真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第四十二話

 

 

 

陳留のとある日。

 

この日、仕事を終えた王蘭は珍しく李典の部屋へと向かっていた。

先の官渡での大戦において活躍した、李典開発の煙玉や鏑矢などのいくつもの発明に対するお礼として、何か出来ることを返そうと思いたったのだ。

 

李典の部屋にたどり着き、扉を軽く3度叩く。

 

 

「はぁいー。開いてんでー。」

 

 

そう扉の向こうから帰ってくる。

王蘭は扉をそっと開け、中に居るだろう李典に声を掛ける。

 

 

「真桜さん、失礼します。」

 

「おっ? 蒼慈さんやん。どないしたん?」

 

 

自室でからくりをいじっていたようで、工具や材料の中から顔をこちらに向ける李典。

 

 

「ようやくこの頃仕事も落ち着いてきたことですし、官渡での道具開発についてのお礼をそろそろお返ししようかと思いまして。」

 

「………あぁ! そんなん別にええのに。華琳さまからぎょーさん開発費ももろたしなぁ。」

 

「まぁ軽い気持ちなので、あまりお気になさらず。出来ることでお返しさせてください。」

 

「うーん、まぁそこまで言うんやったらあんまり断っても申し訳ないしなぁ………。ならありがたく受け取っとくわ。」

 

「何か欲しいもの、食べたいもの、もしくは北郷さんのお時間確保などと言っていましたが、ご希望はありますか?」

 

「んー………今欲しい物は開発費で買えるし、食べ物言うても凪みたいにこだわりあるわけちゃうしなぁ。………でも最後のやつ、えぇかも。」

 

「北郷さん………ですか? お安い御用ですよ。」

 

「ならそれにするわ! 時間とってもらう日は、ちょっとうちらの都合調整しとくからまた来てや!」

 

 

そう言ってこの日は別れた王蘭と李典。

 

北郷とは、実はこう見えて普段から何かとよく話をしている王蘭。

百合百合しい曹操軍に於いては、珍しく男性の将が2人なのだ。それも無理のない話である。

 

 

後日李典から休みの日を聞き、そこに北郷の時間をあてる事で合意。

早速これに向けて王蘭は動き出す。

 

まずは北郷の近辺情報の洗い出しからだな、なんて考え始める辺り、職業病である。

 

 

おおよそ北郷の日程もすべて聞き、北郷自身と直接折衝をするための最終確認として、再度李典の部屋を訪れていた。

 

 

「真桜さん、失礼しますよ。」

 

「はいよーどうぞー。」

 

 

いつも通り気楽な返事が帰ってくる。

ガチャリと扉を開けると、そこには李典の他、楽進と于禁といういつものメンツが揃っていた。

 

 

「蒼慈さん、お疲れ様です。」

「蒼慈さーん、やっほー!」

 

「凪さんに、沙和さん。どうされたのですか?」

 

「今日蒼慈さんが例のことで部屋に来る、っちゅうからうちが呼んだんよ。あんな、うち1人だけで隊長と逢引きするんもえぇなぁと思ったんやけどな? やっぱり最初くらいはこの3人まとめて相手してもらおかなーと思ってな。」

 

 

そう照れながら告げる李典がとても好ましく思えた。

やはり李典はどこまでも友達思いの良いやつなのだと。

 

 

「えぇ。もちろん構いませんよ。真桜さんらしいお願いで、どこか安心しました。」

 

 

そう微笑みながら返す王蘭に、恥ずかしそうな楽進と于禁の2人。

 

 

「それで、結局その日はどの様なご予定で過ごされますか? こんなこと聞くのは無粋かもしれませんが、害が及ばないようにするために必要なこと、と思って割り切って頂けると助かります。」

 

「あぁ、そこは特に問題じゃないかな。うちも沙和も凪も、みんな了承済みやし。………えっとな、さっきまで3人で話しおうてたんやけどな? いっつも警邏のあと隊長にご飯とか買い物連れてってもらってはおんねんけどな、やっぱり仕事の延長線上な所があるというか………。だから、そうじゃなくてゆっくりしながら、仕事一切関係なく4人で街歩けたらいいなぁって。沙和の洋服見て、凪もついでに服買うてもろて。んでお昼は唐辛子ビタビタのご飯食べたあとは、からくりのお店見に行って。ほんで夕暮れ時までゆっくりしたあとは、小川なんかで4人座って話できたら、幸せよなぁって言うてたんよ。」

 

 

いつもと変わらん言われちゃおしまいやねんけどな、と言いながら頭をポリポリとかきながら話す李典に、王蘭はしっかりと返す。

 

 

