月が揺蕩う復活譚   作:マスター冬雪(ぬんぬん)

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短めですが投稿。
1ヶ月毎にミカさんは報告書を出すようです。
生活基盤を作ったミカさんのお話。


第6話

この世界の日本に訪れるのは初めてであったりする。

空港から足を踏み出した俺はぐーっと背伸びをして、肺腑から空気を吐き出した。

 

「日本だな」

 

身体が、此処が故郷だと言っているようだった。

 

 

 

 

経歴や戸籍はヴァリアーが用意した物を使う事になっている。

 

此処での名は八朔政宗。24歳。

 

日本生まれの海外育ち。両親は永住先であるフランスに骨を埋めている。趣味がこうじて海外を転々としていたが、この度日本に訪れた事を機に日本に定住する事に決めた。

フランスの大学を卒業済み。学科は経済学。

そして、生来の気紛れと思い付きの行動のお蔭で、現在、住所不定無職である。

 

 

「住処も職も自分で何とかしろ、という事か」

 

取り敢えず不動産だな。キャリーバッグを転がしながら、俺は並盛町の不動産の場所へ向かう為、タクシーを呼び止めた。

 

 

 

変装、と一口に言っても、自然体が1番違和がない。

姿を偽る、というよりもその場にいて違和感がない、というのを重視するべきなのだ。

……まあ、全てルッス嬢の受け売りだが。

 

前髪に分け目を作り、帽子を被る。目にはカラーコンタクト、作り物である事を見破られないよう度のない眼鏡を付け、普段着のシャツに黒の上着と下衣で完成だ。

 

潜伏するにあたって予算に上限はない。生活費を含めヴァリアーから支給される。最悪荒屋でも住めば都だが……不動産の店主の、歳を召した彼女の張り切り様はそれでは済まなそうだ。

 

一先ず並盛町内、近くにスーパー等の利便がある場所、交通の便がある程度、という内容で依頼し、連絡先と名を書いて不動産を出る事にする。

 

 

「……次は職か……」

 

コンビニエンスストアで求人雑誌を取り、今日の所はホテルに泊まる事にする。何年かかるか分からんが一応定住するので、ゆっくり決めさせてもらおう。後腐れのないような仕事を見つけねばな……。

 

 

 

夜。こっそりとホテルマンに見つかる事なく外に抜け出した俺は並盛町の地図を手に地理の把握に努める。

確実に盗み撮りであろう粗のある写真には、まだ幼い茶髪の少年が写っていた。マーモン殿と霧部隊の調べでは、並盛町のとある一軒家が住居らしい。

 

「……と、あそこだな」

 

遠目で確認し直ぐにその場を離れる。

見る限り、普通の一般人の家庭のようだ。

連綿と続くボンゴレの血統、初代ボンゴレボスは引退した後日本に渡ったという。その子孫が件のボンゴレ10代目候補である。つまるところ由緒ある家……である筈なのだが。

 

「うむ……詳しくは後日でいいだろう」

 

あまり嗅ぎ回れば護衛に露呈する。

後2、3日程あればこの町の地理は大丈夫だろうし、兎も角俺はその場を離れるのだった。

 

 

 

2日目。

早朝に目が覚めた為散歩しに出歩く。4月の頭である事もあってか、桜は散り際ではあったが、美しく花弁の雨を降らせていた。花見もいいなぁと昔見た枝垂れ桜を思いながら歩いていると、物凄い勢いで走り込みをする少年を見つける。この調子では直ぐにバテるだろうと思ったが、まさか目の前で倒れるとは。と思えば直ぐに起き上がった。大丈夫なのか……?

 

自動販売機でスポーツ飲料を買って渡し、あまり無理な運動をしないよう勧める。

ん?マネージャー?いや、俺はそういうのには詳しく無、

と言う前に手を引かれて道場に連れて行かれてしまった。

 

 

少年はボクシングの選手になりたいのだそうだ。しかし妹さんが人を殴る、といった暴力的なものが好ましくないようで、スポーツであると分別がつくまで内緒にしているらしい。

で、格闘技という訳で体作りの一環だけでもと、近所の道場の師範代に世話になっているという。

確かに将来性がかなりある体付きをしている。ルッス嬢が好みそうだ。

 

