真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第十四話

 

 

 

王蘭が事務作業を続けている所に、コンコンと扉から来客を知らせる音が聞こえた。

あまり馴染みのない習慣だが、先日北郷との会話で天の国ではそういった風習があることを思い出す。

 

 

「はい、どうぞ?」

 

そう言って扉を開く王蘭の前に立っていたのは、夏侯淵だった。

 

「………今、良いか?仕事中なら、また改めるが。」

 

 

何時になく少しためらいがちに様子を伺う夏侯淵。

 

 

「いえ、ちょうど一区切りが付いた所です。どうぞ。」

 

 

そう言って部屋に招き入れ、茶を入れる王蘭。

 

「あ、あぁ、すまない。頂こう。」

 

 

 

やはり今日の夏侯淵はどこか様子がおかしい。

不思議に思いながらも、夏侯淵なら自分から切り出すだろうと考え、じっとそれを待つ王蘭。

 

 

 

しばらく無言のまま茶を啜る2人。

 

 

ようやくのこと、夏侯淵が口を開く。

 

「先日の黄巾の拠点討伐の件、本当にお前は良くやってくれた。…………それで、だな。その、華琳さまからな………。」

 

いまいち歯切れの良くない夏侯淵。こんな姿など見たことがあっただろうか?

少し不安な気持ちになりながらも、続きの言葉を待つ王蘭。

 

 

「我々2人に特別休暇が与えられることになった………。ゆっくり羽を伸ばしてくるように………とのことだ。」

 

「それはありがたいですね。………ただその口ぶりからすると、我々2人同時に休みをとれ、と言うことでしょうか………?」

 

「あ、あぁ………。」

 

 

それを聞いた王蘭は、自分の気持ちなど既に周りに伝わっている事、少なくとも曹操にはバレてしまっていることを理解した。

 

「そう、ですか………。………あの、もしよろしければ、なのですが。………その日、お食事など、よければご一緒しませんか………?」

 

 

しどろもどろになりつつ、男として立派に意地を見せた。

二人同時に特別休暇など、曹操から逢引に誘え、と言われているとしか思えなかった。

 

そしてその言葉を聞いた夏侯淵の表情は、どこか吹っ切れたような、疑念がスッと腑に落ちたかのように伺える。

誰にも聞こえないほどの大きさで、”やはりそうなのだな………”と独りごちたあと、

 

「………そうか。せっかくの蒼慈のお誘いだ。ありがたく受けさせて頂こう。」

 

 

こうして2人は約束を取りつけて、この日は解散した。

 

 

 

 

その翌日。

 

 

王蘭は早々にその日の仕事を終えると、せかせかと街へ繰り出していた。

向かう先は本屋。

 

そして手に執ったのは「漢・阿蘇阿蘇」という見出しの付いた雑誌だった。

 

そそくさと会計を済ませたあと、表紙を誰にも見られないように取り繕いながら、自室へ急ぐ王蘭。

なんとか誰に見られるでもなく部屋に辿り着いた王蘭は、早速その表紙を開く。

 

 

しばらく自室で読みふけっていた王蘭だが、ある頁を見てハッと顔を上げる。そして慌てて部屋から飛び出る王蘭。

 

 

机の上に開かれた頁には、

”初めての逢瀬なら、まずは素敵な雰囲気のお店を抑えよう!”と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた特別休暇。

 

夕方まではそれぞれの時間を過ごし、城の前で待ち合わせる予定だ。

 

 

 

 

………。

 

 

 

ここは夏侯淵の執務室。

 

 

「………報告のまとめはこれくらいでよいか。」

 

 

休日なのに仕事をしてしまっているのは、彼女の性格上仕方ないのだろうか。

自分が休みのときくらいちゃんと休まなければ、曹操に休めなどと言えたことでは無い気がするが………。

 

それはさておき、いよいよ出かける時間が迫ってきている。

 

 

「ふむ………。何を着ていこうか。」

 

 

普段は夏侯惇と出かけたり、曹操と出かける事が主な夏侯淵。

いつもは姉や主を立てる事を考えて選ぶのだが、今日は自分が着飾るべき日。

あまり自分が主体となることなど無いのかも知れない。

 

頭を悩ませつつも、彼女の表情はどこか楽しげにも見える。

 

 

 

 

待ち合わせの少し前に、無事納得のいく格好で身支度を整え、

いざ部屋から出ようとすると、姉の夏侯惇と出くわす。

 

 

「お?秋蘭ではないか。そんなめかしこんで、華琳さまとどこかへ行くのか?」

 

「いや、部下と食事に行くだけだが。変ではないか?」

 

「そうなのか?ふぅむ………。あ、服は似合っているぞ!我が妹ながら流石だな!」

 

いつもであれば妹の格好などあまり気にしない夏侯惇だが、

この日ばかりは気づくあたり、何か感じさせるものがあったのか。

 

「それは良かった。華琳さまのご都合がつくならば、姉者が華琳様をお誘いしてはどうだ?………では、私は行ってくるよ。」

 

「それは良いな!!早速華琳さまをお誘いしてこよう!!秋蘭も気をつけてな。」

 

 

 

そう言って別れて城内を歩いていると、今度は姉の探し人と出会う。

 

 

「あら?秋蘭。どうしたの今日の格好。とても素敵よ?何かあるのかしら?」

 

「華琳さま。今日は例の特別休暇を頂いた日にございます………。」

 

「あぁ、今日だったかしら?………つい意地になってしまったわ、とも思っていたけれど、あなたのその姿が見れたなら、むしろ与えて良かったかしら。楽しんでらっしゃいな。」

 

「はっ、ありがとうございます。姉者が華琳様を探しておりましたので、見かけたら声をかけてやってくれますか?………では、これで失礼致します。」

 

