「あの…、私セイバーと申す騎士の者なのですが…。夜分遅くにすいません。たいへん申し訳ありません」
衛宮家のインターホンが『ピンポーン!』と鳴り、玄関へと来客の出迎えをしにいった士郎とアンパンマンの前に現れたのは、青いドレスに白銀の鎧を纏う、綺麗な金髪の愛らしい外国人少女だった。
「突然の訪問恐れ入ります。ですがどうか…、
どうか私の話を、貴方に聞いて頂きたいのです。」
愛らしい金髪の女の子は、申し訳なさそうに、でも必死にエプロン姿の家主の少年へと自分の話を聞いてもらえるよう訴える。
ペコリペコリと頭を下げる度、綺麗な金髪の髪がサラサラと揺れる。
「登場…というか現界するのが何故か今になってしまった事は深くお詫び致します。
本当に私にも、まったく原因がわからない事態で…。」
召喚に応じて降り立ってみれば、まさか目の前に、誰も居らっしゃらないとは…。『問おう、貴方が私のマス……アレ?』ってなってしまいまして。
女の子は俯きながら、モジモジぼそぼそと小さく呟く。
「ですが、どうか信じて頂きたい。
私はセイバー。…貴方の呼びかけによってこの地に召喚された、
貴方のサーヴァントなのです!」
洗い物で濡れていた手をエプロンで拭うのを止め、士郎はキョトンとした顔で金髪の少女を見る。
その隣でアンパンマンも優しい笑顔で彼女を見つめる。「大丈夫だよお嬢さん」と安心させるように、慈愛のこもった瞳で彼女を見つめる。
彼の胸にあるスマイルマークも、まるで彼女の苦労を労わっているかのようにみえた。
………………
………………………………………………
彼女が衛宮亭の玄関を〈ピンポン♪〉とする前、士郎はこの新しいアンパンの友人にお茶でも入れて差し上げようと、一人台所に立っていた。
そして更にその少し前になるのだけれど、実は士郎達は、ランサーとはまた違う別のサーヴァントと今夜二戦目となる戦闘を行った。
明るい月明りがキラキラと差し込む幻想的な光景の中で、アンパンマンが自らの頭の一部分を小さくちぎり「これを食べて笑顔を見せておくれ」と士郎へと差し出した、その後。
お互いの自己紹介を済ませたばかりのアンパンマンの¨敵サーヴァント感知センサー¨に、反応が出た。
普段ならのんびりと空を飛びながら「どこかにお腹をすかせている子供はいないだろうか」、「困っている人はいないだろうか」とパトロールに勤しむ彼だが、サーヴァントの身となったアンパンマンには現在、ある程度自分の近くにいる敵サーヴァントの気配を察知できるという素晴らしい能力が備わっていた。
「これはっ、敵サーヴァントの気配だ! 士郎君、ぼく行ってきます!」
アンパンマンは即座にふわっと浮き上がり、そこからロケットのような勢いで蔵の出口から外へと飛び出していった。
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「………アア~~~~~ンッ、パァーーーンチッ!!!!」
「ぬっ!? 何だ貴様…って、ぬおおおおおおおおぉぉーーーーーッッ!!!」
―――ドッカーーーン☆☆☆
「あっ……ああああああ!! アーーーチャァァァーーーーッッ!!!!」
アーチャーと呼ばれた赤いサーヴァントの男が、大きな大きな放物線を描いて、星々のまたたく夜空へと消えていく。
相手に対応する間も与えぬ程の猛スピードで一気に接敵、勢いそのまま問答無用とばかりに繰り出されたアンパンマンの必殺パンチにより、敵サーヴァントの男は『キラーン☆』という音を立てて、星々の仲間入りを果たした。
「イヤぁーーッ!! アーーチャあああぁぁーーーーっ!!」
アンパンマンの所へと遅れて駆けつけ、そこで士郎が見たもの。
それは、空へとぶっ飛んで行った自分のサーヴァントを「うわーー!!」と絶叫しながら必死に追いかけていく、黒髪の女の子の後ろ姿だった。
…………………
………………………………………………
そして今現在、士郎は先ほど我が家を訪れた金髪の少女やアンパンマンと共に、お茶の置かれたテーブルを囲んでいた。
とりあえず立ち話もなんだしウチに上がってもらい、緑茶とみかんしかないけど大丈夫かしらんとは思いつつも、なんとかお客人へのおもてなしを完了。
申し訳なさそうに俯きならがもお行儀よく正座をしている彼女の正面に腰を落ち着け、話を聞く態勢を整える。
「先ほどは取り乱してしまい、大変申し訳ありませんでした…。
改めまして、私はセイバー。聖杯の導きにより参上しました。
貴方が私のマスター……なんですよぜったい! ほんとうです!」
泣き腫らした後の赤い目をグジグジと指でこする少女は、どうか信じてくれと切実な思いを士郎へ伝える。
少女は、自らこそが最強のサーヴァントであるという自負を持ち、その誇りを胸に、己を呼ぶマスターにいざ勝利を捧げんという心意気を持って、意気揚々と今回の召喚に応じて冬木に降り立った。
……それなのに、あの仕打ちはどうだ。何故私が出てきたその場所には、もうすでに、誰もいなかったのだ。
絶対絶命の状況下にあったであろうマスターの声を、私を求める強い叫びを、確かに自分は聞いたではないか。
何故来た時には戦闘が終わっている。何故この蔵にはもう誰もいない。
私を冬木に送り届けるのには、そんなにも時間がかかる物だったのか。離島へと配達する荷物じゃあるまいし。
わけのわからない屈辱と情けなさに、また少女の瞳に涙が滲んでいく。
スンスンと鼻をすする少女を見て、なんだかわからないけどこの子はよっぽど不安だったんだな、と士郎は思った。
「とりあえず、大丈夫だからお茶でも飲んで落ち着いてくれよ。
セイバーさん……? の言う事をさ、俺は別に、嘘だなんて疑ってやしないからさ。」
「…ほ、本当ですかマスター!
