草木も眠る深夜、アンパンマンは眠たい目をまんまるな手でクシクシと擦りながら、冬木の街のパトロールに出掛ける。
早くこの街の事をおぼえなくっちゃ。
眠たい思考でそう自分に言い聞かせてみるものの、実はアンパンマンが外へと飛び出した直接の原因は、セイバーさんにあった。
「サーヴァントたるもの、最も敵からの襲撃を警戒せねばならない夜間にこそ
マスターの傍に付き添い護衛をしなければならない。
寝床を別々にしたいとは何事か。」
と、そんな風に主張を曲げないセイバーと、青少年の健康な精神的なアレコレの事情から「勘弁してくれ」と必死に頼む士郎。
アンパンマン自身が深く考えもせずに「じゃあ三人で一緒の部屋に寝ようよ」と提案してしまった事が、間違いだった。
その提案は渋々ながらも士郎くんに認められ、三人は同じ部屋で左からセイバー、アンパンマン、士郎の順で、少し広めの川の字の陣形で眠る事になる。
全員やはり今日の疲れがあり眠くはあったものの、皆で寝ながらするちょっと小声の柔らかなおしゃべりの時間は、独特の雰囲気があって新鮮な嬉しさがあった。
やがて「今日はごめんなさいアンパンマン。心優しい貴方に感謝を」というセイバーの言葉を最後に、三人はそれぞれ寝付く態勢へと入った。
明日から本格的に始まる自分たちの聖杯せんそう。そんな強い不安はあれど、不思議と三人と共にいるこの部屋では安心して眠りにつけるように思えた。
――だが現実とはまこと非情極まるものだと、愛と勇気を旨とする
一足先に眠りについたセイバーの可愛らしい寝息を聴きながらまどろんでいたアンパンマンの頭に、突然バタダタと勢いのある匍匐前進で近づいたセイバーが『ん~♡』とばかりにガバッとしがみつき、アンパンマンの顔を眠りながらかじり始めた。
いいにおーーい! 美味しいですよこれは美味しいですよこれは…むにゃむにゃ。
アンパンマンは顔を食べられてナンボみたいな所があるとはいえ、良い子が寝ながら物を食べるお行儀の悪い行為を許容する者では絶対にない。
そして、「このままぼくは士郎君を守る前に顔を全て同僚に食べ尽くされ、朝を待つこと無く人知れず
セイバーは夜食という名のばんごはんを沢山たくさん食べていた事だし「この娘は特に空腹にあらず、暴食は罪なり」と自分の胸に言い聞かせ、なんとか食料としての矜持を守ったまま、静かに三人の寝床を後にした。
足音をあまり立てないよう気を付けて玄関に向かう途中の彼の前に、眠たそうに目元をこするバタコさんが、突如衛宮家の洋服タンスの中から現れた。
「…あい。」とダルそうに片手でアンパンマンの新しい顔を彼に向かって投げてから、目をぱしぱしさせてあくびをしながら、再び洋服タンスの中へと帰っていく。
これで元気100倍、アンパンマンだ。
いつもの「しゅるるるるる~!ぺかー!!」という派手な演出は深夜なのでやらないが、これでパトロールも万全だ。
こうして彼は、初めての冬木の街パトロールへと向かった。
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しばらく飛んだ先にあった、学校らしき大きな建物。そこでアンパンマンの¨敵サーヴァント察知センサー¨に、反応が出る。
いつものスマイルを「むっ!」とへの字口に変え、アンパンマンは意識を集中し更に敵の反応を探る。
今は士郎くんもセイバーさんも居ない。ぼくひとりっきりだ。
何をどうするかは状況次第になるが、まずは無理せず敵サーヴァントの姿を確認し、観察を入れる事を目標とする。
センサーの反応を頼りに飛び、校舎の屋上を見渡せる位置にアンパンマンは来た。
そして校舎の屋上に、なにやらしゃがみ込んでいるらしき人影を発見する。
しばらくはその敵サーヴァントであろう人影をへの字口で観察していた彼だが、ある瞬間から彼の表情は驚きに変わり、そしてすぐ真剣な表情へ変わり、そこからは変化をしなくなる。
やがて彼はどうゆうわけだか敵サーヴァントを観察する事を止め、ゆっくりと屋上の人影の傍へと向かい、その傍へと降り立った。
「やあ。君はこんな時間に、ここで何をしているんだい?」
アンパンマンが、ゆっくりとこちらに向き直る敵サーヴァントへ語り掛ける。
「女の子がこんな事をしてちゃいけないよ。さぁ、ぼくと一緒にお家に帰ろう?」
敵がアンパンマンに向けて、大きな釘のような鉄の塊を投げつける。
表情を変えず鉄の塊を右手で掴み取ったアンパンマンと敵サーヴァントは、鉄の釘の尻についた鎖をグググと引っ張り合う力比べのような戦いに移行する。
「…驚きました。貴方も普通の英霊とは違うようですね。
人外の魔物か妖怪か……。どちらにせよ、普通のサーヴァントでは無い…ッ。」
「ぼくは
ぼくは空から君の姿を見かけて、そして君とお話をしたくてここへ来たんだ。」
敵サーヴァントの動揺が手にした鎖に伝わり〈シャリンッ!〉と音を立てる。
月明りに照らされる紫色の髪が信じられない程に美しく、纏った黒い衣装と合わせ妖艶な雰囲気を漂わせるその女性サーヴィァントの表情の変化は、鎖に伝わった動揺などよりもさらに顕著で、わかりやすく。
黒い眼帯を付けているにもかかわらず彼女の表情は、驚愕に染まっていた。
「…ハッタリですか? まさか会ったばかりの敵にいきなり真名を晒す馬鹿は
いません。それにヒーローなどというクラス、聴いた事も……」
「ぼくはね、君ととてもよく似た人を一人知っているんだ。
だから君と話をしにきた。その人はね、ぼくの大切な、大切な友達なんだよ。」
〈シャァアアン!〉と大きな音を立てて、アンパンマンはちょっぴり乱暴に、手にしていた鎖を足元へ捨てるように手放した。
「君は、ばいきんまんの親戚の人かい? もしかして君の名前は『ばいきんうーまん』っていうのかい?」
………………………………………………
女神から堕とされ、人間に追われ、化け物にもなった。
――――ばいきんうーまん。
たとえそんな自分であっても、今の言葉を受けた衝撃は、とても耐え難い物だった。
士郎くん「当作品のアンパンマンは、頭のアンパンが全部食べられるなどしてなくなってしまうと、リタイアしてしまいます。」
士郎くん「原作アンパンマンの設定では『頭が取れたり無くなっても胴体の方に最低限のパワーを残しているので大丈夫』という物があるのですが、サーヴァントアンパンマンは違います。」
士郎くん「アンパンマンは聖杯と俺の魔力で動いています。この世界に、首をなくして生きていられる生物はいません。」
アンパンマン「でも、ちょっとの間ならけっこう大丈夫だよ!!」