真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第五十五話

「お待たせしました。ちょっと味わい変えてみたのでお召し上がりください。」

 

「おぉーありがとうございますよー。」

 

 

そう言って蒼慈から湯呑を受け取った程昱は、ゆっくりとそれを傾げて茶をすする。

 

 

「はふぅぅぅ………。先程のお茶よりも苦味が強くて味が深いですねぇ。」

 

「えぇ。気づけば長い時間今後についてお話してましたので、頭をキリッとさせるためにも、ね。」

 

「それはあれですかー。風が寝ちゃうとか思ってる感じですかー?」

 

「そこまで厭味ったらしくないつもりですよ。お茶請けも持ってきましょうか。」

 

「おぉ良いですねぇ。風も秘蔵のお菓子をお出しするのですよー。」

 

 

そう言って程昱は自身の机をゴソゴソとあさり、とっておいたのだろうお菓子を引っ張り出す。

王蘭は王蘭で、自身の部屋からお茶にあうお菓子を持ってきて並べた。

 

 

「蒼慈さんと一緒にお留守番しちゃうと、太っちゃいそうですねー。これは気をつけなければ。」

 

「ふふっ、それは大変ですね。お茶は是非ゆっくり味わってみてください。………さて、続きお話しましょうか。」

 

「はいー。」

 

「まずは先ほど話題に上がってました、孫策軍への諜報ですね。………やはり周瑜さんのところに忍び込むのは至難の業と言えますね。」

 

「その心はー?」

 

「まず、周泰と甘寧という孫策軍の誇る諜報部隊の二枚看板が常に目を光らせています。次に、あそこの軍は仲間意識が異常に高く、軍の中までは比較的どことも変わらず潜入は出来たのですが、上に行けば行くほどに、身の上がしっかりと分かっている人物で、かつもともと将たちに覚えの目出度い内輪組織になっているようですね。」

 

「そうなんですねぇ………。そこまでいっちゃうと、もう内部に潜り込むんじゃなくて、外部から探るしかなさそうですねー。」

 

「うーん………敢えて二枚看板から攻めて見るのも良いかも知れませんね。」

 

「風はなんとも言えないので、蒼慈さんの思うようにしたらいいと思うのですよー。向こうさんにも、こちらが色々仕掛けてるのはきっとお分かりなのでしょう?」

 

「どうですかね………まぁ最近増えたな、とは思っているかも知れませんね。」

 

「ならばもう、戦のきっかけにならない程度にやっちゃっていいんじゃないですかー?」

 

「大胆なことをさらっとおっしゃいますね………でもまぁ、ある程度危険をとらないと難しそうなのは間違いないので、色々試してみます。」

 

「そうですねーそれがいいですよー。さてさてーちゃんとご相談のったので風とのお約束、ちゃんと守ってくださいねー?」

 

「もちろんです。助かりました、ありがとうございます。」

 

 

こうして長時間に渡って2人の会議は終了した。

対劉備陣営に対する措置については会議の中で参考になるものは多く見つかったが、やはり孫策軍に対しては色々試してみる他ないという結論に。

 

自軍と違って、有力な将が2人も諜報に特化している事が王蘭の行動をやりづらくさせている。

それならば、とその本人に手を出してみる事にしたようだが、果たして上手くいくのか………。

 

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

それから数日は特に大きな進展もなく日々内政をこなしていく王蘭と程昱。

片や軍師で片や情報取りまとめを生業とする人間。

 

書簡を片付けていくのを得意とする2人は、淡々と仕事の山を片付けていく。

 

曹操たちが居ない間も、陳留などの領地は人々が活動している。

そのため仕事はいつであろうとしっかりやってくるものだ。

 

2人はそれぞれの仕事もこなしつつ、不在の将の仕事も少しずつ処理を進めていく。

 

ようやく一息つけるかと言う所で、涼州にいる曹操たちから伝令が届いた。

 

 

「申し上げます! 西涼の馬騰との戦いは我らの軍が勝利! 残兵の掃討を行い、州内の平定をある程度実施した後に曹孟徳さまが帰還されます!」

 

「承知しました。ご苦労さまです。」

 

 

