真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第五十三話

 

 

劉備との戦を終えた曹操軍は、これまでの様に各地豪族たちとの折衝や、盗賊討伐へと再度取り掛かる。

 

すると、これまで難色を示していた豪族たちがまたたく間に曹操に恭順すると申し始めるではないか。

一体何があったのか? と訝しむ将たちだったが、それを確認するとどうやら先の劉備との戦において、開戦時はかなりの寡兵であったにも関わらず、いざ蓋を開けてみれば曹操軍の圧勝だったことが、遠い河北の地へも伝わっていることがわかり、ならば、と態度を改める豪族たちが続出したようだ。

 

思いもよらぬ効果を目の当たりにした曹操は、いよいよ大陸の行方が定まってきている事を実感する。

 

これにより、再び各地へと折衝に赴いていた将たちは、陳留へと上々の成果を引っ提げて帰還。

河北四州、徐州に司隷と一気に領地を広げた曹操が、大きく治世を前進させたのだった。

 

 

………そうなると、いよいよ大陸きっての大国となった強みが出てくる。

 

兵に糧食といった軍の備えはもちろん、商人の往来も活発になり国内経済が循環し始める。

そうなると簡単には止まらない。富が富を生み、豊かな生活が悪意の根源を駆逐していく。

 

これまでは武官の活躍が大きく目立っていたが、今となっては文官の悲鳴が聞こえない日は無いのだとか………。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

「………さて、次の議題ね。」

 

 

陳留の玉座の間では全ての将が集まり軍議が行われていた。

領内の状況の確認や、先の豪族との折衝についての確認が今しがた終わり、いよいよ次にどう動くかの議題が進められる。

 

 

「はっ、領内の状況は先の議題でもありました通り、凡そが一段落がつき、いよいよ次の攻略へと移って問題ないかと思われます。」

 

「はいー。南方への警戒は引き続き行わなければなりませんが、その前に後顧の憂いを断っておいて損はないかとー。」

 

 

荀彧、程昱がそれぞれ曹操へと上申する。

賈駆と郭嘉の残りの軍師たちもそれに賛同するように頷いてみせた。

 

 

「むぅ………? こうこのうれい………?」

 

「はははっ! 季衣、お前分かっていない顔だなぁ。」

 

「春蘭さまはわかったんですか!?」

 

「ふふーん、当たり前だろう! 良いか? ”こうこのうれい”とはな………後々出てくる心配ごとを先に片付けておく、と言う意味だ!!」

 

 

春蘭の言葉を聞いた一同が、驚異の速さで彼女の方を振り返る。

 

 

「なんだっ!? ………な、なぁ北郷。私、もしかして間違った事を言ったのか………?」

 

 

そう恥ずかしそうにしながら北郷へと確認する夏侯惇。

 

 

「い、いや………あってるよ! すごいじゃないか、春蘭!」

 

「で、では何故みんながこっちを向いているのだ………?」

 

 

あっているのにこんな反応を見せられては不安になってしまうのだろう。

北郷に褒められた後も体を小さく縮こまらせている。

 

 

「春蘭………私は今猛烈に感動しているわ………。秋蘭、あなたの教育かしら?」

 

「い、いえ………私もかなり驚いております。姉者自身で学んだのでしょう。」

 

「そう………春蘭!」

 

「は、はっ!」

 

「今夜はたんと可愛がってあげるわ! 仕事が片付いたら急いで私の部屋へいらっしゃい! 今日は何でもお願いを聞いてあげるわ。」

 

「は、はいっ、華琳さま………!」

 

 

思わぬご褒美で、ニヘェっとだらしない顔を浮かべる夏侯惇。

 

 

「春蘭さま、すっごぉい!!」

 

「どうだっ! 季衣も良く勉強しろよ?」

 

「はいっ!」

 

「ふふっ、季衣、わからないことがあれば誰でも良いから何でも聞きなさい。学ぶ事はとても大切なことよ。………さて、話がそれてしまったけれど、我が軍の基本的な指針は桂花が言ってくれた様に、次の攻略へと動き出します。武官の皆は兵の調練を、文官の皆は戦に向けて糧食などの準備を進めなさい。整い次第、動き出すことにします。」

 

「「はっ!」」

 

