真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第十三話

 

夜が明け、いよいよ黄巾の食料拠点へ軍を向ける曹操たち。

昨夜、隊の再編によって副隊長に任命された王蘭は、まだ薄暗い中で忙しなく動いていた。

 

「なるべく身軽に動けるよう、余計なものはこの街に置いていって構いません。ただし負傷兵が多くいるので、薬の類はなるべく持って行く様にしましょう。」

 

後詰めとして行軍する事になるとは言え、街の防衛で苦戦を強いられていた夏侯淵隊には、負傷兵が多くいる事もあって歩みが遅くなる。

通常よりも身軽にせねば、本隊の夏侯惇や曹操について行けないのだ。

 

 

「王ら………いや、すまない。蒼慈、出立の用意の進捗はどうだ?」

 

 

ようやく互いの真名を預け合うことになった、王蘭と夏侯淵。

ずっと名で呼ばれ続けてきた事もあり、なかなか慣れないのであろう。

 

 

「はっ、小隊それぞれ、もう四半刻もあれば用意が整う見込みです。」

 

「そうか。あれから敵の拠点についての情報は入ってきているか?」

 

「はい、そちらも数名斥候に出ていたものが戻り、確認しました。ちょうど昨日、その砦付近に官軍が現れたようで、敵本隊は拠点を出て迎撃、もしくは別の砦に逃げている様です。砦に残った敵数は凡そ1万ですが、殆どが搬送のための兵とのことです。」

 

「1万か………。まぁ向こうは雑兵の様だし、問題ないだろう。本隊の情報が掴めればなお良かったが、今後に期待だな。私は姉者と季衣の隊を見てくる。作業を進めてくれ。」

 

「はっ、承知しました。」

 

 

それからしばらくして、各隊出立の用意が整い、行軍を開始する。

通常の行軍速度よりも早足にて軍が進められ、半日の距離を数刻にて移動完了。

 

 

曹操軍の眼前には、山奥にある古ぼけた砦が見えている。

 

 

「すでに廃棄された砦ね………。良い場所を見つけたものだわ。布陣前に、新しく加入した凪たちも居ることだし、一度状況をまとめましょう。春蘭。」

 

「はっ。我々の敵は黄巾党と呼ばれる暴徒の集団だ。眼の前の砦はそやつらの食料集積所と思われる拠点だ。あとの細かいことは………秋蘭、任せた。」

 

「はやっ!」

 

思わず北郷がつっこむ。

夏侯淵もそれに呆れながらも、話を引き取る。

 

「やれやれ………。黄巾党の構成員は若者が中心で、散発的に暴力活動を行っているが、特に主張らしい主張はなく、現状で連中の目的は不明。」

 

黄巾党の概要について楽進らに簡単に共有する。

更に砦について最新の情報を、曹操を含めた全体に報告する。

 

「そして、現在の砦の様子ですが、昨日この近くに官軍が来たらしく、敵本隊はそちらの迎撃か、逃亡のため砦には不在。残っている敵兵の数は凡そ1万ですが、敵はこの砦を放棄するつもりの様で、物資の運び出しの準備で慌ただしくしているようです。」

 

「秋蘭、説明ありがとう。凪たちも、状況は理解したわね?それで秋蘭、こちらの兵の数は?」

 

「義勇軍と合わせて八千と少々です。こちらに気づいた様子もなく、今が好機かと。」

 

「えぇ。ならば、一気に攻め落としましょう。」

 

 

布陣を展開しようかと言う時、荀彧から曹操に提案が上がる。

 

 

「華琳様。ひとつ、ご提案が。戦闘終了後、全ての隊は手持ちの軍旗を全て砦に立ててから帰らせてください。この砦を落としたのが、我々だと示す為に。」

 

「なるほど………。黄巾の本隊と戦っているという官軍も、本当の狙いはおそらくはここ。ならば、敵を一掃したこの砦に曹旗が翻っていれば………。」

 

荀彧の提案に夏侯淵が理解を示し、曹操を見やる。

 

「………面白いわね。その案、採用しましょう。軍旗を持って帰った隊は、厳罰よ。」

 

 

荀彧の提案が受け入れられる。更に李典が茶化した事によって、誰が1番高い所に刺して来れるかが競われることに。

曹操もこの勝負を許諾し、勝者には褒美を考えるということになった。

 

 

方針が決定し、曹操が軍議を締める。

 

「糧食は全て焼くこと。米一粒たりとも持ち帰る事は許さない。これで軍議は解散とします。先鋒は春蘭に任せるわ。いいわね?」

 

「はっ!お任せください!」

 

「この戦を以て、大陸全土にこの曹孟徳の名を響き渡らせるわよ。我が覇道はここより始まる!各員、奮励努力せよ!!」

 

 

軍議が終了し、各隊が布陣を敷き始める。

北郷も新たに迎え入れられた3人を部下に持ち、部隊の展開を進めている。

 

 

 

 

そして全部隊の布陣が完了し、いよいよ夏侯惇の声が轟く。

 

 

 

「銅鑼を鳴らせ!鬨の声を上げろ!追い剥ぐことしか知らない盗人と、威を借るだけの官軍に、我らの名を知らしめてやるのだ!総員、奮闘せよ!突撃ぃぃぃぃっ!!」

 

 

黄巾党の補給線壊滅戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

 

 

やはり砦に残った兵たちでは、たとえ1万の数があろうとも曹操軍の敵ではない。

あっという間に周囲の掃討が完了し、曹操軍の勝利で決着した。

 

