真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第二十八話

「さて、お昼にしましょうか。」

 

 

 

「うむ。そうだな………。」

 

 

少し歯切れの悪い返事を返す夏侯淵に、王蘭が問いかける。

 

 

「どうか、しましたか………?こんな綺麗な場所ですから、きっと小川には魚がたくさん居るでしょう。私、獲ってきますよ。」

 

「あ、いや!それには及ばない。」

 

 

そう言うやいなや、城からずっと抱えていた布の中から包みを取り出す夏侯淵。

 

 

「せっかくのこの遠乗りだ。………作ってみたんだが。」

 

 

そう言って包を広げると、そこには色とりどりの料理がつめられていた。

 

 

「もしかして………この日ために、秋蘭さまが作ってくださったのですか………?」

 

 

包みを取り出した夏侯淵の様子や、眼の前に広げられた数々の料理が、本当に現実なのだろうか。

それが未だに掴みきれないために、夏侯淵に問いかけた。

 

 

「まぁ………せっかくだからな。いまいちお前の好みを把握していなかったから、口に合うかどうかはわからぬがな。食べてみてくれるか………?」

 

 

いつになく自信なさげに、こちらの様子を伺う様にして確認する夏侯淵。

 

 

 

「もちろん、頂きます! ありがとうございます!」

 

 

ハッと現実に戻った王蘭が、彼らしからぬ大きな声で返事をする。

それこそまさに、新兵訓練かのようなハキハキとした綺麗で元気の良い返事だった。

 

 

「う、うむ………。では、頂こうか。」

 

 

「す、すみません、少し声を抑えきれませんでした………。では、頂きます。」

 

 

そう言って箸を手に持つ王蘭。そしてそれを固唾をのんで見守る夏侯淵。

………おかずを箸でつまみ持ち上げ、一口、ゆっくりとかじりつく。

 

 

 

 

 

 

 

人は本当に美味しいものを食べた時、言葉を発するよりもまず、顔で語る。

そして次に背筋がすーっと伸びていき、最後の最後に、言葉を喉の奥からひねり出す。

 

 

 

 

 

 

「………………………うまい………。」

 

 

 

その全てを見守った夏侯淵も、ようやく顔を綻ばせる。

 

 

 

「………そうか。よかった。」

 

 

そう言うと、ようやく自分も食事に手を付け始める。

 

 

あまりの美味しさに感動した王蘭は、次々と箸を動かしては口の中へと運んでいく。

こんなに美味しいご飯は食べたことがない、と言わんばかりの食べっぷりだ。

 

 

「そんなに慌てずとも良いではないか………。飯はどこにも逃げんぞ?………ほら。」

 

 

そう言って竹で出来た水筒を差し出し、それを王蘭が受け取る。

 

 

 

ッポン!と音を立てて水筒の栓を抜く。

 

 

そっと縁に口をつけ、筒を傾けながら中に入った水を、ゆっくりと口の中に含む。

水の冷ややかな温度を感じながら、体全体で味わうように、それをゆっくりと飲み込んでいく。

 

 

水が喉を通って、胃に流れ込み、スーっと爽やかな感覚が体を満たす。

 

 

「………ふぅ。秋蘭さま、本当にこの弁当美味しいです。こんなに美味しいご飯は初めて食べました。」

 

 

「あまりおだてるものじゃないさ………。でもまぁ、その気持はありがたく受け取っておこう。」

 

 

 

その後も2人の、いや王蘭の箸が止まることはなく、あっという間に平らげてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、ごちそうさまでした。」

 

「うむ。あんなに美味そうに食ってくれるのなら、私も作った甲斐があったというものだ。」

 

「普段春蘭さまはこんなに美味しいご飯が食べられるんですね………。なんとも羨ましい限りです。」

 

 

そう言って広げていた弁当たちを片付けると、再び陽の差す広間を眺めるように、肩を並べて木陰に腰を下ろす。

 

 

 

「また機会があれば、お前にも作ってやるさ。普段はどんな食事をしているんだ?」

 

「本当ですか?楽しみにしていますね。………普段はそうですね、簡単に済ませられるものが中心です。おかずがドンと一皿に、そこに白飯があればそれだけで済ませる感じですね。」

 

「ふむ………。あまり体にいい食事をしていないのか。」

 

「えぇまぁ………申し訳ありません。あとはご存知の通り、茶にははまっておりますね。」

 

「お前も将となったのだ。気をつけて損は無いぞ? そう言えば、この間連れて行ってもらった店の茶葉、早速華琳さまに召し上がって頂いてな、ご好評を賜った。私も鼻が高かったよ。」

 

「そうですか………。安心しました。あの店も、本当にたまたま巡り会えたお店で。隠れ家の様な店ですからね。」

 

 

 

そうして話が1つ、区切られる。

 

 

 

「さて、腹も満たされたことだし………。どうだ?もう少し休んでいくか?」

 

 

夏侯淵が隣に座る王蘭に声をかけた。

 

 

「そうですね。せっかくの良い天気で、良い場所に来ているのです。ゆっくりしましょう。………こんな所で昼寝するのは気持ちが良さそうですねぇ。」

 

 

何の気なしに、目の前に広がる光景と、腹が満たされた満足感によって眠気が襲ってきていたため、ボソリと呟いた。

 

 

「………ふむ。ここ、使うか?」

 

夏侯淵が自分の膝をぽんぽんと叩いて尋ねた。

 

 

「えっ………?」

 

 

そう言って慌てて隣の夏侯淵の表情を見ると、ニヤニヤとした表情を浮かべてこちらに問いかけていた。

まるで姉と北郷の絡みをみてからかうような表情である。

 

 

 

 

