7月。夏。
海じゃん?
という訳でミカさんを海の家に突っ込んでみた。
夏。
太陽の光が燦々と降り注ぎ、軒先で風鈴が涼やかな音を響かせる。子供たちは外で駆け回っては日に焼け、大人達は汗を拭いながらも家族の為に尽くしている。
皆、夏といえば何を連想する?
冷房の効いた部屋で氷菓子を食べる事の幸せ?
友人とプールに行って水遊び?
それとも夜に浴衣を着て夏祭りに出掛ける?
まあ、それはそれとして……外せないのは、恐らく"海"ではないだろうか。
熱された白い砂浜、きらきらと輝く青い海。人の笑い声。
……そう、俺は今、海水浴場にいる。
事の発端は師範代の話だった。
「海の家のあるばいと?」
「そうなんだよ……私の親戚なんだけどね?腰をやっちゃったみたいで」
困ったように俺を窺う師範代に、さてはと思う。
「まさかとは思うが……」
「察しが良くて助かるよ……!!」
「俺に接客の経験はないぞ」
「そこを何とかぁぁ!!知り合いに若い子なんていないんだよ……!アルバイトなんて1日2日じゃ集まんないんだ……1週間だけ!いや寧ろ繁忙期の3日間だけ!頼むよ……!!」
曰く、そんなに大きな海の家ではないから。
曰く、売り込みはしなくていいから。
曰く、もういっそ午前中だけでも……!
必死である。
「流石に午前中のみは拙いだろう……繁忙なのは昼頃と聞いているぞ」
仕方あるまい、例の組の彼奴らに依頼してツナの家の周辺の見回りを少しばかり強化してもらうとしよう。
今現在残党狩りで警戒が強まっている為、外部の者はそう好きには動けんしな。最近日本、ひいては並盛町に侵入しようとしている裏の関係者はおらんし、護衛もいる。
夕方には帰れるそうだし問題は無いだろう。
「まあ、分かった。その間は道場に来れんが、良いのか?」
「ありがとう……!ありがとう……!勿論だよ……!!」
はっはっは。拝んでも御利益はないぞ。
と、いうわけだ。
「旦那が倒れた時はどうなるかと思ったけど、」
役得だわ〜!と頬に手を当てる奥方。
「まあ、なんだ。これから3日、お手柔らかに頼むぞ、奥方」
「奥方だなんて……!もう、お上手なんだからぁ!」
元気な方だな。背中をバシバシ叩かれながらそう思う。
制服はTシャツ、ハーフパンツ。髪はピンで留められ、首に掛かる分は小さめのゴム紐で結んでもらった。
「可愛いわ〜!」
「はっはっは。そうか、可愛いか」
「じゃあ、私は奥で注文されたものを作るから、接客だけお願いね!いつでもいいから、水分はキチンととるのよ?」
「了解した」
多忙、極まりないな。
これは凄まじい。
店内はほぼ満員。ちらちらと視線が気になるが、止まる暇等ない位だ。
「かき氷のいちごとメロン、練乳掛けお願いしまーす」
「承った。かき氷のいちごとめろんの練乳掛けだな」
「お兄さんお名前は……?毎年此処にいるの?」
「政宗だ。此処の主人が腰をやってな、あるばいとというやつだ。3日程ここに勤める故、まあ、よろしくな」
「お兄さーん!注文いーい?」
「うむ、少々待たれよ」
接客とは、これ程までに体力が要るのか。
大変さが身に染みるな……俺も励まねばな。体力作りに俺も了平と朝走るか?
テーブルの番号をメモに書き、注文を書いて別の席へ。
頃合で厨に注文を持っていき、出来上がった料理をテーブルに運ぶ。
「政宗ちゃーん!悪いけど奥から追加の材料取ってきてもらえるー?」
「ああ!直ぐに行こう」
どんどん人が増えていってるのは気の所為か?
