真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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今回は北郷一刀くん心理のみの描写です。
彼が何を感じ、何を思っているのか。

これまでの振り返りと、彼の決意を覗いてみましょう。




第五十六話

 

軍議を終えて将の皆は、各々の仕事に取り掛かるべく、軍議の間から次々と離れていく。

そして皆のその顔には、総じてある種の決意を感じさせる何かがあった。

 

皆のその表情を見ていて、俺はいよいよ大陸の行く末を決める決戦が近づいているんだ、とひしひしと感じた。

 

もちろん、この世界に来るまでの自分が知っていた歴史とは、随分異なる展開になっていることは重々承知している。

だけど。それでも。………やっぱりあの大戦を意識せずにはいられないんだ。

 

 

 

………。

 

 

 

 

軍議の間から出た俺は、自分の部屋に戻ってゆっくりと考える。

 

 

河北四州を始め、王都洛陽が存在する司隷など、広大な領地をその手に収めた華琳。

その様子をずっと横から見てきたけれど、やっぱり華琳はこの時代に於いても英雄なんだなぁ、と、まざまざと感じさせる。

 

正直、自分みたいなただの高校生だった男が、その英雄の横に立ってていいのかな?なんて思ったりもするんだけどさ。

 

ただ最近になって、ようやく気づけたこともある。

 

………華琳だって、普通の女の子なんだなってこと。

 

 

ずっと、自分が1番でありたい、あり続けなければならない、みたいに常に発信し続ける華琳はやっぱりすごく尊敬できて、格好いいなって思うことばかりだ。

けれど、そう言ってる割には横に並び立てる存在を見つけると、それをとても快く受け入れるんだよね。

むしろ熱烈に歓迎しているほどだ。あの劉備さんにだってそうだったわけだし。

 

そんな華琳に気づいてからというもの、やっぱり王は孤独なものよ、なんて言いながらも、誰かと分かち合いたいって時もあるんだろうなーなんて考えたりもする。

 

こんなことを聞いたら、華琳は怒っちゃうんだろうな………。

でもやっぱり、自分の気持ちを誰かと共有できたなら、って考えちゃうよな。

 

横に並び立てる資格のある人物を、自らの力で捻じ伏せ、乗り越えていくことで、王者として、覇者としての評価が高まるっていう考え方や理屈もわかるんだけどね。

 

やっぱり、良いことがあったり、嫌なことがあったりすると、普通は誰かと共有したいもんだよ。

 

春蘭や秋蘭にも、もちろん共有はできるとは思うけど、彼女たちは飽く迄部下なんだ。

その立ち位置に誇りを持ってるし、華琳も彼女たちにはそれを求めてる。

 

それで普段は特に問題ないんだろうけど、ただ話を聞いてもらいたい時って実は、華琳は飲み込むしか無いんだろうなーって。

それがなんとも可愛そうで、俺は華琳にそれを諦めてほしくないって思った。

 

 

この大陸にいる人物がなり得ない、なりにくいのなら、俺がそれになろうって思ったりもしている。

 

 

この時代ではない、どこか遠くの世界からやってきた、よくわからない立ち位置、存在の俺なら、俺だからこそ、彼女にとって部下でもあり、よき友でもあり、孤独な戦いを続ける可愛い女の子を支える男にだってなれるのかな、なんて思ってる。

 

そのためには、これからもっとしっかり頑張って成長していかなくちゃな………。うん、頑張ろう。

 

 

 

そう言えば、この世界に来てからどれくらいの年月が経ったんだろう?

 

初めて華琳に会って、拾われて。気がつけば、もう涼州を平定するところまで進んできた。

 

 

その間にも、黄巾党や反董卓連合軍、それに対袁紹戦などなど。色々な出来事を体験してきたなぁ………。

振り返ってみると、本当にあっという間だった。

 

右も左もわからないような俺に、華琳は仕事を与えて任せてくれた。

それになんとか一生懸命応えようとしてたら、可愛い部下までつけてくれた。

 

まぁ、正直あの3人は色々と問題を起こしたりもしちゃうけれど、それでもやっぱり愛すべき可愛い部下たちだ。

それに、なんやかんや言いながらも、しっかり隊長って慕ってくれてるみたいだしね。

 

 

そうやって仕事をこなすこと、人と触れ合うこと、人に対して責任を負うことを経験してきた。

 

 

………そして、たくさんの戦争も経験してきた。人の死を、間近で感じてきた。

 

 

やっぱり、何度経験したって慣れるもんじゃないよ、あれは。

それでも、その人達の犠牲の上に、俺たちが叶えたいと思ってる平和が成り立つんだ。

たとえ自分の命令であろうとなかろうと、決してそれから目をそらしちゃいけないんだ。

 

 

俺は弱いから、ついついすぐに逃げ出したくなったり、目をつむりたくなっちゃうけど。

ふと横を見れば、決して目を逸らすことなく、それを当たり前だと思うこともなく、正面からじっと向き合う華琳の姿があって。

 

それはとても眩しく見えたし、同時に震えているようにも見えた。

 

 

最初はただ毅然と立ってる華琳の姿にしか見えなくて、あぁやっぱり華琳は強いなぁなんて思ってたけど、いつ頃からだったか、同時に震えているようにも見え始めた。

それに気づくと、あ、俺もしっかりしなきゃ、華琳だって頑張ってるんだ、って強く思えるようになったんだよな。

 

この辺も、さっきの決意に繋がってたりする。

 

 

 

そうそう。

 

この世界に来てからというもの、みんな可愛い女の子ばっかりで正直戸惑ってたんだけど、男の友達も出来たのは嬉しかった!

