王蘭が夏侯淵隊に加入して、しばらくの日が過ぎた。
どこか頑固な性格でもあるのか、王蘭は夏侯淵隊へ入隊するときは、
自分の発した言葉通り、「末席」からの始まりに拘った。
その態度は既存の兵にとっても好感の持てるものだったようで、すぐに隊に馴染むことができた。
王蘭は年若い青年ということもあり、新人隊員恒例なのだろうか、
先輩たちからのしごきという名の手荒い”歓迎”を受けながら、日々訓練に邁進。
数ヶ月に渡って続いたその”歓迎”を乗り切ると、めきめきと頭角を表していく。
流石に元警備隊隊長である。
軍の動き方、考え方をあれよあれよと吸収していき、
気付けば入隊僅か半年にして、100人を率いる小隊長になっていた。
規律に厳しくも、実力を重視する曹操軍ならではだろうか。
勧誘された時に提示された役職ではあるが、ほぼ自力で勝ち取った立場と言っていいだろう。
それでも、こんなにも早い出世は異例のことだった。
曹操の側からしても、自力で出世を勝ち取る前例がこうして出てくることで、
他の隊員に好影響を及ぼすと考えて、王蘭の出世を歓迎した。
小隊長として、自分の隊員に訓練をしながらも、
世の情勢に目を向けてみると、やはり各地では盗賊の被害にあう村が多いようだった。
夏侯淵隊もその討伐に赴く事も多く、自分の村よりも小規模な村への出撃も少なくなかった。
このあたりは流石曹操といったところか。少ない民であっても自分の民は守ってみせると言うことだろう。
この日王蘭たちは出撃がなく、ちょうど訓練が終わったところのようだ。
「それでは今日の訓練を終了します。
各位、しっかりと体を休め、疲れを残さないよう留意してください。
では、解散。」
訓練で汗を流した隊員たちがゾロゾロと引き上げていく中、
王蘭に話しかける隊員が。
「王小隊長、最近巷で有名な噂、知ってます?」
「噂…ですか?
いいえ、存じません。どんな噂でしょうか?」
「なんでも、管路って結構有名な占い師なんですけど、
確か…
”そのもの白き衣を纏て金色の星と共にこの地に降り立つべし。失われゆく大地との絆を結び、終に人々を碧き地に導かん。”
だったっけかな?全部あってるかどうかわかんないですけど。」
横で聞いていた別の兵が、
「それ、俺も聞いたことありますよ。
結構街では有名な話見たくて、飯屋行ったら結構な頻度で耳にしますよ。」
ふむ…。と顎に手をやり考え込む王蘭。
「そのような噂、知りませんでした。市井の声を聞く良い機会ですね。
ご報告、ありがとうございます。
………。
でも、一体どういう意味なのでしょうか…。仮に今諳んじてくれたものが正しいものとしましょう。
失われゆく大地、とは、この荒れた大陸を指すのでしょうかね?
だとするならば、その白き衣を纏った何かしらが、星と一緒にこの地にやってきて、
碧き地…これは平和を表すのでしょうか?平和に導いてくれると…。
そんな意味なんでしょうか?