そう言って受け取った情報を程昱に共有する。

 

 

「無事平定できましたかー。特に大きな報告もなかったので皆さんご無事のようですねー。ぱちぱちー。」

 

 

伝え聞いた程昱が手を叩きながら彼女らしく勝利を喜ぶ。

それを見た王蘭は微笑みながら、主の帰還の準備に取り掛かる。

 

 

「我々も華琳さまご不在の間の状況を取りまとめにかかりましょうか。帰還されるまで数日はかかるとは思いますが、まとめておいて悪いことはありません。」

 

「そうですねー。風も蒼慈さんの諜報活動状況についてちゃんと知っておきたいですし。風から桂花ちゃんや稟ちゃん、詠ちゃんに共有出来るようにしておいた方が、何かと楽ですしねー。」

 

「そうですね。よろしくお願いします。」

 

 

そうして2人は最近の活動の状況と成果を取りまとめる。

その間にも孫策軍からの兵が数人帰還し、状況をあげていった。

 

 

 

──────────。

 

 

 

「華琳さま、お帰りなさいませ。涼州平定、誠におめでとうございます。」

 

「えぇ、帰ったわ、風、蒼慈。領内は特に問題はなかったかしら?」

 

「何も問題はありませんでしたよー。風は蒼慈さんのお茶を飲みつつ、ゆっくりお仕事できたので平和なものでしたよー。」

 

「あら、じゃあこのあとの軍議では蒼慈は皆に茶を振る舞いなさい。心落ち着かせながら状況の確認をしようじゃない。」

 

「はっ、かしこまりました。」

 

 

そう言って曹操たちは軍備の片付けなどのために一度解散。

将たちはその後、再び軍議の間へと招集されることになった。

 

 

 

………。

 

 

 

「では………これより軍議を始める。まずは涼州平定についてね。秋蘭。」

 

「はっ。涼州攻めでは敵は主に馬騰の娘、馬超が指揮を取り、西涼の敵本陣にたどり着くまで度々我らへと強襲が行われました。しかし、張三姉妹による敵地領内での作戦によりこれを緩和。また自陣において決戦前に兵の士気向上を狙って行った作戦も功を奏し、馬騰との決戦はこちらに大きな損害もなく勝利することができております。」

 

「そうね。馬騰が病に倒れ、毒を煽って自害してしまったことは残念でならないけれど………。仕方のないことでしょう。稀代の英傑であっても病には勝てなかったということ………。皆も、くれぐれも気をつけておくように。」

 

「そうだったんですねー。ちなみに涼州内の制圧は如何ほどお進みですかー?」

 

「そうね、まずは馬超、馬岱の両名は逃亡。おそらく南下して劉備陣営に加わったのでしょう………。領内の敵対勢力については、もともと家を持たない牧民だったこともあって、さっさとどこかへ行ってしまった様ね。敵対しない領民だけがそのまま残っていて、平定は予定よりも順調に進んでいるわ。」

 

「了解しましたー。それじゃー風たちの報告の番ですねー。皆さんが出陣されてる間も徴兵や糧食の備蓄、経済活動活発化のためにと色々と処理をしておきましたー。こちらも順調に進んでいますので、今回の涼州遠征分くらいは直ぐにでも補充できる見込みですー。次の戦がいつ頃になるかはこれから軍師のみんなとお話しますが、それに向けて順調に進められるかとー。」

 

「そう、桂花たちは帰ってきて早々で悪いけれど、次に向けての準備を進めなさい。」

 

「では私から報告ですね。後ほど軍師の皆さんにも共有させていただきますが、敵情については全体で共有しておきましょう。まずは劉備軍ですが、」

 

 

劉備軍

 

主な将:

劉備・関羽・張飛・趙雲・黄忠・魏延・厳顔・公孫瓚・呂布・華雄

 

軍師:

諸葛亮・龐統

 

近況:

益州平定に注力しており、曹操軍への攻撃は今の所見受けられない。

 

 

