「もしかしたらお前が7人目だったのかもな。まぁだとしても、これで終わりなんだが」
衛宮士郎は、死を覚悟した。
数秒後には、目の前の青い装束の男が持つ槍がまっすぐに突き出され、自分の心臓を貫くだろう。
(………おい坊主、わかってんだろうな? 次こそはちゃんとしたヤツ呼べよ? 俺ぁ最近まともに戦った記憶がねぇんだよ…。何だよ布団叩きのセイバーって…)ボソボソッ
(いや俺だってそう思ってるよランサー。でも俺なんか最近、『英霊ってなんだっけ…?』みたくなってきててさ…)ボソボソッ
士郎とランサーは、顔と顔を寄せ合い小声で何かをこそこそと話す。
「…………うう゛ん゛っ!! よっしやるぞ坊主! いいな? えーっと…………じゃあな坊主、今度は迷うなよ」
爆発的な怒りによって埋め尽くされた少年の感情は数瞬後の確実な己の死への恐怖すら吹き飛ばす。
胸に思うのは、たった一つの、強い想いだけ。
―――ふざけるな!!
―――お前なんかに殺されてやるものか!! まともなの来い!!!
青い男の槍が心臓へと突き出されようとしたその瞬間、士郎の視界は突然の強烈な光によって奪われる。
「マジかよ! まさか本当に7人目か!」
―――そして、光の中から
………………………………………………
ガァアアキィィィィ~~~~~~~ンッッッ!!!
「大丈夫かッ、士郎くん! さぁ、早く逃げるんだッ!!」
突然光の中から飛び出してきた緑色の影が、ランサーの持つゲイボルグを遠くへ弾き飛ばした。
「…ぐっ! 俺の槍がッ、オイてめぇ! 一体誰だってんだ!!」
「悪党に名乗る名前など無いッ、だが敢えて教えてやるぞ! ランサー!!」
―――『ボクの名前は、¨アロエパンマン¨、聖杯より召喚されし、アロエのクラスのサーヴァントだ!!』
………………
……………………………
……………………………………………………………………。
「………ん?」
「……………………………え?」
「さぁあ~~早く逃げるんだパン士郎くん! さぁこいランサー!! このっ、アロエパンマンが相手だパン!!」
アロエパンマンは構えをとり、ランサーと戦う姿勢になる。
「…………………いやちょっと待てお前。…なんだ? お前? 名前は何だって?」
「だからアロエパンマンだと言っているんだパン! いくぞランサー!! 士郎くんの命を脅かす悪い奴は、このアロエパンマンが許さ
「だからちょっと待てってんだよお前。…何?アロエ? お前、アロエパンマンってのか?」
「そうだパンッ!!」
「いやちょっとお前その語尾に『パン』って付けるの止めろ。他のパンの連中だってそんな事しちゃいねぇだろうがよ。ウザってぇよ」
アロエパンマンは、驚愕の表情を浮かべた。
「……でよ? その、お前がアロエのパンだってのはわかったんだけどよ? なんだよその『アロエパン』ってのは? おい坊主、お前アロエパンっての知ってんのか」
「…いや、俺アロエパンっていうのは食べた事ないかな。スーパーでも見た事ないし」
「………パンッッ?!?!」
「だからそれ止めろお前。ぶん殴るぞ」
ランサーは腰に手を当て、呆れたような表情で続ける。
「だいたいその『アロエのクラスの』ってなんだよ。俺長く英霊やってっけど、そんなクラスきいた事ねぇぞ」
「アベンジャーとかルーラーとかはあるらしいけど…、俺もそんなのきいた事ないかな…」
アロエパンマンは、戦いの構えをといてランサーと士郎に向き直う。
「…いや、その、今回僕が行くーって言ったらその、聖杯の係の人が『じゃあ』って言って、新設してくれて。サヴァ募集のチラシにも『臨機応変に対応します』っていうの、書いてあって」