流れる汗も煌めいて見える武士系雅イケメン男子。
まるで女性のように整った容姿。
忙しい中でも一人ひとり邪険にする事なく笑顔を向けて対応する彼。
昼時を何とか越え、昼休憩に入るよう奥方から言われ、焼きそばを手にパラソルの下へ。
ソースの香りと麺のモチモチ感が絶妙だ。
成程、毎年これを楽しみに海の家に来る者の気持ちが分かる。
家で食べるより気分が違うな。気分が。
「独眼竜先生!」
「む?おお剣介ではないか」
海を眺めていれば、そちらから声が掛けられる。
道場に通う教え子が水着姿で駆け寄ってきたのだ。
「海水浴か?」
「はい、友達と遊びに来たんス」
見れば学友らしい子供たちが手招きしている。
手を引かれて立ち上がり、グイグイ引っ張られてそちらへ。
「うっわめっちゃカッコいい……」
「え?!剣介この人誰だよ!」
「ウチの道場の先生。滅茶苦茶強いぜ」
「マジで?!」
「つかこの人噂の海の家のイケメンアルバイターじゃん?!」
噂とはなんだ?
むず痒い気分になりつつ目を細めて笑う。
「剣介の学友と聞いている。剣介が世話になっているな」
「いえ!とんでもないっス!」
「ちょっと血の気が多いし猪突猛進だけど良い奴っスから!」
「お前後で道場来い叩きのめしてやる」
びしぃ!と敬礼する学友達に剣介が据わった目で追いかけ回す。
「おい、剣介。俺はなんで呼ばれたんだ?」
「っと!そうだった!」
「今ですね、スイカ割りしてたんですよー」
「ほう」
西瓜割り。
目隠しをして棒を持ち、周りの人の声を頼りに地面に置いた西瓜に棒を振り下ろし、それを割る遊びか。懐かしいな。
「皆で金出し合って1玉買ったはいいんですけど、誰も上手く割れないんスよ」
「お前らがちゃんと嘘言わずにしてればオレで割れてたっつーの!」
「お前剣道の道場行ってっからハンディキャップ」
「限度があるだろアホ!」
力が弱くてヒビが入るだけ、そもそも外す、と。
まあ、人間真っ直ぐ歩くのすら難しいからな。
「独眼竜先生なら綺麗に割れるかなって」
「ん?良いのか?俺が参加しても」
「早く食わねーと腐っちまうからいいんですよ」
「なら、3日間の何れかでもいいから海の家に来るといい。かき氷か焼きそばくらいは奢ってやるぞ」
「マジで!」
「明日行くわ」
「2日連チャンかよ!」
けらけらと笑う彼らから目隠しの布と棒を受け取る。
モップか何かの棒だろうか、少し細いが、まあいいだろう。
「先生、声要ります?こいつらマジでやるから信用出来ねーけど」
「うむ。取り敢えずナシでやってみよう」
「この人本気だ……先生なら出来そうなのが怖い」
遊びも本気が基本だぞ。……西瓜が腐っては堪らんしな。
距離は3m目隠しをし、正眼に棒を構える。
人の声。波の音。全てが消え去るまでに心を落ち着かせ、集中する。
砂を蹴る。1歩。2歩。その足取りは確かで、前が見えているように。
間合いに獲物が入ると同時、構えを変え、右側に立てるようにして棒を翳す。
八相の構え。
風が止み、全てが止まる。
そしてひとつ、波の音が聞こえた瞬間。
「ハァっ!!」
鋭い呼気と共に得物を振り下ろす……!
