真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第一話

ここは陳留の外れにある、とある村。

 

 

中央の都では宦官が跋扈し、賄賂や横領が当たり前のように蔓延っている。

悪政がさらなる悪政を呼ぶ時代。

 

官は廃れ、野に蔓延る盗賊たちをも粛清ができない程に、漢という国の力、そして信用は失墜していた。

 

この村でも多分に漏れず、その盗賊からの侵略に怯えながら、それでも何とか1日1日を生き延びるため、村人たちが必死にもがいていた。

 

 

「陳留の刺史様が新たに迎えられたとは言え、まだまだ自分たちで何とかしていかないと…。」

 

彼の名は王蘭。字は徳仁。

この村に生まれ育った、未来ある若者である。

 

容姿は特段優れているわけでもないが、悪いわけでもない。

体躯もまぁ、人より丈夫そうではあるが特筆すべきと言うわけでもなく、ただの青年といったところか。

 

そんな彼でも、外れにあるこの小さな村では、貴重な働き手。

 

 

小さな村だからこそ、若者というのは貴重なのはどこも一緒。

作物を育てるのに加え、何より掛け替えのない村の守り手なのである。

 

 

 

「王隊長!本日の訓練終了しました!」

 

「ご苦労さまです。…ですが同じ村の人間なのですから、特に敬語は要らないと言っているでしょう」

 

「いえ!この村は警備隊のおかげで平和が保たれています。

それも隊長が発起人となり警備隊を立ち上げたからこそ。村人皆がそう言っていますよ」

 

「それは嬉しいのですが…。まぁいいです。

先日より新しい刺史様が任命されました。とは言え、喫緊すぐに状況が好転するわけでもありません。

日々の訓練は村のみんなを救うことに繋がります。くれぐれも、よろしくお願いしますね。」

 

「はっ!」

 

そう言って警備隊員は駆けていった。

 

近隣の村々の状況は、どこも盗賊の被害にあい、壊滅的な状況らしい。

だが、この小さな村だけは警備隊のおかげで、人々にはまだ明るい表情が伺える。

 

 

この村の人口はわずか500人。

この中から若者の男性で組織された警備隊として、王蘭を筆頭に50名の常勤警備隊と、

予備隊員として更に100名もの人数が、村の警護を担っている。

 

田畑を耕しながらではあるが、この組織が村の平和をもたらしているのは間違いないだろう。

 

少ない村民の中から、150人もの警備隊員が常時備えられるわけもなく、

日々交代しながら自分たちの田畑を育み、また万一に備えて訓練を実施している。

 

幸い、警備隊の立ち上げ後に何度か盗賊の侵攻を防ぎ切ることができた事もあり、ここ暫くの間は平和な状態だった。

 

 

しかし、防げているからといって盗賊たちを殲滅できているわけではない。

この村が襲われななくなっているということは、他の村が代わりに狙われるという可能性もある。

………いや、むしろそうなっていたのであろう。

 

 

そして最近、また盗賊たちがこの村に襲ってくるようになってきている。

 

 

 

 

つまりは………。

 

 

 

 

周りの村々の状況と、この村を襲ってくる盗賊たちの頻度を考えると、いよいよその時も近い、と王蘭は考えた。

 

 

「然るべきときに然るべき対応をとれるよう、一層引き締めなければなりませんね。」

 

 

そう王蘭が決意を口にした時、村人の声が響き渡った。

 

 

 

 

「賊だーーー!!!盗賊が押し寄せてきたぞーーーーー!!!!」

 

 

 

 

即座に見張りのもとへ駆けつけ、状況を確認する。

 

 

「敵の数は?」

 

「およそ200人!これまでよりはるかに多いです!!」

 

「200…。やはりそろそろ決死の覚悟で襲って来るとは思っていましたが、想定していた数よりも厳しいですね…。

すぐに態勢を整えます。班長の方々は全員ここにいますか?」

 

「はっ!全員おります!」

 

「ありがとうございます。では今回は予備隊員も含めた総動員で動きます。

1班は村の皆さんの避難誘導に。2班は防備柵を立ててください。3班は迎撃の用意を。」

 

「それから何人かは刺史様に至急報告を。馬を用いて構いません。

間に合うのか、来てくれるのかもわかりませんが、念の為に種は蒔いておきましょう。」

 

 

50人規模の集まりを1班とし、与えられた指示によってそれぞれが動き出す。

こうした大規模な襲撃も想定し、日々訓練を実施していたあたりは流石である。

 

特に常駐警備隊の50人が主体となり、賊を迎え撃つ準備が着々と構築されていく。

 

 

「防柵すべて立て終えました!」

 

「村の避難誘導、全員完了しました!」

 

 

