真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第四十四話

 

 

 

袁紹を破ったことにより、河北四州をその手に収めた曹操。

 

これにより一気に領地が拡大し、周囲の諸侯らは明日は我が身と緊張感を高めていた。

そのため、これまでに以上に国境付近の警備は強化。ピリピリと空気が張り詰めているような状態が続いていた。

 

そんな中曹操軍は領地拡大に伴って、各地の豪族との折衝、盗賊の討伐、国境の警戒などがこれまで以上に激化。

陳留の城には、もはや軍師を除いて将が2人いれば良い方だと言える状況だった。

 

そんな中、王蘭はずっと陳留に留まり周囲の情報精査に努めていた。

その甲斐もあり、どの諸侯がこれを機として動き出すのかを、おおよそ掴み始めていた。

 

 

「………劉備が動き出しそう、ね。」

 

「はっ。劉備本人ではなく軍師の諸葛亮を張らせているため、すぐに動き出すとは限りませんが、彼女の場合外堀を埋めてしまえばあとは一気に動き始めるかと思われます。」

 

「そう。」

 

「………嬉しそうですね、華琳さま。」

 

「あら、わかるのかしら?」

 

「………笑ってらっしゃいますよ。」

 

「ふふっ、それも仕方の無いことよ。………だってあの劉備が我が軍へと攻めてくるのよ? ただの駄々っ子みたいだったあの子が! これを喜ばずして何を喜べというのかしら!」

 

 

王という立場にしか見えない景色はあるのだろう。

そこに劉備という雛が、周りに動かされながらも必死にその景色を見られる所に登ろうとしているのだ。

 

それがたまらなく嬉しいのだろう。

 

 

「それで………どうされますか?」

 

「もちろん、何もしないわ。」

 

「………は?」

 

「劉備が動き出しそうだからといって、我が曹操軍が慌てて動くと思って? そんなわけがないでしょう。これまで通り、命令した内容を適宜進めなさい。それともひよっ子相手に、わざわざ全軍で以て待機する?」

 

「全軍でなくとも、数人の将は城に置いておいても良いのではないでしょうか………?」

 

「そんな事してごらんなさい。劉備軍が動き出してしまえば、それこそ笑いものになるわ。覇王たる私が、そんな無様をして民たちが着いてきてくれるかしら? まぁ蒼慈、あなたの言いたい事もわかるわ。かの孫子も”百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。”とも言っているしね。逆に置き換えれば、まだまだ彼女らにとって、私は戦わずして負ける相手ではない、ということよ。」

 

「………承知しました。」

 

「そんなに不貞腐れないの。引き続き、周辺の情報取得は任せたわよ。」

 

「はっ。」

 

 

王蘭は引き下がった。

危険性を考慮し、それすらも飲み込んだ上でこれまで通りの対応をする、受けてやる、と言っているのだ。

説得に失敗したならば、それを如何にして叶えるかを考え始めるのが臣下の務め。

 

早速兵士を呼び、来るその時に向けて準備を整え始める。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

「申し上げますっ! 益州の劉備が軍を動かしました!」

 

 

王蘭のもとに、いよいよその報告が上がってくる。

事前にその動向は確認できていたとは言え、実際に報告が上がってくるといよいよかと緊張が走る。

 

 

「承知しました。事前にお伝えしていた手筈通り、すぐさま実行してください。」

 

「はっ。」

 

 

そう言ってすぐに退出する兵士。

王蘭は着の身着のままの状態で、曹操に報告すべく玉座の間へと向かう。

 

 

「華琳さま、失礼します。今ほど兵士より報告があり、劉備軍が進軍を開始し………」

 

 

玉座の間の扉をあけ、つかつかと中へと歩みを進めた王蘭。

だが、そこで目にした光景は………。

 

 

「は………むちゅ、ちゅ、んっ………。」

 

 

個人の部屋ではないとは言え、入室の確認を怠った王蘭が悪い。

玉座の間に広がる光景は、彼にとってはあまりに刺激が強すぎた………。

 

