真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第三十一話

 

 

 

反董卓連合が解散してからしばらくの日が経ち。

漢の力は既に失墜したことが大陸中に広まり、諸侯らはこれを機に各地で動きを見せ始めていた。

 

 

そんな中、この陳留に於いては盗賊団、野盗の討伐に加えて、各地の情報収集に努めていた。

 

 

やはり専門の部隊を持つ強みは大きく、曹操軍では河北の情報を主として、揚州などの南方の地域にまでその手を広げていた。

もちろん、それに伴ってその責任者は多忙を極めているようで………。

 

 

 

 

 

 

「詠さん、河北の兵より状況の報告がありました。目を通しておいてください。」

 

「わかったわ。そこに置いておいて。この間帰ってきた兵士、次どこに送るのよ?」

 

「そうですね………。北の方は範囲は広いですが情報は容易に入るようですし………南に増援しますか。どう思います?」

 

「そうね………僕でもそうするかな。じゃあそう伝えておくわ。」

 

 

ここは王蘭の執務室。そこには王蘭の補助として入っている、賈駆の姿も見られた。

2人は斥候の専門部隊として、各地の対応に追われて慌ただしい日々を送っていた。

 

 

「お願いします。あと、こちらに来たネズミさんたちはどれくらいになりますか?」

 

「今のところあまりいないわね。いたとしても街でちょっと話聞いて帰ってるだけみたいだし。まぁ今は自分たちで精一杯なんでしょ………。と言うかやっぱり、情報専門部隊を持つなんて考え持ってるあんたたちが変なのよ。なんで一軍の将がそれに付きっきりになれるのよ。」

 

「お褒めに預かり光栄です。我が軍の歴史を辿ればこうなっただけですよ。あと何せ我らが主上は華琳さまですから。………ではあまりこちらのネズミ取りを強化しても意味はありませんね。ただでさえ人手が足りないのです。ギリギリの人数だけを残して、あとは全て外に出しましょう。」

 

「まったく、ボクたちがいた洛陽じゃ考えられない舵取りね。了解。………それよりもあんた、やっぱり昇格してから性格変わってない?」

 

「………そうでしょうか? まぁ、吹っ切れた感じはあるかも知れませんねぇ。」

 

「それは、あれのこと? 秋蘭と恋仲になったって話。………はいはい、ご馳走さまでしたー。」

 

「う………いやそういうわけじゃ。っていうか、それどこまで広まってるんでしょうか………。」

 

「ボクは見てなかったけど………春蘭相手に大立ち回りだったんでしょ? しかもかなり格好つけたみたいじゃないの。もう一般兵でも知ってるわよ、この話。」

 

「な、なんと………。ま、まぁ仕方ありません。恥ずべきことではありませんし………ね。」

 

 

賈駆にからかわれながらも、手は止めない2人。

次々に報告書の中を確認しては取りまとめていく。

 

 

「北の情勢はおおよそこれでまとまりました。やはり袁紹が北を統一したようですよ。」

 

「幽州の公孫瓚はどうなったの? 霞の話じゃ、連合の中ではそれなりに馬を使える将だったって話だけど。」

 

「どうやら旧知の劉玄徳殿のもとにいるようです。確かにあの方なら、友人を放っておくわけがありませんからね。」

 

「………そう。月の所にいるのね。」

 

「お会いしたいですか? 呂布や華雄にも。そちらの方々の行方は今のところ掴めていないはずですが………。」

 

「会いたくないって言ったら嘘になるけど、別にそれぞれの道を選んだわけだし、これも仕方のないことね。気にしてないわ。それから恋………呂布のことだけど、どうやら益州あたりの小さな城を根城に構えたみたいよ。さっきの報告にあったわ。」

 

「そうですか………洛陽からかなり離れた場所まで逃げたようですね。わかりました、ありがとうございます。私も見ておきますね。」

 

 

 

