真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第四十話

「申し上げます! 袁術軍が撤退の用意に入っている様子! 孫策軍への伝令兵の姿もありましたので、恐らく孫策軍を殿に撤退するものと思われます!」

 

「わかりました。ご苦労さまです。引き続き袁術軍、孫策軍は監視を続けてください。」

 

「はっ!」

 

 

 

これより少し前。

 

曹操軍全軍の突撃により、官渡の戦いも大局的に曹操軍の勝利と言える状態まで来ていた。

やはり、糧食に不安を覚えた袁紹・袁術の大軍団の士気は目に見えて落ちており、そこを突いた曹操軍の攻撃には耐えきれるものではなかった。

 

また、文醜、顔良の袁紹軍2枚看板についても、許褚、典韋が張り付き、彼女らに自由を与えなかったことで、袁紹軍を指揮する将が不在に。

そんな状況で袁紹が的確な指示を出せるはずもなく、袁紹軍内は更に混乱を極めた。

 

そんな状況を見た袁術は即座に撤退を決める。

いつもの通り孫策軍に殿を押し付け、自分たちはスタコラサッサと安全な場所まで逃げようという算段の様だ。

 

そして誰にも気づかれぬ様、袁紹軍本陣をサーッと退いた袁術と張勳だった。

大将の袁紹に、一言の相談もなく逃げ始めるのは流石といったところか………。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

「袁術、袁紹とも、こちらが押しきれそうですね。」

 

 

ここは曹操軍本陣。

荀彧が、戦況から判断したこの戦の見解を報告しているところである。

 

 

「桂花さん、華琳さま、今ほど斥候兵より報告があり、袁術が撤退を開始。殿を孫策軍に任せて逃げ始めたようです。」

 

「そう………秋蘭、近く麗羽も動きだすでしょう。彼女が動いたら、そちらの追撃はあなたに任せるわ。」

 

「はっ。承知しました。」

 

 

状況を整理し、追撃の命令を適宜出していく曹操。

 

 

「華琳さま。念のため、春蘭に袁術追撃の伝令を出しておきましょうか? 春蘭のことだから、戦に夢中になって忘れているかもしれませんし。」

 

「………そうね。春蘭に”全権”を任せたこと、もう一度伝えておいてちょうだい。」

 

 

夏侯惇への伝令も出した所で、王蘭隊の兵士が駆け寄ってきて報告を上げる。

 

 

「申し上げます! 袁紹軍が撤退を開始いたしました!」

 

「………では華琳さま。私も行ってまいります。」

 

「えぇ。任せたわ。」

 

 

予想通り、すぐに袁紹が動き出したようだ。

それに伴い、即座に夏侯淵が追撃に出陣。この戦の総仕上げへと移っていく。

 

 

「さて、春蘭はちゃんと正しく意味を捉えてくれてるかしら………?」

 

 

ポツリと曹操が呟き、夏侯惇が居るであろう方角を遠くに見る。

彼女の想いがどこまで通じているのだろうか………。

 

 

 

 

 

夏侯淵が追撃に出てからしばらくの時間が過ぎ。

王蘭の元に幾つかの情報が入ってきた。

 

 

「申し上げます! 袁術軍に孫策軍が攻撃を開始! 袁術と張勳の2名は逃亡を開始しました。念の為、2名の後を追っております!」

 

「………ふむ、ようやくですか。わかりました、ご苦労さまです。袁術と張勳は2名で逃亡したのですね? であれば、その状態からの再起は恐らく不可能。これを機に捨て置いても構いません。」

 

「はっ、承知しました!」

 

「ふぅ………。さて、華琳さまに報告に上がりますか。」

 

 

そうこぼして本陣の華琳がいる場所へ行くと、何やら荀彧が騒いでいる。

 

 

「華琳さまっ! 春蘭がこちらの追撃命令を聞かず、待機しているようですっ!」

 

「そう。」

 

「この機会を逃しては、袁術を討てません! 華琳さまの御名に於いて追撃命令を!」

 

「不要よ。」

 

「ですがっ!」

 

「春蘭には全権を預けてある。あの子が最善と判断したのなら、それが最善なのでしょう。」

 

「うぅ………。」

 

 

荀彧としては敵軍の大将を1人討ち取れる絶好の機会を、みすみす逃したくはないのだろう。

王蘭も、表情から察するにその辺り荀彧の気持ちはよく分かるようだ。

 

 

「華琳さま、桂花さん、お話中の所失礼します。今ほど偵察の兵より報告があり、孫策軍がいよいよ袁術に反旗を翻し、撤退中の袁術軍にがら空きの後方より攻撃を開始。これを受け袁術は、家臣の張勳と2名で軍を放棄して逃亡した模様。この時点で我が軍の彼女らへの偵察は打ち切りました。………再起を図ることは不可能だろうこと、そして再起したとしても、孫策軍を上手く荒らしてくれるならこちらにも利があると判断したためです。」

