――――迫り来る斧剣の、まるで暴風のような連撃を受け流す。
足は時にたたらを踏み、頭上からの攻撃を受け止めれば身体がくの字にまがり、足元の地面が陥没する。
この大英雄ヘラクレスの戦力は、言いたくは無いが、自分の遥か上だ。
圧倒的な暴力の前に腕は痺れ、膝は笑い始め、それでも私は己の剣に魔力放出の勢いと騎士の矜持を乗せて。
今、渾身の力を持って目の前の鉛色の巨人と打ち合い、拮抗していた。
全ては、我が主の為。
己の力を彼に証明せんが為。
そして、貴方の未来の為。
今、私の全力を持って、この聖剣を振るおう。
――それこそが、騎士の。サーヴァントの本懐!!
「貴方の頭のパンって、とってもおいしいのね! 信じられないくらい美味しいの!
セラやリズには悪いけど、もうわたし他のパンなんて食べられないと思う!」
「ありがとうイリヤちゃん! 君が喜んでくれて、ぼくとっても嬉しいよ!」
「おいらのカレーパンもまた食べてみてくれよな!
やっぱこう、パンにはピリリとした辛さってヤツが合うんだよ!」
「俺今度、ジャムおじさんにパンの作り方を教えてもらう約束をしてるんだ。
イリヤもよかったら一緒にこないか? 俺の作ったパンも食べてみてくれよ。」
「え!? 士郎パン作るの!? わたし食べるっ! 食べてあげる!」
「うんうん。じゃあ頑張って士郎くんと美味しいパンを作るからねイリヤちゃん。
ほっほっほ」
………………。
……そ、それこそがっ、サーヴァントの本懐ッッッ!!!!!
「セイバーさーん! がんばってー!
お腹が空いたらアンパン投げてあげるよー! いつでもいってねー!」
「ファイトでーす! セイバーさーん! このしょくぱんまんが見ていまーす!」
「あんあーん!」
………………。
………そっ、……それこそぐぁっ!!
「おー! いっけぇ~バーサーカー! ふんづけちゃえ! そこでふんづけちゃえ!」
「イリアのバーサーカーって、凄く強いんだな。俺あんな大きな人見た事ないよ。」
「でっしょ~! なんせバーサーカーは大英雄ヘラクレスなんだから!
士郎も今度、肩に乗っけてもらうといいよ! わたしがおねがいしてあげる!」
「ほっほっほ♪」
……………それこそが、サーヴァントの本懐。
……でもなんか、私の思ってたヤツと違うっっっ!!!!
…………………
………………………………………………
騎士王は激怒した。
何故私が教会に駆けつけた時、戦闘はすでに終わった後だったのかと。
アンパンマンは士郎をひっつかみ、カレーパンとしょくぱんが衛宮家の窓をぶち破り、三人は一瞬で空へと飛び出していった。
バタコさんジャムおじさんは何故か外であらかじめスタンバっており、アンパンマンらが窓から飛び出すのに合わせてアンパンマン号を発進させ、彼方へと走り去った。
チーズが、それに並走していた。
ポカンと正座したまま部屋に取り残された私は、同じくポカンとしたばいきんまんと、しばし見つめあう。
言峰教会の話を部屋で聞いた直後の、一瞬の出来事だった。
『ん゛い゛い゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛~~~~~っっ!!!』と変な声を出しながらがんばって走った私が言峰教会までたどり着いた時には、すでに戦闘は終わった後だった。
アンパンマン達が肩をいからせながら『プンプン!』とゾロゾロ教会の出口から出てくる所をみて、そんなもん私の方が怒りたいわ、と思った。
私は神の家の真ん前で、大いに泣いた。
天にも届こうかという程の私の怒りがアンパンマン号の内部でこだまし、帰路の途中も、ずっと私は泣き続けた。
『セイバーはブリテンの騎士の面汚しなんかじゃないさ』と士郎は優しく私を慰めてくれたが、その優しい笑顔が痛かった。
走り出した想いはもう止められないのよとばかりに私はアンパンマン号の上部のハッチから顔だけを出し、
空に向かって意味もなく『え゛え゛え゛エクスカリバァァァーーーーッッ!!』と絶叫し、感情を発散させた。
