よ。

 

「主殿は殺しても死なぬ男よ。墓でも見るまで諦めるつもりはないぞ」

 

「……、……ゔぉ゙ぉい゙。その紙寄越せぇ゙」

「うむ。穴があっては策も何もないからな。頼むぞ作戦隊長」

「ッ!オレにも見せろ!」

「……私も!」

「ム……僕も」

 

 

途端に騒ぎ出す部屋に、眠っていた筈のベル殿も起き出した。

ボス殿という大き過ぎる柱が抜けてしまったヴァリアーは、齎された朧気な光に縋って、少しずつ立て直さんとしている。

闇の住人が光に。というのは可笑しなものであるし。

縋るといっても汚くしがみつく。といった風貌だが。

 

大人しく泥に沈むには、俺達は腐りきってはいまい。……いや、腐りきっているからこそ、か?

 

まだこちらの方が俺達らしい。

 

 

「うっせーんだけどこのタコ!王子の安眠妨害するとか何様?」

「ぬごっ!?」

「ゔお゙ぉぉい゙!!レヴィ!!汚れんじゃねぇかぁ゙!!」

「あらぁ傷が開いちゃったかしらぁ〜?」

「どれ、監視の者に救急箱がないか聞いてみよう……あ、鍵が閉まっているな。レヴィ殿、諦めて布でも千切れ」

「あれっ、なぁ、オレのナイフ知らね?」

「凶器は全部奪われてるに決まってんだろぉ゙!」

「……あ、負けたんだっけ。えぇー、なんで元気なの皆。王子ドン引き……」

「後ろ向きよりいいんじゃない。……僕もボスにお金貰うまで諦められないよ」

「やっぱり金かお前はぁ゙!!」

「当たり前じゃないか。ボスは人使いが荒いけど、金払いはいいからね」

 

 

始まったばかりなのだから、終わるには早過ぎる。

少なくとも、俺は。

 

 

 

 

 

 







俺が"三日月宗近"としての、肉の器を受け取ったのは、もう何十年も前の事になる。

俺は浮遊霊だった。死んだ事に後悔も未練もなかったんだが、何故かそうなってな。現代に珍しく霊力が高かったからなのだそうだ。風の向くまま気の向くまま、消える事も消される事もなく彷徨って、時間すらも超えて。世界すらも超えて。


とある青年が砕けようとしていたのを、俺は傍らにて看取っていた。
当時は知らなんだ事だが、そこは時間遡行軍とやらが、歴史の改竄をしようとしていた世界だったのだ。
それを防ぐ為、審神者なるものが付喪神をおこし、許しを得、本霊から分けた分霊なる刀の刀身を人の身へと変ぜ、共に戦っていた。
青年……三日月宗近も、本霊から分けられた、分霊がひとつだった。その本丸に顕現した時からの仲だ。……言うなれば、俺よりも一つ二つ程度年上の友だった。



─────……波長が、合ってな。
その頃、そろそろ消えゆくのは俺も同じだった。


三日月は……度重なる無理が祟った。器ばかりが癒えようと、魂が磨り減っては立ち行かぬ。
治療する者がもういなかった。彼の仲間は一振とて残っていなかった。
審神者はとうに、本丸と共に命運を失っていたのよ。
……遡行軍の強襲によって。


対する俺は血肉という器がないが故に、魂を維持する霊力を垂れ流しにするしかなく、しかし膨大過ぎるが故に長らくそのまま彷徨っていたが。遂に力を失ってそのまま消えてしまうところだった。


三日月とは、長らく共にいたが、うん。彼は俺が消えるには惜しいと思ったのだろうな。その頃はもう互いに磨り減りすぎて、記憶は朧気だ。
ただ、友の手を取り合って、今までの稀有な生を語り合って、嘗ての頃を思い出していたのだと思う。



月の美しい夜だった。
砕けた刀が地に散らばり、思い出のあるあちこちから火の手が上がったが……

月だけは、無垢に、魔性に、只只美しい、夜だった。



俺は、姿と名を喪う。
三日月は、魂を取り零す。


触れた手の感覚が失せたその時、


俺は、"三日月"として空を見上げていた。


ああ、一本取られたなと、思ったよ。
"ああ、受け入れてくれて良かったと、そう思ったよ"。


その魂は神霊の分霊としての霊力で補われ、肉は魂に染み付いた感覚により補完され、それは形作られた。
分霊としての側面をすべて、俺は譲り渡されたのだ。





もう、誰にも話さないだろう、昔の話さ。





追記
ザンザスはゆりかご編では銃使ってなさそうだったけど、圧倒的戦力差で全力つかわないの可笑しい気がしたので改変。
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