劉備軍と曹操軍の戦いは、劉備軍から軍を動かした事でいよいよ開戦。
対する曹操軍は弓兵を前列に並べ、これの迎撃を実施。
一斉射が行われた後に、左右に展開する荀彧、北郷・李典の両翼が、軍を進めて敵を撹乱しはじめる。
予め劉備軍でもその対応は予測されていたのか、両翼の突撃を受けても敵はそれほど混乱状態には陥っておらず、落ち着いて対応をとっている。
劉備軍の頭脳、諸葛亮の神算鬼謀は果たしてどこまでこの戦いで発揮されるのか………。
戦局を見ても、流石歴戦の将を抱えるだけあり、関羽、張飛、趙雲ら、一騎当千と呼ぶに相応しい彼女らの指揮が映え、敵軍とは言え一糸乱れぬその統制には目を見張るものがある。
片や、曹操軍。
初撃の作戦を見透かされたものの、一斉射の後の突撃で敵を少し押し返す。
混乱に陥らせることは出来なかったが、相手に与えた影響は上々の一撃だったと言えるだろう。
だが、それは短期的に見ればの話。
ただでさえ少ない兵で、且つ野戦である。
前線のどの戦局に置いても兵数が肝となる戦い方を進めれば、押されるのは曹操軍の方なのだ。
こんな展開力を要する作戦ばかりをするわけにも行かない。
寡兵には寡兵なりの戦い方をせなばならない。
現に戦場に目をやると、初手で押し戻したはずの劉備軍が盛り返してきている。
曹操も対関羽隊の対応に追われて、苦戦しているようだ。
伊達に後の軍神、と言われる武人が率いる隊ではないということだ。
なるべく損耗が少ない状況で城へと引き返したいところではあるが果たして………。
──────────。
「申し上げます! 右翼の荀文若さまより兵の増援要請が!」
「わかりました、城にいる我が隊より送ります。」
「申し上げます! 北郷さまより援軍を、とのこと!」
「承知しました。すぐ手配します。」
ここは後曲を任されている王蘭たちのいる城。
左右の両翼、更には前線の曹操からも増援の指示が飛んできては、そのすべてに対応すべく城にいる兵士を次々に送り込む。
確かに戦線維持はどこも困難を極めており、増援が必要な状況ではあるが、このままでは城を守るための兵士がすべて浪費されてしまうことになる。
いつもは冷静な王蘭も、こんな状況では乱心するのだろうか?
「ちょ、ちょっと蒼慈のおにいさんー。城を守るための兵士を前線に送りすぎではないですかー?」
さすがの程昱も、慌てた様子で王蘭を止める。
「いえ、このまま増援が必要なところには送って問題ないと思いますよ。こんなところに兵士を残しておいても、どうせ無駄になるのですから。」
「いやいやいやー、流石にちょっとその発言はいただけないですねー。普段あんまり動じない風でも、流石にちょっと焦っちゃいましたー。」
「ん、どういうことでしょうか?」
「恐らくこの野戦はひと当てして、華琳さまの姿勢を示すのが目的ですねぇ。であれば、この野戦が一区切りついた時点で籠城戦へと切り替えるわけです。そうなった時のために、こうして城に兵士を残しているのですよぅ。相手を打ち倒せなくても、城に籠もってしまえばまだまだ生き延びる可能性はありますからー。それをこんなに次々と戦場に向かわされると、びっくりしちゃいますよー。」
「むぅ………? 籠城する意味や生き延びる、というのがよくわからないのですが………。」
「蒼慈さんともあろう方がわかりませんかー? ………こんなことは無いと思いますが、蒼慈さん、劉備側に寝返ってるなんて事はないですよねー?」
「な、何を言ってらっしゃるのですか………。そんな訳ないでしょう?」
「むー………風もそんなまさか、とは思っていますが、軍師とはあらゆる可能性を考える必要がありますのでー。それに、なんだか劉備さんにえらくご執心だったみたいじゃないですかー………? 彼女たちが華琳さまの領地を通り抜ける話のときだって、なんだかものすごーくお熱だったって聞きましたよー? ふむふむ、こうして並べてみると、あながちなくもなさそうな気がしてきますねー。」
「い、いや、まぁ、確かに劉備には少し語りすぎてしまったかも知れませんが………そんなわけがあるわけないじゃないですか。何にせよ、籠城まで備える必要なんてありませんよ。なのでどんどん兵士送っちゃいましょう。」
「………理由、聞かせていただけますかー?」
「もちろん。至極単純な話で、我々が勝つからです。」
「もう少し詳しく聞かせてくださいー。」
「劉備軍が動き始めたという報告が我が軍に入ってきてから今日に至るまで、何日の猶予があったか風さんは覚えてらっしゃいますか?」
「………ぐぅ。」
「風さん、起きてください。私が報告を上げてから今日でちょうど七日になりますね。」
「おぉっ!? ………そうですねー。おかげでこうして寝ちゃうくらいに、ゆとりをもって野戦の用意ができましたー。」
