月が揺蕩う復活譚   作:マスター冬雪(ぬんぬん)

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1日に2話投稿は今だからこそ出来ること。


評価ありがとうございます!!日刊ランキング(加点式・透明)で15位とってました。なにこれ怖い……。
とってもうれしい。
目に見える評価があると励みになるってハーメルンの大先輩が言ってたけど本当だったんだ……!



今回から空白の8年編です。といっても小噺で5年すっ飛ばしますが。
ミカさんがフォローするもんで殆ど平常運転ですもの……さすミカですわ……

最後が次回の導入です。
どうぞ


空白の8年編
第5話


【報告書】

 

 

ボンゴレファミリー総本部の被害は数百人規模、拠点は5分の1が破壊された。それも指揮系統、重要箇所が軒並み使用不能となった為早急の復興を要する。

周辺の敵対勢力に対しての牽制に、鹵獲したヴァリアー幹部を監視付きで転用し、警備に当たらせている。成果の程は上々、詳細は別紙に参照。

ヴァリアー暗殺部隊は実質停止処分を下し軍備を縮小。幹部らは特例につき監視付きで任務に当たらせる。これは9代目の温情であり決定した事。撤回は出来ない。

主犯であるヴァリアー暗殺部隊ボスXANXUSの行方は生死共に不明。死亡が有力とされているが、死体の確認は出来ていない。ボンゴレ9代目ボスの血を引く為(ブラッド・オブ・ボンゴレを所有する為)、死体を利用されない為に内々で処分されたものと推定。

ボンゴレ本部内部の裏切り者は権威を剥奪、謹慎。

ヴァリアーからの密告者の身柄は厳重に保護、密偵としてヴァリアーに潜入を決定。

 

 

ヴァリアー暗殺部隊総力によるボンゴレファミリー最大のクーデターを隠語として《ゆりかご》とする。

 

 

報告は以上。

 

報告書は速やかに処分し、詳細は全て消すように。

二度とこのような事態が起こらぬよう、細心の注意を払って全てを闇に葬る事。

 

 

 

 

 

 

 

連日連夜、ヴァリアー幹部は任務に追われた。

ボンゴレ内部のヴァリアーに対する印象は地の底に落ち、虐げられているという程には状況は悪化している。使いっ走りの獰猛な、首輪をかけられた狗。幹部達は地を舐めさせるような処遇を、(度を過ぎれば手痛いしっぺ返しを食らわせながらも)今は唯、耐え忍ぶまでである。

 

 

 

「ゔお゙ぉ゙ぉい゙!!その任務はそっち(本部)の奴らでも出来んだろぉがぁ゙!!こっちはパンク寸前だって言ってんだろぉ゙ぉ゙!!」

 

 

電話に怒鳴り込むスクアーロの声は今や日常と化している。

執務室で書類の山3つに囲まれ、いつもの強面も3倍増しの形相だ。

スクアーロを囲む山から外れた場所には本部に突き返す分の任務書、報告書の類が辞書5冊分ほどまで積み上がっている。ほんの数刻程前に本部に出頭したオッタビオが殆どを持っていったにも関わらずである。スクアーロの書類整理スキルが並外れている所為だろうか。ヴァリアークオリティだろうか。

本部連中はここぞとばかりに自分の仕事を押し付けにかかる。ヴァリアーの立場は現在ボンゴレの中で最も低い。

怒りのあまり受話器に罅を入れながら小間使い程度(B級相当)の任務を突っ返す事に成功したスクアーロに、両手いっぱいの書類を抱えた三日月が顔を出す。

 

「スクアーロ殿、ベル殿を知らんか?報告書がまだ出ていないのだが……」

「ベルぅぅゔゔ!!」

「一々うっせぇんだよ鮫ッ!王子今武器の調整中だっての!じいさんもすぐ終わっからちょっと待ってろッ!」

 

