領内の調整がまだまだ完了していない曹操軍に於いて、現状休みというのは大変貴重なものである。
先日は夏侯姉妹との時間を過ごした王蘭だったが、今度は再び夏侯淵との休みを勝ち取ったようだ。
曹操に無理をいって頼み込んだらしく、かの覇王さまは仕事さえこなせればどれだけ休みをとっても文句を言わない御人である。
仕事の鬼となれる王蘭にとっては、比較的取得が容易なのかも知れない………。
さて、その王蘭の部屋に目を向けると、いつしかの様に何やら熱心に雑誌を読み込んでいるようだ。
「ふむ………贈り物、ですか。難しい事を簡単に書きますね。この本は。」
そう言って漢・阿蘇阿蘇の頁をめくる王蘭。
そしてその目に飛び込んできた記事に、驚きの表情を浮かべる。
そこには『特集! 天の国の恋人事情! 天の御遣い様に聞いた、今どきの恋人におすすめの特別情報!』と書かれた特集記事が。
頭を抱えた王蘭が、深いため息をつく。
「はぁ………北郷さん、一体何の仕事してるんですか………。」
そう言いながらも記事を読み進める。どうやら北郷のもとに瓦版の記者が聞き取りに来たらしい。
その内容をまとめた、若い層の男女両方を対象に練られた記事らしい。
ざっと目を通してみれば、記事の前半は天の御遣いである北郷を褒め称える記事が並ぶ。
これは華琳さまの差し金か? などと考えながらも一応すべてに目を通していく。
そうしてようやく特集記事の内容に。
「贈り物は相手の好みに合わせるべし………か。社錬の抜具、着物類、いつもより高級なお店での食事、気軽に付けられる装飾品、あなたの恋人はどれが好み? いや、北郷さんすごいな………伊達に魏の種馬と呼ばれているわけではありませんね………。」
普段仲の良い2人だが、ここまで踏み込んだ話などあまりしない。
互いが互いの情報を知っているが故に、恥ずかしがってこんな話はしないのか………。
だが、そこに書いてある情報は彼にとって納得のいくものばかりのようだ。
「秋蘭さんは高級な抜具では無いですね、恐らく。他のどれも人並みには好きそうではありますが………難しい。」
更に読み進めると、こまっている王蘭を救うための一文が目に飛び込んでくる。
『確実に相手が喜ぶものでなければ、驚き演出は避けるべし! 驚かせて百二十点の評価を得るか、零点の評価を得るかの賭けに出るよりは、驚きはなくとも直接相手の求めるものを一緒に買いにいく、九十点を貰える選択肢こそ最善の手である。』
こうも言いきれるあたり、踏んできた場数が違うのだろう。
「なるほどなぁ………でも装飾品は良いかもしれませんね。明日の予定に入れておきましょう。」
彼が最後に見ていた頁にはこうも書かれている。
『付き合い始めたばかりの恋人は、互いの愛を身近に感じるためにも指輪を贈り合うのが天の御遣い様のイチオシ!』
──────────。
翌日。
身綺麗に支度を整えた王蘭が、城の入り口で夏侯淵を待つ。
こうした逢引きも慣れてきているのか、ゆったりと寛ぎながら彼女の到着を待てているようだ。
「蒼慈、すまない。待たせたな。」
そう言って駆け寄ってくる夏侯淵。
いつもの夏侯惇とお揃いの意匠の服ではなく、しっかりとめかし込んで来るのはいつものこと。
逢引きの度、王蘭は新たな装いの彼女を見て楽しめるのだ。
「いえいえ。こうして秋蘭さんを待てるのも私の特権ですので。今日も素敵な着物ですね。よくお似合いです。」
「何を馬鹿な事を………。だが、ありがとう。」
呆れながら言う夏侯淵も、まんざらではない表情を浮かべる。
付き合い始めた当初はこんな事言える男ではなかったはずだが、これも夏侯淵の教育の賜物かも知れない。
その夏侯淵はしっかりと王蘭と腕を組み、並んで街へと歩き始める。
しばらく街を歩いていると、やはりすれ違う男どもはついつい振り返って夏侯淵の姿を目に収めようとしてしまう。
ただでさえ美人の夏侯淵が、めかし込んだ上に男と腕を組みながら幸せそうに歩くのだ。
ついついぽーっと惹かれてしまうのも、無理からぬ話だろう。
「蒼慈、今日はどこに行くのだ?」
「今日はですね、秋蘭さんと是非一緒に行きたい店がありまして………もうすぐ着くと思いますよ。」
「ふむ、そうか。楽しみにしているよ。」
いつもであれば、行き先は2人で協議して決めるのだが、この日は王蘭が行きたい店があるからと、行き先を知らされぬまま街を練り歩いている夏侯淵。
