曹操たちが劉備の陣営から戻ってからすぐ、夏侯惇らは荀彧の指示に従って軍の配置を急いでいた。
袁紹が劉備たちの動きを掴み次第動いてくることが予想されるため、あまりゆっくりもしていられない。
王蘭隊の人員も、戦闘のための部隊ではないとは言えその配置に加わる事に。
人員としては、元々夏侯淵隊時代に斥候兵として動いてきた兵士が多く在籍している王蘭隊。
そういった側面から、夏侯淵隊と一緒に布陣することになった。
「秋蘭さま、王蘭隊ただいま合流いたしました。」
「蒼慈か。うむ、ご苦労。桂花の作戦では、ここが3度目の奇襲地点と言うことだ。他の隊よりも多少余裕がある予定だが、念の為早めに展開しておいてくれ。」
「はっ、承知しました。」
そう言ってすぐに王蘭隊も奇襲のために部隊を展開させる。
しばらくじっと待機していると、前方から闇夜の中に金色に光る鎧を身に着けた軍団が目に入ってきた。
なんとも奇襲のし易い鎧である。
こちらに近づいてくるのをじっと息を潜めて待つ。
袁紹軍がいよいよ射程距離に入ってくると、夏侯淵が号令を掛ける。
「総員、撃てー!」
矢の雨が、袁紹軍を襲う。
──────────。
「無事ここでの奇襲も成功したな。………だが文醜のあの感じでいくと、そろそろ突撃を仕掛けてくるやもしれぬ。蒼慈は隊を整えたあと、本隊に合流して報告を頼む。私は次の地点に移動することにするよ。ではな。」
「はっ、お気をつけて。」
そう言って隊を集め、移動を始める王蘭と夏侯淵。
3度の奇襲は荀彧の作戦通り全て成功を収めているが、いよいよ突撃ともなると僅かに緊張感が走る。
無事本隊に合流した王蘭は、早速荀彧、曹操に報告を上げる。
「申し上げます。夏侯淵隊、王蘭隊での奇襲は成功。袁紹軍の追撃隊は引き返していきました。また、秋蘭さまは次の地点に向かわれました。敵将の文醜の様子からするに、そろそろではないか、と思われます。」
「そう。ご苦労さま。………これで三度目。予想通りね。見事な采配だわ、桂花。」
「文醜の思考は単純ですから。あれの性格を知っていれば、難しいことではありません。」
「………さて、次だけれど。文醜はどう動くかしら?」
「三度目は顔良にたしなめられたでしょうが、彼女の我慢に四度目はありません。先程の報告にもあったように、次は相手を見ずに突っ込んでくるかと。」
「ふむふむー。だから春蘭さまを本隊として配置したのですねー。確かに最後の最後に春蘭さまの猛攻を受けると心がポッキリ折れちゃってもおかしくありませんしー。」
「そういう事。いくら袁紹軍の馬鹿と言えど、これだけ夜間に被害を受けて突撃を受ければ、今回の追撃は一旦やめるでしょうよ。」
流石は元袁紹軍の軍師。将の性格や思考を良く読んでいる。
「なんとも嬢ちゃんらしいねちっこい作戦だなぁ。最後の突撃作戦名は、とんちゃんふぁいやー!ってな感じでどうだい。」
「う、うるさいわねっ! ねちっこいって何よ、ねちっこいって!」
「これ宝譿、事実は時に人を傷つけるのですよぅ。」
「あんたも全然訂正できてないっ!」
程昱、荀彧がやり取りしてる横で、気になった所があるのか、曹操が程昱に問う。
「風、その”とんちゃんふぁいやー”ってどういう意味かしら?」
「はいー。ふぁいやーとは、お兄さんの国では攻撃とか突撃を繰り出す時に良く言う言葉の様で、意味としても火や攻撃を意味するそうですよー。今回の最終突撃にピッタリですねー。」
「………。」
「………。」
なんとも言えぬ、呆れた顔を浮かべる曹操と荀彧。
「ま、まぁなんでもいいわ………。本隊の春蘭に伝令! 敵を見つけ次第、思い切り一撃を打ち込んで混乱させよ!」
「とんちゃんふぁいやー! ですよぅ。」
「あーもう! 何でも良いわよ! ぐっ………、とんちゃんふぁいやーを決行するように伝えなさい! っていうか、春蘭たちもいきなりとんちゃんふぁいやーって言われてもわからないでしょうが!」
「………ぐぅ。」
「最後まで責任持って聞けーーーー!!!」
ちなみにその横で名前の理由を聞いて、なるほど! と思っていた男が居たとか居ないとか。
──────────。
袁紹軍の追撃を追い返してから数日間、特に大きな動きを見せなかった袁紹軍。
その間に劉備たちは兗州を抜け、案内役だった霞と稟も陳留に戻ってきていた。
