真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第十五話

場所は陳留、玉座の間。

 

 

 

先程夏侯惇が黄巾党の討伐を終えて帰ってきた所で、軍議を開くことになった。

夏侯淵隊で集めた情報の確認と、夏侯惇と楽進、許褚らによる討伐報告が行われていた。

 

 

「………とまぁ、そういうわけです。」

 

 

夏侯惇からの長い報告を聞き、曹操がため息をついた。

どうやら官軍を救うことは出来たようだが、袁術の領内に侵入してしまい、しかも借りをそのままにして帰ってきたようだ。

その際袁術の食客である孫策と会合した様で、共同戦線にて盗賊の討伐を実施してきたとのこと。

 

また、討伐時の状況を楽進、許褚から確認して、黄巾党内に指揮官と呼べる人物が出てきている事を把握する。

 

「こちらとしては折込済みだったとは言え、これからは苦戦する事になるでしょう。以後、奴らの相手は気を引き締めるように。特に春蘭と季衣、いいわね!」

 

「はっ!」

「はい!」

 

「それから春蘭。その孫策という人物。武人夏侯惇から見て、どんな人物だった?確か、江東の虎、孫堅の娘よね。」

 

「………檻に閉じ込められた獣のような目をしておりました。袁術とやらの人となりは知りませんが、あれはただの食客で収まる人間ではないでしょう。」

 

「そう………。その情報に免じて、今回の件についての処分は無しにするわ。孫策への借りは、いずれ返す機会もあるでしょう。他に何か報告すべき意見は?」

 

「いえ、春蘭の件で最後です。」

 

「もうすぐ、私たちが今まで積み上げてきたものが実を結ぶはずよ。それが奴らの最後となるでしょう。それまでは、今まで以上の情報収集と、連中への対策が必要になる。秋蘭と桂花はより連携を密になさい。民たちの血も米も、一粒たりとて渡さないこと!以上よ!」

 

 

この日の軍議はこれで終了し、夏侯淵、荀彧は今後の情報収集について打ち合わせる事にして、荀彧の執務室に移動。

斥候隊長として、そこから王蘭も参加することに。

 

 

 

「まず王蘭、あんたが掴んでいる情報を洗いざらい吐きなさい。」

 

「尋問か何かですか………。現在斥候兵たちには、黄巾党の本隊の位置を探らせています。兗州の外にも数名放っては居ますが、先日の拠点発見地点からも、本隊は兗州内のどこかにいると考えています。まだこれといって確証を持った報告は届いていませんが、大凡の目星は付き始めました。」

 

「あんたなんかと同じ考えってだけで虫唾が走るけど、州内にいるというのは同意するわね。華琳さまの領内で拠点とできそうなところは、この辺りか、この辺り。もしくはここもありうるわね。」

 

そう言って荀彧は、地図の上に石を置いていく。

 

「蒼慈、今兵たちにはどの辺りを探らせているのだ?桂花の予測に沿って、兵の割り振りを変える方が効率もよかろう。」

 

「はい。現在荀文若様がお示し頂いた範囲に加えて、こちらとこちらにそれぞれ割り振っています。」

 

「その辺りはもう切っていいわね。警備隊からも特に黄巾の話も出てこない地域の様だし。それよりもさっき石を置いたこの辺りにいると踏んでいるわ。」

 

 

地図を使いながら話を進める3人。

 

 

「その辺りでしたら、今日戻った兵士が物資の輸送中と思われる集団を見かけたとの報告が。ただ、これだけの規模に膨らんだ黄巾党ですので、それが本隊のものであるかの確証はなく判断が難しいところです。その輸送経路ですが、陳留近くのこの辺りを通って、こう、とのこと。」

 

「怪しいわね………。このあたり重点的に、しかも怪しい集団がいればかなり深いところまで潜り込めるかしら?」

 

「わかりました。明日か明後日ごろには一度報告に戻る手筈になっていますので、指示しておきます。この経路に間違いがなければ、物資でなくとも連絡兵くらいは陳留の近くを通るはず。警戒には城内の兵士を当てて頂けると助かります。」

 

「うむ。その辺りは私から華琳様にお伝えしておこう。蒼慈は拠点候補地の情報収集に力を入れてくれ。」

 

「承知しました。」

 

 

情報収集についての打ち合わせも終わり、それぞれの仕事に戻る。

 

 

 

 

 

それから数日。

 

 

 

城内は慌ただしく、緊急軍議が開催されることになった。

どうやら楽進が北郷と共に黄巾の連絡兵を捕らえたことで、敵本隊が見つかったとのこと。

 

 

荀彧、夏侯淵らと共に確認した物資の経路と摺り合せても、敵の本隊に間違いないようだ。

 

 

その報告を聞いた王蘭は、顎に手をやりじっと考え込む。

………そして敵本隊がいるであろう拠点に放っていた斥候に、連絡兵を送ることにした様だ。

 

 

 

 

 

さぁいよいよ、黄巾党との決戦である。

 

 

 

 

 