隣の部屋から声と壁に蹴りが入る音。

軍備の縮小の憂き目に遭い、幹部の中で最も苦心しているのはベルフェゴールだ。ナイフとワイヤーを使い捨てに出来る分が限られてくるのだ、宛てがわれた分を超過すれば当然ベルは自費で購入する事になる。

しかしポケットマネーでオーダーメイドのナイフ共々買えるのはいいのだが、ボンゴレに全て報告しなければならない。王子であるベルには辛いだろう。暫くの間は仕方がない。

ギチギチに詰められた任務スケジュールの中、その小さな報告書も積もれば山となる。

 

「この束は追加で、こっちは持っていくぞ」

「スクちゃんこれ追加ねぇ〜……任務行ってきまぁす」

「ふごっ!」

 

お肌の手入れをする暇もないわぁ……とげっそりしているルッスーリアは欠伸をしながら、廊下に伸びているレヴィを踏み潰して玄関へ向かう。

 

「あ、赤ん坊をこんなに使い潰すなんて……労働基準法違反と児童虐待で訴えてやる……」

「マーモン殿、此処は日本ではないぞ。……それとヴァリアーに人権はないらしい」

「誰だそんな事言ったのは!!呪ってやるぅ……!」

 

ふらふらと飛んでは壁にぶつかるマーモン。足元に相棒であるファンタズマがマーモンの後を追って必死に走っているが、気にする余裕もないらしい。

現在のヴァリアー暗殺部隊はブラック企業(世紀末)も斯くやである。

 

 

ボンゴレ連中からの私情入り混じった任務依頼は5割見下し3割嫌がらせ残りの2割が嫉妬という構成の中、ヴァリアーはその才能と実力で何とか隊を回していた。

罰という名の私刑である。

 

「なぁスクアーロ、どうにかなんねーの?王子この歳で過労死とか嫌すぎるんだけど」

「オレだって嫌に決まってんだろぉ゙!」

 

てめぇはいつまでへばってやがる!とスクアーロはレヴィの腹を蹴り飛ばして怒鳴る。

 

「今オッタビオ殿が交渉に向かっている。まあ、何とかするだろう、あやつならな」

「……だといーけどな」

 

拗ねた様子のベルの頭を撫でながら、三日月は書類を抱え直した。

 

 

 

 

 

「────……今の所、暴発の恐れはなさそうです」

「うむ……そうか」

 

苦労を掛けるな、と9代目はオッタビオを労う。

 

「それで、どのように?」

「ヴァリアーへの任務は私を通して精査させる。あくまで彼らは少数精鋭、私達ではこなせない高ランク任務のみを回すようにしよう」

 

9代目は頭を振る。ヴァリアーが此度のクーデターで疎まれているとはいえやり過ぎだ。悪く言えば逆賊といえど、過ちは誰にでもあるもの。未来ある若者を潰してどうする、と9代目は嘆息したのだ。

 

「寛大な御判断、感謝致します」

「いや……君には苦労を掛けるね。すまないが、これからも彼らを頼んだよ」

「……はい」

 

流石のオッタビオも少し疲れたような顔で微笑んだ。

 

……表層には現れない、地の下で。どろどろとした黒い塊がオッタビオの中で渦を巻いている。

 

 

 

空白の8年間

 

 

 

最初の半年は地獄だったと思う。

9代目に事を伝えたオッタビオにより、状況は少しずつ良くなっていった。このままでは俺も疲労度で折れると思ったからな。……ははは。いや、冗談ではないぞ。

乗り切った後は皆泥のように眠った。

部下も各隊10名ずつ、60名程ヴァリアーに戻った。ボンゴレ上層部からの嫌がらせは細々残れど、あれ以来久方ぶりにヴァリアーは安定したのだった。

その頃には、いつの間にか。

あれから1年が過ぎようとしていた。

 

 

 

「だとしたら、死体を見たものは居らぬと」

「みたいだぜ?」

「ふむ……では墓参りも何もないな」

 

