真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第二十九話

 

 

 

「蒼慈………ほら、喜んでくれるのは嬉しいが、そんなに泣くな。………こういう時には、是非とも笑顔でいたいと思うのだがな、どうだ?」

 

「はい………。すみません。」

 

 

鼻水をすすり、両の目からあふれる涙を拭い、ようやく笑顔を見せる王蘭。

 

 

 

やっとのことで気持ちを落ち着け、2人並んで座る。

 

 

 

 

気持ちを落ち着けた王蘭だが、なかなか言葉が出てこない。

 

………いや、この2人にとっては言葉は重要では無いのかも知れない。

 

 

ただただ2人、肩を並べて座っている。

 

 

 

 

 

………もちろん、先程より肩を寄せて。

 

 

 

 

 

しばらく2人は、そのままの状態で現実をじっくり噛み締めていた。

だが、もうそろそろ城へ戻り始めなければならない。

 

 

 

「秋蘭さま。」

 

「………蒼慈、それなんだが。」

 

 

 

夏侯淵を呼びかける王蘭だったが、それを当人に遮られる。

 

 

「さっき、私を対等に呼んでくれただろう? せめて2人のときはそうして欲しい。みなの前ではどちらでも構わないから。………良いだろうか?」

 

 

 

「………はい。もちろんです。………秋蘭さん。」

 

 

そう言って名を呼ばれた夏侯淵は少し恥ずかしげに微笑んで見せる。

 

 

「うむ、ありがとう。」

 

 

「いえ、こちらこそありがとうございます。秋蘭さんって呼べるのは嬉しいですから。………さて、本当に名残惜しいのですが、そろそろ城に戻りましょうか。日が暮れてしまっては城に戻れませんから。」

 

 

「うむ………。そうだな。」

 

 

 

小川で休んでいた馬に跨がり、2人は城への道を戻る。

楽しかった時間を惜しむ様に、ゆっくり、ゆっくりと。

 

 

 

 

途中休憩を取りつつ、2人はようやく城まで戻ってきた。

行きよりも時間をかけて戻ってきたため、馬を厩に入れたときには既に日も落ちかけていた。

 

 

 

「蒼慈、もう少しだけ良いか?」

 

 

楽しい休日もいよいよ終わりを迎えようかと言う時に、夏侯淵が王蘭に声をかけた。

 

荷物もそのままに、2人は中庭へ移動する。

まだ辛うじて日は落ちきっていないため、辺りを見渡せる程度には明るいが、

日の光もやや淋しげに感じる時間だ。

 

 

日中は明るいこの中庭の東屋も、この時間になれば少し薄暗い。

 

 

「さて、蒼慈。今日はとても楽しい休日だったよ。感謝するぞ。」

 

「はい。私も楽しかったです。………秋蘭さんとこうした仲になれたとても大切な日になりましたしね。」

 

「ふふ、そうだな。………で、だ。今日はお前に渡すものがあってな。その機会をすっかり逃してしまってこんな時間になってしまった。すまない。」

 

「い、いえ、そんな。とんでもないです。」

 

 

夏侯淵は、今日ずっと大事に持っていた荷物の布を解き、中のものを取り出す。

 

 

「本来なら明るいうちに渡したかったのだがな。」

 

 

そう言って、バサッと一気にそれを広げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の手に広げられたもの。

 

 

それは、旗。

 

漆黒に蒼の文字で”王”と記された大きな旗。

 

 

 

 

 

 

 

「蒼慈、これはお前の、お前だけのための旗だ。受け取ってくれ。」

 

 

 

 

 

 

そう。牙門旗である。

 

 

 

 

 

 

「祝いの席をなかなか設けてやれなかったのは、この完成を待っていたからだ。昨日、ようやく連絡があってな。今朝受け取ってきたんだよ。どうやらお前のことをかなり焦らしてしまったみたいで、申し訳なかったが………。お前は今後、諜報部隊の長として活躍していくのだろう。この旗も、もしかしたら戦場ではためく機会は、そうそう無いかもしれん。………だが、お前の元上司として、蒼慈の出世を心から嬉しく思っている。その元上司からの祝いとして、どうか受け取って欲しい。」

 

 

 

驚きのあまり、声にならない声を上げる王蘭。

今日は何かいろいろな事が起こりすぎている。それも仕方の無いことか。

 

 

 

「あの、ありがとう、ございます!! まさかこんな素敵な贈り物を頂けるなんて………。本当に、ありがとうございます!」

 

 

 

夏侯淵が王蘭を思い浮かべて意匠を起こした牙門旗。

斥候として、闇夜でその力を発揮する王蘭にとって、この上なく相応しい漆黒の旗であった。

 

 

 

「お前の活躍、これからも期待しているぞ。」

 

そう言って旗を受け取った王蘭の肩を、ポンポンと叩いて励ます夏侯淵。

 

 

 

「さて、堅苦しい元上司の顔をするのは、今日はこれくらいにしておこう。あとは時間が許す間だけで構わない。ただの秋蘭として、もう少し………時間を共にしたいのだが。」

 

「はい、もちろんです。まだまだ話したりませんからね。城内であれば、移動の時間も考えずに済みます。」

 

笑顔で以て返事を返す王蘭。

 

 

2人並んで腰を掛ける。

まさか夏侯淵からそう言ってくれるとは思いもしなかった。

 

王蘭は、ただただその幸せを噛み締める。

 

 

 

「晴れて恋仲となったわけだが………。蒼慈、お前はこれからが大変だろうなぁ………。」

 

少しニヤニヤした表情を見せながら、王蘭に話を振る。

 

「うっ! そう、ですね………。ですが、やはり通らねばならぬ道ですから。頑張りますよ!」

 

「うむ。骨は拾ってやる。」

 

「そこは期待してくださいよ………。」

 

「ふふっ、すまない。だが何れにせよ早い方が良いだろうな。明日早めに仕事を片付けたら、共に行こう。」

 

「はい………よろしくお願いします。」

 

 

 

明日訪れるであろう試練。

それを乗り越えられる様に励ましの意味も兼ねて、夏侯淵はそっと頭を王蘭の肩に預けた。

 

 

「お前の格好良い所、見せてくれ。………期待しているぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さぁ王蘭さん頑張って。これで奮起せねば男じゃないぞ。
秋蘭さんがどんどん可愛くなってって悔しい………。


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