「見たところ、君も何か……武術をしているね?」

「ああ、まあな」

「なんと?!ではオレのコーチに……」

「流石にぼくしんぐは分からんぞ」

「そうか……」

 

本当に残念そうだな。

 

「姿勢と足運びからして恐らく剣術……!ちょっと振ってみてくれないか?」

「減るものでもないしな。良いぞ」

 

 

 

渡された竹刀はよく使い込まれ、手入れされた良いものだ。少し軽いが、それは長らく真剣ばかり握ってきたが故の弊害だろう。軽く振り下ろし、手に馴染ませて、正眼に構える。

 

呼吸を鎮め、真っ直ぐに振り下ろす──────

 

風を切る音すらなく、空気の隙間を縫うように、下ろした場所に"置く"。

 

 

「振れが全くない……これこそが境地……!」

「極限に極限だーーー!!」

 

いや、俺などまだまだだ。修練が足りんな。基礎から見直さなければ……。

剣先を見つめながら思っていると目の前に回り込んだ師範代に肩を掴まれる。

 

此処でアルバイトする気は無いかね?!……だそうだ。

 

確かに俺は人を斬るが、稽古だって出来なくはない。

剣道とはまた違うが良いのかと問えば、どうやら門下生に対し先生が彼しかいないのだとか。昨今少しずつ門下生自体も少なくなってきており、どうにか立合いでも見せてやる気を起こさせたいらしい。

そういう事なら渡りに船だと承諾し、渡日僅か2日目で無事職を見つけたのである。やはり俺には剣しかないらしい。

 

 

 

ホテルで朝餉を取った後また外へ出た。

どうやらいい物件があったらしく連絡があったのだ。モデルハウスで新築ではないが、立地、金額、間取り、どれも一人暮らしには充分な一戸建て。案内されて実物を見たが、展示を見る限りは良さそうだ。家具を買う必要も省けるだろうしな、件の道場からもそう遠くない。張り切る彼女に後を任せた。

その後は午前中と同じように、町の散策に時間を当てた。

……のは、いいのだが。

 

「あ、あの!今おひとりですか?」

 

……うむ。

やはり俺に諜報任務は、致命的に合わん気がするぞ?気の所為か?

 

 

 

 

 

それからはとんとん拍子だった。

生活基盤は何とか整い、町の様子も粗方見て回れたのではないだろうか……あまりスパイらしくない気もするが。諜報任務とは一体なんだったか。ああいや、長期に渡って普通の一般人として紛れ込むのであれば、なるべく矛盾がないようにしなくてはならないから、けして筋違いという訳でも無いのだが。金銭面以外のバックアップが望めない現状、堅実な手だとは思う。

だが……半ば休暇のようで申し訳ないような。そうでもないか?

 

「政宗くん?」

 

おっと。構えを教えていた最中に考える事じゃないな。

 

「ああ、すまぬ。次はどれをすれば良いかな」

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし?三日月だが」

《あ?どうしたぁ゙?不備でもあったかぁ゙》

 

「いや……すまん。監視対象と接触した」

 

《……はぁ゙あああぁぁ゙ぁ゙?!!》

 

 

 

 

潜入して1ヶ月が経ち、完全に町民として受け入れられて馴染んだ頃合だ。

今日も今日とて二足の草鞋を履く。

 

 

転けては泣き、からかわれて泣き、ドジをしては泣く。

そんな彼がまさか大マフィアのボスになりかねないとは、人間分からないものだなぁ、と思いつつ。

9代目は恐らく成人するまで、もしくは自分で物事を考えられるようになるまでは、普通の明るい道を歩ませたいのだろう。通例であれば候補がいなくなった時点でボスになる為の教育を始める。……まさか次期ボス候補(9代目の血縁)が軒並み暗殺されるとは思いもしなかったに違いない。

家庭の様子を見るに、母親は父親が裏社会関係者とは知らないようだ。その母子を勝手な都合で引き裂く事は出来なかったとみる。門外顧問である父親が9代目と何かしらの約定を結んだというのも的外れではあるまい。……話によれば、門外顧問は家族を溺愛しているらしいしな。

 

 

それはそうとして。

 

「誰も手を貸さないか……どうしたものか、」

 