「私の隊でいろいろ手を出してみたので、それもあってか、ゆっくりこちらに向かって頂けましたね。思ったよりは早かったのですが。まぁそれは置いておいて、情報を掴んだのであれば、次の手を打っておくのは我々の仕事ですよね?」
「ですねー。華琳さまに怒られない様にするのも大変ですがー。」
「まぁその辺りも今は置いておいて………。で、他の軍ではどうか知りませんが、我が軍に於いてですね、情報取得から七日と言うのは、ちょっと時間を与え過ぎなわけですよ………その証拠に、ほら。」
そう言って遠くを指し示す王蘭。
程昱もその方角を見やると、土煙がもうもうと立ち上っていた。
「申し上げますっ! 遠方より大量の土煙を確認っ! その様子からして、かなりの数がこの城に向け駆け寄ってきております!」
ちょうどそれを確認した連絡兵がやってくる。
「はいはいーこちらからも見えてますよー。旗は誰のものですかねー? 敵軍だと正直かなりしんどい状況ですがー。」
そう言ってじっとその方角に目を凝らす。
「………なるほどなるほど。蒼慈さんが敵じゃなくてつくづく良かったと思いましたよー。どんどん兵士さん送っちゃいましょー。」
「ふふっ、私も風さんが敵じゃなくて心強いですよ? さて、華琳さまたちにご報告して士気をあげて頂きましょうか。」
そう言って近くの兵を数名呼び寄せる。
「我が軍はこれより攻勢にでます。お味方の援軍がそこまできているため、それに呼応する形で攻めぬきます! 至急華琳さまたち前線の将方々への報告を!」
──────────。
「うっしゃあ! 間に合うたみたいやな!」
「急いだ甲斐がありましたね。」
「まったくや! 稟もえぇ道教えてくれて助かったで! ご苦労さん!」
「当然の事をしたまでです。それに、礼ならこの戦に勝ってから言ってください。」
「なんや、つまらんやっちゃなぁ………。ま、ええわ。この戦いに勝ったら、一杯おごったる!」
「ふふっ………はい。楽しみにしていますよ。」
………
「春蘭さま! 城の旗は健在ですよ! 華琳さまたちはご無事です!」
「当ったり前だー! 我らの華琳さまだぞ! そう簡単に負けるはずがあるまい!」
「はいっ!」
「だが窮地であることには変わりない! 急げ急げ! 一刻も早く、華琳さまの元に駆けつけるのだ!」
「そんなに急いじゃみんな疲れちゃいますよー!」
「ぬかせ季衣っ! これしきの速度で疲れる兵など、我が曹操軍にはおらぬ!」
………
「秋蘭さま、城から反応がありました。あれは。」
「うむ、華琳さまたちもこちらの動きに同調して、突撃をかけてくださるのだろう。」
「さすが秋蘭さま、すべてお分かりなんですね!」
「………すまん。今のは全部私の勘だ。だが、華琳さまの事だ。ご健在である以上、こちらの動きを見ればすべて理解してくださるさ。」
「そうですね。それに、本陣には蒼慈さんもいらっしゃいますしね。」
「ふ………まぁそうだな。やつのことなら既に我らの動きも知っているだろうさ。」
「では、こちらも。」
「うむ。稟の作戦に従い、連中の背後から一気に叩くぞ!」
………
「あ、あの左翼にいるの、隊長みたいなのー!」
「どうしてわかるのよ………。」
「えー? 詠ちゃんにはあの桃色な空気感じないのー?」
「わかんないわよっ!!」
「お前たち、もう少し緊張感をだな………。隊長が前線に出て指揮をとっていらっしゃるのだぞっ!?」
──────────。
「申し上げます! 城内の王徳仁さまより伝令! 遠方にお味方の旗を多数確認! その動きに合わせて、攻勢へと移られたし!」
その報告を受けた曹操は、目を遠くへとやる。
そこには確かに多くの土煙が確認できた。
「どうして彼女たちがこんなに早く戻って来られるのかしらね………。まったく、蒼慈には後で問い詰めないと。」
そうつぶやくと、頭を切り替えて全軍の指揮をとる。
「皆のもの!! 我らはこれより敵軍を一気に畳み掛ける! 敵もそれに呼応してこちらに引きつられるであろう! だが、ここが辛抱すべき要所と心得、堪えてみせよ!!」
そうして自らも絶を手に取り、戦場を駆け抜ける。
──────────。
「皆、戦闘準備はできているな!」
「おう! 待ちくたびれたわ!」
「我らはこのまま一気に突撃を掛け、劉備達の背後を叩く! 霞と秋蘭はその隙を突き、崩れた相手を根こそぎ打ち砕くのだっ! 我ら目指すはただ一つ!」
「劉備を打ち払い、我らが主をお救いすることだ!!」
「総員、突撃ぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!!」
原作だと胸アツシーン。
鳥肌めちゃくちゃ立って好き。
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