最初にきいた時は驚いたんだけど、アンパンマン達の戦闘中に鳴っている効果音やBGMなんかは、『全部チーズのボイスパーカッションなんだ。』
一緒に戦ってるチーズが、がんばってやっているみたいなんだ。
俺も驚いたけど、いつも聞こえる〈ドギャアッ! グシャアッ!! バギャアッ!!〉って音は全部チーズが口で言っていて。
わからないけど、きっとアンパンマン達が攻撃してる時って、ほんとは可愛くポカポカなってるんじゃないかなと思うんだ。
チーズってすごいな。チーズの演技力ってきっと、日本一の声優さんって言われる山寺宏一ぐらいあってもおかしくないんじゃないかな。
今日ばいきんまんがそう教えてくれたんだ。
その話をしてくれた時になんかしてたけど、ばいきんまんって口笛上手なんだな。俺びっくりしたよ。
それと今日学校で遠坂と話をしてたんだけどさ。あいつアンパンマンの事、おかしいっていうんだ。
『正義のヒーローがマウントパンチなんかしちゃ駄目じゃない!
子供が泣いちゃうじゃないの!』
そう言って遠坂が怒るんだ。アイツは怒りっぽい所あるけど、今日のは凄く怒ってた。
遠坂、確かにアンパンマンはマウントパンチ得意だけど、きっと子供はそれ見て泣いたりしないぞ?
だっていつもアンパンマンが敵と戦ってる時って、ドカバキっていう音と一緒にいつも『なんか漫画でよくあるような土煙があがってるから』
アンパンマン達は煙の中で戦ってるから、こっちからはいつもよく見えないし、俺から見ていたらその光景って、すんごくコミカルだぞ?
だって戦ってるのって、三頭身くらいのあのアンパンマン達だし。アンパンマンに言ったら怒るかもしれないけど、結構かわいいんだぞ?
だからきっと子供が泣いたりなんかしないぞ遠坂。
戦ったランサーの怪我だって、なんか戦いが終わったと思ったら何事も無かったみたいにもう治ってたし。
ふふん! って感じで遠坂にそう言ってやったんだけどさ。『バカじゃないのアンタ!!』って言ってアイツまた俺を殴るんだよ。
なんでさ?
ちなみに今遠坂の事を言ったけど、今遠坂とは同盟とはいかないんだけど、休戦協定みたいなのを結んでる。
なんか『今アンタ達と戦うのはバツが悪い』『とりあえず借りをキッチリあんたらに返してからにする』みたいな事を言ってたけど、俺としてはこの協定みたいなのがずっと続けばいいと思ってる。
俺知らなかったんだけど、遠坂とアーチャーって、あの夜にジャムおじさんやカレーパンマン達と会ってたんだってさ。
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遠坂はあの夜、アンパンチでぶっ飛んでったアーチャーの後を『うわーーーー!!!!』って泣きながら言いながら追いかけてったんだけど。
その時に「乗りな! お嬢ちゃん!」ってカレーパンマンとしょくぱんまんが来て、助けてくれたみたいなんだ。
そうして『私のサーヴァントはすでに死んだ、せめて供養だけでも』って抵抗する気も起きずにえぐえぐ泣きながらカレーパンマンの背中に乗っけてもらって飛んでたら、しばらくして目の前にアンパンマン号が走ってやってきたらしい。
そしたらアンパンマン号の中に、アーチャー乗ってたんだって。
遠坂がアーチャーに聞いた話では、アンパンチでぶっ飛ばされた時、ちょうどそこにジャムおじさんの乗ったアンパンマン号が落下点にいて。
アーチャー、落ちた時にちょうどそのアンパンマン号のハッチの中に〈スポッ!〉っと入れられちまったらしいんだ。
アーチャーは〈スポッ!〉っといった時、状況がわかんなくてアンパンマン号の中ですごく混乱したらしいんだけどさ。
でも中にいた優しそうなおじさんと娘さん(ジャムおじさん達の事だと思う)からスポッっといってすぐに『大丈夫だったかい? とにかく無事でいてくれて良かったよほっほっほ』とか言われて、何にも言えなくなって。
そんでそのまま、冬木市までアンパンマン号で送っていってもらったんだって。
なんか凄く気まずそうに、アンパンマン号のシートに座ってたらしい。
遠坂はアーチャーと再会出来た時、あいつ俺には内緒にしてたけどアーチャーの胸に飛び込んでってさ。
『お゛わ゛った゛かと思った゛ッ!! 絶対死゛んた゛か゛と゛思った゛ッ!!!!』って言って、びーびー泣いちゃってたらしい。
ジャムおじさん達はその場面を「よかったよかった」って思いながら見てたって言ってたよ。
遠坂の「借り」ってのはその事なんだろうけど、あいつもけっこう義理堅い所あると思う。
アーチャーは物凄くぶっ飛ばされたのになんでかどこも怪我をしていないってのに自分でも驚いてたらしいけど、それなら帰って来てすぐにまた俺達と戦う事は出来たんだと思う。