 

 

まさか城を出るまでに2人に合うとは思ってもおらず、また2人それぞれが自分の格好を見て褒めてくれたのだ。

心持ち、足取りが軽やかになっている夏侯淵だった。

 

 

 

 

そうして城の前に辿り着くと、そこには既に王蘭の姿が。

遠くからではあるが、緊張しているのが伺える。

 

また服装もきっちり決めてきたようだ。少し微笑ましく映る。

 

 

「蒼慈、待たせた。」

 

「い、いえ。私も今来た所なので………。」

 

そう言って振り向いた王蘭は、夏侯淵の姿を目に入れた途端にピタッと固まってしまう。

 

 

「………どうした?大丈夫か?」

 

夏侯淵が声をかけてようやく動き始める王蘭。

 

「す、すみません………。失礼しました。」

 

「大丈夫ならよい。………それより、お前のためにめかしこんで見たんだが、何も言ってはくれないのか?」

 

そう言って少し離れて見せる夏侯淵。

 

 

「あ、申し訳ありません………。その、大変良くお似合い、です………。」

 

「ふふ、すまない、言わせてしまったな。………姉者と華琳さまが褒めてくださったのだ。つい浮かれてな。まぁ蒼慈のその言葉も、ありがたく頂戴しよう。お前もいつもより決まっていて格好良いぞ?」

 

「あ、ありがとうございます………!で、では、行きましょうか。」

 

 

 

2人並んで歩きだす。

道中は隊の様子を始め、今日していたことの報告など、仕事に関する事ばかり。

 

そうこうしているうちに、王蘭が抑えておいた店に辿り着く。

 

 

「秋蘭さま、こちらです。」

 

 

そう言って店の中に夏侯淵を案内し、店員に連れられて個室に通される。

席について夏侯淵が、

 

「ふむ………なかなかに雰囲気の良い店だな。普段からこういった店には来るのか?」

 

「あ、いえ………なんと言いますか。………正直に申しますと、いろいろ調べてこの店を選びました。私も初めて来る店なので緊張しているんです………。格好つけられずに申し訳ありません。」

 

「いや、気にすることはない。だが、いつもお前の行く店でもよかったのだぞ?………でもまぁせっかく良い店に来たのだ。楽しもうではないか。」

 

「は、はい!」

 

「では食事を頼もうか。ここは何が美味しいのだ?どうせそれも調べてあるのだろう?」

 

「はい………。そんなに笑わないでくださいよ。結構いっぱいいっぱいなんですから!………蒸した菜と、ワンタン料理がおすすめみたいです。」

 

「ふふっ、すまんすまん。ではそれを頼もうか。」

 

「あ、それには及びません。料理は事前に、一揃え出してもらう様に頼んであります。………あと良いお酒も用意してありますので、よければ是非。」

 

「そうか、気を遣わせてしまったか?………折角手配してくれたのだ、頂こう。」

 

 

そうして料理と一緒にお酒が運ばれてくる。

 

 

「では乾杯しようか。先の戦いでの活躍と、今後の活躍に。」

 

そう言って2人が杯を掲げ、喉を潤す。

 

 

「………ほぉ。確かにこれはなかなかの酒だな。はまってしまうかもしれんな。」

 

「お口に合ったようで安心しました。是非、料理も召し上がってください。」

 

 

料理に酒に、話をしながら舌鼓をうつ。

しばらく他愛のない話をしながら、時が流れる。

 

 

 

「あの村で拾った青年が、よもや私の片腕にまでなろうとはな………。想像もしなかったぞ。」

 

「それは私もです………。あの時秋蘭様が助けに来て頂けなければ、今の私はありませんから。本当にありがとうございました。」

 

「そう畏まるな。せっかくの料理と酒が不味くなるぞ?」

 

 

 

そうして当時から今までの思い出を辿りながら話を深める2人。

食事も甘味が運ばれてきて、一段落の様だ。

 

程よく酒も周り、店を出る。

 

 

 

「うむ、とても良い店だったな。今度華琳さまもお連れしようと思うのだが、構わないか?」

 

「えぇ、もちろん。そこまでご評価頂けるなんて光栄です。」

 

「それよりも、本当に馳走になって良かったのか?お前の功労の場でもあったのだぞ?」

 

「秋蘭様と食事に来られただけでも十分なご褒美ですので。とても楽しかったです!」

 

 

酒が入っているせいか、普段だと言えないことまで言える状態になっている王蘭。

 

 

「そうか。私もゆっくり羽を伸ばせたし、とても楽しかったよ。また別の機会に、今度は私が何かご馳走しよう。さて、城に戻ろうか。」

 

 

 

そうして2人並んで歩く帰り道。

心なしか、行きの道程よりも、並ぶ肩が近づいて見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

「なぁたいちょー。あれって秋蘭さまと、秋蘭さまのとこの副隊長さんやない?」

 

「あー本当なのー!なんだかとってもいい感じなの!」

 

「こら、真桜!沙和!こういうのは見ない様にするもんだぞ!ですよね隊長!」

 

「んー?そうだなぁ………。でもあの2人、とうとうデートに行くようになったかぁ………。」

 

「でえと?なんなんそれ?」

 

「えぇっと………逢引って意味かな?」

 

「やっぱりそれにしか見えないのー!ひゅーひゅー!なのー!」

 

 

 

 

 

 

 

後日、夏侯淵隊ではこの話でもちきりだったとか。

 

 

 

 

 

 




初の拠点フェーズでした。書く側としてはメチャクチャ楽しかったです。
ニヤニヤしながら書きました。


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本編書いてる合間に思いついた、ちょっとした小話も書き始めました。ギャグ寄りです。
@blue_greeeeeen


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