だがそれで呑まれる王蘭では無かった。

これまで必至に雑誌を読み漁り、恥を忍んで北郷に助言まで求めてきた王蘭である。

 

 

 

 

顔を真赤に染め上げながらも、

 

 

「で、で、では!!お言葉に甘えさせて頂きます!!!」

 

 

叫ぶように応えていた。

 

 

 

目を丸くして驚いた顔を見せていた夏侯淵だったが、ふっと息を吐き、

 

「そうか………。意外と強気に出ることもあるのだな。………さぁ、どうぞ?」

 

王蘭が横になりやすいようにずれて、再び膝を叩く。

 

 

 

既に眠気はどこへやら飛んでいってはいたが、意を決して頭を夏侯淵の膝の上に乗せ、横になった。

 

 

 

せっかくの夢の様な機会ではあるが、流石にこの状況で気を落ち着けられるほど、恋愛に達者な王蘭ではない。

身を石の様に固くして、横になっていた。

 

 

 

「そんなに身を固くしては眠れるものも眠れんだろうに………。ほら、気を落ち着かせろ。」

 

 

呆れて見かねた夏侯淵がそっと声をかける。

 

 

「はい………申し訳ありません………。」

 

 

しばらく夏侯淵と他愛のない会話をしていると、どうやら先に夏侯淵の方のまぶたが重たくなってきているようだ。

 

そしてそのまま目をつむり、寝息を立て始める。

 

 

寝顔を覗くのは申し訳ないと思いつつも、見上げればそこに夏侯淵の安らかな寝顔がある。

しばらくの間、じっと見つめる王蘭。

 

 

「………本当に、綺麗な人だ。」

 

 

ぽつりと、独りごちる。

 

 

「どういうつもりで、膝枕なんてしてくれているんだろうな………。」

 

そうつぶやきながら考えていると、徐々に王蘭のまぶたも閉じられていく。

しばらくすると、寝息が2つ聞こえはじめた。

 

 

 

 

………。

 

 

 

「………ふぅ。ようやく寝たか。しかしなんともまぁ、恥ずかしい事を呟いてくれる。」

 

 

寝ているはずの夏侯淵が目を開け、呆れた様な表情を浮かべながら、自分の膝で眠る王蘭の寝顔を見る。

呆れた表情でありながらも、どこか嬉しそうに頬が緩んでいる。

 

 

お返しとばかりに、王蘭の寝顔をじっと見つめる夏侯淵。

その寝顔はどこか、姉の様な無邪気さも感じて、可愛らしさがこみ上げてくる。

 

 

「全く鈍い男だな、お前は。………たまの休みだ。ゆっくりと休め。」

 

そう呟いた後、膝に乗る頭をゆっくりと労るように撫で始めた。

 

 

 

………。

 

 

 

 

どれくらいの時間が経っただろうか。

 

 

徐々に意識がハッキリとしてきた王蘭が、まぶたを開ける。

 

そこには既に目を覚ました夏侯淵の顔が。

 

 

そして、自分の頭の下と頭頂部にぬくもりを感じていた。

 

 

 

「あれ………?」

 

 

まだ寝ぼけた顔と頭で、頑張って状況を確認しようとする。

 

 

「おや?起きたか。………おはよう。」

 

 

そう言いながらも、自分の頭の天辺に感じるぬくもりは、動きを止めない。

 

 

 

「あっ………!すみません、ずっと膝………!」

 

「いや、構わん。からかうのが目的だったとは言え、私から言い出したのだ。寛いでもらえたなら何よりだよ。」

 

 

夏侯淵の膝から頭を起こして、座り直す2人。

 

 

「さて………そろそろ良い時間だろう。名残惜しくもあるが、馬に水をやって、城に戻ろうか。」

 

「そうですね。小川まで連れていきましょう。」

 

 

 

馬具を馬に付けて、小川まで馬を連れて行く。

川に顔を近づけ、美味しそうに水を飲む馬を、黙って2人見守る。

 

 

 

 

 

 

………この時間が、ずっと続けばいいのにな。

 

 

 

 

 

 

それは自分が出した声なのか、夏侯淵の声なのかはわからなかった。

だが、ハッキリと自分の耳には届いたような気がした。

 

それは天の気まぐれだったのか。もしくはただの空耳だったのかもしれない。

 

 

 

だが、それに背中を押されたのは紛れもない事実。

 

 

今勇気を出さなくて、いつ出すんだ、と決意し、夏侯淵の方に振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、秋蘭さま。」

 

 

「………どうした?」

 

 

「………初めてあなたにお会いしたあの時から………。ずっと、ずっと………秋蘭さん、あなたのことが………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、2人を包み込む様に風が吹き上げた。

 

 

互いの声が、互いの耳だけに届く。

2人の周りには静寂が訪れる。

 

 

 

2人を乗せてやってきた2頭の馬の耳にすら、2人の声は届かない。

 

ただただ、じっと互いを見つめる夏侯淵と王蘭がいるとわかるだけ。

 

 

 

 

ゆっくりと口を開く夏侯淵と、それを聞いて不安げな表情の王蘭。

 

ぽつりぽつりと夏侯淵が言葉を口にしていることはわかるが、やはりその声は2人以外には届かない。

 

 

 

 

言葉を区切った夏侯淵が、ふっと笑って王蘭を見る。

 

 

そこでようやく、2人の周りで吹き続けた風がやみ、周囲にも声が漏れ始める。

 

 

 

 

 

 

「お前の気持ち、とても嬉しく思う。………将としても、1人の男としても、これからも私の側に居てくれると嬉しいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はいっ!はい!!もちろん………です………!!!」

 

 

 

 

 

 

王蘭の頬に、一筋の涙が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




拠点フェーズその3。
うぉあぅぁぉう………爆ぜろ!とか思ってません。


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