「といった具合です。益州平定に伴って、黄忠、魏延、厳顔の3名が新たに陣営に加わり、ただでさえ猛将が揃う陣容だったのが更に強化されたものと思われます。ただ、諸葛亮と魏延の仲はあまり良好とは言えず、どこかで綻びが出てくる可能性も。その諸葛亮に加えて、もうひとりの軍師龐統と2名ともが、伏竜鳳雛と呼ばれるほどの知略の持ち主のようです。2人のとる策はまさに神算鬼謀だとか。」

 

「関羽ぅぅ〜………えぇなぁ………。」

 

「霞、落ち着きなさい。それよりも恋に加えて、華雄も劉備軍に居るのね………猪だけど、使いようによっては厄介よ。僕たちは汜水関であいつの暴走を抑えられる将を配置できなかったのが問題だったけれど、その不安が無いのならあの武力は正直怖いわね。あの大連合軍に無謀とも言える突撃をしたにも関わらず、無事に生きて帰れてる時点で正直おかしいくらいよ。」

 

「詠の言うとおりです。こちらにも春蘭という同類が居ますが、華琳さま一の大剣として大陸に名を馳せています。諸葛亮によってうまく使われれば厄介になるでしょう。」

 

「華琳さま一の大剣とは、桂花も私のことがよぉーく分かってきたようだな! ふはははははっ!」

 

「姉者………。」

 

「えっと。報告にはまだ続きがあるのですが、正直判断に迷います。………劉備陣営内にて、袁紹、文醜、顔良の3名の姿を確認しております。」

 

 

「………。」

「………。」

「………。」

「………。」

 

 

「そ、そう………まぁ顔良、文醜については出てくるかも知れないけれど、あれを抑えておくためにも諸葛亮はそれを許可しないのではないかしら?」

 

「私も華琳さまの仰るとおりだとは予想していますが………劉備がうまく袁紹を操れるのなら、あの強運は正直怖いですね。」

 

「い、今はそんな不確定要素に考えを奪われるよりも、他の事に目を向けなさい。いいわね!」

 

「は、はっ。では次に孫策軍についてですね。」

 

 

孫策軍

 

主な将:

孫策・孫権・孫尚香・黄蓋・甘寧・周泰・呂蒙

 

軍師:

周瑜・陸遜

 

近況:

袁術から独立してから、地盤固めに注力している。孫策軍もこちらに手を出せる状況ではなさそう。

 

 

「孫策軍は内情的には王族の孫家が母体となっている軍ですね。正直に申しまして、周泰と甘寧の両名がかなりやっかいといいますか、諜報に対して強く、なかなか内部の深くまで潜り込めていない状況です。あと、孫策軍の特徴としては軍師も武将並に戦えるという事。現場で戦略的な判断ができるのは強みになりえますので、これを如何に発揮させないかが、戦闘時には重要な点になってきそうです。」

 

「それに………私や劉備と違って、血筋が3人いるのは大きいわね。たとえ孫策が倒れたとしても、孫権が、その次には孫尚香が遺志を継いで御旗になることができるというのは、思いの外部下に好影響を与えているのでしょう。」

 

「ボクと流琉がいる限り、華琳さまにそんな目には合わせませんっ!」

 

「はいっ! 季衣と私にお任せくださいっ!」

 

「ふふっ、2人ともありがとう。期待しているわ。」

 

「………孫策軍、揚州といえば江賊なども発生しているとか。」

 

「はい、稟さんが仰ったように江賊はいたんですが、その頭領が甘寧なんですよ。もともと義賊の様な立ち振舞だったみたいですね。甘寧が加入することによって、操舵ができる戦闘員がまるまる孫策軍に加入したことになります。」

 

「そうなると船での戦いはちょっと厄介ですねー。」

 

「こちらは先程申しました通り、あまり深くまでつかめていませんが、こんな状況です。」

 

「そう、今の所はそれで十分よ。引き続き、努めなさい。」

 

「はっ。」

 

 

ざっと全体の状況整理を終えた曹操軍。

涼州も平定し南征へと着手するに不安のなくなり、いよいよ大陸の情勢が大きく動き始める匂いが漂い始める。

 

将たちの表情を見ても、それをどこか感じさせていた。

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと説明回になっちゃいましたね。
無事涼州平定。お留守番だったのでサクッと終わらせちゃいました。
いよいよ感が強いですね。いやーどうなるやら。

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