曹操はこちらに気づいた様だが、そっと気づかれない様に退室しようとする王蘭を視界の端で認めてクスリと笑う。

彼女の足元に跪く荀彧は気づいていないようだった。

 

そしてその王蘭はというと、玉座の間の扉を音を立てぬようそっと閉じたあと、部屋の外で必死に呼吸を整えていた。

 

 

「うん、よし。私は何も見ていない! ちょっと門の方に回ってから再度来ることにしましょう。そうしましょう。」

 

 

そう1人呟き、城の門へとあるき出す。

ちょうどそこでバッタリと北郷と出くわした。

 

 

「あ、蒼慈さん。お疲れ様です。そんなに息を切らしてどうしたのですか?」

 

 

まだ呼吸は落ち着いていないようだ。

 

 

「北郷さん、お疲れ様です………!! い、今ほど、部下の兵より報告があり、益州の劉備が軍を動かしたとの報告がありました。このことを玉座の間にいらっしゃる華琳さまにお伝えしなければ、と思ったのですが、報告の前に現在各地に散っている将の皆さんを集め戻すため、先に伝令兵を出そうかと思いまして。」

 

「な………! それは本当ですかっ!? だったら俺が華琳に報告しておきますから、蒼慈さんは急いで伝令兵の用意を!!」

 

「あっ………。」

 

 

そう言って素早く駆けていく北郷の背中を見て、申し訳無さがこみ上げてくる。

まぁ誰かは報告に上がらなければいけないのだ。郭嘉が向かって鼻血を吹き散らすのも、程昱が行って状況を煽ってもよくない。

 

そっと彼の背に向かって頭を下げる王蘭。

申し訳ない! と思いつつも、頭をあげた王蘭の顔は安堵に包まれていた。

 

北郷に伝えた通り、伝令兵は出しておかないと行けないのは本当なので、そのまま伝令兵を捕まえて、各地へと走らせた。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

ここは陳留から少し外れた場所にある、比較的空いていた状態の城の城壁。

 

曹操軍は陳留から現在動かせるだけの兵力を、益州により近い城へと移していた。

陳留という大都市での戦争は、民への被害が尋常ではなく、それをさせない目的もある。

 

幸いな事に、やはり情報の伝達速度は大陸一の曹操軍。

 

軍をすべて移動させた後であっても、まだ劉備軍がたどり着いている様子はない。

 

 

「華琳、本当にただこのまま敵を待ってていいのか?」

 

「えぇ、もちろんよ一刀。たかだか劉備相手に奇襲なんかするようでは、覇者の振る舞いとは言えないでしょう。向こうがこの辺りに到着するころ、外に陣営を構築するわよ。」

 

「えっ? こういう時って籠城がセオリー………通例じゃないの?」

 

「最初からそんなに弱気になっていては、民たちからの評価だけじゃなくて、これから戦う敵すべてに見くびられてしまうことになるわ。それこそ次々に戦を展開させていく原因となるのだから。」

 

「ふーん………でもこの戦いで負けたら、劣勢なのに籠城を選択せずに攻めにでた暗君、なんて言われたりするんじゃないの?」

 

「だからこそよ。ここで勝てば、我が名、我が軍の屈強さが大陸全土に広まることになるわ。こちらを攻めようとしている愚かな連中にも良い牽制となるでしょう。」

 

 

城壁の上から見渡す景色は、今はまだ静かに風が流れるだけ。

これから数日後には、兵が立ち並びここは戦場と化すのだろう。

 

 

 

その寂しさや虚しさを胸に、北郷はゴクリと息を飲んだ。

 

 

 

 

 

 




”百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。”
要するに、戦って勝って領地手に入れても復興なり人心の掌握で時間もお金もかかっちゃうので、そうなる前に、やべぇあいつらに叶うわけないじゃん………って膝を折らせるのが戦争に置いて最も良いことだよってことですね( ゚д゚ )


あと始めて際どいラインを攻めてみた。


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