真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第二十七話

 

翌朝、早くに目を覚ますとまずは外の天気を確認する。

光り輝く太陽が東の空に確認でき、大きな雲も見当たらない良い天気だった。

 

 

ほっと一息をつき、今日の遠乗りに向けて入念に支度を始める。

 

 

相手を想う朝がこんなに良いものだとは考えたこともなく、

起きたばかりだと言うのに、身が軽やかに感じた。

 

 

朝もまだ早いため、隣に住まう人を起こす事が無いように、静かに支度を進める。

弾む気分を自覚しているためか、少し自分を落ち着かせようと、支度の動きにどこかぎこちなさも感じる。

 

 

この日は遠乗りということもあって、昼飯の用意も事前に考えて置かなければならない。

めったに無いこんな機会だ、と自分で作ることにしていた。

 

 

おおよその身支度を整え、周りに迷惑をかけないよう部屋を出る時もそっと扉を開ける。

特に誰かから隠れているわけでも無いのに、誰にも気付かれないように動こうとしてしまうのが、

どこかおかしく、ついつい1人でクスクスと笑ってしまう。

 

 

厨房に到着すると、まだ早い時刻という事もあってか、

侍女たちも城の兵たちのために朝食の準備をしているところだった。

 

 

流石に侍女たちも自分が将であるということを知らぬ者はおらず、萎縮して畏まっている。

気にせず作業を続けてほしい事と、少しの間厨房を借りる事を伝えて、自身も彼女らに構わず自分の作業に入る。

 

 

相手のために何をこしらえようかと考えを巡らせるが、なかなかパッと好みの料理が浮かんでこない。

これはまずいな………と1人苦笑いするが、特に嫌いなものも聞かないか、と思い直し、自分が作れる中で、ある程度自信の持てる料理を作る事にする。

 

 

小気味よく包丁とまな板が奏でる音に耳を傾けると、その音すらも包丁を握る当人の気持ちを表しているかの様に、心地良い音色に聞こえてくる。

 

 

しばらく包丁や鍋と格闘を続け、遠乗りに持っていっても崩れてしまわぬ様に、しっかりと包装した。

 

 

弁当の味見を兼ねて、自分の朝食も済ませてしまう。

なかなか美味しく作れたのではないか、と自画自賛もしつつ。

 

 

最近は外で食事を取ることが専らとなってしまい、相手にとって美味しく出来たかと、少し不安な気持ちもあるが、大きな失敗をすることもなく料理ができたと自分に言い聞かせる。

 

 

厨房を出て、最後の身支度を済ませる前に、今日の早朝に伺うと伝えていたある店に向かう。

 

 

まだ飯屋の支度が始まったくらいの街中をゆっくりと歩き進む。

 

仕込み中の良い匂いが漂ってくる中を歩き、屋台通りから少し奥に入った所にある目的の店に辿り着く。

 

 

通常であれば営業時間外であろうが、事前に伝えていたこともあり、

店主が暖かく迎え入れてくれる。

 

 

約束の物を受け取り、店主に感謝を伝えて城へと戻る。

小脇に抱えた荷物を見て、相手の喜ぶ顔を想像すると自然と自分の顔がほころんでくる。

 

 

部屋に戻り、最後の身支度を整え部屋から出る。

 

 

待ち合わせは昨日と同じ、城の門前。

 

 

先程の荷物と今朝用意した弁当を布にくるみ、脇に抱えて歩みを進める。

 

 

目的の場所に辿りつこうとする頃、ちょうど相手も歩いて来ているのが目に入った。

お互いに存在に気づく。

 

 

そして、自然とそれぞれに向けて笑みがこぼれる。

 

 

その顔を見て、………あぁ、相手をこうして想い始めたのはいつからだっただろうか、と、

過去を振り返り、ほんの少し懐かい気持ちを楽しんだ。

 

 

 

 

 

─────────────。

 

 

 

 

 

