「こんばんは。ぼく、アンパンマンです。」
月明りの眩しい、夜のお寺で。アンパンマンはニッコリ笑顔でキャスターにご挨拶した。
キャスターは、「何か来た」と思った。
自身が魔術を使い「オイデ…オイデ…」としたのは、けしてこんな生物では無いと思った。
………………………………………………
公園の広場で「またねー!しろー!」とイリヤと別れ、先ほどのうっ憤を晴らすが如くセイバーが
「こう見えても俺、空手やってんだよ。……………通信教育だけどなッッ!!」
「こう見えて私は昔………………ピンポンやっていたのです!!!」
と昔の吉本新喜劇ごっこをして士郎に構ってもらいながら、笑顔でみんなで家に帰ったその後。
その日の深夜、寝ていたハズの士郎が突然布団から起き上がり、フラフラと外へ出て行こうとした。
「お、なんだなんだ」「どしたのどしたの」「おっけおっけ」と、みんなは士郎についていく事にし、こうしてアンパンマン一同は、りゅうどう寺へとおもむくのだった。
お寺の山門には、なにやら青い服のお侍さんが立っており、「ここを通りたければ自分と戦え」と、なにやらムチャクチャな事を言ってきた。
「なんでそんなことしなくちゃいけないんだよ」「暴力はいけません」「考えなおして?ね?」と一同総出でお侍さんを説得するも、「いやだー!戦うんだー!」とばかりに言う事を聞いてくれない。
「ケガをしたらどうするんだ」と、頑張って一同でお侍さんを説得した。
アンパンマンは理由もなく戦ったりしないのだ。公式設定なのだ。
一瞬、「よろしいっ!こぉ~見えても、私は昔ぃー!」とさっきの新喜劇ネタを掘り返しながらセイバーは前に出ようとしたのだけれど、直前で思いとどまり、足を止めた。
セイバーは『自分は今日一度戦ったのだし、今は士郎が心配だから傍についていよう』と思い自分に言い訳をしたのだが、ぶっちゃけた話、さっき一人で戦った時になんか楽しそうなみんなからハブにされた事が、トラウマになっていた。
最近のセイバーは戦えなかったり守れなかったりで、士郎のサーヴァントとしての矜持が致命傷を受けている。
実際観た事はないのだが、『あんたぁ~!すてんといてぇ~っ!!』という昭和の
士郎を守ろう、それでいいじゃないか――――
セイバーは思う。
一同は結局「自分はいつも山門にいてばかりだ」「ここから動けなくてずっと寂しかった。悲しかった」と言うお侍さんの気持ちをくみ、ジャムおじさん立ち合いの下に万全の医療体制を敷き、「怪我をしない、無理をしない」をしっかりとゆびきりげんまんした。
それからアンパンマンの宝具「ナイツ・オブ・パン」が発動。
夜の山門に光が溢れ、そこにアンパンマンの大切な友達、『おむすびまん』が見参する。
………………………………………………
寺の山門前では今、アサシン佐々木小次郎がおむすびまんと立ち合いをしている。
「よっしゃあいけぇー!」「おとこまえー!」「あんあーん!」とみんなの声援を背に受け、お侍さんは駆ける。
そしてこの素晴らしい好敵手との充実した立ち合いを『あはは! あはははは!』と満面の笑みを浮かべながら、思う存分に堪能していた。
――――そしてキャスターは現在、りゅうどう寺にて、アンパンマンと会っていた。
「…………あらあらオホホホ! こんばんわ坊や! 今宵は良い夜よねっ」
「はい! 僕は太陽も好きだけど、こんな夜空の星を眺めるのも大好きなんです」
アンパンマンは、100%無邪気な笑顔でおねえさんにニッコリ笑いかけた。
キャスターは、「どこで間違った」と自分の記憶を高速で検索した。
自分はこの夜、「あらやだ! この衛宮さんトコの息子さんって魔力抵抗力ぜんぜんないじゃな~い! しめしめ! うしし♪」とばかりに衛宮士郎なる少年をりゅうどう寺に呼び寄せたつもりだったのだが、今やってきたのは、得体のしれない変な生物。
しかも、ごっついフレンドリーときた。
自分も昔は王女だった女。人を見る目はあるつもりだ。(人ではないかもしれないが)
目の前にいる三頭身の坊やが、自分に欠片も敵意を抱いていない事。それくらいはわかる。
しかしこのキラキラした瞳はなんなのだ。なんでここにいるのだ。
「……あ~らそうなの坊や! 実は私っ、星占いなんかも出来るのよ?