現在成り行きで任務の依頼主と酒を呑んでいる。

まあ、……そうさな。俺はとある護衛任務につき、依頼主に凶刃が及ぶ前に斬り捨て、任務を達成したのだ。

……端的に言えば俺の事を余程気に入ったらしい。酒は強くないらしく、少し注いでやればベロベロに酔っ払ってしまった。……酒癖も、良くはないか。

ボンゴレの重鎮が身内にいるという男はべらべらと自分の知る内情を話すもので、俺は思わず苦笑してしまった。

 

クーデターについては皆口を噤むため、男が知るのは、ボス殿の墓はなく、そもそも死体が見つかってないという事だけなのだが。

 

はっはっは。……こうして情報は漏洩していくらしい。

 

 

「俺は幸運だな。珍しい話を聞けて嬉しいぞ」

「楽しんでもらえたなら、これ以上喜ばしい事は無い」

 

「ふふ……なあ、そうまでして俺の気を惹きたいか……?」

 

「!……そうだな。お前さん程の美人の気を惹けるなら、どんな奴も口が緩むというもんよ」

「口が上手だな……また来よう。今度は個人的に、な」

 

 

手が出る前にするりと席を立つ。空を切った手に苦笑した男は、欲に塗れた目をしていた。

 

 

 

 

【知ってて良かった女性の為の男性のかわし方〜アプローチ編〜】

 

ルッス嬢にそっと持たされた時は何事かと思ったが、中々タメになるな。談話室で読んでいるとベル殿に爆笑されるのだが。

他にも【女スパイの何たるか】や【魅了は仕草にあり】等。読書は嫌いじゃないぞ。

 

「だってミカちゃんガード緩いんですもの〜」

「そんなに緩いか?」

「もーぉユルユルよぉ!いつ連れ去られるか心配で堪ったもんじゃないわぁ!」

 

なまじ抗える力があるから余計そう見えるのよ!とお小言を零すルッス嬢。

視線には敏感な方だがな?

 

「……三日月には案外、諜報任務も合ってるかもしれないね」

「話を聞くのは得意だぞ」

 

諜報に駆り出される確率の高いマーモン殿の言葉に紅茶を飲みながらそう返す。

 

「しかし……妙だね。可能性が残ってるって点では良かったけど」

「妙?」

「ボスの事だよ」

 

静まった談話室。……この1年でボスの話を出すのは、あまり歓迎されるものではなかった。

そう、とうに1年経っているのだ。なのに何の行動が起きたという話もない。

 

「逆賊と言っても過言じゃないヴァリアーに、これだけ温情を掛ける9代目だよ?自分の実の息子を灰も残さず消しされる程非道には思えない」

「……まあ、確かにな」

「9代目はボンゴレの中でも穏健派の中の穏健派だものねぇ」

 

憤怒の炎の解析に死体を解体(バラ)す、というのも無いだろう。それこそ非道極まりないし、下手すれば復讐者(ヴィンディチェ)案件だ。

 

「"墓が作られていない"、というのも妙だね。その情報の真偽にもよるし、憤怒の炎を使える者の死体を奪われる事を阻止する為に機密にしているなら別だけど。……ボスは9代目の実子だよ?……逆賊として扱われているなら、ヴァリアーのボスは死亡した、という事実を隠している意味が分からない」

「……ボンゴレが衰退していると思われる事を危惧して外に漏れないようにしてるんじゃなぁい?」

「生きてるなら、ボスはなんで軟禁を享受してるんだ?」

「……身動きが取れない状態?」

「あのボスが?」

 

うーん、と首を捻る彼らに絶望はない。確かめてもいないのに絶望など、泣く子も黙るヴァリアー暗殺部隊の名折れだ。

分からないなら探れ。探れないなら奪え。奪えないならその時を耐え忍べ。

まあ、そういう事である。

 

「可能性があると知れただけ良いとしよう。なれば、その時に備えて」

「だな」

「そうね!」

「じゃ、僕も僕で探ってみるよ」

「頼むぞマーモン殿」

 