城門に辿り着こうとする頃に、向こうから夏侯淵が歩いてくるのが見えていた王蘭。

 

 

「秋蘭さま、おはようございます。」

 

「あぁ蒼慈。おはよう。」

 

 

互いに笑みを浮かべている。

 

 

「良い天気で本当に安心しましたね。絶好の遠乗り日和です。」

 

「そうだな。早速ではあるが、行こうか。」

 

 

それぞれ厩から連れ出した馬にまたがり、微速駆け足くらいの速度で馬を進ませる。

 

 

街からも離れて、しばらく森の中を進み目的の場所に向かう。

 

 

「こうして戦の事など考えずに、ゆっくりと馬に揺られているのもいいものだな。」

 

「そうですね。自治領に限るかも知れませんが、こうして平和な景色を噛み締められるのは幸せなことですね。」

 

「うむ………姉者にも、こうしてゆったりとした心を持ってほしいものだがな………。叶わぬ事か。」

 

「どうでしょうか?戦がなくなればわかりませんが………。それよりもまぁ、春蘭さまは常に全力でいらっしゃいますからね。それこそが春蘭さまの魅力だと思っておりますが。」

 

「ふふ、そうだな。姉者の愛おしさ、可愛さをお前もわかってくれるのか。」

 

「んー………まぁそうですね。これでも秋蘭さまの右腕として、お側で働いてきましたからね。」

 

「そうだな、お前には感謝しているとも。………さて、ついたぞ。」

 

 

道中夏侯淵と話をしながら連れてこられた場所は、森の中を静かに小川が流れる場所で、その辺りだけがぽっかりと空いた広場の様な形になっていた。

周りは木陰になっているが、その開けた場所にだけ優しく陽の光が差し込んでいる。

 

 

「どうだ?なかなかよい場所であろう?」

 

「はい………。とても綺麗で心落ち着く場所ですね………。」

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ。ここまで連れてきてくれた馬たちも、少し自由にしてやろうか。」

 

 

そう言って馬具を外してやり、少しの間馬たちを自由にしてやることにした。

 

 

草の生い茂る木の根元に腰をかけ、ふぅと一息をつく。

ぐーっと背伸びをしながら、王蘭が呟く。

 

 

「んーっ!本当に気持ちのいい場所ですね………。よくこんな場所ご存知でしたね。」

 

「たまたまな。部隊の演習で近くまで来た時、休憩がてら小川を探しに来た時に見つけたのだよ。」

 

「なるほど………私が知らないって事は、私はどこかに斥候として行ってたときですかね。洛陽に居る時でしょうか?」

 

「確かその辺りだったか?………まぁいつでも良いではないか。今はゆっくりと過ごすこの時間を楽しもう。」

 

「そうですね。失礼しました………。」

 

 

そう言って広場で草を喰む馬の姿を、ただぼーっと眺める時間を楽しむ2人。

 

 

 

陽の光と花の香りにつられて、蝶が舞っている。

 

 

 

普段の2人であれば、蝶が舞っている事に目をくれる暇もないくらいに忙しく働いている。

そんな中、こうして悠々と時間を過ごしてみれば、今までこんな良い時間、良い風景に目を配る余裕もなかったのか、と振り返った。

 

 

慌ただしかった過去が楽しくもあり、おかしくもあり、そして今この時だけは少し残念な気持ちでもある。

 

 

久しぶりにゆっくりと過ごす時間を、2人は言葉もなく、じっくりとただただ感じていた。

 

 

 

どれくらいの時間が経っただろうか。

 

 

今朝城門を出て、馬に乗ってから数刻が経っている。

太陽はちょうど自分たちの真上に来ており、お昼の時間の様だ。

 

 

 

 

「さて、お昼にしましょうか。」

 

 

 

 

 

そう王蘭が、夏侯淵に声をかけた。

 

広間では、蝶が変わらずに陽の光の中を優雅に舞っていた。

 

 

 

 

 

 




拠点フェーズその2。
ゆったりとした時を楽しむ2人でした。


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