「我らが次に向かうのは………西涼。馬寿成の治める涼州よ。」

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

それからしばらくして、そろそろ戦の用意も整いそうな頃。

諜報に出ていた兵からの報告を聞いた王蘭は、彼には珍しく渋い顔を浮かべていた。

 

 

「うぅむ………困りましたね。今回我らは全く役に立たないかも知れません。」

 

 

そう言うやいなや、曹操の元へと向かう王蘭。

諜報活動があまり上手く行っていないのだろうか。

 

曹操の部屋の前に立ち、扉を3度コンコンコンと叩く。

 

 

「華琳さま、王蘭です。ご報告があって参りました。」

 

「蒼慈? 構わないわ。入りなさい。」

 

「なっ! か、華琳さまっ………!!」

 

 

中から荀彧の慌てた声が聞こえてくるが、入るように促されてしまっては入らないわけにもいかない。

 

 

「………失礼します。」

 

 

気持ちばかりのものかも知れぬが、一息ついてから部屋に入ると、息を切らせた荀彧と、椅子にゆったりと腰をかけ得意げな表情を浮かべる曹操の2人が。

荀彧の服も若干の乱れが見て取れる限り、いつかの様に致していたのだろう。

 

 

「”のっく”とは誠に良い文化を教えて頂いたものです。………馬騰の治める涼州での諜報についてご報告があり参りました。お取り込み中であれば、改めますが………?」

 

「ふふっ、構わないわ。馬騰に関する情報は優位が高いもの。で、何?」

 

「はっ。西涼の様子をあれから探らせてはいるのですが、結果から申しましてあまり芳しくありません。というのも、西涼は騎馬民族が多数寄り集まった地域。そのため、領主の馬騰や馬家は筆頭として存在はするのですが、その他の部族に関しては完全に独自での運用が成されており、また馬家もそこには深く足を踏み入れている様子がありません。」

 

「………つまり?」

 

「馬家の情報を仕入れたとしても、他部族の動向がそれに伴うものではないため、情報の優位がそのまま戦略的優位に動けるかどうか怪しい、ということです。情報の価値がこれほどまでに著しく下がることなど、経験したことがありません。」

 

「ふむ………。反董卓連合のようなものかしら? ただし、あれとは比べ物に成らないほどに連携ができているにも関わらず、これと言って密なやり取りがあるわけでもない、と。」

 

「はい。何度かそのやり取りの情報を仕入れはしてみたのですが、伝えられる情報は敵の出現地と何時頃現れたかのみでした。」

 

「………たったそれだけの情報で五胡の侵略を抑えているというの? それを思うと逆にすごいわね。桂花、どう思う?」

 

「はい、仮に蒼慈の言う通りのやり取りしか無いのであれば、今回我らが軍を進めた所でそれぞれの部族単位で動くのは間違いないでしょう。少単位ならば仲間意識も強く、斥候兵を忍ばせることも容易ではない事に加えて、あまり有益な情報は得られないかも知れません。」

 

「ここに来て蒼慈の天敵が現れたようね………。」

 

 

なんだか嬉しそうな表情を浮かべる曹操。

自軍の斥候隊が上手くいかない初めての経験が、より今回の戦いへの期待を高めさせているのだろう。

 

 

「いいでしょう。蒼慈、あなたは今回の戦は出陣せずに城に残って守将となりなさい。そして西涼の更に先、西と南に向けて軍を動かす時に備えて、情報はそちらを中心に集めなさい。詠は西涼出身だからこちらに同行させたいのだけれど………そうね。代わりに、風を残して行くわ。2人で上手くやりなさい。」

 

「はっ。承知致しました。ではこれから風さんの元へ向かってお伝え致します………では。」

 

 

こうして王蘭は西涼への侵攻には不参加となった。

西涼よりさらに南西にいる劉備、曹操の領地から南には孫策がそれぞれ構えている。

 

 

これから曹操軍が国として大きくなるには彼女らの情報を掴むことは必須になるだろう。

如何に素早く正確な情報をつかめるか………それは王蘭たちの活躍にかかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本編です。いよいよ涼州攻略ですが、今回は王蘭さんお留守番。
その間に如何に劉備と孫策の情報をつかめるか?


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