俺は報告書をスクアーロ殿に渡しに、談話室の椅子を立った。

 

 

 

 

「スクアーロ殿、報告書だ」

「あ゙あ。そこに置いておけぇ゙」

 

未だデスクに齧り付くスクアーロ殿。初めの頃よりも余裕があるようで、デスクにある分は僅かに数枚。

 

「オッタビオ殿は?」

「さあなぁ゙」

「補佐ではなかったか」

「今はいらねぇ゙と言った」

 

本来なら腹心であったオッタビオ殿がスクアーロ殿のいる立ち位置にいる筈なのだが、オッタビオ殿自身が辞退した。自分には補佐で充分だ、代理は勤まらないと。

スクアーロ殿は辞退したといえど元ボス候補。オッタビオ殿に聞きながらではあったが1年も経てばぎこちなさも無くなっていった。

 

「……」

 

スクアーロ殿はボス殿がいなくなった後、かなりショックを受けていたように思う。だがそれは不安めいたものではなく……愕然とした印象を受けた、気がするのだ。

他の幹部らにはない、内側に秘めた鉛色の覚悟は。遠い過去か……それとも。

まだ15なのになぁ、と俺はぼんやり思いながら、部屋の端に立て掛けたスクアーロ殿の剣を見る。

 

「スク殿」

「あぁ゙?」

「一戦、付き合ってくれ」

 

 

 

 

「スクアーロ殿が酒でも呑めたらよかったんだが、!」

「呑めねぇ事もねぇ゙、よッ!」

「そうか、なら今度付き合ってもらう、かッ!」

 

剣を合わせ、離れては打つ。

身体を動かすという事を主体においた立合いだ。

 

「チッ……大分鈍ってやがる……」

「スクアーロ殿なら直ぐにでも元に戻るだろう」

 

暗殺ばかりで殲滅任務なんてあまり来るものでもないか。監視のある今、容易に強者など探しに行けないのだ。剣士と戦える時など滅多にないだろうしな。昨今皆銃器ばかりだ。

 

「夜に素振りはしているようだしな」

「!……知ってたのかぁ゙?」

「まあな。俺も眠れん時は刀を振る」

 

また場所を入れ替え何合か刀を合わせ、また隙を狙って離れる。

 

「三日月、お前……分かってんだろぉ゙」

「はて、何の事か?」

「しらばっくれんな、よッ!」

 

振るった刃がギチギチと刄鳴りする。

 

「……オッタビオ殿の事か」

「それ以外に何がある」

「言いたい事は、まあ分かる」

「奴は黒だ」

「……。……で、あろうな」

「着々とボンゴレ内での地位を上げている。オレ達を踏台にしてなァ゙!」

 

俺の刀が弾かれ、スクアーロ殿の剣が鋭く突きを繰り出した。

それを紙一重で避け、峰で横合いを弾き上げる。

 

「てめぇはそれでも奴を信じるのかぁ゙?オレ達を食い物にした裏切り者をよォ゙!!」

「ああ、信じるさ」

 

弾かれてもその勢いは止まらない。大振りの上段を受け止める。

 

「友としては、だがな」

「!てめぇは、」

 

─────成り果ててしまったとはいえ友には変わらんそれを斬った、などと。……人斬りには有り触れた噺よな。

俺には斬るしか出来ぬと、その時そう思ったものだ。

俺の刀は揺らがない。

 

「刀を捧げた主に牙を向けるのであれば、友であろうと世界であろうと神であろうと刃を向ける。俺にとって、(我が朋友)を捧げるとはそれ程に重いものよ」

「……」

 

そう。かの斜陽に、貴方の命運尽きるまで尽くすと。

正義も悪もかなぐり捨てて誓ったのだ。

他でもない俺が。

 

「故に()れぬ。故に諦めぬ。刀は主の意のままに、だ」

 

仕方あるまい。人間生ある内は、見解の相違はある。なればぶつかる他ない。

オッタビオ殿自身、もう退けぬと決めたのだ。俺がそれから逃げて、どうして彼の友と言えようか。

……いつか訪れる筈だった出来事なのだ。

 

