妄想感傷代償連盟   作:渡邉 実一

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#11:心らしきものが消えて(上)(3)

 さっきとはうってかわって、地面が乾いている。

 スニーカーで歩いているが、靴裏に土くれが付く心配すらないほどの、それくらい乾いた地面。

 入口から約1キロの地点。ここまで来る間に、農道や里道の名残りが見られた。かつては、ここいらでも農業に勤しんでいたのだろうか。

 俺は、おもむろに足を止める。

 

「……さて! そろそろいいだろ? 俺は初心者なんだ、手加減してくれよ」

 

 ガサガサと、真上にある竹やぶが揺れる。

 

「ハハッ、ボクに気が付くなんて、外の連中にもまともなのがいるんだね」

「さっき学ばせてもらった」

「それはどうも。得物を使うなんて無粋な真似をしてすまなかったね。しかし、次はどうかな?」

「!?」

 

 ――真下からだ。気配を感じる。

 危険だ! と感じて、前方に走り込んだ。

  

「なんだ、今のは」

 

 何メートルか走って、後ろを向く――

 いくつもの土くれの塊が宙を舞っていた。旋盤のように。

 回転を加えながら、突っ込んでくる。何発も、何発も。

 

「くそっ!」

 

 ひたすらに避け続ける。しかし――

 

「いづうっ!」

 

 肩に当たってしまう。

 痛い。冗談抜きで痛い。鎖骨が折れてるかもしれない。

 が、今のでわかった。これは、土だけじゃない。

 

「……中身は岩石ってわけか。どうりで痛いわけだ」

 

 ――笹の葉が落ちてきた。

 樹上にいるであろう敵人を、しっかと見つめる。暗闇でよく見えない。

 今しがた俺にぶつかり、地面に落ちた土くれを掻き分ける。ああ、やっぱりだ。手のひらサイズの石を入れてやがる。おにぎりかよ。

 拾った石を、しっかと握り締める。

 

「ハハッ、しっかりと罠にかかってくれたね。どうだよ、ボクの輝石投射陣《ダイヤモンドクラスター》の威力は」

 

 ハハッ、じゃねえよ。どっかの遊園地にいるっていうネズミかよ。公民館の視聴覚ルームの中でしか見たことないけど。

 

「……その、ダイヤモンドなんとかっていうの。けっこうきついかも。肩が痛てえ。なあ、手加減してくれねーの?」

「ハハッ、この世からいなくなったら、痛い思いをしなくていいんじゃないかな?」

 

 今のこいつの台詞を、あのネズミの台詞と重ねた。

 

「……ブフッ……そりゃあ、名案だと思う」

「いったい、なにが面白いんだい?」

 

 身を乗り出したのだろう、敵の影が揺れるのを確かめる。

 なるほど、あそこか。

 

「ところであんた。概念力《ノーション》を使うときって、技の名前、叫ばないといけないタイプか?」

「ハハッ、さあね。人によるとしか」

 

 地面が盛り上がる際の、わずかな音を聞き分ける。

 ――今だ。たった今、地面からダイヤモンドなんとかが噴出した。高速回転が加わった石ころが、土くれを伴ってこちらに飛んでこようとしている――飛んできたッ!

 前転、横っ飛び、地面を転がる、伏せ、ありとあらゆる動きでもって、石をかわしてゆく。

 

「しつこいね、きみっ!」

 

 ゴ、ゴゴ……!

 

 いくつもの土の塊が、地面からせり上がって――宙を舞っている。

 

「トドメだっ!」

 

 物体が、四方八方から迫ってくる――軌道は、暗闇の中でも器用に俺を捉えているんだろう――

 

「……あ?」

 

 すべて、不発に終わる。

 真砂土という衣を身にまとった岩石は、なんの抵抗もなく地面に落ちた。

 

「ど、どういうことだ……? 目が、目が見えないッ! おごぉっ!」

 

 ――鈍い音が聞こえた。人が落ちてきたから。

 受身すらも取れず、地面にバウンドして跳ね返った、あわれな肉の塊。

 なにをどうしたかと言えば、①攻撃を避けながら敵の位置を把握する、②敵が本気の攻撃に出るのを待つ、③視界を遮断して混乱させる、④最初に拾っておいた石をぶつける、⑤樹木から落ちてくる。以上。

 落ちた敵のところまで歩いていくと、胸ぐらを掴んで引っ張りあげた。様子を確かめる。

 

「おい、どうせ生きてんだろ。目、覚ませ!」

 

 頬をバシバシ叩いていると、

 

「ぐ……お前、どこの聚落《じゅらく》の者だ」

「いや、その辺の田園地帯に住んでる」

「嘘をつくなよ……お前も使用者《エッセ》だろう」

「そうだ。山野辺町から越してきた」

 

 感情が動いた。瞳孔の動きでわかる。

 

「山野辺……そうか。復讐にきたんだな」

「なんのことだ」

「とぼける……なっ、う……!」

「ま、あの高さから落ちたらな」

 

 血まみれの頭部にフェイスタオルを当ててやる。

 

「なにをする……? おい、やめてくれ、侮辱だ!」

 

 構うものか。血を拭う。

 

「……なあ、俺さ。国府の森《こうふのもり》に入りたいんだけど。なんか方法とかあったら、教えてくれない?」

「プライドがないのか! ボクらが根絶やしにしたんだぞ、お前の故郷……を……」

「気絶した。出血がひどいな。カバンがあれば枕にできたんだが」

 

 そこいらを眺めると、先ほどまで戦いに使われていた石を持ち上げ、

 

「このくらいの石がちょうどいい。枕代わりになるな」

 

 『でも、こいつはやれないんだ』とフェイスタオルを取りながら呟いた。

 こいつの頭を石枕に乗せてやった後、さらに奥へと歩みを進めていく。

 残りは、ええと……直線距離だと3,4キロか? でも、山道だからな。もっとあるんだろうな。道がグネグネしてるだろうから。

 足取りは、軽やかに。ここまで来たら、心の澱も消えつつあった。

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