やはりこれまで一手に担ってきた兵のやり取りを、誰かと相談できるのは大きい。

特に、情報の守りに徹してきていた賈駆の意見は、どこを探るべきかを良く考えさせられた。

 

 

 

「さて、これで各地の重要な情報が揃ってきましたね。そろそろ華琳さま、桂花さんに話を通して軍議開いていただきましょう。」

 

「そうね。この手の情報はさっさと共有するに限るわ。華琳なら即断即決出来るだろうし、ボクでも考えつかない策を出してくるものね。………本当に軍師泣かせの王だわ。」

 

 

 

こうして王蘭からの上申により、将たちが招集され軍議が開かれることになった。

 

 

 

 

――――――――――。

 

 

 

 

「呂布の場所が見つかった?」

 

「はい。どうやらこの陳留よりはるか南西、この辺りの小さな城に拠点を構える事にしたらしく。呂布付きだった陳宮、更には同時に逃亡した華雄の3名が主だった将として居る様子です。」

 

 

大陸の地図の上に、碁石をことりと置いてその場所を示す。

その周りに大きな勢力はなく、孤立した状態となっている。

 

 

「華琳さま、どうしますか? 呂布が本気になれば、こちらはかなりの損害を被ることになりますが………。」

 

 

荀彧の言葉に、将たちが息を飲むのが見て取れた。

夏侯淵、許褚、典韋、更には蜀軍から張飛と、袁紹軍から文醜の5人がかりでやっと足止めが出来たというほどだ。

 

一気に緊張感が高まる。

 

 

「………今は放っておきましょう。」

 

 

曹操が選択したのは、まさかの放置。

これには武将たちも戸惑いを見せ、夏侯惇が声を上げる。

 

 

「何ですと!」

 

 

これには荀彧も同意だったようで、珍しく夏侯惇の意見に乗る。

 

 

「華琳さま。それはいくらなんでも危険すぎます。」

 

 

「………詠、霞。呂布は、王の器に足る人物かしら?」

 

「………正直、ようわからん。」

 

「恋………呂布は正直王だとかどうとか、興味ないとは思うわよ。」

 

 

曹操には考えがあるらしく、賈駆、張遼に話を振った。

だがあまり理解できなかったようで、夏侯惇が賈駆に問う。

 

 

「………どういうことだ?」

 

「戦いのことはボクにはよくわかんないけど、あの娘はただ月、董卓が好きで一緒に居てくれたようなものよ。自分が王に、なんて考えがあるなら、恥ずかしいけどボクたちの所にいる理由なんてこれっぽっちもなかったもの。」

 

「まぁ戦に関して言えば、個として恋と戦おうっちゅうもんは気ぃが狂っとるとしか思えんな。………まさにあれば鬼神やな。”あの”華雄ですら、敵として会いたくないっちゅうとるくらいや。」

 

 

「ど、どうしてこちらを見るのだ………!」

 

 

張遼の視線を受けてたじろぐ夏侯惇。

 

 

「まっ、そういう事よ。あの辺りは治安も悪いし、南蛮の動きにも気を配る必要があるわ。しばらくは動けないでしょう。ただ、監視だけは引き続きしておくように。蒼慈、頼んだわよ。」

 

「はっ。」

 

「それに、今はもっと警戒すべき相手が居るわ。そちらの情報はどう?」

 

 

呂布の話はそれで切り上げ、次の諸侯に話を移す。

 

 

「はい。まず………先日の袁紹と公孫伯珪殿、っと失礼。公孫瓚との争いですが、予想通り袁紹が勝ちました。公孫瓚は、徐州の劉備の元に落ち延びた様です。」

 

「劉備って出世したんだっけ………?」

 

「えぇ。平原から徐州に移っておりますね。確か、この間の軍議でも話題があったと記憶していますよ。」

 

「う………申し訳ない。聞いてはいたんだけどさ………覚えてる? 春蘭。」

 

「だから、なんで私に振るんだ!」

 