部隊の編成を終え、夏侯淵隊は北郷隊、許褚隊と共に先発として敵の偵察に向かっていた。

また本隊が到着した際には、敵の陣営各所に火を放ち、敵を混乱させそのまま攻撃を仕掛けることになっている。

 

 

 

各隊で大凡の敵情視察を行い、それぞれの報告を夏侯淵がまとめる。

 

その報告をまとめている間に、曹操たち本隊も到着し、作戦が開始されることに。

先発隊を代表して夏侯淵が将たちに指示をだす。

 

「当初の作戦通りで問題なかろう。華琳さまの本隊に伝令を出せ。皆は予定通りの配置で、各個撹乱を開始しろ。攻撃の機は各々の判断に任せるが………張三姉妹にだけは手を出すなよ。以上、解散!」

 

 

それぞれの隊が配置につく。

 

そしてしばらく後。黄巾党の陣内から、火の手が上がり始めた。

 

 

黄巾党らが攪乱作戦により混乱に陥り、ただでさえ統率の取れていない集団が、より一層慌てふためいている。

 

 

 

この機を曹操が逃すはずもなく、曹操軍本隊が動き出した。

先発隊の面々も、それに呼応する形で左右の翼として攻撃を開始。

 

 

 

黄巾党本隊の討伐戦が開戦された。

 

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

 

 

規模ばかりが膨れ上がり、全体の統率をするものが居ない敵兵はまたたく間に壊滅。

曹操たちの作戦が綺麗にハマり、またも完璧な形で勝利を手にした。

 

 

 

 

その戦場から少し離れた所に、人影が。

 

「この辺りまで来れば………平気かな。」

 

「もう声もだいぶ小さくなってるしねぇ………。でも、みんなには悪いことしちゃったかなぁ?」

 

「難しい所だけれど………正直、ここまでのものになるとは思っていなかったし………潮時でしょうね。」

 

 

戦闘に巻き込まれずに逃げ出していた、張三姉妹だ。

3人は誰にも見つかることなく、逃げ出せたと、ホッと一息をつく。

 

 

 

 

 

………だが、如何に張梁が優れた知恵を持っていようとも、そう簡単に逃げ出せるはずもなく。

そのすぐ近く、だが決して見つからないように様子を伺うのは王蘭の斥候部隊兵士。

 

 

王蘭が今回の作戦前に連絡兵送った事が、ここで活きた。

 

この斥候兵士に送った指示は2つ。

まずは、3人が抜け出す際にも決して目を離す事なく、決して気づかれずに3人の後をついていくこと。これに集中してもらうため、いつも行っている定時連絡は一切不要であるとも付け加えていた。

 

そしてもう1つは、今回の様に逃走に至るとわかった場合、逃げ出す方向や隠れている場所を、近くの曹操軍の将に伝わるようにしておくこと。

 

 

今回たまたまこの兵の近くにいた楽進が、戦闘処理を一区切りさせ、その後を追うことになっていた。

 

 

 

張三姉妹が立ち止まって一息入れている中、その楽進が追いついた様だ。

「………盛り上がっているところを悪いが、お主ら………張三姉妹とお見受けする。大人しく着いてきてもらおうか。」

 

 

 

こうして、無事三姉妹は曹操軍が確保。

楽進は連絡を残した王蘭の斥候兵の姿を認め、本陣へ戻ることになった。

 

 

 

 

 

 

本陣に連れられた三姉妹と曹操が会合し、今後は曹操の兵の募集に協力することで合意。

また三姉妹は名を捨て真名で活動することに加え、曹操の領内であれば自由に活動して良いことになった。

 

話が盛り上がり、次女の地和が”太平なんとか”と口に出すと、

 

「………ちょっと待ちなさい。」

 

と、曹操が話を止めた。

 

「何?」

 

「さっき、太平なんとかって………。」

 

「太平要術?」

 

「あなたち、それをどうしたの!」

 

「応援してくれてるって人にもらったんだけどー。逃げてくる時に、置いてきたの。」

 

「わたしたちのいた陣地に置いているはずだけど………。恐らく、もう灰になっているはず。それがどうかしたの?」

 

「そう………。」

 

 

 

人和がそう説明した際、三人の監視をしていた斥候兵から報告を聞いていた王蘭が割って入る。

 

「申し上げます。三人を張っていた兵から、確かに一度手にした書物はその場に置き陣幕から出たとのこと。先程確認して参りましたが、その陣幕は既に燃えており中の様子までは確認できませんでした。」

 

 

「………そう。あの書は灰になったのね。………もう一度、その陣には火を放っておきなさい。誰かに拾われて悪用されては、また今日の様な事態になりかねないわ。」

 

「はっ。」

 

 

そう言って後ろに下がった王蘭は、すぐに兵に指示をだして再度火を放たせる。

 

 

 

こうして、永きに渡り大陸中を混乱に陥れていた黄巾の戦いは、幕を下ろした。

 

 

 

 