アロエパンマンは上司と話す時の新人社員のように、前で手を組んで立った。
「……いや、俺そんなチラシ見たことねぇけど、…まぁそれはいいよ。アロエのサヴァなんだな? …じゃあおめぇ、『アロエパン』ってのはなんだよ? なんでパンにアロエつっこもうと思ったんだよ?」
「…あれかな? アロエパンマン。もしかしてよくヨーグルトであるような感じのヤツなのか? 俺そうゆうのだったら冬木のスーパーで見た事あるけど」
「あ、いえ、加工しないそのままのアロエの美味しさを、パンに入れようと思って」
「なんでそのままつっこむんだよおめぇ。美味しくねぇんだよ。口ん中血まみれだよ」
ランサーは、いらだつようにタンタンと足で地面を叩く。
「でよ? おめぇがアロエ好きなのはわかったよ。でもよ? 聞いた事がねぇんだよアロエパンマンって。おい坊主、アロエパンマンってのはアレか? 例のアンパンのアニメの登場人物なのか?」
「いや…俺はあのアニメ全話見たわけじゃないけど…、こんな顔を出す部分に穴を開けただけのデカいアロエ被ったオッサン、出てこないんじゃないかな?」
「いねぇんじゃねぇかよおめぇ! 誰なんだよ! なんで英霊になれたんだよ!!」
アロエパンマンは、頭のアロエを脱いでみた。
「いや、ですからあの、昨日紹介をされて英霊に
「いや脱がなくていいよそれ。脱ぐなよ。それなかったらおめぇただのオッサンだよ。大事にしとけよ」
アロエパンマンは、再びアロエを装着する。
「つか昨日なったばっかなのかよおめぇ。よくなれたなオイ。まぁ今はいいよそれは」
「で、おめぇよ? アロエパンマンって名乗ってるって事ぁ、一応何かのヒーローなんだろ? 何で子供達のヒーローになろうって人間がアロエかぶったんだよ。親近感わかねぇよ」
「いや、僕の家のおばあちゃんとかが、庭でよくアロエの栽培してて…」
「おばあちゃんはいいよ、子供なんだよ。ヒーローは主に子供を救うんだよ。歩み寄っていけよ」
「そんでよく考えたらおめぇ『パン』の要素がねぇよ。なんでデカいアロエだけかぶってんだよ。パン感出していけよ」
アロエパンマンは、沈痛な面持ちで俯いた。
「無理やり『パン』ってつけて例のアニメに便乗してくのやめろよおめぇ。それで英霊にぶっこんでもらっていいのかよ。情けなくねぇか? ヒーローやってくんだろ?」
「いくら『パン』って自分で言ってても…その見た目じゃあさ、子供は…」
ランサーは上司が部下を諭すように、士郎は思いやりながら諭すように言う。
「……いや、あの自分、アロエ好きだから。だからもっとアロエの美味しさを子供達にも知ってもらおうと思って」
「だからアロエは美味くないんだよおめぇ。お前の味覚どうかしてんだよ今」
「えっと…自分、あんまし食えない時代とかあって…、その時にアロエかじってて、救われた部分とかあって」
「おめぇのお財布事情は今いいんだよ。なんだよ食えない時代って。子供達に夢あたえていけよ」
「腹空かした子供にアロエ食わす気かよお前。泣いちまうよ」
アロエパンマンは、頭のアロエを脱いでみた。
「だから何でそれ脱いじゃうんだよおめぇ。凹んだ時にアロエ脱ぐシステムか? いらねーよそうゆうのはお前」
アロエパンマンは、三度(みたび)アロエを装着した。
「……つかおめぇ、さっき元気に飛び出しては来たけどよ? いつもどうやって戦ってんだよ? アロエで戦ってんのか?」
「あ、武器に関しては、結構自信あって。アロエを模した武器とかあって」
アロエパンマンは少しだけ声に元気を出し、自らの武器を披露する。