でもあいつはそれをせず、きっとアンパンマン達への借りってのをちゃんと返してから、あいつらしく堂々と戦いたいんだろうな。
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今日の出来事で言えば、藤ねえが夜に飯食いに来た事くらいだ。
ジャムおじさんやばいきんまん達とも相談して、『今後この家は危なくなるかもしれないから』という事で、しばらく藤ねえにはこの家には来ないようにしてもらおうと思ってる。
でも今日は藤ねえは家で飯を食っていって、セイバーやジャムおじさんと挨拶をしてた。
ジャムおじさんみたいな方にこの家にいてもらえるのはすごく安心だって、なんかよろこんでたよ。
「士郎もジャムおじさんの言う事をちゃんと聞くのよ」、だってさ。
ジャムおじさんと藤ねえは、飯を食った後は沢山二人で話をしてた。
俺とセイバーもその場にはいたけど、二人が俺の事とかを沢山しゃべってるのがちょっと恥ずかしくて、あんまりしゃべらずに聞いてたよ。
藤ねえは俺の昔の事とかも話に持ち出してきて、「いつも『正義の味方になるんだ』と言って無茶して、ひどい怪我して帰ってきたりする」とか。
「人の頼みを断らずに誰彼かまわず全部きき入れてしまって、それを人に利用されるだけになる事がある」とか。
「自分の事を全く考えてないくらいに自己犠牲を厭わない所が、私はとても心配だ」って。
普段はふにゃふにゃしてるくせに、こんな話の時だけ、真剣な顔をして。
藤ねえが帰ってった後、俺はアンパンマンに何か稽古をつけてもらおうかな、とジャムおじさんに相談してみた。
俺はなんだかんだ藤ねえに言われても、正義の味方になりたい。アンパンマンならきっと、俺に色んな事を教えてくれるんじゃないか。
でもそれをジャムおじさんは、やんわり止めたんだ。
「アンパンマンは弟子をとったり誰かに指導する事には向かないよ。
強くて優しいけど、だからこそ甘やかしてしまうんだ。問題を解決は出来ても、
解決できるように人を導いてあげる事は、苦手なんだ」
「いつもそう言いきかせてはいるんだけどねぇ」と、ほっほっほと笑いながらジャムおじさんは俺に言った。
アンパンマンは、
ちょっと変な所もあるけど、優しくて、すごく強い。
ジャムおじさんはああ言ったけど、俺はアンパンマンみたいにビューってすぐに飛んでいってすぐに問題が解決出来てしまうような、そんな力は凄い事だと思う。
それにアンパンマンは、いつも自分の顔をお腹を空かせた人にあげている。泣いている人にあげている。
ばいきんまんが昔研究してた事があるらしいんだけど、アンパンマンの力は、顔が三分の一ほど欠けてしまうと、身体の力が65%くらいまで落ちてしまうらしい。
藤ねえはさっき「自己犠牲はいけない」みたく言ってたけど、正義の味方のアンパンマンは身を削っても人を助けるし、それでもちゃんと勝ってきたじゃないか。
俺は力もそうだけど、アンパンマンのそうゆう所は憧れるし、凄いと思う。
ジャムおじさんは俺にああ言ったけど、やっぱりアンパンマンにも修業つけてもらえないか聞いてみようと俺は思った。
アンパンマンがダメだって言ったらそれは仕方ないし、都合のいい考えだけど、俺に教えてくれる事でジャムおじさんがアンパンマンに指摘していた事への練習になるかもしれないとも思った。
探してみると、アンパンマンは一人庭に立っていて、夜空の星を見ていたみたいだった。
俺が近寄って声をかけようとすると、俺がそれをする前に、ゆっくりした動作でアンパンマンが俺の方に向き直った。
なんとなくアンパンマンの表情が、いつもの満面の笑みじゃなく、少しだけ寂しそうな笑顔にみえた。
「士郎くん、ぼくはね。意味もなく自分の顔を誰かに食い散らかされるのは嫌だ。
自分の顔が粗末にされるのは嫌だ。力が弱った所を、ばいきんまんに
襲われてしまうかもしれない事が、すごく怖い。
バタコさんやジャムおじさんに心配をかけてしまう事が、嫌で嫌でたまらない。」
「でもぼくがみんなに自分の顔のパンを食べて欲しいって思うのは、
【お腹を空かせてる大切な人達の為】なんだ。
大好きな人達に、泣くんじゃなくて笑っていて欲しいって思うからなんだ。
好きな人の笑顔を見たら嬉しくなる。だから頑張れるんだ。」
「士郎くんはいつも自分が怪我をして傷つく時、いったい何を思ってる?
君が助けた人達の笑顔は、ちゃんと君の心に残ってる?」
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月明りの下で、
俺はそれを、ちゃんと考えてみようと思った――――