家に詐欺師がいる。そのことを思えば、わたしの憂鬱はきっとわかってくれるだろう。はー、やだやだ。下手すりゃ学校のほうが気楽ってもんだぜ。わたし的にはそう思う。きっと詐欺師と言う存在を根本的に嫌っているのだ。わたしは嘘が嫌いだ。もっと言えばわかりづらい、騙すための嘘をつく人間が嫌いだ。詐欺師なんかはその筆頭。だからわたしは憂鬱だった。
だからと言って家に帰らないわけにはいかないので、わたしは素直に家に帰った。あの詐欺師が玄関先で死んでくれていればどれだけわたしは喜ぶのだろう? たぶん、クリスマスプレゼントを初めてもらったときくらいに喜ぶだろう。それだけわたしは詐欺師が嫌いだ。
学校から帰る途中にはわたしを刺しているようなひそひそとした陰口が飛んでくる。わたしはそれを気にしない。その程度でしか人に文句をつけれない人間ばかりなのだからそれはしょうがない。わたしは知っているのだ、人生なんて、そのうちそんな余裕がなくなっていくことを。個人をより好みしていられるのは学生の期間くらいだ。わたしは知っている。社会の先生が言っていたことを思い出した。『他人などそもそも信用するものじゃない。そして人は全て他人だ。つまり自分以外のだれかを信用すると馬鹿をみることになる。──信頼とは裏切られていいと思うこと。故に、信頼する相手は作っていいが、信用はするな。用心しろ。人は人を食い物にするぞ』、だったか。わたしの社会の先生に対する好感度は天元突破した。その通りだ、全く。人間を信用したらそのまま娼婦コースまっしぐらだろう。そしてそのまま野垂れ死ぬのだ。そんな人生は最悪だ。わたしはそう思って、そうなる前に死んでやろうと思った。
そうして家に到着する。
扉を開けた。
──詐欺師は、そこで死んでいた。
これが夢だとすぐにわかる。わたしは死んでいた詐欺師を放置して、そのままベッドへと向かって、夢の世界へと旅立った。その世界は絵画の世界だ。それぞれ入り口となる絵画が存在して、そのインクに溶け込むように体を放り投げれば、わたしの世界巡りが始まる。
まずはじめに、ベッドの上に裸でいる。わたしの体は誰か少年に支配されていて、そのまま、ぼんやりとした気持ち悪さだけが伝わってくる。汗が体中を濡らしていた。わたしは思った、今日の夢の題材は性欲かな、と。
そう思ったがどうも違うようで、気づけば少年は消えていた。子宮に感じる熱は残っていて、わたしは今も裸のままだ。けれどベッドが消えてわたしはどこかに立っていた。白い空間だった。
『おはよう、わたし』とわたしが言う。
『おはよう、わたし』とわたしは言う。
どっちが本当のわたしかわからなかった。それでもいいのが、それが許される空間なのがこの夢だ。どろどろの液体として互いが互いに混じり合う空間。それがこの夢だとわたしは知っている。
『メロスは永久の旅に向かった。お前は置いていかれたんだよセリヌンティウス』
『詐欺師は永久の眠りについた。わたしは泡沫の夢に沈んでるんだよ
『だなんて言って、お前は変わらない』
『その分厚い仮面のうちで何をみて笑っているの? それともあなたは嘲笑っているの?』
『セリヌンティウスは無様に死んだ。磔にされてそのまま死んだ。メロスは帰ってこなかった。王政は終わらない。断崖に文字のインクは落ちていく。お前はそれを見て嘲笑ってるんだ。やっぱり人間なんて信用できないものじゃないか、と』
『だからと言ってお前はきっと心の底から残酷になれていない。お前はタフじゃない。全然お前はタフじゃない。
『知ってるよ。わたしは酷い女だ。そうだろう?』
『ああそうだ。お前は酷い女だ。詐欺師に対してのみ辛辣だ。何が嫌いなんだ? 詐欺師の何が嫌いなんだ?』
『わからないね。そんなのはわかりたくもない』
そうして夜闇が来る。世界が黒く染まっていく。
そのころわたしは夢の世界から逃げ出していた。
「おや? おはよう。どうだい? 現実の味は気持ち悪いかい? まるで使い古した油を喉に流し込まれている気分だろう」、と詐欺師は言った。まるでわたしが見た死体が嘘だったかのように詐欺師は元気にその場所にいた。なんだ、死ねば良かったのに。
「詐欺師くんはどうにも死ねないんだよ。そもそも君以外に僕は見えていないって知ってるだろ? 君はいつかにどこかで混じったんだ。願う→交じる。君と僕の道はどうやら君を始点として交わったみたいだ。一番深いところで。ああ、言っておこう。これは夢じゃない。そのことはわかってるね?」
当然だ。こんなやつに言われずともわたしはとっくにそれを知っている。詐欺師は決まって夢には出てこない。それは夢の世界に詐欺師を弾くフィルターを張っているからだとわたしは思っている。なんて。