「いつも通りであっても、それをちゃんと幸せだと感じられることが大事だと思いますよ。わかりました、全力で北郷さんのお時間、確保して参ります。お三方は当日、楽しみにしておいてくださいね。」

 

 

そう言って部屋から出ていった王蘭は、その足でまずは夏侯淵の部屋に向かう。

自分だけでなく、協力者がいたほうが確実に彼女らの希望を叶えられるためだ。

 

王蘭からの話を聞いた夏侯淵は、手伝う事を快諾。

 

 

「たまには姉者も机にかじりついてもバチは当たるまい。委細、承知したぞ。お前は早速北郷の所に行ってこい。」

 

 

夏侯淵は北郷のもとへ王蘭を送り出した。

何せ彼が時間を確保しないことには始まらないのだから。

 

 

王蘭が北郷の部屋を尋ねると、快く迎え入れてくれた。

この日も警備隊の仕事は無事に片付いたようで、一息つく所だったようだ。

 

 

「お仕事、お疲れ様です。お茶淹れられるなら、私が淹れますよ。」

 

「あっ、蒼慈さんのお茶美味しいから嬉しいっす。頼んでいいですか?」

 

「えぇ、もちろんです。ではしばしお待ちを………。私も頂いていいですか?」

 

「もちろん! 美味しいお茶が飲めるんだから、当たり前ですよ。」

 

 

そう言って2人分のお茶を淹れる王蘭。

すっかり曹操軍の中でもお茶好きの人間として認識され、曹操にも茶葉を勧めるようになっていた。

食事は典韋、お茶は王蘭という分担が、彼女の中には既に出来ているようだ。

 

 

「お待たせしました。仕事終わりならすこしぬるめにして飲みやすくしてみました。」

 

「ありがとうございます! ………ん~いい匂い。さすがですね。」

 

「いえいえ、お粗末様です。で、最近お仕事の状況はどうですか?」

 

「んーそうですねぇ………やっぱり陳留に居ると警備の仕事は落ち着いてるみたいですが、河北の州では今までのやり方と違うところもあるし、整備されていない地域もまだあるようで、大変ですね。まぁでも、少しは落ち着いてきたかな?」

 

「そうですか、それは良かった。華琳さまも皆の休みを気にされてらっしゃるみたいですから、休めるときには休んだ方がいいですよ。北郷隊の三羽烏たちも、うちの隊長は働きすぎだ! なんてボヤいてましたよ?」

 

「う………マジですか………。あいつらも最近は真面目にやってくれてるんですが、如何せん仕事が片付かなくて。部下に心配かけさせるようじゃ、まだまだですね。俺も。」

 

「ふふ、そうですよ。仕事片付くようになってきたなら、今度彼女らの休みに合わせて北郷さんも休んじゃったらいいですよ。私この間しっかりお休み頂いたので、その日くらいなら私引き継ぎますよ?」

 

「えー………どうしよう。本当に大丈夫です?」

 

「えぇ、もちろん。任せておいてください。1日ぐらいなら何かあっても対処できますしね。」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて4人でどこか行ってこようかなぁ………。」

 

「えぇ。それがいいですよ。北郷さんには秋蘭さんとの件で、とてもお世話になりましたしね。………あぁそうだ。直近彼女らと話した私からの”あどばいす”でしたっけ? 申し上げておきますね。彼女らは特別な事も良いのだけれど、今はいつもの日常をじっくり味わいたいみたいですよ?」

 

「日常………ですか? 折角の休みなんだから、どこか希望する場所とかに行かなくていいんですかね?」

 

「えぇ。彼女たちが求めているのは今はそういった特別感よりも、日常に幸せを感じ取りたいのだとか。是非心の底から楽しんでくださいね? ………では、私はこれで。」

 

 

そう言って席から立ち上がる王蘭。

 

 

「あ、はい。お茶ご馳走さまでした。」

 

「いえいえ、お粗末さまでした。あ、でもお茶っ葉はごちそうさまでした。………そうそう、恐らくそうやって日常を楽しむと、どこかで休憩をしに茶店に入るかも知れませんね。小腹がすいた感じだと、あのお店が、ただお茶を飲みたいならあのお店がおすすめです。是非記憶の片隅にでも、置いておいてください。では、今度こそ。」

 

「はい。わざわざありがとうございました。休みの日も、引き継ぎ助かります。」

 

 

 

 

こうして無事北郷の時間を確保することに成功した王蘭。

 

李典、于禁、楽進の3人が、北郷との時間を無事に過ごせますように、と願うばかりである………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




北郷さんの他の将との拠点フェーズでした。
すみませんが、ちょっと長くなってきたので一旦ブッツリ切っちゃいます。

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