 

「はぁ………。それで? 袁紹の動きはどう?」

 

「青州や并州にも勢力を伸ばし、河北四州は袁紹の勢力下に入っています。北はこれ以上進めませんから、後は南かと。………ちなみにですが、袁紹軍にはかなり深くまで潜り込む事ができておりまして、その………。」

 

「どうしたの? 歯切れが悪いわね。言ってみなさい。」

 

 

「はっ。詠さんとも話していたのですが、これは本当なのだろうか、と思う報告もありまして。………北部から攻略をした理由が”河北四州”という響きが”格好いい”から、とのことです………。」

 

 

「………。」

「………。」

「………。」

「………。」

 

 

あまりにもな理由が報告され、一同はまさしく開いた口が塞がらないようだ。

 

「………いかにも麗羽らしい考え方ね。何もせずとも私の頭痛を引き起こす事が出来るなんて、彼女くらいよ。」

 

 

「加えて申しますと、華琳さまはご存知かと思いますが、彼女は今大将軍の地位についていますので、かなり調子に乗っている様です………。」

 

「………あの高笑いが響かない日はないのでしょうね。………もう麗羽については良いわ。あなたと詠の考えを聞かせてちょうだい。」

 

 

あまりにもな袁紹に関する情報で、頭痛がひどくなったようだ。

頭を抱えて先を促す。

 

 

「はっ。今後の袁紹の動きの予想ですが、詠さんと話した結果、この兗州に向かって軍を進めるかと思われます。」

 

「はぁ? あんた何言ってんのよ? どう考えたって、徐州に攻めるのが普通じゃないの。」

 

 

王蘭の予想に、荀彧がつっかかる。

周りの将たちも同じ意見の様だ。

 

 

「本来であれば、常識で考えて公孫瓚が逃げ延びた徐州へと攻め入ると予測されます。………ですが、袁紹軍は我らの様に軍議を持って方針を決めるというより、彼女の一声が重視される傾向が強いようです。………であれば、その性格を考慮すると、そうならない可能性が。」

 

 

「な………。」

 

 

本日2回目、荀彧は口が塞がらないようだ。先程よりも開く口も大きい。

元々袁紹の陣営に僅かながら居たこともあり、王蘭の言を受けて容易に想像が出来てしまうのがより悲しいところ。

 

 

「麗羽の事をよく調べてるじゃない。………おそらく、蒼慈の言ったとおりこちらに攻めてくるでしょうね。」

 

「華琳さまぁ………。」

 

「まぁ彼女の気分屋がどこで発揮されるかもわからないわ。当面は対袁紹の事を考えておくわよ。国境の各城には、万全の警戒で当たるよう通達しておきなさい。………それから河南の袁術はどう?」

 

 

「はっ、特に大きな動きはありません。我々や徐州の国境を偵察する兵は居るようですが、その程度です。」

 

「あれも相当な俗物だけど………動かないというのも気味が悪いわね。警戒を怠らないようにしなさい。」

 

「はっ。加えて、袁術軍の食客の孫策についてですが、やはりこちらの情報収集は他のものと同じようにはいかず、苦戦をしております。北の情報を主に集めているとは言え、申し訳ありません。」

 

「ふむ………。詠、洛陽での情報防衛について、いくつか案を出してみなさい。あなたの経験がここで活きるはずよ。」

 

「わかったわ。ボクの方でもう少し考えてみる。」

 

「頼んだわよ。2人は引き続き、各地の情報を集めておいて。………他の皆は、いつ異変が起きても良いように準備を怠らないこと。いいわね。」

 

 

これでこの日の軍議は解散し、それぞれが準備を進める。

王蘭は再び詠と相談しながら、孫策軍の情報を探る術を考えていた。

 

 

 

 

それから僅か数日後。

 

 

 

 

 

………袁紹が軍を動かしたとの報告が、入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 




本編はいよいよ諸侯同士の戦いが始まります。


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