「君のありふれた一日はあと少しで終わるよ。君の一日が終われば僕は明日の君に会う。それが終わると僕は明後日の君に会うんだ。君は必ずここにくる。毎日欠かさずここに来る。何がしたいのが僕には到底わからないね」
わたしもわからない。何故ここにつながるのかがわからない。一体なにがどうなんだ。
「知りたいかい? 僕は別に、教えてあげてもあげなくてもいいんだぜ」
こんなやつに施しを受けるのは癪だ。
「そう言えば、君が初めてここに来た日を思い出す。君は手痛い裏切りにあったんだって? それで学校中の顰蹙を買ったとか。いじめとか、それには性的なものもあったんだってね。確かに君はいい体をしている。まだ十六歳とは思えない体だ。セックスアピールの強い体で、性格は抱え込むタイプと来た。痴漢とかに目を付けられるタイプじゃないかい? 僕はそんなやつらの心理はわからないけど。そんな君が集団で犯されることについて、僕は意外に普通だ、と思う。高校生なんてそんなに良識のある時代じゃないんだ。一定ラインを超えれば彼らにブレーキなんてないんだ。アクセルを彼らは急に踏みしめる。踏みしめて、車が壊れる。壊れるきっかけは些細だ。君が壊せばいい。飼い犬に手を噛まれて彼らは死ぬ。何故君がそれをしないのか、理解に苦しむね」
わたしは何も言わない。正論だと思ったからだった。
「おいおい考えつかなかったとか言うなよ? 君はそんな女じゃないだろ。陰湿で、学校にいる何百人もの人を殺せるような時限爆弾だ、君は。しかもその性格は非常に獰猛だ。それに目を当てず蓋をしている。君はほんとに、心の中で笑っているはずだ。詐欺師を殺して嘲笑っているのか? そんなんじゃないだろ? 君は馬鹿な十代を嘲笑ってるんだ。とても陰湿で悪辣さ。馬鹿馬鹿しさが捗々しくて捗々しさが馬鹿馬鹿しいくらいだ。時限爆弾はそろそろリミット。きっと今日が終わって明日になれば全てが消えて壊れるんだろ? 恐ろしいね。さぁ、行きなよ。時間が来た。ここは一秒が非常に早い。僕がこうして少し話してタイムがくる。明日の君とまた会おう。さよなら。深夜に鐘を鳴らそう。
わたしは目を覚ましてSNSとインターネット掲示板に散々嬲られたわたしの画像と、そして社会の先生を省いて学校関係者全ての名前をインターネットに投稿した。これがどうなるかはわからない。けれどそこそこな学校の、大きな出来事。インターネットの書き込みは消せないものだ。だからわたしは書き込んでやった。
わたしがこれで責められてもいい。そのさいは生きる理由もなくなるので舌を噛みちぎって死ぬだけだ。信じる人からは学校の評判は下がる。わたしが死んだとして何も感じないやつらだろうけど、インターネットの書き込みには流石に焦るだろう。無知な十代、無恥な十代。わたしは死ねばいいのにと思った。
「さて──」まともに喋ったのはいつぶりだろう。凍てついた喉から発した声は、どうにも変だった。一年発声に使ってなかったのだから仕方がない。他のことに利用されることはあったが。
火種は燻っていてもいい。わたしが死んでもそれでいい。だが一つ、これが炎上して面白いネタになって世界中に発信されたら、わたしは思うだろう。ざまぁみろと。
社会の先生が言っていた。人は信用するな、と。それを聞いてなかったお前らの自業自得だ。わたしはけれど、社会の先生が職に迷うことになったら可哀想だと思った。社会の先生が職に迷ったら……そのときは、わたしが彼を支えたいと思った。
さてさてさてさて。火種からの燃え上がりは充分だ。SNSの通知はなんちゃって善人やら自称常識人が涌いてたりもして、わたしは少し面白くなった。
「人間は命を喰う。わたしはただ、社会的にそれを喰おうとしてるだけなんだよね」
だから、
「命なんて薄氷だ。でかいクレパスを飛び越える遊びみたいなもんだ。だから、わたし──僕は悪くない。あいつらがただ、馬鹿やらかして落っこちただけってんだ」
馬鹿馬鹿しさが捗々しい──これは確か、西尾維新が書いていた言葉だったはずだ。その元ネタがなんであれ、わたしはそれでしか知らないのだから、それが元ネタだと言おう。
さて。
それでは。
仮面を外す。
それじゃあ物語は終わる。特に意味のない凡庸が、音を立てて崩れるさま。
ばいばい
すいません、ふと思いついた作品です。テーマは特になく、まー内容もありきたりなもんで、特に意味のない凡庸と言うくらいこんな話は世の中ありふれてるもんですが、それでも思いついたからには表現したいものですよね。大筋を書けば簡単で、インターネットにいじめられたことを書いて、いじめた人の名前(見て見ぬふりをした人も全員含め)を全世界に晒し上げただけって話なんですが、ほんとにどこにもありふれてる話でしょう?
ま、そんな話なんですけど、性表現直接的だから(隠喩とかも使ったけど)規制入ったりしないものですかね。そこが少し不安です。まぁ問題ないか。楽観的ですかね。