あの校舎の屋上での出来事から4日後の朝。
ライダーは間桐家の庭にて、アンパンマン号の洗車作業を行っていた。
ホースの先から飛び出る水が、朝の光にキラキラ光る。
ゴシゴシとリズムに乗ってデッキブラシでアンパンマン号をこする。「フンフン♪」とおもわず鼻歌も歌っちゃう。
至福の時。まさにビューティフルモーニングであった。
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「君は乗り物が好きなのかい?」とアンパンマンに問われ、私は速い乗り物が好きなのですと答えた。
あの夜ほんとうに色々とありはしたものの、ばいきんまんがUFOで飛び去った後、アンパンマンとライダーは沢山のお話をした。
美味しかったアンパンの事。大切な家族の事。好きな物や趣味の事。
その流れで、私はライダーだから色々な乗り物を乗りこなすのが得意なのです、えっへん!という話が出た。
「それなら君にアンパンマン号を見せてあげるよ!
これでお家まで送って行ってあげる!」
そうしてアンパンマンは、何もない空中から「えーい!」とばかりにとても大きな乗り物(らしき物体)を出現させた。
…一目みたその感想としては、「なんだこれは。」
この一言に尽きる。
その外観がアンパンマンの顔に酷似している事は理解出来るのだが、この巨大なアンパンマンの頭のような乗り物の顔の表情は、真顔で、まるで死んだ魚のような目をしている。
上のハッチから「お、出番かい?」と言わんばかりのニヒルな顔でジャムおじさんが頭を出す。ゴーグル姿が大変にクールだ。
「これがぼくらのアンパンマン号だよ! 今回の聖杯せんそうのために、
ジャムおじさんが色々な機能を付けてくれたんだ!」
「空戦から陸戦まで何でもござれだよ!」とアンパンマンが嬉しそうに手を万歳しながら羽だのビームだのドリルだのと説明をしてくれるが、ライダーはただただ、この〈バァーン!〉と威風堂々のたたずまいをみせるアンパンマン号の死んだ瞳と見つめ合い、真顔になっていた。
その後は「…お、お邪魔いたします」とアンパンマン号に乗せてもらい、ライダーは間桐家への帰路につく。
途中ジャムおじさんの「運転してみるかい?」というご厚意により、アンパンマン号を操縦してみるライダー。
なんか運転途中に変なスイッチに触れてしまい、突然アンパンマン号の全面に巨大なドリルが出現したりして慌てたりもしたが、軽快なスピードと快適な乗り心地、そして「君はとても運転が上手だね!」というアンパンマンの掛け値のない称賛の声に、ライダーはご満悦。
隣で「ほっほっほ」とほがらかに笑うジャムおじさん。楽しそうな笑顔のアンパンマン。
ライダーは暖かな気持ちで、間桐家へとアンパンマン号を走らせたのだった。
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その後の話をしよう。
結論から言うと、桜と慎二は、今とても幸せそうに笑っている。あの日から、二人の日常は笑顔に溢れている。
朝になり、さっそく間桐家に菓子折りを持って訪問したばいきんまんは、桜ちゃんと慎二くんにどうか今日一日だけ学校を休んで自分に付き合ってくれないかとお願いをした。
戸惑う二人に切実にお願いをするばいきんまんと、ライダーの「この方は信頼の出来る人です、桜」という言葉に、桜と慎二はわからないながらも頷いた。
間桐家の一室に見た事もない装置や機材が持ち込まれ、桜はばいきんまんの指示により、診察台のような物の上に横たわった。
そしてその変な診察台の側面から、何かアニメでよくある光線銃のような機械が先端に付いたアームが、ウイーンと何本か桜の身体の上まで出てくる。
『ビビビィ~~!!』っと数秒間ほど桜の身体に何故か痛くもかゆくもない¨漫画で見た事あるような感じのビーム¨が照射され、桜の身体を包み込んだ。
その後すぐ「はぁいお疲れ様ぁー桜ちゃん!! 怖かったよね! ごめんね! でももう大丈夫だからね!! 本当によかったっ!!!!」と装置を操作していたばいきんまんが桜に駆け寄り、桜の手を両手で包みこみ、優しく労ってくれた。
そんな風にして、拍子抜けするほど一瞬で、桜の身体は元気を取り戻した。