 

「そう。ご苦労さま。春蘭は?」

 

「いまだ動いた様子は無いようですね。」

 

「了解したわ。ふふ………これで彼女も気が済むでしょう。」

 

「華琳あんた………やっぱりこれを狙ってたわけね。黄巾のときに春蘭が割と大きな借りを作ってたとは聞いてたけど、これは返すにしてもでかすぎるんじゃないの? まったく………。」

 

 

曹操の反応を見た賈駆が、頭に手をやり、ため息と一緒につぶやいた。

彼女はどこかしらで曹操の意図に感づいていたのかも知れない。

 

 

「ふふっ………借りを返すには、最良の機会だったでしょう? この私が借りた分だけ返すわけがないでしょうが。」

 

「そりゃそうだけど………。まったく、あんたの下にいる軍師としてはたまったもんじゃないわね。」

 

「孫策もわかっているだろうけど、もちろんちゃんと後で攻めるわよ? それが分かっていてもなお、彼女はこの道を選んだということよ。」

 

「はいはい。今回の他に何か大きく返すような借りなんてないわよね?」

 

「ふふっ。もちろん、まだあるわよ? 部下の借りは私の借りでもあるの。………さて、この戦の総仕上げも手を抜かずにやり抜くわよ。霞! 袁紹を追い払ったら、一気に南皮まで攻め入るわよ。兵の準備をしておいてちょうだい。」

 

「了解っ! こんなにもメッタクソに袁紹に洛陽での借りを返せるとは思いもせんかったわ! おい、お前らー! すぐに出撃の準備せぇ! 秋蘭は優秀やから、あっちゅう間に袁紹なんか追い散らしてまうでぇ!」

 

「華琳あんた………。はぁ、霞っ! 思いっきり頼むわよ!」

 

「任せときっ!」

 

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

 

「………そう。麗羽は逃したか。」

 

「申し訳ありません。こちらの想像以上に素早い相手だったもので………。」

 

「まぁいいわ。ここまで兵を失ってはもはや再起は不可能でしょう。捨て置きなさい。」

 

「さて、軍を撤収させるわよ。半分は私と共に南皮へ進撃。残りは桂花と共に城に戻って事務処理を。」

 

「御意!」

 

「それから………春蘭。何が言いたいか、わかるわね?」

 

「は。如何ような処罰でも。」

 

「いずれ孫策とも戦うことになるでしょう。………自分のしたことに後悔はない?」

 

「わたしはあやつに預けたままだった借りを返したに過ぎません。この後に奴と交える刃は、すべて華琳さまの意志によってのみ、振るわれるでしょう。」

 

「ならいいわ。南皮への本陣指揮を任せるから、先行した霞と共に見事制圧してご覧なさい。」

 

「はっ!」

 

 

こうして曹操軍本陣も夏侯惇指揮の元、南皮へと進撃を開始。

先行して攻撃を仕掛けていた張遼と合流し、またたく間に袁紹本拠地を陥落させる。

 

………これにより、河北四州は曹操の支配下に置かれることになった。

 

こうして大陸北部における覇権争いは、曹操軍の勝利で以て集結したのだった。

 

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

 

本陣の撤収作業時。

 

 

「あ、真桜さん。今回の道具、本当にありがとうございました。おかげで隊の役目もしっかり果たせました。」

 

「おー蒼慈さん! いしし、上手くいったみたいで何よりやわ。」

 

「えぇ。これまでの情報伝達よりも効率的に素早く行えていましたし、他にも転用が効きそうですね。」

 

「いやぁん、そんな褒めんとってー! 大将にもえらい褒めてもろたし、なんやご褒美もあたるんやって! ウチ、悶えて死んでまうわー!」

 

「それくらい、今回は真桜さんの活躍が凄かったってことですよ。私からも何かしたいと思ってますが、ご希望はありませんか?」

 

「そんなんええって! ちゃんと軍からご褒美もらえるんやし!」

 

「大したことはできませんが。ご飯のご馳走だったり何か欲しいものがあれば、くらいで。」

 

「せやなぁ………。まぁまた考えておくわ! それでえぇ?」

 

 

 

 

 

「はい、もちろんです。………何なら北郷さんの時間確保のご協力でも構いませんよ?」

 

「………にしし。」

 

 

 

 

 

 

 

 




官渡の戦い書き終わりましたーー!!
この戦いは烏巣の話が書きたかった欲求をベースに書き上げました笑

次は拠点フェーズ入りますー!
北郷さんの拠点もちょろっと書きたい。次話じゃないかもですが。

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