余りにもざっくりとした、大雑把な予測ではありますが………。」
もしもこの予測が正しいものならば、良くない傾向だと王蘭は考えた。
確かに今は世が乱れ、嘆き苦しむ民が多い。
だが、その救済を大陸にいる諸侯や天子様ではなく、
新たに星に乗ってやってくる、得体のわからぬ何かしらに求めている、という点が、
どこか危険な匂いを感じさせた。
王蘭はこの話を夏侯淵にすべく夏侯淵の執務室を訪れる。
「夏侯淵様、王蘭です。お耳に入れておきたい報告があり、参りました。」
「うむ。入ってよいぞ。」
「失礼します。」
部屋に入ると、夏侯淵が竹簡を広げ仕事をしていた。
「あぁ王蘭。今部隊の編成をしていてな。希望があれば聞くが、どうだ?」
「はっ、特に希望は…。将軍の指示に従います。」
「ふむ、そうか…。わかった。急ぎでなければこれを仕上げてしまうから、
少しかけて、待っていてくれるか?」
「はっ。お忙しいところ申し訳ありません。お待ちいたします。」
サラサラと竹簡に筆を走らせ、仕事を進める夏侯淵。
「………これでよし。すまない王蘭、待たせたな。
詫びに茶でも淹れよう。」
「それならば私が。仕事でお疲れでしょうし。
お口に合うかもわかりませんが…。しばしお待ち下さい。」
「そうか…。ではお言葉に甘えようか。」
そう言ってお茶の用意をする王蘭。
そこに雑談といった形で、話しかける夏侯淵。
「どうだ?小隊長殿。立場には慣れたか?」
「え、えぇ。村で警備隊も率いていましたし、むしろ一兵卒として訓練頂いていた、
これまでの方が少し新鮮でした。」
「そうか。華琳様がお前をお引き立てなさった様に、私もお前には期待しているからな…
頑張れよ。」
「はっ、ありがとうございます。
…さて、お待たせしました。お口に合うと良いのですが…。」
「うむ。いただこう。………!!」
そう言って一口茶を啜り、驚愕の顔を浮かべる夏侯淵。
「これは…。すまん。正直ここまで美味しいとは思っていなかった。
うむ、美味いな…。人心地がつく、落ち着く味だ。」
「あ、ありがとうございます…。普段、これと言って趣味もないので、
よく飲むお茶くらいは拘ってみようかと…淹れ方も練習してるんです。」
照れながら返す王蘭に、
「そうか。これから茶を飲むときは王蘭に頼むとしようか。
…さて、何か話があるのだったかな?」
「はい。今日の訓練を終えた際、部下数人から巷で噂になっているという、
占い師の予言があるらしく…。
あまり良いものではないかもしれないと思ったので、お耳に入れておこうかと。」
「噂…?市井の声はなるべく聞くようにしているが、知らんな…。
どんな噂なのだ?」
王蘭は隊員たちから聞いた内容と、懸念していた内容を伝える。
それを聞いた夏侯淵は考えるような仕草を見せたあと、
「確かにあまり良いものではないかもしれんが…。
まぁ現状はそこまで騒ぎ立てる程でもないだろう。折を見て華琳様にも伝えておくが、
お前の方でどうこうする必要はないよ。そんな噂がある、という位に留めておけ。」
「はっ。承知いたしました。では私はこれで失礼致します。」
「あぁ。報告ご苦労だった。茶も馳走だったぞ。」
―――――
数日後、なにやら城内が騒がしくなっている。
「出撃用意!!機動力を重視して整えよ!!」
夏侯淵の声が響き渡る。
つい先程、曹操様より連絡があった。
何やら領内で保管されていた貴重な財産が盗まれたとの事。
南華老仙の「太平要術の書」という本だとか。
それを盗賊から奪還するための出撃である。
夏侯淵隊、夏侯惇隊、曹操隊の各隊準備が整い出す。
いよいよ出陣の号令の間際、曹操が空に何かを見る。
「………流れ星?不吉ね………。」
各隊の出立準備が整った事を確認した夏侯惇が、報告する。
「華琳様!出立の準備が整いました!」
普段なら返答があるであろう夏侯惇の言葉に、反応がない。
不思議に思った夏侯淵が問いかける。
「華琳様…?どうかなさいましたか?」
「………。今、流れ星が見えたのよ。」
あまりの不自然さに、夏侯惇ですら疑問に思い、問い返す。
「流れ星、ですか?…こんな昼間に。」
これに賛同する形で、夏侯淵が曹操の様子を伺うように、
「あまり吉兆とは思えませんね…。出立を伸ばしましょうか?」
と問いかける。
「吉と取るか凶と取るかは己次第でしょう。予定通り出立するわ。」
「承知致しました。」
曹操の言葉にそう返した夏侯淵が、夏侯惇に目で合図を送り、全軍に号令をかけさせる。
「総員、騎乗!騎乗っ!」
出立の用意が整った兵たちに、曹操が声を掛ける。
「無知な悪党どもに奪われた貴重な遺産、何としても取り戻すわよ!………出撃!」
こうして曹操軍は南華老仙の残した書を取り戻すべく、軍を進めるのであった。
ようやく原作ストーリーに準拠できる位置まで進められました。
予言の内容についてはちょっと遊んでしまいました…笑
そして申し訳ない事に、ストックがこれでなくなりました。
短いスパンで更新出来るように執筆中ですが、
隔日の更新になるかもしれません。
誠に恐れ入りますが、ご了承賜りますよう…お願いいたします。