ダリアの歌わない魔法   作:あんぬ

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寮杯の行方、そして帰省

 試験が終わってからの一週間は、ホグワーツ中がハリー・ポッターの噂で持ち切りだった。

 

 曰く、「例のあの人」のしもべだったクィレルが、「あの人」を復活させようと企んでいただとか。

 曰く、ハリー・ポッターがその友人たちとそれを阻止しただとか。

 

 その他にも、実はクィレルが「例のあの人」本人だったとか、クィレルは「あの人」に歯向かって殺されたとか、真偽のほどが分からない噂がたくさん流れた。

 

 スリザリン寮内でもそれは同じであり、憎きポッターが話題の中心になっていることが気に入らないドラコは、終始不機嫌だった。

 

 クディッチの試合の時にクィレルが見せた不審な動きを、色々なことがあったせいですっかり忘れていたダリアは、その噂を聞いてから「そういえばそんなこともあったな。」と思い出していた。

 

「別にどうだっていいじゃない、ポッターのことなんて。所詮根拠のない噂でしょ?そんなにカリカリしなくってもいいと思うのだけれど。」

 

 ダリアは談話室のソファに腰を下ろしてトゥリリのブラッシングをしながら、イライラが止まらない様子のドラコを眺めてポツリと呟いた。

 スリザリン寮は地下にあるので、この時期になるとひんやりとしてとても過ごしやすい室温になっており、ダリアはよく窓際一番涼し気な場所のソファを陣取ってくつろいでいた。

 隣で同じようにぼんやりとドラコを眺めていたノットも、だるそうに口を開く。

 

「あいつは基本的に目立ちたがり屋だからな――――自分以外の人間が、しかも大嫌いなポッターが学校中の噂になっている状況が嬉しいはずがないさ。」

 

「え、そうだったの!?じゃあ私もそのうちドラコに睨まれちゃうじゃない。ホグワーツ始まって以来の秀才って学校中で噂されちゃうかもしれないし・・・」

 

「お前もたいがい、自意識過剰だよな――――――そういうのは思ってても口に出さない方がいいと思うぞ。」

 

 ダリアの言葉に呆れながらも、割と真摯に忠告してくれるノットに、膝の上のトゥリリが『よくぞ言ってくれた』と言うように小さく鳴いた。

 

「そういや噂ついでに、お前論文の件はどうなったんだ?結局書くことにしたのかよ?」

 

「あー、まだ悩み中なのよね、お金が発生する以上、匿名って難しいらしいし。」

 

 スネイプに論文の執筆を持ちかけられてから、ダリアは親しい友人たちにそのことについて相談(自慢)していた。

 友人たちは純粋に驚き喜んでくれた(トゥリリは『意外とあの人たち、すっごく性格いいよね』と有り難がっていた)が、ダリアの持つ悩みについては未だに疑問を抱えているようだった。

 

「そこがわからないんだよな――――ドラコじゃないけど、お前だって目立つことが嫌いなタイプじゃないと思ってたんだが。」

 

『さすがによく見てる。』とトゥリリが目線を上に上げてノットを見た。

 ノットの指摘は正しく、ダリアは自分が注目されて称賛を受けることが大好きな女の子だった。幼い頃からそうした扱いを受けてきたため、その美味しさが癖になっていた。

 

 それ故ダリアの性格が鼻持ちならないものになってしまったのだが、貴族世界ではこのような見栄っ張りの女の子は珍しくないらしく、そこそこ受け入れられているので幸運だったとトゥリリは考えている。

 

「まぁ、色々あるのよ、私にも。だからしばらくは様子見なの。スネイプ先生にもそう説明したわ。残念がっていらっしゃったけど。」

 

 トゥリリのブラッシングを終え、伸びをしたダリアだったが、突然響いた大きな声に思わず身をすくませた。

 まだ機嫌の悪いドラコが、マグル生まれの生徒に八つ当たりで怒鳴り散らしているらしい。

 

 その様子に二人して思わず眉をしかめたが、ノットはすぐに気を取り直した。

 

「―――――まぁ、今はあんなでもすぐ機嫌も直ると思うぜ。なんて言っても今日は年度末パーティーだからな。7連続目のスリザリンの優勝となれば、ポッターの噂なんかにかまっている余裕は無くなるはずだよ。」

 

 そう言ってノットは笑っていたが、その希望は数時間後、最悪の形で反転することになった。

 

 

 

 

 グリフィンドールの大逆転が決定し、大広間が歓声で埋め尽くされる中、スリザリンのテーブルで笑顔を浮かべているものは誰一人としていなかった。

 

 それもそのはずだ。栄光を手にした瞬間、見計らったかのようなタイミングで、突如それを失ったのだ。誰もが「信じられない。」という表情で、茫然としている。

 

 ―――――――なんなの、これは。

 

 ダリアもその他のスリザリン生と同じように、茫然と広間の狂乱を聞いていた。

 最下位から一転し、寮杯を獲得したグリフィンドールはもちろんのこと、レイブンクローや、入れ替わりで最下位になってしまったハッフルパフでさえ、痛快な逆転劇に拍手喝采し、ショックで真黙しているスリザリンを指さして笑いをこらえきれない、というように顔を歪ませている。

 

 ――――――なによ、それ。私たちは自分の力で寮杯を獲得するはずだったのよ。一人一人が寮杯を取るために努力して、それで積み重ねて手に入れた順当な結果だったのよ。

 

 ――――――それをどうして、実力で勝つことができなかった人たちに笑われなきゃいけないの?どうしてこんな形で努力を踏みにじられなきゃいけないの?

