身体はパンで出来ている。   作:hasegawa

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怒る。

 

 

「そうか、聖杯戦争ってヤツの事は大体わかったよ」ナットク

 

 

 士郎君が素直で飲み込みの良い子で本当に良かったと、アンパンマンは思う。

 セイバーと協力しダブルティーチャーズシステムで行われた士郎への¨アンパンマンのはじめてのせいはいせんそうきょうしつ¨は、驚異的なスピードをもって全工程が終了した。

 

 残念ながら士郎達の中には居はしないが、「もう全部しってるよ…」という知識あふれる聡明な者がもしこの場に居たならば恐らく聴いていて退屈以外の何物でもないであろう¨聖杯戦争の仕組み説明場面¨は、つつがなく迅速に終わった。

 

 士郎くんも、今日から聖杯せんそうはかせだ!

 アンパンマンの胸のスマイリーマークで、にっこり太鼓判を押してあげた。

 

 

 なにせ時刻はもう午前0時をまわり、本来ならば良い子はとっくに眠っている時間だ。

 意外かもしれないが、アンパンマンはきちっと睡眠は取る方なのだ。

 お気に入りのナイトキャップは、残念ながらパン工場に置いたままになってしまったけれど。

 パンの一族(?)だって眠りたいのだ。意識は高い方なのだ。漫画みたいな鼻ちょうちんだって出せるのだ。

 

 しかし今日という日は、士郎達にとってあまりにも色々な事がありすぎた。

 

 

 ……あえてどれか一つを原因として挙げよと言われたならば、士郎の脳裏に真っ先に浮かぶのは、先ほど勃発した、この居間でのドタバタ騒ぎだ。

 セイバーは、けして怒らせてはいけない系の女の子だった。

 

 最低限の理性こそなんとか保ってはいたようで、「マスターの住居は破壊してはならない! 今度こそ解雇されてしまう!」という意識だけは働いていたのか。

 アンパンマンの仲間達に数人がかりで押さえつけられた彼女は途中、「表に出なさい! 表に出なさい!」と、ただひたすらに連呼し続ける日本語教材のDVDのようになった。

 

 自分の事を「私は主の窮地にも駆けつける事が出来ない、ブリテンの騎士の面汚しだ」とネガティブな思考に陥ったセイバーは、あの月明り差し込む蔵の中で独り立ち尽くし、誰も知らない一筋の綺麗な涙を流したのだ。

 

 なんとか士郎達の説得に耳を傾ける事が出来始める頃には、もう深夜と呼んで差支えない時刻になっていた。

 彼らの不断の努力によって、とりあえずなんとか彼女に座って頂く事にも成功した。

 しかし彼女の怒りは未だ収まる所を知らず、正座を組んでいる足はともかく、めいいっぱい両腕を用いたジェスチャーにより、怒りを表現する。

 

「私が思うに!」(パコン!!)

 

「何故こういう事に!」(パコン!!)

 

「こんなにも耐え難く!」(パコーーン!!)

 

 何故か一言一言を発する度、ロープグルグルで床に転がされているランサーの頭をスリッパで叩くセイバー。

 これは無意識なのか、床を叩いているつもりなのか、怒りでランサーの姿が見えていないのか。

 彼女は百人一首をする時の手の勢いで、足元にあるランサーの頭を¨「私はっ!」パコン!「ですからっ!」パコン!¨とリズミカルに叩き続けた。

 

 まごう事なき可憐な少女である所のセイバーが愛らしく〈プンプン!〉と怒ってくれたらばみんな嬉しかったのだが。

 怒りに囚われたセイバーはいわゆる「もー!」という声ではなく、なにやら『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ゛ッ゛!!」という感じの、非常にエッジの利いた声で怒りを放つ。

 

 その凄まじい印象のギャップに、「この少女は乙女ながらさぞかし名のある勇猛な騎士だったのであろう」と彼女の真名に想いを馳せる、のんきなアンパンマンだった。

 

 

 結局の所、彼は無事にセイバーと仲直りをする事が出来た。

 

 自分の非を認め、アンパンの頭を下げて「ごめんなさい」

 そして、ケンカの後は、握手をして仲直り。

 

「お腹がすいたでしょう?」と差し出られたアンパンを食べ、泣いていた少女はニッコリと笑顔を取り戻した。

 

 

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