物陰で気配を消して見ているのだが、辺りに誰も通りがからない。彼と一緒にいた子供たちは彼を放って何処かに行ってしまっていた。

今日とてからかわれ、転かされて出来た膝の怪我を抱えて、声を抑えながら泣きじゃくる少年。

……。こう見ているだけというのは、些か心が痛むなぁ。

 

「……少年、そう目を擦っては腫れてしまうぞ」

 

 

……すまん、つい。

 

残念ながら俺は、ぐすぐすと鼻を啜りながら泣く幼気な子をそのままに出来る程冷酷ではなかったという事だ。人は斬るが。

……まあ、監視対象に話しかけてはいけないとは言われていなかったしな。

そう気楽に結論して公園に立ち入った。

 

「先ずは傷を綺麗にしような。立てるか?」

「う、ん……お、にいさん、だあれ?」

「名は政宗だ。お主は?」

「ツナ……」

「ツナ、か。では俺の事はマサと呼ぶと良い」

 

膝の砂を払い、水場で傷口を流水で流す。

 

「っい゙……ッ!」

「ああ、泣くな泣くな」

「な、泣いてない……!」

 

綺麗になったのを確認し、手持ちの手巾で膝を覆って終わり。

 

「帰ったら母君に治療し直してもらうのだぞ」

「ちりょー……、あ、ありがと……マサおにいさん」

「うむ。気にするな。気を付けて帰るのだぞ」

「うん!」

 

 

 

 

《……》

「という訳でな。幼子をそのままにしておくのも心苦しくて、つい」

《ついじゃねぇぞぉ゙!!……〜っ、お前はそんな奴だったなぁ゙……オレが悪かった》

 

スクアーロは三日月が町に下りては子供と鬼ごっこだの肩車だの子守りだのをしていたのを思い出して頭を痛めていた。

 

「どうする?今更だが部下と替えるか」

《……いや、続行しろぉ゙。今人員は動かせねぇし、お前程平和ボケした町に違和感なく馴染める奴はいねぇ゙。万一戦闘になった時雑魚共じゃ不安が残るしなぁ゙。……いっそ何か不測の事態が起きた場合、即座に介入できる立場に付いとけ。それで不問にする》

 

そっちのがお前らしいだろ、とはスクアーロの談。

三日月は一般隊員の軒並み強面とした様子を頭に浮かべて苦笑した。ヴァリアーのスパイ要員はもれなくボンゴレ直轄になっている為論外。アジア系の顔立ち、というのを踏まえると皆無、戦闘時に姿を見られる事なく確実に逃走出来るかと問われれば先ずいない。

 

「ボンゴレ側に動きは?」

《今の所ねぇな。お前の姿はボンゴレでも一部しか見てねぇ゙。バレるどころか怪しまれもしてねぇよ》

 

笊だな!とスクアーロは嗤う。

 

《お前の監視は随分前に外れたしなぁ゙》

「どうやら俺に付いてくるのがしんどかったらしいな」

《普段からあんな調子で人員割くのも無駄だと思われたんだろぉ゙》

 

任務中に監視が付くことは無い。高ランク任務をこなすヴァリアーに普通の工作員がついていける筈もないのだ。

つまりヴァリアー本部と外に出歩く者にのみ監視がある状態になる。

……三日月が任務を課された時を見逃してしまう位には笊なのは確かだ。

 

「ではまた連絡する」

《月一の報告書は忘れるなよぉ゙》

「了解だ」

 

 

 

 

 

【観察記録・其ノ壱】

 

観察対象は一般家庭にて表の人間として成長している模様。身体能力、学力ともに下の下。危険度は今のところ零。訓練等を受けている形跡はなく、"目覚めている"気配はなし。

家庭は母子家庭。父親は滅多に家に帰らないらしい(近所に住む人物の証言)。配置された護衛は少数のみである為任務に支障はない。

また別件ではあるが町内にトマゾファミリーの拠点を確認。内乱の気配あり。

報告は以上、監視を継続する。

 

 

 




八朔政宗。由来はお察し。


補足設定とか何やってんの?
関わらせ方が無理矢理?
うるせぇご都合主義という名の運命じゃ

暫くはゆるゆるのんびり進むので嫌だという方はこの作品は巴投げして空の彼方へ吹っ飛ばしてください。


グッピーが死んだ?御愁傷様です。
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