それから数日後、劉備軍は曹操が待ち構える城の前に到着。
それを確認した曹操軍は早速陣を展開して劉備軍の用意が整うのを待つ。
曹操軍が陣形の展開をしてこちらを待っているのを確認した劉備軍も、慌てて陣形を組む。
劉備軍の陣営には劉、関、張、趙、そして深紅の呂旗が立っているのが確認できる。
北郷に言わせれば、三国志の有名所のオンパレードなのだろう。
現に、そのすべての旗が曹操軍の兵士にとっては畏怖すべき旗であることは周知だ。
それに対して、曹操軍に立つ旗は曹、李、王、そして十文字の旗。
その他、軍師として荀彧と程昱の旗もその場に立つ。
各所の指揮としては、前曲は曹操自身が、左右の両翼は荀彧と、李典、北郷が指揮をとることに。
王蘭が後曲で全体を見渡しながら、援護に回ることになっている。程昱は王蘭の補助として、その活動を支援することになっていた。
城壁の上には、陣を展開する劉備たちの姿を眺める、数人の人影が。
「さて、向こうもようやく陣形を整え終わったみたいね。」
「そうですねー。こちらは蒼慈さんのおかげでかなり余裕を持ってこの城に入れてますからー。」
「敵も総力をぶつけにきていますね。」
「そう………いい覚悟じゃない。では、行ってくるわね。桂花と風はいつでも動けるように全体に指示を出しておきなさい。」
「はっ、お気をつけて!」
──────────。
「よく来たわね、劉備? こうして私の寝首を掻きに来たことは褒めてあげるわ。ようやくこの時代の流儀に馴染んできたみたいね。」
「曹操さん………。」
曹操と劉備が互いに歩み寄る。
劉備は曹操の姿と言葉を確認すると、悲痛な表情を浮かべる。
そして、そっと口を開く。
「………私はあれから、あなたと、そして徳仁さんの言葉を聞いてから、ずっと考えていたんです。王ってなんだろう? って………。考えて、考えて、考えて。そしてようやく、自分の中でその答えを見つけました。………ううん、見つけたんじゃない、これだと信じてみようって思ったんです。それを今日、曹操さんたちにぶつけに来ました。」
「………そう、それで? 何を見つけたと言うのかしら?」
「はい。それは………信じること。」
「信じる?」
「はい。………私は王として、私を最後まで信じることにしました。そして、私を信じてくれた人たちも、私は最後まで信じ抜くって。私には愛紗ちゃんたちの様に武力は持っていないし、朱里ちゃんのような頭脳も持っていません。けれど、私には叶えたい理想、想いがあります。そして、それを言い続ける私のもとには、こうしてみんなが集まってくれている。………だからこそ、私はあなたにどれだけ甘い理想、叶わぬ妄想だと切り捨てられた想いであっても、それは叶うと信じ続けます。それが、私を信じて集まってくれているみんなを信じることにも繋がるから。」
言葉を区切り、瞳を閉じた劉備はグッと息を飲む。
すると曹操は、どこか彼女が纏う空気が変わったように感じられた。
「私は、あなたがどれだけ私の理想をけなそうとも、私が私である限りそれは叶えられる理想だと信じ続けるんです! そして、それに賛同して集まってくれているみんなのことも! ………曹操さん、あなたの元ではなく、私の掲げる旗に集まってくれているみんなのことを!」
力強い瞳で曹操を射抜く劉備。
以前、曹操の眼の前に現れた人物と同じであることが信じられない程に、心の強さを感じる。
「だから、私は決して立ち止まりません。あなたが私の前に立ちはだかろうとも、決して。………曹操さん、あなたは私に言いましたよね? 私が平定した頃、その領地を奪いにくるって。だから私はここに、あなたを………叱りに来ました。あなたも私が考える、”みんな”の1人だから。みんなが笑って暮らせる世の中にするために、あなたがそうすることを、私は声を大きくして、叱ります。」
「………く、くく………ふふふっ、あはははははははは!!!!!!」
それまでじっと、彼女の発する言葉を黙って聞いていた曹操が、突如笑い始める。
「よくもまぁ、この短期間でそこまで言い切れるまでに成長したものね! 良い! あなたとても良いわ!」
笑いを沈めて曹操が言葉を続ける。
「諸葛亮や関羽に、ただ祭り上げられただけのあなたはもう居ないというわけね。おもしろいじゃないの。私はあなたを評価するわ。………さて、私はあなたとは違って、叶わぬ理想は決して語らないわ。ただ現実として、私はそれを相手に伝えるだけ。それが私の”理想”として。どうすればこの大陸に平和をもたらすことができるのか? そしてそのためには私自身何をすべきか? それらはすべて、夢や幻の理想ではなく、現実なの。その現実に基づいて、私は軍を鍛え、兵を挙げて敵を滅ぼすわ。私の”理想”を叶えるために………ね?」
曹操も劉備に劣らず、覇気を纏い彼女に相対する。
「だからこそ、私は敵対する相手には正々堂々と初めから拳をあげることを示すわ。そして殴って、殴って、殴り抜いて。………そして膝を折った相手を私は慈しむわ。私に従えば、もう殴られることはないのだ、と教え込むの。膝を折らないのであれば、その時は相手を切り捨てるわ。他の誰でもない、私の手によってね。」
「曹操さんなら、そう言うのはわかっていました。………でも、それでも私は、それを決して認めない。”みんな”が笑ってくらせる世界をつくるために!」
「そう? ならこれ以上の言葉は不要ね。私はどうあれ、劉備、あなたを叩き潰すわ。あなたの大嫌い”だった”、力と兵と、命を使ってね? それが嫌なら、あなたの信じるその御旗を掲げて、私にぶつかって来なさい! 私の膝を折ることができたならば、首を取るなり、あなたの理想に従わせるなり、好きにすれば良いわ。」
「………私は、私たちは! 絶対に負けません!」
──────────。
「おかえりなさいませ、華琳さま!」
「えぇ、桂花。全軍は動かせる状態かしら?」
「はいっ、いつでも動かせます!」
「そう、ありがとう。」
「………なんか嬉しそうだね、華琳。」
「えぇ、そうね。とても気分が良いのは認めるわ。さて、雑談はこれで終わり。全軍を展開するわよ! 弓兵を最前列に! 相手の突撃を迎え撃ちなさい!」
「了解っ!」
「その後、第一射が終わり次第、左右の両翼は相手を撹乱なさい! その混乱を突いて、本隊で敵陣を打ち崩すわよっ!」
「御意!」
周りに集まる将たちの顔を見渡し、小さく微笑む。
そしてくるりと向きを変え、整列する兵に向いて号令をかける。
「聞けっ! 勇敢なる我が将兵たちよ! この戦、我が曹魏の”理想”と誇りを賭した試練の一戦となる! この壁を越えるためには、皆の命を預けてもらう事になるでしょう! 私も皆と共に剣を振るおう! 死力を尽くし、共に勝利を謳おうではないか!」
敵陣が動き始めたことを確認し、荀彧が曹操に告げる。
「敵陣、動き出しましたっ!」
それに頷いた曹操は、さらに続ける。
「これより我らは修羅道に入る! すべての敵を打ち倒し、その血で勝利を祝おうぞ! 全軍、前進!」
劉備との一戦が、幕を開ける。
舌戦回!
私なりに劉備の成長した姿を描いてみました。
原作だとかなり嫌われ易い様に描かれてましたが、さてはて皆さんにどう映ったでしょうかね。
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