「ご苦労さまです。敵は目前まで迫ってきています。

至急、皆さんも迎撃の用意を。敵の規模はこれまで以上です。

いつも以上に気を引き締めてください。」

 

「「はっ!」」

 

村の迎撃態勢が全て整ったころ、盗賊の集団は村の手前まで来ていた。

それぞれが開戦の合図を待つ状態。

 

そして盗賊たちの中から、怒鳴り声が聞こえてくる。

 

 

「この村でいよいよ最後だ!!今まで抵抗してくれた分、思いっきり返してやれぇぇ!!!!」

 

「「「「うぉおおおおおおおお!!!!!!」」」」

 

 

村の見張り台でそれを聞いた王蘭がつぶやく。

 

「やはり…周りの村は全てやられてしまいましたか…。

それと予想通り、指揮するものが居るようですね。」

 

村の警備隊員に向け、王蘭も声を上げる。

 

「これまでとは違い、集団の利を活かして攻めてくるでしょう。皆さん、警戒を強めてください。」

 

 

いよいよ盗賊たちが村に押し寄せてくる。

王蘭も見張り台から自分の持ち場に戻り、指揮を執る。

 

「先鋒、迎撃構え!!

………。今です!!!!」

 

 

小さな村と盗賊の決死の戦いの幕が開けた。

 

 

 

………。

 

 

 

片や村の警備隊全150名。片や近隣の村々を荒らし回った盗賊200名。

 

 

戦いは守る側が有利なことが多いとは言え、元々田畑を耕すことを生業とした人々である。

人を切る、突く、叩くなど、訓練しているとは言っても、慣れたものではない。

 

 

対して、盗賊たちは近隣の村という村を全て狩り尽くした、戦いに、そして何より人を殺すことに慣れた荒くれたち。

 

 

数値には現れていない、戦力の隔たりが確かにあった。

しばらくの時間が経過するに伴い、その戦力差の脅威が徐々にではあるが牙を剥き始めていた。

 

 

「何とか持ちこたえていますが、やはり…厳しいですね…。」

 

 

「報告します!賊は多方面からの攻撃に切り替える様子!

複数人のまとまりが2手、村の正門から左右に別れていきました!!」

 

「それは…!まずいですね。1班と2班に伝令。

それぞれ正門から離れた賊たちの対応にあたってください。

 

敵を無理に倒す必要はありません。これまで通り、負傷させて戦線復帰させないことを重視して。

班の中で2つに別れ、前衛後衛をうまく回すよう班長に伝えてください。」

 

「はっ!」

 

 

3手に分かれての防衛戦など、これまでの襲撃では実施したことなどあるはずもなく、

王蘭の嫌な予感が当たってしまっている。

 

ただ、幸いなことに日も傾きはじめてくる時間である。

盗賊と言えども夜通しでの戦は負荷も高く、軍でもなければ実行は難しいだろう。

盗賊たちが、多方面攻めに切り替えるのに時間を要したのが幸いした。

 

 

「もうすぐ日没です!それまで何とか持ちこたえてください!!」

 

 

王蘭の鼓舞に村人たちが奮起する。

今回の戦いにおいて、時間の経過は村人に味方する。

 

盗賊に指揮するものが居たとしても、そもそもが食いっぱぐれの集まり。

1日を生き延びるのが困難なのは、盗賊たちの方である。

 

対して村人たちは、日頃から田畑を耕し、食料の生産に精を出している。

警備隊の設立と同時に始めた村の備蓄が、警備隊の胃袋を何日もの間満たすことができる。

 

 

幾多も村を襲ってきた、戦いの経験という利を活かして攻め立てる盗賊たち。

防衛する側という利と、時間の経過の利を活かして守り続ける村人たち。

 

 

そして…。

 

 

「盗賊たちが引き上げていきます!!今日も村の防衛に成功しました!!!」

 

 

初日を何とか乗り切った王蘭たち。

常勤の警備隊たちもホッとした表情が伺える。

 

 

「何とか1日守りきりましたね…。皆さん、大変お疲れ様です。

皆さんのおかげで村を守ることができました。

恐らく、今回の戦いには敵も並々ならぬ覚悟をもって来ています。

明日も恐らく戦闘になるでしょう。どうかゆっくり休んで、明日に備えてください。」

 

 

交代で見張りは継続するものの、この日の戦闘は終了した。

 

これまでの盗賊と違いを憂うもの、この日も村を守りきり安堵するもの、

いろいろな思いを胸に、激動の日の夜を過ごしていく…。

 

 

 

「刺史様はこの村に来ていただけるのでしょうか…。

このままでは保って1日。それまでに盗賊たちが諦めてくれるのであれば良いのですが…。」

 

明日も続くであろう戦に頭を巡らせ、1日の終わりを迎える。

 

 

 

 

 

 


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