「分かり合えれば重畳、互いに譲れぬならば押し通る。それが人という生き物だろう?」

 

人の身ではないが為に不変、真に理解したとは言えない身。

それでも分かることはある。

人は変わらない芯を持つが、同時に変わっていくものだ。

 

「……ククク……っははははははは!!」

 

顔を伏せたかと思えば、剣を下ろして声を上げて笑ったスクアーロ殿。

 

「てめぇらしいなぁ゙。まるでその刀だ。折れねぇ、歪まねぇ、柔軟性の欠片もねぇ、全部斬り捨てる鋭過ぎる刃だ」

「貶してるのか?」

「褒めてんだよ」

 

珍しい。ぱちぱちと瞬きをすれば、恥ずかしくなったのか咳払いしつつ、剣を構える。まだ笑いが込み上げるらしく口端は引き攣っていたが。

 

「続けんぞぉ゙。こうなったらとことん付き合ってもらうぜぇ゙」

「望むところだ」

 

その剣戟は、一晩中終わる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

小噺■三日月の作業着とルッスーリア

 

 

自室で刀の整備をしていたところ、ルッス嬢が差し入れをくれた。どうやらボス殿が帰ってきた時の為に料理の腕を上げているのだとか。

 

「ミカちゃん、ひとついいかしら……」

「ん?一つと言わず幾つでも良いぞ?」

「……、……その服、ダサいわ」

「……そんなにか?」

「そんなによ!!!」

 

前髪が邪魔にならないように髪を纏めた黄色いバンダナ。着心地のよい甚平、中に首まである縦縞の上下。

動きやすくていいのだがなぁ。

 

「顔が良いから許される服よそれは!!顔が!!良いから!!貴方は許されるけど!!!」

「はっはっは。褒めても何も出らんぞ」

「褒めてないんだからぁ!」

 

お洒落はわからんからなぁ。

 

「汚れるやもしれんからな、俺にはこれで充ぶ、」

「ダメよ!!全くもうっ!」

 

美しさは常日頃から、らしい。終始押せ押せのルッス嬢に詰め寄られ、作業着は没収されてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

小噺■レヴィと三日月の賭けの行方

 

 

「み、三日月……」

 

レヴィに手招きされた三日月は任務後である。黒い外套を腕に掛け、ルッスーリアが直々に選んだジャケットとシャツ姿である。

キョロキョロと忙しなく周りを見渡すレヴィの様子は、控えめに言って怪しい。

三日月はその様子にピンときた。

 

「レヴィ殿、どうされた?」

「う、うぬ……その、なんだ、」

「ああ!色々あって忘れていた。すまんすまん」

 

空き部屋に入っていくレヴィの後を追ってその扉を閉める三日月。

 

 

「……では、レヴィ殿。せーので言おうか」

「!うむ」

 

「「せーの!」」

 

「42」「38」

 

「ああ……」

「ぬ、ぬおぉぉおおおぉ!!」

 

 

三日月は苦笑。レヴィは崩れ落ちる。

どちらがどうだったのかは、察しの通りである。

 

 

 

 

 

 

 

小噺■オッタビオと三日月

 

 

「オッタビオ殿〜」

「!三日月さん?どうされましたか?」

 

オッタビオは報告書を纏めていた手を止めて、にこやかに応対する。

 

「この後何か用事はあるか?」

「いえ、ありませんよ」

「ならば外に夕餉に行かないか」

「いいですね、少し待っていてください」

 

三日月とオッタビオはよく共に出掛けている。仕事の後のささやかな楽しみである。

 

 

三日月は神出鬼没で自由気侭である。

ベルフェゴールとトランプやテレビゲームで遊んでいると思えばルッスーリアと料理をしていたり。一般隊員と話に興じていたかと思えばマーモンに餌付け(周りからはそうにしか見えない)していたり。スクアーロと手合わせしていたかと思えばいつの間にか任務に出ていたりする。