残心。
納刀。
片手で目隠しを外すと、西瓜は綺麗に6等分にされて、赤い実を眼前に晒していた。
「……あ、すまん。つい3回振ってしまった」
「うぇえええ?!」
「棒?!これただの棒だよね?!刃物じゃないよね?!」
「先生これどういう事っすかなんでこんな切り口になってんですかなんで切れるんすか?!?!」
「気合だ」
「きあいっすか?!」
「気合だ」
絶叫する彼ら。多過ぎる見物人。
……うむ。やってしまったな。まあ、許容範囲だろう。
「包丁を借りる手間が省けたと思おうではないか。食おう、腐るぞ」
「ああ、そういや先生ってこんな人だったわ」
その日食べた西瓜は甘く、格別に美味かった。
2日目。約束通り海の家に来た彼らにかき氷を奢り、また忙しなく店内を歩き回る。
「政宗ちゃんが来てくれてからお客さんいっぱいで!つい材料買い過ぎちゃったわ!」
「おお、では更に気合を入れて励まねばな」
先日勧められて水着を買って持って来てある。休憩時間に泳いできたらどうかと言われたのだ。
「少し、楽しみだな」
「むっ!その後ろ姿は八朔トレーナーではないか?!」
「おお、了平か」
さて泳ぐか、と軽く腕を伸ばしてストレッチしていたところ、了平に声を掛けられ振り返る。
「了平は……ああ、らいふせーばーというやつか?」
「うむ!先輩に誘われてな!極限に見学だ!」
首元に笛を掛け、極限に燃えている了平。
「来年から中学に上がるのでな!残念ながらライフセーバーは中学からなのだ……体格は合格だが身長が足りんらしい」
小学生の内はまだ早いだろうなぁ。同年代よりも背は高い方だが未だ小学生。バイトするにも早過ぎる。
「まあ、あまり気負わずにやれよ。それで怪我をしては元も子もない」
「おう!極限に極限だ!!」
先輩らしい人影の元に走っていく了平を見送り、俺は俺で海の中へ足を踏み入れるのだった。
「……そういえば了平は泳げるのか?」
3日目、最終日。
前日2日間以上にお客が殺到し、遂に店の材料がなくなってしまうまでだった。人の噂は凄まじいな。
出て行く彼女らに軽く手を振り、店の席に腰掛ける。流石に草臥れた。
「政宗ちゃんが来てくれて本当に助かっちゃったわ」
「そうか?それならば、これ以上喜ばしい事は無いな」
「寧ろこのまま此処にいて欲しいくらいよ」
本当に、奥方は良い人だ。
アルバイトが明日から来る上、旦那さんが短時間ではあるが戻ってくるようで、俺の役目もここまでという訳だ。
「お疲れ様!今度はお客さんとして、また来なね」
「うむ。世話になった。良い経験になったと思う。心から礼を言うぞ」
「っ……も、もう!おばさん照れちゃうわ。……、私ももう少し若かったらねぇ……」
「はは、奥方はまだまだお若いではないか」
「……全くもう、からかわないの。……さ、今日はもうおあがんなさい。これ、3日間のお給金よ。本当にありがとうね」
「ああ、ではな。今度は客として、また来るぞ」
……さて、少し身体が重い気もするが、任務の方の確認をせねば。
《もしもし、》
「私だ」
《はっ、せ、先生ですけぇ。どうされたんで?》
「依頼しておいた区域に残党はいたか」
《いえ、おりませんです》
「……そうか。御苦労、警戒は解除していい」
《はい、分かりました》
「それで、対価は決まったか」
《は……。……その、身内の恥を晒すようで、恐縮なんですが……》
「はっ……今更であろう。何なりと申してみよ」
《ぐ……先生もお人が悪いのぉ。……実は、先日……事務所に子供が来まして》
「子供?」
《ええ……それも、滅法腕っ節の強い》
「……ふぅん、乗り込まれて叩き伏せられたか」
《……その通りですけぇ。ほんに、獣のような男でしたわ》
成程、強襲に遭って事務所内がてんやわんやという事か。
「……良かろう。その子供をどうしろと言う?」
《報復を頼むつもりはないですけ》
「ほう?」
《恥ずかしながら儂ら古参でも手も足も出なんだ。それとあって先生のお力を借りるなんぞ、儂らも腐っちゃおらんです。……儂らは完膚無きまでに食われちまったんじゃ》