余談になるが、同時刻。近所の住民が間桐家のすぐ前を通りかかった時、
突然屋敷から『『ぬわーーーっっっ!!』』という老人の断末魔のような声がしたのを聞いた。
慎二も同じくばいきんまんにより、簡単な診察の後診療台でビビビッっと処置を受け、体内の魔術回路の生成に成功。
その後は妙に馬が合ったのか、よく衛宮家で彼らは¨悪の美学¨について熱い議論を交わしている。
『水や菌などを一戦で複数回使用するのは己の矜持に反する』『パン工場への襲撃行為は鬼畜生の行いだ。』などなど。
桜はあの日から毎朝慎二を伴って衛宮家を訪れ、朝食の前には庭でアンパンマンや士郎と共に¨アンパンマン体操¨をするのが日課だ。
『アンパンマンは~♪ きっみっ、さー♪』のサビの部分では、「えいえいえい! えいえいえい!」と元気に両手を上下に動かし、「ぐるぐるぐるぐる、ぱーんち!」とビシッっと手を前に出す。
途中の『ヘイユー!!』という合いの手の部分は、いつも桜の担当だ。可愛らしい舌足らずな声で「へいゆー!」と満面の笑みで歌っている。
ちなみにライダーも桜の隣で一緒に踊ってはいるのだが、まだまだ恥ずかしさからかどこかぎこちなく、それでいて生真面目な性分からか、表情はいつも必死だ。
アンパンマン体操の後は士郎、桜、慎二、セイバー、ライダーなどの面々で食卓を囲むのだが、意外にも慎二がお皿をならべたりテーブルを拭いたりと率先して手伝いをしている。
「自分の家ならともかく、ここは人様の家だ。食事もご馳走になってるんだから当然だ!」と彼は言う。
そして「ほら、これ美味いから食えよ桜! お前今リハビリ中でたくさん栄養取らなきゃなんないんだからな!」と桜に自分のおかずを譲渡したり、「おんまえっ……、口の周り拭けよ! 人前でだらしないトコ見せてんなよ!」と甲斐甲斐しく桜の世話を焼いている。
桜の食事のマナーは悪くなく、むしろとても綺麗に食事をしているのだが……、もうありありと『世話を焼きたくて仕方ない!』というのが見えるように、慎二は無理やりのようにでも桜に構っていた。
その兄の様子を、桜は苦笑しつつも嬉しそうに見つめ。士郎とアンパンマンはとても暖かな笑顔で見守っていた。
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あの日から、毎日が充実している。
陰鬱だった間桐家の雰囲気は払拭され、まだ少しギクシャクしているとはいえ間桐兄妹の仲も良好だ。
驚くべき事に、今は間桐臓硯までもが、孫達のこの姿を暖かく見守るように穏やかな表情をしているのだ。
あの朝、屋敷から老人の絶叫が聞こえた後。
どうやらアンパンマンとジャムおじさんが、二人で臓硯の所へ訪れたらしい。
ジャムおじさんは自分が焼いたパンを持参して訪れ、それを臓硯へと振舞ったという。
おそらくはジャムおじさんのパンを食べたであろうその後、ライダーは屋敷でふと臓硯の姿を見かけた。だがその臓硯の顔が以前とは劇的に変化している事に気が付いたライダーは、これがアニメならば〈ドゴーン!〉とバックにかみなりが落ちる演出が入るくらいの勢いで驚愕する。
――――臓硯の瞳は、何故か80年代の少女漫画ヒロインのように、キラキラになっていた。
とりあえずはお茶をお出ししなければ……と生真面目な桜がジャムおじさん達と臓硯がいる部屋を訪ねた時、なにやらドアの奥から『己が贖罪は聖杯戦争が終わった後。今はまず、あの子らの未来を守らねばならん。』などと真面目な話をする臓硯とジャムおじさんの声が聞こえたという。
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この4日の間にも聖杯戦争の戦闘は行われていたが、それについてはまた語ろう。
まだまだ聖杯戦争は続いていくが、願わくば間桐兄妹と彼らに、幸せな結末を――――
ライダーはジャムおじさんから正式に譲渡されたアンパンマン号を洗車しながら、これからの戦いへと想いを馳せる。
――――とりあえず、とりあえず早く、また戦闘がしたい。
ライダーは、アンパンマン号に乗り込んで戦う気まんまんであった。
【宝具】
『フェイス・オブ・アンパン』
ランク:EX 種別:対人宝具 最大捕捉:1人