真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第十話

 

この日王蘭は執務室に篭り、積み重なった竹簡の処理に追われていた。

 

いつもであればこれほど積み重なることなく、その日のうちに仕事を終わらせる王蘭。

だがこの日は、夏侯淵がいつも自分で行っている殆どの事務仕事を各小隊長に割り振っていたため、小隊長の役職を持った者たちはその処理に追われていた。

 

王蘭としては、割り振れるのならば常に任せてもらい、夏侯淵には夏侯淵にしかできない仕事に時間を使って欲しいとも思うのだが。

 

 

ちなみにその割り振りの中でも、斥候隊との掛け持ちをしている事に加えて、先日まで荀彧の仕事の手伝いをしていた事もあってか、王蘭もっと仕事できるんじゃない?と言わんばかりの、割り振りの比率が明らかに偏っている様にも見えたが。

 

 

さてその夏侯淵はと言うと、どうやら主だった将達で街の視察に出かけるようだ。

 

 

先日の盗賊討伐の功績によって、陳留の刺史から州牧へと昇格した曹操。

ここしばらくは慌ただしく、ようやく引き継ぎやらが完了し、落ち着きを見せてきた頃合いだったため、一度街の視察に行こうという流れになったのである。

 

 

「私も一緒に視察に行きたかった………。」

 

 

と、王蘭が言ったとか言わなかったとか。

その時近くにいた兵に話を聞こうとしても、決して口を割らなかったため、真実は定かではないが。

 

 

さて、通常よりも多い仕事量にもかかわらず、この日の事務処理も全て滞りなく片付けた小隊長一同が、夏侯淵に業務の報告を行っている。

夏侯淵隊は、どの部下も優秀な様だ。

 

 

「………ふむ。ではこちらの予算案を今一度見直して、再度報告してくれ。それとお前のこの報告書、ここが抜けている。訂正して再提出せよ。明日で構わぬ。それから新しい部隊編成についてだが………。」

 

 

矢継ぎ早に、各小隊長の処理した内容を確認し指示を出す夏侯淵。

その姿は武官のものとは思えぬ優秀さである。

 

 

「………。ふぅ、こんなものか。何か他に報告があるものはいるか?」

 

一同の顔を見渡す夏侯淵。

 

「いないようだな。では解散して休んでくれ。………あ、王蘭。すまないが、部屋に戻る前に茶を淹れてもらっても良いか?少し一息付きたくてな。」

 

「はっ。畏まりました。」

 

 

茶の腕は一流の領域にいる王蘭。全く良い趣味を見つけたものである。

 

茶を淹れてくれたお礼にと、夏侯淵が視察の帰りに買ってきたというお菓子を2人で食べ、しばらく語り合うのだった。

だが、その内容は特に色気のあるものではなく、やれ軍がどうだの、指揮系統がどうだの、真面目で堅苦しいものに終始したようだが………。

 

話題に関しては、これからの王蘭の努力に期待するとしよう。

 

 

 

 

 

この日から数日が経ち………。

 

 

 

 

 

この頃領内でまた、盗賊たちの活動が活発になってきているようだった。

 

夏侯惇や許褚などが軍隊として鎮圧に向かうと、すぐに逃げ散ってしまう賊たちではあるが、

どこの地域で発生する盗賊らであっても、1つの共通点があった。

 

 

 

どの盗賊も、身体のどこかに”黄色い布”を身に着けているのである。

 

 

 

これを受けた王蘭は、すぐさま斥候部隊を利用して情報の収集に務めた。

そしてちょうど今しがた、調査に出していた斥候兵からの報告を聞いた王蘭が、考えをまとめる。

 

「ふむ………。やはり我が領地だけに収まらず、大陸中に黄色い布を持った盗賊たちが見受けられているのですね。」

 

 

黄色い布を持った盗賊たちが散見し始めた際、まず王蘭が気にしたのはその出没地域である。

 

 

曹操の領地内でのみ見受けられるのであれば、その盗賊の拠点となるものも領内にあるか、もしくは近くで済むだろう。

だが、それが大陸中から確認できた場合、もはや兗州だけの問題ではなく国事として取り扱う必要がある。

 