 

 視界の端で、ハリー・ポッターとその友人たちがこちらを見て笑っている。

 日ごろからスリザリンに何かされるのではないかと怯えていたハッフルパフ生が笑っている。

 長年二位に甘んじていたレイブンクローがスリザリンの鼻を明かしてやったと笑っている。

 誰もかれもが、スリザリンの惨めな敗北を見て笑っている。

 

 その様子を、この惨劇を引き起こしたダンブルドアが穏やかな表情で見つめている。

 

 ―――――――こんなの、ぜったいに間違ってる。

 

 ダリアは掌に爪が食い込むほどこぶしを握り締めながら、強くそう思った。

 

 

 

 それからしばらくの間、スリザリンにはお通夜のような空気が蔓延っていたが、更に追い打ちをかけるように、試験の結果が帰ってきた。

 

 予想外の成績に悲鳴を上げる気力さえ無い生徒がほとんどだったが、ダリアの周囲だけは湿った空気を一時忘れ、ちょっとした騒ぎになっていた。

 

「うわ、マジで学年一位じゃん――――つーか何この二位との点差。えぐすぎない?」

 

 ミリセントがダリアの成績表をのぞき込んで、怯えたように言った。

 ダリアは鼻高々で、ソファの上ふんぞり返って座っている。

 

「確かにあんた、自分で学年一位だとしか思えないって言ってたけど――――これだけの点数取ってるなら納得よねぇ。」

 

「ほんとにね。――――というか、どうやったら魔法薬学で100点満点中248点なんて点数が取れるのかしら?やっぱり例の注釈が良かったのかしら?」

 

 パンジーとダフネも、ダリアの常識外れの高得点に、若干引いた様子でぶつぶつ言っていた。

 

 スリザリンの中から、ぶっちぎりの学年首位が出た喜びと、憎きグリフィンドールのある女子生徒に一泡吹かせてやったという満足感からか、それなりに寮杯ショックによってもたらされた重たい空気は改善されつつあった。

 

 

 試験結果が返却されると、すぐに夏休みがやってきた。

 ダリア達も別れを惜しむ暇もなく、必死で旅行鞄に荷物を詰め込み、ホグワーツ城を後にした。

 

 クリスマス休暇と同じように、ダリア達女の子4人はコンパートメントの一つを貸し切って、ペチャクチャとおしゃべりに興じていた。

 

「ああ、やっと忌々しいホグワーツから出ることができたわ!これから数か月間グリフィンドールの連中の得意げな顔を見なくて済むと思うと、せいせいする!」

 

「ちょっとパンジー、声が大きいって――――――でもまぁ、私も概ね同じ意見だよ。どこの寮の連中も、私たちがスリザリンって分かると、すぐにニヤニヤ笑いをしてくるのにはもううんざり。嫌になっちゃう。」

 

 パンジーとミリセントが口々に文句を言っている。よっぽど年末の逆転劇が堪えているらしく、語っても語っても愚痴は尽きないようだった。

 

 一方ダリアとダフネは、全員の予定表を見合わせながら、夏休みの予定について話し合っていた。

 

「8月のこの週は―――――あ、ダメだわ。家族旅行が入ってる。」

 

「じゃあこの週は?―――――今度はパンジーが旅行中じゃない!中々予定が合わないものね。」

 

 夏休みのどこかで、4人でどこかへ遊びに行こう、という話になったのだが、ダリア以外は全員海外旅行行くということで、中々全員が揃う日が無い。

 

 色々と照らし合わせた結果、遠出するのは難しいという結論が出たので、「グリーングラス邸に数日お泊りをする」という妥協案が採用されることになった。

 

「ダフネの家にお泊りってことは、水着も持って行ったほうがいいわよね。」

 

「えっ!プールがあるの?どうしよう、私泳げないんだけど。」

 

「あんた、運動苦手だもんね・・・これを機に練習したらどう?」

 

 ミリセントの提案に、途端にしかめ面になったダリアを見て、3人は笑った。

 

「大丈夫よ。そんな深いプールじゃないし、浮き輪だって用意しておくわ。」

 

「―――――なら、いいわ。」

 

 やがて特急はキングスクロス駅に到着し、4人はしばしの別れを惜しみながら、それぞれの家族の元へ帰って行った。

 

 

 

「ダリア!こっちよ!」

 

 駅のホームでは、ディゴリー夫妻が手を振ってダリアを迎えてくれた。セドリックはもう既に合流していたようだった。

 

 クリスマスの一件以来、どこかセドリックに対してどこか気まずいダリアは、上手いこと目を合わせないようにしながら彼らの近くへ駆け寄った。

 

「おお、ダリアや!今朝がたホグワーツから手紙が届いて、驚いたぞ!学期末試験でぶっちぎりの首位だったそうじゃないか!――――さすがは私たちの姪っ子だ!すばらしい!」

 

「エイモス!」

 

 エイモスはダリアが声をかけるなり喜びの声を上げ、すぐさま頭上に抱き上げて振り回し始めた。

 なすすべなくヘリコプターのように回転するダリアに、サラが悲鳴を上げて夫を静止した。

 

 地上に降りたダリアは、目を回していたが、サラに優しく抱きしめられて、頬を赤く染めた。

 

 ホグワーツでのスリザリンへの風当たりの強さを身をもって実感した今、スリザリン寮へ組み分けされた自分に態度を変えることの無かった夫妻のありがたさが改めて身に染みた。

 

 ひとしきり再会を喜んだ後、一家はホグワーツであった大事件など色々なことを話しながら、ディゴリー家へ戻って行った。

 

 ダリアとセドリックもあたりさわりのないような言葉を交わしはしたものの、視線が合うことは一度もなかった。

 

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