「全軍、とぉぉつげきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
夏侯惇のよく通る声が、戦場に響き渡る。
威圧のこもった声に、相手はどれだけの人が反応できたのであろうか。
曹操軍の本体が、無防備なままの盗賊たちに突撃を開始する。
それに呼応する形で、これまで防御一辺倒であった村から、幾人もの武装した人々が出てくる。
曹操軍と村の警備隊による、盗賊への反撃が開始された。
………。
攻撃が開始されてから、わずかに数刻だろうか。
瞬く間にその数を減らしていく盗賊たち。
後に魏武の大剣としてその名を轟かせる将軍の突撃は、まさに目を見張る物があった。
そしてそれに合わせて攻勢に出た村人たちも、まさかこれがはじめての攻勢とは思えぬ活躍ぶりである。
あっという間に賊の討伐を終え、軍は村に迎え入れられた。
「改めて此度のご出陣、誠にありがとうございます。
現在村の権限を委任されております、警備隊隊長の王徳仁と申します。」
王蘭が名を名乗り、目の前の小さな少女に頭を垂れる。
見た目はただの美少女としか言いようの無い、可憐な女の子だが、
こうして正面から相対すると、嫌でも感じてしまう。
これが人の上に立つものの風格なのか、と。
「此度の村の防衛、見事であった。
我が名は曹孟徳。新たに陳留の刺史として任命されたものよ。」
後ろに夏侯惇・夏侯淵の両将軍を従え、曹操が名乗りを返す。
「曹孟徳様、並びに麾下の将軍方々にはなんとお礼を申せばよいのか…。
我が村で現在都合のつく限りを用意いたしました。
何卒、何卒これでご容赦を賜りたく、お願い申し上げます…。」
曹操の人となりがわからない以上、これまでの官に対する態度を踏襲すればいいと判断し、
村で用意ができるものをかき集め、賂として差し出す。
この言葉を聞いた夏侯惇が食って掛かる。
「貴様!!華琳様に賂などと、愚弄する気か!!!!
そこに直れ!!切り捨ててくれるわ!!!!!」
愛刀の七星餓狼に手をかけたところで曹操が止める。
「春蘭!!待ちなさい!!!」
「ぐっ…しかし!」
「待てと言っているの。二度言わせる気?」
「うぅ…申し訳ありません。」
「彼らがまだ私達のことを知らないのも、無理のない話。
陳留の刺史としてまだあまり日が経っていないのよ?
…我が家臣が無礼をしたわ。許してちょうだい。
ただ、彼女の言っている事も間違ってはいないの。
私は自分の民から賂など受け取るつもりはない。
むしろその風習は無くさなければならないとすら考えているわ。
だからせっかく用意してくれたのだけれど、
これは元の持ち主に返して頂戴。」
「その…よろしいのでしょうか?」
「えぇ。我らは民を救いはするけど、決して苦しめたりするために存在しているのではないの。
安らかに日々を過ごせるよう、政を行っていくつもりよ。」
「承知しました…。村をお守り頂いたことに重ね、御礼申し上げます。」
「礼を言うのはこちらの方よ。
さっきも言ったけど、よくぞ我が村を、民を守ってくれたわ。ありがとう。
これだけの被害にあったのだから、当然この先1年間は税についても考えておきましょう。」
「!!。はっ。ありがたき幸せにございます。」
「村に関しては我が軍が責任を持って復興を行うわ。
その間の炊き出しも行わせてもらう。」
こうして村の復興を約束してくれ、王蘭は安心した。
だが、あとに続いた言葉を聞いて、自分の耳を疑った。
「………。それよりも、あなた。
この曹孟徳の陣営に加わる気はないかしら?
男だけれども、こうして結果を出しているあなたの手腕を、
ここで腐らせておくのはもったいないわ。
いきなり将として迎え入れることは難しいのだけれど、小隊長くらいならば任せられそうだし…。
今後の頑張り次第では、その限りではないわよ。
どう?」
「え…?な、なんと…それは誠にございますか…?
身に余るほどのご評価、恐れ入ります。」
曹操からの誘いに驚きを隠せないでいる王蘭。
だが、これを好機と考え決意する。
「………是非とも曹孟徳様の麾下にお加え頂きたく存じます。
ですが、その…、その………。」
「なんだ!?華琳様がお前の事を迎え入れようとしてくださっているのに、
何か文句があるのか!?」
「春蘭、控えなさい」
「ぐっ…しかし!」
「何か気にかかることでもあるのかしら?
ある程度叶えられるものであれば、聞いてあげるわよ?
言ってご覧なさい。」
曹操の言葉を聞き、王蘭がゴクリと息を飲む。
「で…では。恐れながら!!叶うのであれば、もし叶うのであれば!!
何卒、夏侯妙才将軍の隊の末席に加えて頂きたく!!!!」
「「………」」
思ってもいない願いに、言葉が出てこなかった曹操と夏侯惇の2人。
その中で唯一、名前の上がった夏侯淵だけが反応した。
「ほう…我が隊に?
お主の指揮はこの目で確かに見ておったからな。
私としては将来有望な人材は是非とも歓迎したいところだが…。
華琳様、よろしいのでしょうか?」
「え…えぇ…。それくらいの事であれば全く問題ないわ。
春蘭の様に、武勇が立つ方ではなく、用兵の方が適している様に見えるしね。
秋蘭の元でよく学びなさい。」
何か別の、褒美のようなものを求めてくるのだろう、と思っていた曹操はあっけにとられていた。
「はっ!!!」
心なしか、返事をする王蘭の顔が、防衛戦時よりも活き活きとした顔に見えるのだが、気の所為だろうか…。
こうして王蘭は夏侯淵隊の一員として曹操軍に加わることとなった。
夏侯淵将軍の隊に加わりました。