 

人当たりは良く温厚、外に出ては町の人間から菓子を山程貰って帰って来たり、逆にルッスーリアが作った余り物を配りに行ったりする。

裏の人間とは?と1度考え直したくなる人物である。

 

因みに監視する人間からすれば物凄く疲れる相手である。

 

彼がまさかボンゴレ本部の部下を大勢ほんの十数太刀で斬り伏せ、9代目の守護者2人を相手取り翻弄し、比較的軽傷であしらった猛者には思えない。

 

 

オッタビオと出掛ける頻度はそれなりに高い。

2人は幹部と幹部候補、更には(見た目)同年代である。社交性がない訳ではない2人が友人になるのも、ある意味必然だったのかもしれない。

 

「お待たせしました。行きましょうか」

「うむ。今日は町の人に勧められた料理屋に行こう」

 

今日1日こんな事があった、あれは大変だった、そういえばこんな話があった、という何気ない会話をしながら歩く2人に気負いはない。

ヴァリアー本部から町までは少し遠いが、2人の体力は並以上、大した労力もなく件の料理屋に辿り着く。

 

 

今回三日月が案内したのは裏路地の知る人は知る大衆酒場である。少し値は張るが、とある美味しいお酒が呑めるという話で、料理も中々だという。

 

「此処は……日本の?」

「うむ。日本人が営む店らしい」

 

よくあるなんちゃって日本食ではなく、本物が味わえる酒場。日本酒には目がない三日月には嬉しい場所である。

勿論日本食が口に合わない人の為に料理のレパートリーはかなりある。そんな所も日本人らしい。

木造の店内は明るく清潔感がある。目の肥えた三日月もオッタビオも中々好印象を受けているようだ。

 

三日月は飾られている酒瓶から好みの物を店の人に話して頼み、オッタビオ自身イタリアでは珍しい日本食を指差してはどんなものか尋ねている。

 

 

「乾杯」

 

どうやらオッタビオの口にも合ったらしい。これの何処が美味しいだとか、これは何処の食材なのかとか。三日月は盃を空けながらにこにこと笑っている。

 

「ほら、オッタビオ殿。酒を注ごう」

「あっ……ありがとうございます」

 

照れ臭そうに笑うオッタビオはそれを受けてグラスに口を付ける。

 

「! 美味しいですね……飲みやすいです」

「うむ。此処は良い所だな。来てよかった」

 

……追記しておくが三日月はザルを越してワクである。

嘗てザンザスと一晩中飲み明かし、ヴァリアーのワインセラーを空にしかけた前科がある。

そしてオッタビオはあまり酒に強くない上、泣き上戸である。

 

……お察しの通り。

 

 

「ですからぁ、僕は、ザンザスさまのためにぃ……」

「うむうむ」

 

三日月は良くない酔い方をするオッタビオの背中を摩っている。

 

「だけどザンザス様はわかってくださらない……うぅ」

「大丈夫だ。ボス殿はオッタビオ殿の事をちゃんと理解しているとも」

「……ほんとですかぁ……?」

「うむ」

 

 

因みに、三日月は確信犯である。でなければ個室など選ばない。

 

オッタビオは無意識に溜め込むタイプだ。ぎりぎりまで耐えて、耐えて、耐え切れずに爆発する。三日月はオッタビオはそのタイプだと見抜き、幾らか気休めでもと思っての事だ。

……泣き上戸とは思わなかったが、まあ、吐き出しているのには変わりない為三日月的には問題ない。……オッタビオの幸運はその時の記憶がない事か。

 

補足だが酔ったオッタビオの話す事は八割がたザンザスの事である。

 

 

「では大将、ご馳走様だ。また来るぞ」

 

最後は眠ったオッタビオを三日月が背負って帰る。

その様子を見られるのはあまり良くないと隠形まで使ってである。彼の隠蔽は35だ。大の大人を軽々と背負う三日月は、流石は刀剣男士か。大太刀の剣を片手で受け止めるだけはある。