普段はあまり見せないその姿が珍しいからか、いつもよりも楽しんでいる雰囲気が伺える。
目的の店はどうやら雑貨屋や装飾品店が立ち並ぶ通りにあるらしい。
この通りを歩く層を見てみると、若者の男女の割合が多くなっているようだ。
そしてそういった通りだからなのか、この人物たちに出会うのは仕方の無いことかも知れない………。
「あー! 秋蘭さまと蒼慈さんなのー!」
「おっ、ほんまやん! ひゅーひゅー! おふたりともお熱いですねぇ!」
「こ、こらっ、沙和! 真桜! おふたりの邪魔をしちゃ悪いだろう!!」
三羽烏の于禁、李典、楽進の3人である。
彼女らもこの日は休みなのか、仕事の時間外なのか、通りにある喫茶店で寛いでいたようだ。
「沙和たちではないか。今日は北郷は居ないのだな?」
「隊長はなんや書類まとめなあかんとかで、城にいますわ。せっかくこんな可愛い乙女3人が誘ったっちゅうのに………なぁ?」
「そうなのー! お茶代だって馬鹿にならないのにぃ。」
「こら沙和。それでは隊長に奢ってもらうために誘っているように聞こえるぞ?」
「あ、あははは………。それよりも、なの! お二人さん、お熱いですねー? 沙和たちの前でも、そうやって腕くんだままなのー!」
上手く流されてしまった3人だが、この手の話題に于禁が突っ込まないわけがなく。
王蘭たちも王蘭たちで、腕は組んだまま3人と平然と会話をしている。
夏侯淵が離すまい、と掴んでいるわけでもなく、王蘭自身もその状態を当たり前の様に受け入れているようだった。
「あぁ、お陰様で仲良くさせてもらっているさ。なぁ、蒼慈?」
「えぇ、お陰様で。みなさんはあれから北郷さんとの距離は縮まりましたか?」
からかい目的の2人に対して平然と返す王蘭たち。
「………すっごーい! 蒼慈さんて大人なのー! 隊長も私たちといる時は蒼慈さんみたいに堂々としてほしいのー!」
「なんでそんなに耐性ついとるんやろ? からかった側のはずのうちらの方がなんや恥ずかしなってくるわぁ………。」
「流石は蒼慈さん、実に男らしいご対応です!」
「ありがとうございます。まぁ皆さんの他にも華琳さまを始め色々な方に気にかけて頂いているので………。」
そう言って苦笑いを浮かべながら返す王蘭。
夏侯淵の方はどこ吹く風で全く気にしていないようだ。
「まぁ北郷さんとの話でまた何かお力になれることがあれば仰ってください。それでは私たちはそろそろ行きますね。」
「あっ、引き止めちゃってすみませんなのー! 秋蘭さまっ、素敵な休日をお過ごしくださいっ、なのー!」
「こら沙和、蒼慈さんもご一緒にいらっしゃるのだから………。」
「なぁぎぃ。こういうんは、女性の秋蘭さまだけに言うて大丈夫なとこやで?」
にしし、と笑う李典に苦笑いしか返せない王蘭。
「うむ、ではな。お前たちも良い時間を過ごせよ。」
夏侯淵がそう言うと、2人は再び歩を進める。
三羽烏に会った店から少しいったところに、王蘭が目的にしていた店はあった。
「お待たせしました。こちらが、私の行きたかった店です。」
「ここは………華琳さまのお召になってる髪飾りなどを取り扱う店ではないか………?」
「はい。華琳さまにどちらでご購入なさっているのか事前にお伺いしてから来ましたので。」
「お前がどうしてまた、このような店に来たがったのだ?」
「えっと、ですね………。今日は一応、2人にとっての周年の節目になるので、記念にと思いまして。」
そう照れながら言った王蘭に、驚いた表情を浮かべる夏侯淵。
先程の様にからかわれるのは耐性がついているようだが、夏侯淵と2人での会話に於いてはその限りではないらしい。
「覚えていたのだな………。」
「それはまぁ、はい。流石に覚えています。」
「ふふっ、そうか………まぁせっかく来たのだし、入ってみようではないか。」
嬉しそうな表情を浮かべながら、店に入る2人。
実はこの日は2人が付き合い始めた記念の日。
それを祝うために、この日をなんとか休みになるよう調整したと言うことだろう。
確かに、このためならば仕事の鬼になる王蘭の姿など容易に想像がつくというもの。
さて、それが叶った王蘭。
しっかりと夏侯淵に似合う装飾品を選べると良いが………。
秋蘭さんと2人の拠点フェーズ!
やっぱりこんな2人のシーンを描かないとね…!笑
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