貴方の窮地であったにも関わらず助けに参上する事もかなわなかった、
この不甲斐ないサーヴァントの私を…。」
「もういいから! わかってるから!
セイバーさんは俺のサーヴァントなんだろう?! 信じてるから!」
ついに〈ずびびびぃ~~っ!〉と勢いよく鼻をすすり始めたセイバーの手に、ボックスから4、5枚ほどテッシュを引き抜き握らせてやる。
信じた。俺は君を信じたぞ。君はつまり俺のサーヴァントってヤツなんだ。間違いない。
……とは言うものの、さっきから話に出てくる¨サーヴァント¨というのは一体なんなのだろうと士郎は首を捻る。
確かさっきアンパンマンも、「ぼくは君のサーヴァントだよ!」と言ってくれたけれど。
「あ、そうか! きっとこういう事なのかもしれない!」
その時唐突に、今までセイバー&士郎をニコニコと優しく見守っていたアンパンマンがわかったぞとばかりに〈ポンッ!〉と手を叩き、初めて口を開いた。
士郎くんに食べてもらい少しだけ欠けた大きなアンパンの頭を、うんうんと上下に揺らす。
――――そうだ、ぼくがこの世界にやって来られたのは、きっとそうゆうわけだったんだ。
……あの時は、どこからか士郎くんの強い思いが聞こえて『行かなきゃ!助けなきゃ!』って気持ちでガムシャラだったけれど。
ぼくがこの世界に来られる事は、きっと本来、ありえない事のハズだったんだ。
“割り込んだ“んだ。
きっとセイバーさんがこの世界に召喚される時の¨転送の川¨に、僕はそれに一緒に飛び込んだんだ。
僕の『困っている人を救いたい!』っていうとんでもなく巨大な抑えきれない程に強くてそれでいて尊い気持ちが、世界線すら超えて、士郎君の心の叫びを拾った。
あの時ガムシャラに『士郎君の所へ!』と願って力いっぱい飛んだぼくは、士郎くんのもとに送られているセイバーさんの¨転送の川¨に「ぼくも行く!」とばかりに飛び込み……。
そして敏捷性がAの。非常にすばしっこさに定評のある凄く速いぼくは……。
きっと“セイバーさんをぶっこ抜いて“、先にゴールテープを切った。
……ぼくが先に士郎君のもとへとたどり着き、ランサーを倒した後。
ぼくというイレギュラーなトラブルによって大きく水面が荒れてしまった転送の川を、後から苦労してセイバーさんは泳ぎ、そんな風にしてセイバーさんは遅れてここへとたどり着いたのか。
どうりで士郎くんとぼくを繋ぐパスが、『魔力の供給は無くはないけど…』という、なんか微妙な繋がり方しかしていなかったワケだ。
ぼくが本来セイバーさんが士郎君と繋ぐハズだったラインを、¨半分盗っちゃったワケか¨
なるほどなるほど! そうか、わかったぞっ!
………………………………………………
「わかったよセイバーさん!
安心して! セイバーさんが士郎くんを助けられなかったのは、
¨全部ぼくのせいかもしれない!¨」
「お゛っ……お前ぇええええええええええええっっっっ!!!!」
激昂し、ちゃぶ台をひっくり返し、剣を構えアンパンマンへと斬りかかるセイバー。
「落ち着けってお嬢ちゃん!!」「殿中です!殿中です!」と、いつの間にやら現れてセイバーを抑えるカレーパンマンと食パンマン。
「ひぃっ!」「うわー!」っと涙目で抱き合いながら、ぶるぶると恐怖に震える士郎とアンパンマン。
何故か少しめくり返された畳の下からは、セイバーさんの後頭部にアンパンマンの新しい顔をぶつけて一撃で昏倒させられるタイミングを測っているバタコさんが、ちらちらと頭を覗かせていた。