 

「火を放て!糧食を持ち帰ること、罷りならん!持ち帰ったものは厳罰に処すぞっ!」

 

自分たちの兵たちに向けた、夏侯惇の声が聞こえてくる。

 

砦の中央に集められた糧食が燃える様子を確認しながら、各隊軍旗を目立つところに刺して帰投していく。

 

 

 

 

その帰り道。

曹操は主だった将を集め、簡易的な軍議を開く。

 

特に急ぎの用は無いが、帰ってすぐ片付けに専念してすぐ休めるように、という配慮の様だ。

 

 

「作戦は大成功でしたねっ!華琳さま!」

 

「ええ。皆もご苦労さま。特に凪、真桜、沙和。初めての参戦で見事な働きだったわ。」

 

機嫌良く話しかけた夏侯惇の言葉に、曹操が新参の3人を褒めて返す。

それに三者三様の返事で返すが、自分が褒められなかったからか、夏侯惇がちょっと萎んでいる。

 

大事な先鋒を任され、無事に戦を終えたのだ。その気持もわからないでもないが………。

 

 

「さしあたり、これでこの辺りの連中の活動は牽制することができたはずだけれど………。」

 

「はい。ただ元々本拠地を持たない連中のこと。今回の攻撃も、しばらくの時間稼ぎにしかならないはずです。」

 

「でしょうね。だからこそ、連中の動きが鈍くなった今のうちに、連中の本隊の動きを掴む必要があるわね。」

 

「はっ。秋蘭の部隊にある斥候部隊にも協力してもらって、地道に情報の収集に努めます。」

 

 

荀彧と曹操の2人は、話を進める。

 

 

「えぇ。しばらくは小規模な討伐と情報収集が続くでしょうけれど、ここでの働きで、黄巾を私達が倒せるかどうかが決まると言っていいわ。皆、一層の奮励努力を期待する!以上!」

 

 

こうして討伐戦後の方針についてまとめ終わり、軍旗の件について話が及ぶ。

 

「勝負は季衣の勝ちでいいわね。季衣、何か欲しい物はある?領地まではさすがにあげられないけど………。」

 

「そんなものいりませんよー!」

 

「まぁいいわ。なら、季衣にはひとつ貸しにしておくわね。何か欲しい物が出来たら、言いなさい。」

 

 

どうやら許褚が本殿の屋根に刺した事により、勝負は許褚の勝利で終わった様だ。

褒美は欲しい物が決まってから、追ってもらうということで落ち着いた。

 

また、略式の軍議ではあるが、今回の街救出から拠点討伐までの評定も併せて実施することになった。

 

 

「次に今回の評定に移るわよ。今回の行軍において凪たち義勇軍も、季衣の部隊も良く働いてくれたわ。そして何より秋蘭、あなたの隊が最も功績を挙げたと言って良いでしょう。」

 

曹操からそれぞれの評価を受ける将たち。

義勇軍として立ち上がった勇気と、新参ながらもしっかりと活躍した3名は勿論のこと、街の救出と、軍旗勝負に勝った許褚も称賛を受ける。

 

だが、やはり今回の討伐戦において最も功績を認められたのは夏侯淵隊だった。

街を襲う集団の事前発見に始まり、救出するための先遣隊としての参戦と無事守り抜いた事、さらには黄巾の拠点までをも見つけだしている。

 

情報の有用性がこれほどまでに実感できた行軍活動はなかっただろう。

曹操からの称賛を一身に受ける夏侯淵。

 

「はっ。ありがたき幸せ。より一層、邁進致します。」

 

「えぇ。何か褒美を考えなくちゃね………。ふふっ。秋蘭、どう?今夜はあなた1人で私の閨に来るかしら?」

 

 

一部から抗議の声が上がるが夏侯淵はどこ吹く風。

 

「はっ!ありがとうございます。」

 

 

いい笑顔で返事をする夏侯淵。

たまには姉の居ない閨も楽しみたかったのだろうか、その誘いを二言目には受けている夏侯淵だった。

 

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

曹操の閨にて。

 

 

 

「………秋蘭、とても可愛かったわよ?」

 

「あ、ありがとうございます………。」

 

「ふふっ、もう本当に可愛いんだから。………そう言えば今回の功績、ちゃんと部下にも報いてあげなさいね?秋蘭だから大丈夫だとは思うけれど。」

 

「はい、皆に特別給金の支給と、特に斥候隊長の王蘭には夏侯淵隊の副隊長への任命と、我が真名を預けました………。」

 

「へぇ………。秋蘭が真名を許すなんて、それこそ彼、泣いて喜んだのではなくて?」

 

「え、えぇ………。おっしゃる通り、まさに泣き崩れておりましたが………。」

 

「でしょうね。私の可愛い秋蘭の真名を預かるなんて、ちょっと妬けるわね。………でもまぁ私はそこまで狭量ではないから、あなたが私のもので居てくれるのなら、何をしても構わないわよ?」

 

「は、はぁ………?」

 

 

「本当よ?いいわ、わかったわ。2人には褒賞として、戦後処理が終わったら特別休暇を与えましょう。たまには羽を伸ばしてらっしゃい。これでどう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

機会とは、どうやら不意に訪れるものの様である。

 

 

 

 

 

 




黄巾拠点戦終了!もうそろそろ黄巾編も終わりが見えてきましたね。

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