「…なんだこれ、弓? ああ、デカくて細長いアロエを弓にして、弦を張ってあんのか」
「あ、これ¨アロエアロー¨っていってパン、いつもこれでやってるんですパン」
「…ほぉ、…いいじゃん。武器してんじゃねーかこれ。一応他にアーチャーってのはいるけど、この際武器被りはいいよ。仕方ねぇよ」
ランサーは確かめるように弓の弦をビヨンビヨンする。嬉しそうにするアロエパンマン。
しかし士郎が、何かを悩むような雰囲気でアロエパンマンに言葉をかける。
「…えっと、アロエパンマンいいかな? アロエってせっかく¨トゲトゲ¨が付いてる植物なんだから、それを使った武器とかの方がいいんじゃないかな…? ほらあのトゲって、結構痛いし。わざわざアロエを弓にしなくても…」
「……そーだよおめぇ! なんで弓にしたんだよ!! アロエの特性活かしてけよおめぇ!!」
ランサーが勢いよくアロエアローを床に叩きつけた。
「そんでさりげなく語尾に『パン』てつけてんじゃねーよおめぇ! 何回言わせんだよおめぇ! 馬鹿にしてんのか!!」
アロエパンマンは、沈痛な面持ちで俯いた。
「…いやランサーさ? アロエパンマンもせっかく助けにきてくれたんだしさ? あんま強く言うのも、可哀想かなって」
「おめぇーもコイツの肩もってんじゃねーよ! どうすんだよコイツ!! これからもアロエでやってく気でいたらどーすんだよ!! 責任もてんのか!!」
「いや…ボクも見た目はアレかもしんないんですけど、これからちゃんと中身を見てもらって
「中身もねぇーーんだよ! 中身がアロエアローなんだよおめぇは!! よく考えたらアロエアロー結構柔らけーんだよ! 威力ねーよありゃあ!!」
「いやランサーさ? じゃあこの人の、人間性ってのをさ」
「人間性もねぇーーーんだよ!! なんだよさっきから! 新人のリーマンじゃねーか!! 英霊の意地はってけよ!!」
「大体なんでこいつ採用してんだよ! 誰だよ『聖杯の係の人』って! そんなヤツいねーよ!! ここ連れてこいよ!! 俺そいつの顔、ぶん殴ってやるよ!!!」
ランサーが「ムキー!」とばかりに、地団駄を踏む。
「こいつに英霊名乗られてたら俺らの立場ねぇーんだよ! なんだよアロエパンマンって!! パンでもねぇじゃねぇか!! アーサー王、ヘラクレス、アロエ? やかましいんだよ!!!」
ランサーは、天を仰いで「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛っ゛!!」と叫んだ。
「………………………あ゛~やめだやめ! せっかく召喚されて久々に強敵とやれると思ったんだけどなぁ~!」
「血沸き肉躍るってヤツをよ! こう、槍で〈キィン! キィン!〉ってよ! 打ち合ったりしてよ? やりたかったなぁ~オイ!」
「……………………」
「……………………」
「あーあ! しゃーねーから今からギルガメってヤツんとこでも行くかぁ~! ……って、あー辛気臭いったらありゃしねーよ! あーあ!」
「……………………」
「……………………」
こうしてランサーは、槍を拾って外へと去っていった。
………………………………………………
その場に取り残された士郎とアロエパンマン。
俯き沈痛な面持ちを見せるアロエパンマンに、士郎はとりあえず、慰めの言葉をかけた。
「あの、俺今度庭でアロエの栽培とかしてみようかな? そしたらアロエ使って、パン作ってくれよ」
今宵、少年は運命と出会った。
聖杯戦争の戦いの火蓋は今、切って落とされる。
少年は「アロエなんだから治癒の宝具とか再生能力とかあるのかな?」と思ったが、そんな事はなかった。