蒼慈さん。もともと秋蘭の隊に昔からいる人で、今は曹操軍全体の諜報部隊を取り仕切る将だ。

 

今思えば、蒼慈さんって俺の記憶の中にある三国志には登場しない人なんだよなー。

ただ俺が忘れちゃっただけなのかも知れないし、史実に残るような人ではなかったのかも知れない。

 

まぁ今も諜報部隊の取りまとめやってる人だし、史実上でもその役割担ってて、表舞台に出てこられなかったのかも知れないしね。

 

まぁあの秋蘭………夏侯淵とカップルになるような武将? だから名前くらい残ってても良さそうだけどなーなんて思ったりもする。

深く考えても答えなんて出てこないんだけどさ。

 

 

んで、その蒼慈さんとは友達として1番仲良くさせてもらってる。

 

やっぱり、この世界の主だった将は皆女性。どうしても女尊男卑な面はあってなのか、男の武将ってどこの国にも居ないんだよね。

それもあって、やっぱり男同士で過ごすのは気が楽。飯行ったり、真桜と沙和の愚痴聞いてもらったり。

正直、蒼慈さん居なかったら俺ストレスやばかったかも知れない。

 

 

そういや、1度警備隊の隊長代理も1日限定で引き受けてもらったこともあったな。

兵からの評判はなかなか良くって、それから蒼慈さんの訓練を模したゲーム感覚でできる訓練も設けたりした。

 

 

仕事だけじゃなくて、女性についての悩みもよく相談させてもらってる。

 

秋蘭と蒼慈さんが付き合い始めるまでは、逆に俺の方が相談にのることが多かったのに、今となっては完全に逆転。

何せ、蒼慈さんは秋蘭とまさにラブラブ。周りの方が遠慮しちゃうくらいな時もあるもんな、あの2人。

 

それに比べて俺は………魏の種馬なんぞという、不名誉な二つ名がついてしまった。

これを広げたのは真桜、沙和あたりだろうと睨んではいるが。

 

まぁ今はそれは置いておこう。

 

 

こうして、たっくさんの影響を与えてくれる人たちに囲まれて、今までなんとかやってこられた。

だからこそ、その恩に報いるためにも、そして何より俺自身のためにも、皆が支える華琳の大望、夢を叶えさせてあげたいって思う。

 

 

大陸に覇を唱え、其の全てを集中に収めて平和をもたらす。

 

 

この荒れた時代に、夢物語だと一笑に付されてもおかしくなかった、まさに大言壮語だと馬鹿にされても仕方のないくらい、大きな夢。

それでも、どれだけ批判を受けようとも着実に進み続け、今となっては大陸一の領土を持つ王になった。

 

 

残り主だった諸侯と言えば、劉備と孫策のみ。蜀と呉、だよな。

 

 

そうなると、どうしても、どうしても。………やっぱり考えずにはいられない。

 

 

 

赤壁。

 

 

 

もともと俺がいた世界で、三国志に興味がある人なら知らぬ人は居ないその名。

 

史実では、曹操が劉備と孫権の連合軍に敗れてしまう大きな戦い。

この戦いに敗れた曹操は、大陸制覇の道を大きく遅らせてしまうことになる。

 

逆に言えば、この戦いに勝てば大陸は曹操のものになっていただろう、重要な戦い。

 

 

俺は………俺は、どうしてもこの赤壁で華琳に勝利を捧げたい。

それが、皆のためになると信じているから。

 

 

その時にむけて、少しでも皆の助けになれるように頑張らなくちゃな。

 

 

………よしっ。しっかり仕事しよう!

こういう日々の積み重ねこそ、今の俺にできる大事な役割だもんな。

 

まずは………この書簡からかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、赤壁の前に………さ。

何か、何か大事なこと忘れてしまってる気がするんだよな………。

 

気のせいなら良いんだけど、ちょっとモヤモヤする。

 

 

 

 

 

 

 




初めての北郷くん主体のお話だったかも?
彼の頭のなかをちょっと覗いてみる形で書き上げてみました。

さて、次話の投稿なんですが、勝手で申し訳ないですが10日ほどあけさせて頂こうかと思っております。
話もいよいよ佳境に入りつつありますが、ここのところ、書き上がりが投稿予定日ギリギリになってしまっており、ろくな校正も出来ずに読み辛い箇所も多々あろうかと思います。
そんな状態でこの話の山場をお届けするのが心苦しく、また私自身も納得できない様なものは出したくない!と思ってます。
私の勝手な都合で恐縮ですが、何卒ご了承くださいます様、読者の皆様にはお願い申し上げます。
次話投稿は、9/3(月)の20時を予定しております。


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