よかったら、教えてあげましょうか?」
「ほんとですかおねえさん! ぼくうれしいです!」
「わーい!」とばかりにアンパンマンは、キャスターと並んだ。
キャスターは思う。今はとにかく、会話だと。
会話をし、時を稼ぐのだと。
自分は今混乱し、明らかにうろたえている。しかし自分は、策謀の女。
会話をしながら時を稼ぎ、自身を落ち着け、そして流れの中で相手の情報を少しでも引き出すのだ。
まさかほんとに「占いおしえてださい」と言われるとは、思ってなかったが。
この得体のしれない坊やは無邪気で、警戒心の欠片もない。加えて知に長けているようにはまったくみえない。
自分ならば、会話をしながら情報を集め、この場を有利に持っていけるハズだ。
隙を見つけて坊やに術をしかけ、もしかしたら無力化、撃退、傀儡にする事だって出来るかもしれない。
あのでくの坊は、今も山門でなにやらやっていてこっちへ来ない。今頼れるのは、自分だけだ。
「えっとぉ~今の季節の星空ならね?あの、あそこにある大きな星が…」
「はい♪」
それでぶっちゃけた話なのだが、キャスターは、彼と戦うのは非常に気が進まなかった。
避ける事が出来るのなら、キャスターは戦いになるのを避けたかった。
自分も過去に子供を産み、こうゆう純粋で無垢な存在を、愛していたのだ。
いくら自分が魔女だのなんだの言われた女だからとて、守り育むべき無垢な存在を進んで傷付けたいとは思わない。
生前から今に至るまで、世界は自分に、とてもつらく当たった。
ならばとばかりに自分も散々やり返しはしたが、自分が本当に願っていたのは、寄り添ってくれる誰かの暖かさ。
けして許される事は無かったけれど、そんな誰かの傍にいる事であり、居場所であったのだ。
「――――坊やの未来は苦難も多いかもしれない、でもきっと、とても幸せな物になるわ。」
そんな占い結果をアンパンマンに教えてあげながら、キャスターとアンパンマンは星を眺め続けた。
優しい時間
暖かい誰か――――
キャスターは、いつの間にか自身が戦いの事を忘れてしまっている事に、なぜか気が付かなかった。
………………………………………………
そしてしばし時間が経ち、少し身体が肌寒くなってきた頃。
アンパンマンは気遣うように、優しいおねえさんに星占いのお礼を言って、帰って行った。
「今日はお話を聞かせてくれてありがとう」「ええ、気を付けてね」
キャスターはアンパンマンに小さく手を振り、何気なく、見えなくなってからもしばらく彼が飛んでいった方向を見続けていた。
………うん。何だったんだろう、あの坊やは。
私とは敵である事は、間違いないハズなんだけど。
敵だとか、真名とか、戦力とか、人間じゃないとか。
そんなことじゃなくて、彼はいったい、どうゆう存在だったんだろう。
どうしてあの子は、「ああ」なんだろう。
まだ胸に残っているこの暖かさは、いったい何なのだろう?
キャスターは「ぼけ~」っと、同じ方角を見続けている。
そして、己の頭で何を考えるでもなく。
自然に、何気なく手に持っていた食べ物を「パクッ」っと口へと運んだ。
………………………………………………
『 ………~~~~ッッッッ!!!!???? 』
……ってアカンがな!! これ食べてしもうたらアカンがなッッ!!!
これっ、
キャスターは思わず関西弁で自分にツッコんだが、もう食べた後だった。
アンパンマンは帰り際、「今日のお礼です」と言って、おねえさんにパンをプレゼントしていたのだった。
……こうしてキャスターはアンパンを食べ、涙腺が破裂する〈ブシッッッ!!!!〉という音を、体内から聴いた。
少女時代の想い、我が子の事、故郷への望郷――――
そんななんやかんやが一気に心に溢れ、涙が滝のように流れる――――
膝を付き、両手で祈り、慈愛に溢れた女神の笑顔でメディアは泣いた。
こんな素晴らしいアンパンをもらえる私は、きっと特別な存在なのだと感じた。