これを懸念して周辺の村や街はもちろん、少し遠方の国にもその手を広げていたが、残念なことに大陸全土で同様の盗賊たちが散見しているようである。

 

 

次に確認すべきは、盗賊たちの目的。

 

通常、盗賊たちが集まる理由としては、重税に耐えられなかった民たちが暴徒と化し、善良な民の富を奪う事が多い。

だが今回のこの騒動において、同様の被害が大陸全土で見受けられていること、また共通点として黄色い布を身につけるなど、それぞれが単発的、突発的な小団体ではなく、全土に規模を広げる大集団であることを明示していることから、何らかの目的を持って集まった組織、あるいは集団である事が予測される。

 

 

 

兵から続きの報告を聞く。

 

 

「この盗賊らの首魁の名は張角。確たる証拠が見つかっているわけではありませんが、盗賊被害が起こる直前に、3人の女芸人がどの村に於いても目撃されている様です。また、現在の所、盗賊たちの目的と言えるものはつかめておりません。どの地域においても、捕らえた敵を尋問したところで何も情報を割る様子は無いようです。」

 

「そうですか………。首魁の名と、その正体を掴む手掛かりを見つけられただけでも十分です。貴重な情報ありがとうございます。引き続き、よろしくお願いしますね。」

 

「はっ!」

 

こうして兵が再度諜報活動へと出かけていく。

 

 

 

 

兵からの報告を聞いた王蘭が、夏侯淵と荀彧に報告する。

どうやら、先日の十日間の仕事の補助を行った際、斥候兵の運用が王蘭の指揮の下で行われている事を知った荀彧が、

 

「私にも掴んだ情報は教えなさいよ!というか軍師にこそ報告すべきでしょうが!!」

 

と言って、また癇癪を起こしたようだ。

そうまで言うのであれば、と隊に戻り夏侯淵に相談したところ、共有すべきものはして良いと了承を得たのだった。

 

 

話を戻して、今回の盗賊たちの情報である。

 

 

「荀文若様、夏侯妙才様、斥候からの報告を申し上げます。………今回の情報収集活動によって、敵首魁の名前が判明致しました。名を張角。また、盗賊が発生した村々の状況を探ると、共通して直前に3人の女芸人が目撃されており、その内の1人が張角と名乗っているようです。ただ今回のこの件、捕らえた賊を尋問にかけても、一切の情報を吐く様子は見られないため、旅芸人が賊の首魁であることを裏付けるものは、現状なにもなく………。憶測の域を出ない情報です。私からは以上です。」

 

「ふむ。桂花はどう考える?」

 

「そうね………。恐らくその旅芸人たちが首魁とみていいと思うわ。つい調子に乗って口からでた出鱈目な言葉を、聴衆が勝手に勘違いして暴徒と化したのでしょう。………まぁ華琳さまと共に検討するのが最善でしょうね。軍議でこの事、ご報告しましょう。」

 

「だな………。王蘭、ご苦労だった。下がって良いぞ。」

 

「はっ。」

 

 

こうして軍議へと向かう夏侯淵と荀彧の2人。

後ろからそれを見送った王蘭は、斥候部隊の兵達に更に情報を収集するように指示を出そうとするが、兵が慌てた様子で王蘭の下に駆け寄る。

 

 

「失礼します!ここより南西の方角にある村に、盗賊が現れました!またあの黄色い布を身に着けた盗賊の様です!!」

 

 

「………わかりました。あなたは至急曹孟徳様たちにこの事の報告を。………誰かある!!また盗賊が出たようです。せっかく現れてくれた貴重な情報源、みすみす見逃すわけには行きませんよ。どの隊が出撃するにしても、付いていける様に準備してください。」

 

 

 

再び盗賊討伐戦が、始まろうとしていた。

 

 

 




街の視察であの3人との会合を書こうか迷いましたが、やっぱり王蘭さんと直接会う時がいいかな、と見送りました。次話登場予定!

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