そしていよいよ、次は袁紹、袁術の両軍と本格的に事を構える計画が進められていた。
「………敵軍が集結しているですって?」
「はっ。両軍に忍ばせている斥候兵からそれぞれ報告があり、どちらも同じ内容でした。間違いないかと。」
ここは陳留、軍議の間。
王蘭の部下が袁紹、袁術両軍の情報を持って帰ってきており、その共有がされている。
「………なぁ、それって意味あるのか? 袁紹と袁術が別々に攻めてくるって予想………だったよな?」
「兵力は単純に倍になりますが、指揮系統が整っていたり、一軍の将として特筆すべき実績や才能がある方を除いては、ただ人が増えるだけになりますねー。」
「うまく連携が取れなかった場合、互いに足を引っ張りあって、かえって味方を不利にする事も多いわ。反董卓連合がいい例ね。あの時のことをもう忘れたの? これだから頭に空気しか入ってない輩は。」
「いや、それは流石に言いすぎだろう………。でも、なるほど。理解した。」
北郷の問いに、程昱と荀彧がそれぞれ応える。
「けれど、二面作戦を取らなくて良い分、こちらとしては楽になったわね。」
「はい。情報の収集も広域ではなく狭域での活動の方が、随分と楽になりますし、その精度もあがります。」
「そう。こちらも兵を集結して戦えるというならば、負ける要素は何もないわ。ただ、警戒すべきは………。」
「………袁術客将の孫策一党、ですね。敵が集結している場所に向かって、孫策軍も兵を進めていることは確認しています。」
「そう………。では袁術軍の主力には春蘭、あなたに当たってもらうわ。我が軍第二陣の”全権”を任せるから、孫策が出てきたらあなたの判断で行動なさい。季衣、流琉は春蘭の補佐にあたってちょうだい。」
「御意っ!」
「はいっ!」
「わかりました!」
「袁紹に対する第一陣は霞が務めなさい。補佐に欲しい子はいる?」
「それなら、凪たち3人がえぇなー。一刀、貸してくれへん?」
「そりゃ、3人が良いって言うなら良いけど。いいのか? 華琳。」
「構わないわ。なら一刀は、秋蘭と一緒に本陣に詰めておきなさい。」
そう言って次々と部隊の編成が決まっていく。
そこに荀彧が、張遼に今回の作戦について少し説明する。
「………そうだ。霞たちにはこちらの秘密兵器の講義を受けてもらうわよ。真桜が一緒だから、ちょうど良かったわ。」
「………なんや? どんな兵器なん?」
「秘密兵器は、秘密兵器よ。今はまだそれ以上教えられないわ。」
「うーん………あんまり面倒なんは、勘弁して欲しいんやけどなぁ………。」
会話をじっと聞いていた王蘭が、ここには流石に流せない、と反応する。
「あ、あの桂花さん。そんな話、私も聞いてはいないのですが………。」
「当たり前じゃない。だって秘密兵器なんですもの。」
「いや、内容は秘密でも良いんですが、他領からの間諜対策とかどうしてらっしゃったのですか?」
「あ………。」
どこか抜けている荀彧。
この所、諸侯らは自軍の整備と近隣に対する諜報で手一杯という背景もあり、恐らく漏洩は問題ないだろうと判断する。
「べ、別に他領の諸侯らも今は忙しくて、そんな頻繁に斥候なんて放てないわよっ!」
「はぁ。桂花はもう少しその辺り蒼慈としっかり連携しておきなさいな。我が軍の重要機密が漏れてしまっては、元も子もないわ。………袁術は作戦立案には顔を出さないはずだから、相手の指揮は恐らく麗羽が中心になるでしょう。桂花は麗羽の考え方を予測して、基本戦略を立てなさい。稟と風は桂花を補佐し、予測が外れた時の対処が即座に行えるように戦術を詰めておくこと。」
「御意っ!」
「了解です。」
「わかったのですー。」
「他の皆も戦の準備を進めなさい。相手はどうしようもない馬鹿だけれど、河北四州を治める袁一族よ。負ける相手ではないけれど、油断して勝てる相手でもないわ。これより我らは、大陸の全てを手に入れる! 皆、その初めの一歩を勝利を以て飾りなさい! いいわね!」
「「「「はっ!」」」」
「して、蒼慈。敵の集結場所は?」
袁紹軍、袁術軍が集まり始めている場所。
それは………
「………官渡にございます。」
とんちゃんふぁいやー!
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