三姉妹の処遇と、戦後処理も終えた曹操軍一同は、陳留の城に戻る。

そして翌日は軍全体を休暇と定め、各隊で戦勝の宴を開くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

………と喜んだのもつかの間。

 

 

城に戻り、荷をほどいてさぁ宴会!と意気込む一同だったが、主だった将たちは玉座の間に集められていた。

 

どうやら公式の場であるらしく、夏侯淵は世話役として曹操のすぐ側に控えている。

 

そして空席を少しでも埋めるため、夏侯淵隊隊長代理として、副隊長である王蘭が玉座の間に立っていた。こうした公式の場の席につくのは初めての王蘭。

 

 

ざっと室内を見渡すと、李典や于禁を始め、宴会を楽しみにしていたであろう全ての将たちが不満そうな顔を浮かべている。

 

 

そんな中、北郷が皆を代表して曹操に声を掛ける。

 

「華琳、今日はもう会議しないんじゃなかったの………?」

 

「私はする気はなかったわよ。あなた達は宴会をするつもりだったのでしょう?」

 

「宴会………駄目なん?」

 

落ち込んだ様子を隠さず、李典が問いかける。

 

「馬鹿を言いなさい。そのためにあなた達には褒賞をあげたのよ?………私だって春蘭や秋蘭とゆっくり閨で楽しむつもりだったわよ。」

 

「おいおい、そういう事は………。」

 

 

そこに、李典と同じ訛りの入った言葉が割って入る。

 

「………すまんな。みんな疲れとるのに集めたりして。すぐ済ますから、堪忍してな。」

 

「あなたが何進将軍の名代?」

 

「や、ウチやない。ウチは名代の副官や。」

 

 

そうこう話をしていると、幼い少女の声が響き渡る。

 

 

「呂布様のおなりですぞー!」

 

 

そうして振り向いた先には、小さな女の子と、その女の子の後ろに続く女性の姿が。

どうやらこの女性が呂布なのだろう。

 

 

今回集められたのは、黄巾党の討伐の功績によって、西園八校尉が1人に任命する、

という陛下からの達しをただ伝えにきただけのようだ。

 

伝えるだけなのにご苦労なことだ、とも思う王蘭だった。

 

 

呂布、いやその横にいた女の子と曹操の、格式張ったやり取りがようやく終わり、先程の副官が区切りとして話しかける。

 

「………ま、そゆわけや。堅苦しい形式で時間取らせてすまんかったな。あとは宴会でも何でも、ゆっくり楽しんだらええよ。」

 

そう言って、その3名は玉座の間から出ていった。

 

 

 

「……………………。」

 

 

そして曹操の顔を見やると、こめかみの辺りがピクピクと戦慄いていた。

 

誰がどう見ても怒っているようだ。

こんな時に話しかける役割といえば1人しかいない、とその場にいる将たちが全てある人物を見る。

 

 

流石に全員からの視線を一身に受けて、耐えられる様な心胆ではない北郷。

 

 

「か………華琳………?」

 

「話しかけないで!………悪いけれど、今何か話しかけられたら、そのまま斬り殺してしまいそうなのよ。………少し黙っていて。」

 

 

怒りを堪えているのだろう。グッと息を飲んで1つ息を吐くと、

 

「春蘭、秋蘭!閨に戻るわよ!気分が悪いったらありはしない!今日は朝まで呑み直すわよ!」

 

「「はっ」」

 

 

「一刀たちも今日は休みなさい。作業は明日からで構わないわ。明日は二日酔いで遅れてきても目をつぶってあげるから、思い切り羽目を外すと良いわ。」

 

「………そうさせてもらうよ。」

 

 

 

そう言って夏侯惇と夏侯淵の2人を連れて玉座の間から出ていく曹操。

 

置き去りにされた将たちはようやく一息を付き、それぞれで動きはじめる。

 

 

 

 

最後に残ったのは王蘭。じっと動けずにいるようだ。

 

もしや曹操のあの覇気にあてられたのか?と気を使った北郷が、王蘭に話しかける。

 

「徳仁さん………?大丈夫ですか?確かにあの覇気を初めて目の当たりにすると大変ですよね………。」

 

「あ、あぁ北郷さん………。覇気は確かに凄まじいものですが、あれを受けたのは初めてではないので問題ありません。」

 

「ん?そうなんですか?………じゃあどうされたんです?」

 

 

 

 

 

 

「いや、まぁあの………。何というか、目の前で想い人が別の人と閨を共にする、と連れて行かれるのって、なかなかですね………。」

 

 

 

「あ………あぁ………。あ、あの、よかったら俺たちの宴会、一緒に来ます………?」

 

「いえ、お心遣いありがとうございます。今日は隊員の皆と過ごすことにします。では、また。」

 

 

 

 

 

そう言ってその場を去る王蘭の背中からは、なんとも言えぬ哀愁が感じられた。

 

 

 

 

 




黄巾党編無事終了しました。

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本編書いてる合間に思いついた、ちょっとした小話も書き始めました。ギャグ寄りです。
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