士郎とアンパンマンに「危ないから止めような」と純粋な思いやりと優しさをもって普通に止められた事で、また悲しくなった。
そうしてアンパンマン号に備え付けの箱ティッシュの残量が可憐な乙女の涙と鼻水を処理するために心もとない量となってきた頃…。
私はアンパンマンと士郎との激烈な交渉の末、¨次の敵は私に一人で戦わせる¨という公約をさせ、勝利を勝ち取ったのだ。
怒りと悲しみ、そして涙を流す事に疲れ果てた私はアンパンマン号が衛宮亭につくまでの間、士郎のお腹にしがみつき、頭をやさしくなでてもらいながら士郎の膝を枕に眠る。
………………………………………………
そうして今、私は今回の聖杯戦争で自身初となる戦闘を行っている。
相手は大英雄、バーサーカーヘラクレス。
相手にとって不足無し。
¨アンパンマン号公約¨は遂に実行されるに至る。待ちに待った、私ことセイバーの単独での戦闘だ。
己が主に勝利を捧げんが為、私は意気揚々と大英雄と相対し、一気に斬りかかった。
だが私が言いたいのは、『この戦場の雰囲気はいったい何なのだ』という事だ。
私の後ろでは、チーズがあんあんと鳴き。
バタコさんしょくぱんまんにフレーフレーと声援を受け。
アンパンマンとジャムおじさんは、我らの戦いを優しく包み込むような目で暖かく見守っている。
そして我が剣を預けしマスターの少年は、敵マスターの少女と共に、仲良く応援をしていた。
「うおおおおおっ!」チャッキーン!!
イケー、セイバー!
「たあーーっっっ!!」ドッゴーン!
ファイトヨ!バーサーカー!
己がマスターのコミュ能力の高さに、私の理想郷は砕け散りそうだった。
「■■■■■■? ■■■■■■?」(大丈夫かセイバーよ?今日は体調が悪いか?)
何故かバーサーカーも心なしか不思議そうな目で私を見ているし、こちらを気遣っている雰囲気まである。
何を言っているかわからないが、うるさい黙れと思った。
そもそも聞く所によれば、士郎とイリヤは、これが初対面ではないらしいのだ。
今日この広場にやってきたイリヤの第一声は「しろー! 約束通りバーサーカー連れてきたよー!」だったし、この戦場へ私達が赴いてくる前には、私は士郎から「イリヤのバーサーカーと戦いに行くから」と聞かされていた。
「今日の夕方に商店街でイリヤって子と会ってな。なんでも自分はマスターだっていうから、夜になったら勝負しようって事になったんだ」
「そん時イリヤと一緒に公園で¨どら焼き¨を食べてたんだけど、ふと視線を感じて後ろを見てみたらなんかアンパンマンがそこにいてさ、どら焼き食べてる俺を『真顔でじっと見つめていたんだ。』」
「あれはいったい何だったんだろう?
アンパンマン、しばらく俺と口を聞いてくれなくなってさ」
士郎は敵マスターの報告と共に、よくわからない事も言っていた。
「だからイリヤはアンパンマンやしょくぱんまん達とも面識あるぞ。夕飯前だったからパンを食べるのは遠慮していたし、戦いは夜からだからっていったん別れてまた会おうって事になったんだけどさ。」
それを聞いた時には私も「戦闘にならなくて良かった」と思ったものだが。
もしまたのけ者にされでもしていたら、荷物をまとめ、そしてありったけのパンをひっつかんでから「ブリテンに帰らせて頂きますッ!!」と宣言していたかもしれない。
しかし私の後ろでは今、お腹がいっぱいだからカレーパンはいらないというイリヤに対し、
「じゃあ俺がカレーパン食うよ。美味そうだし少しもらえるか?」
「それなら私がカレーパンを食べるわ。今日のカレーは私が作った自信作だもん。」
「いや俺が」「いや私が」「いや俺が俺が!」
「…そ、それじゃあわたしが食べよっかな」
「「どうぞどうぞ」」
「 なんでよっっっ!!!! 」
という、士郎とバタコとイリヤによるコントが繰り広げられている。
〈きゃっきゃ☆ きゃっきゃ☆〉とした声を背中に聞きながら、私はアホ毛を引き抜いて地面に叩きつけたくなった。
上島氏のように「ふざけるな!」と叫んで。
仲間に入りたかった。