誰かこの肉体から魂を取り除いてくれないかなあ、と寝床の中で考えていた。
神様が、なにかのはずみで手違いを冒したんじゃないかと思ったから。
そういう、暗い好奇心を抱きながら眠りに落ちたところ、
「……ああ、これ。この感じ。夢の中でも意識があるってやつだ」
夢の中だった。絵に描いたような迷宮《ラビリンス》が広がっている。
薄もやがかっているけれども、どんなに先でも手に取るようにわかるような、わからないような。
ひたすら、まっすぐに歩みを進めていく。
「……」
歩き回っているうち、女を見つけた。
……裸で、仰向けに倒れている。数多くの傷痕がある……と思う。ふと、心臓に何かが詰まったような感じがして、胸を押さえる。
そのまま、ずっと眺めていたけど、やがて触れたい、と思うようになった。
手を触れた。
……触れる度に崩れ落ちていく身体。血で汚れている。
やめてくれ、消えないでくれ、と願ったけど、無駄だった。すっかりと迷宮に溶けて消えてしまう。
それから、さらに歩いていると、男に出会った。薄汚れた格好をしている……と思う。よくわからない。
おーい、と呼ばれた気がした。手を挙げて、こちらへと挨拶をしてきたから。彼は、段々とこちらに近付いてくる。俺の肉体は、知らぬ間にそいつとハイタッチを交わしていた。
……血に塗れた手。思わずのけぞった。
「逃げろ、早く逃げろ、俺の身体」
捕まえられてしまった。肩に手を回してくる。
「やめてくれ」
ずっと前に進んでいった。やがて、その身体は密着を諦める。
「どうだ……?」
諦めてなどいなかった。男の影は、一気にこちらへと。俺の身体に抱きついてしまった。
――拳を振り抜いた。
すると、影は、もの悲しい泣き声とともに消えた。
そして、また前に進みはじめる。
……もう、どれくらい歩いただろうか。5分? いや、10分? わからない。
でも、ひと段落ついたことは確かだ。だって、目の前には新たな影が立っているから。
スーツ姿の男だった。輪郭がはっきりしている。
顔は見えない。でも、不思議と安心できる。こちらの方にまで歩いてきた。手をのばす。真っ黒な手を。
誰だ? と内心思ったものの、身を任せてしまう。その手が俺の心臓へと置かれる。
……撫でている。俺の心臓を。どうして? いや、そんなことはどうでもいい。これからどうなってしまうんだ?
――まさか、と思った瞬間だった。その手が皮膚を突き破って、心臓を掴もうとしている。
このままじゃだめだ。でも、なにもできない。冷や汗が流れる。
なんだ? なんなんだ、この感じ。あ、いま、こいつの手が俺の心臓に、触れた――
※ 作品は完成しています。エタることはありません。