 

 

 

三日月はオッタビオの友人だ。

例えもうどうしようもなく、退けない立場にあるとしても。三日月はオッタビオの負担を少しでもなくせるように尽力する。

 

それが唯一、彼にしてやれる事だと信じているから。

 

 

「三日月さん!すみません!また寝てしまったみたいで……、」

「何、別に気にするな。楽しかったぞ。……また行こうな」

「は……はい!勿論!」

 

 

 

 

 

 

5年の月日が経ったとある日。

三日月はスクアーロに呼び出されて執務室を訪れる。

 

「……む?皆揃ってどうした?」

 

執務室にはデスクに座るスクアーロ、レヴィ・ア・タン、ルッスーリア、マーモン、ベルフェゴールの姿があった。オッタビオを除く幹部全員だ。

皆5年前より成長している。最年少のベルフェゴールは今年で13、ルッスーリアは先日22歳を迎えたところだ。三日月も感慨深い。

 

「三日月、お前には重要な任務に就いてもらう」

「……重要な任?」

「ヴァリアー内でもオレ達以外、ボンゴレには絶対に隠蔽しなければならない極秘任務だ」

 

三日月は居住まいを正す。

 

「表向きとしては長期任務……ボンゴレに敵対する国外のマフィアに潜入し、穏便且つ慎重に機密文書の情報収集を行う」

 

そして本来の目的は

─────次期ボンゴレ10代目候補に対する諜報活動(・・・・)だ。

室内の空気が引き締まる。

 

「10代目候補は全て暗殺した筈だが……」

「そっれがいたんだなー」

「実際、隠蔽工作がされてたらしいわぁ。かなり厳重にね」

「僕が裏取りしたんだ。間違いないよ」

 

マーモンの言葉に神妙に頷く三日月。

 

「ザンザスが帰還した際、最も邪魔になるのがそいつだぁ゙」

 

渡された書類には顔写真がクリップで留められている。

 

「彼が……」

「オレ達はまだ動けねぇ゙。暗殺は厳禁だ」

「……だが、何故俺なのだ?言ってはなんだが、俺は顔を覚えられやすい」

 

三日月は瞳に下弦の月のような虹彩がある。顔立ちも、スパイ向きとは言えないだろう。

そう言った三日月だったが、途端に部屋の空気が死んだ。

 

 

「お前……オレ達がスパイ工作なんざ出来ると思うのか?」

 

 

「……」

 

 

スクアーロ(銀髪)(片手義手)(大声)(剣帝で顔割れ)

レヴィ(強面)(融通が利かない)

ルッスーリア(オカマ)(サングラス)(奇抜な髪型)

ベル(自分の血に暴走する)(殺人癖)

マーモン(赤ん坊)(幻術が重用される為除外)

 

 

「……、……あいわかった。その任、責任を持って請け負おう」

 

最悪目は隠して遠縁として偽り通せばいい。三日月はアジア系の顔立ちをしている上、性格は温厚で見逃されやすい。

何より幹部候補として他の皆よりも顔割れしていないのだ。

 

「最低限のバックアップは出来るが期待するなぁ゙。足がつくからなぁ゙」

「わかった。では、俺は何処に向かえばいい」

 

スクアーロは鋭い眼光で何処かを睨み、告げる。

 

 

 

日本(ジャッポーネ)だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回!
ミカさん、日本に立つ……!


ところでミカさん加えた日常編って需要あります?
答えは聞いてないです日常編します原作沿いやっほい


頑張れミカさん!負けるなミカさん!
月イチの報告は求める癖にロクなバックアップしてこない薄情なヴァリアーに絵日記送るような天然期待してます(早口)

ちみっこ10代目とちみっこ守護者とのほのぼのを予定!
ヴァリアー(で慣れてしまったミカさん)のほのぼのっていうと絶対血腥いよね!(最後にフラグを立てていくスタイル)

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