……話を聞くに、その少年は先月の暗殺騒動だの、一斉検挙だの、町が荒らされていると不機嫌だったらしい。
それが裏社会に陣取る輩の所為だとして、片っ端から攻撃しているのだとか。被害はかなり多く、残党すら手に掛かっているらしい。悪くもあり、良くもある、か。
「……それで?」
《唯、……アイツの"底"を知りたいと思っただけじゃ》
絞り出すような声に耳を傾ける。
老いた男の、しかし熱く燃える良い心掛けを感じ、些か気分がいい。
《……あの、目。並び立つ者などおらんという目です。儂らに対しても、本気ではあったが死力は尽くさんかった。それが、何に於いても悔しいんじゃァ、先生……ッ!》
老いたとしても男。
負ければ悔しいと思い、勝ちたいと思う。
「……いいだろう」
《!受けて、くれるんですかい》
「その少年には興味が湧いた。案ずるな、潰しはせん」
その際その少年に無闇に裏を荒らすのは止めろと忠告させてもらうが。そして今後町が荒れるような事が起これば、彼ら……桃巨会が責を負うようにさせてもらう。
そうすればその少年に名を覚えてもらえるだろうしな。
《ええ。そのようにしてください》
名も無き男の意地。
見守ってやるとしよう。
「それで、名はなんだ」
《はい。……並盛中学校風紀委員会風紀委員長、名を────》
「雲雀恭弥、か」
まさか中学生に倒されていたとは。
手に入れた情報にあったが、警察や病院といった機関をも顎で使うという並盛町の表の頂点。裏の住人である桃巨会を筆頭に様々な組や会を潰してきている為、ほぼ灰色か。故に俺が行動を起こしてもセーフだろう。
例え日本のヤクザに関してはあまり手出しのないとはいえ、
「俺は人情に弱いな」
だが、斬れと言われれば斬るが。
俺は二重の意味で人でなしである。
「さて、お手並み拝見と行こう」
諸事情により姿は隠させてもらうが。
《異常無し、ね。分かった、伝えておくよ》
「うむ、頼むぞマーモン殿」
スクアーロは任務、今月の電話はマーモンが取ったらしい。
《……それにしても、君さ。毎月チョコレート送ってくるのやめてくれない?》
「ん?好きだっただろう?5円ちょこれーと」
《……そうだけど!受け取る時の監視の目が腹立つんだよッ!!》
監視の目が緩くなったとはいえ、未だ宅配物等の中身等は監視の手によって検められる。
マーモンは妙に生暖かい目でチョコレートの詰められた小箱を渡されるのだ。控えめに言って幻術掛けて精神破壊してやりたい。
「……食べてないのか?」
《食べてるよ!》
食べているらしい。
「送ってはダメか?」
《……、……もういいよ、勝手にしなよ》
「というか受け取るのを、給仕か霧部隊の誰かに任せれば良いのでは?もしくは幻術で姿を偽るとか」
《……》
マーモンは無言で通話を切るのだった。
観察記録・其ノ肆
監視対象の周辺に異常無し。
現地協力者によって事態の収拾が終了した事を確認。以降も協力体制を維持する。
トマゾファミリーが内乱を開始した。流れ弾の心配は無し。また、トマゾファミリーの8代目ボスが就任したとの事。内乱がそのボスを要因としたものと推測。8代目ボスの家庭教師であるマングスタには準警戒である。場合によって一般人への特殊弾の使用が予測される。部下2名に於いては警戒に値しないと思われる。パンテーラはボスにしか武器を振るわず、ルンガは情報担当である為、本隊で対応する場合は容易である。
報告は以上。引き続き任務を継続する。
桃巨会と繋がってたミカさんでした。
【先生】なミカさんはかなりツンツンしてます。
「ふぅん」(嘲笑)(鼻で嗤う)(某社長)がデフォ。
さぁて【先生】モードのミカさんと雲雀恭弥さんがバトルするぞぉ(白目)
身バレ防止のために刀を使わないミカさんはどうやって戦うのかなぁ(目逸らし)
どうしてこう、私は修羅の道に行こうとするかなぁぁもぉぉ
剣介くんの御学友にマジで!?しか言ってない人いますけど態とです。あと剣介くんが中学前に道場通ってるってのは捏造です
雅男子
「雅を解さぬ罰だ!せめて雅に散れ!」
「悔しいんじゃァ先生!」「諦めたらそこで試合終了ですよ」
違う、そうじゃない。