「これより軍議を開催する!」
陳留の軍議の間で、夏侯惇の声が響き渡る。
この日の議題は王蘭のもとに届けられた情報について。
「春蘭、ありがとう。今日の議題は主に蒼慈からの情報について、ね。」
「はい。では報告いたします。先日、劉備軍、孫策軍それぞれに放っていた斥候兵より連絡がありました。孫策軍についてはこれまで同様、周囲の豪族や盗賊討伐に邁進している様子で、こちらに対して動きを見せる素振りはありません。一方で、劉備軍は我ら曹操軍に対して小さいながらも、行動をとっている模様。」
「そうか………孫策に動きはないか。」
「ふふっ、春蘭さまは孫策軍の動きが気になりますよね。………ですが今回のご報告は劉備軍が主です。このところ国境付近で劉備軍の兵士がちらほらと散見されていると報告が入っています。報告されている規模も小さく、地形の調査や我が軍への偵察部隊の兵士だとは思いますが、このまま放って置くわけにもいきません。」
「そうね………。あまりに頻度が高いようなら一度しっかり対策を取って、相手の動きを見ておきましょうか。蒼慈、あなた直接いってらっしゃいな。」
実はこの流れは事前の打ち合わせ通り。
劉備軍の情報はすべて曹操に伝えており、その上でこういった曹操直々の命令という体を取ることにしていた。
「はっ、承知しました。念の為場所のご報告も。漢中近くにある山で、定軍山の付近での報告となっております。」
それを聞いた北郷はピクッと反応を示した。
「定軍山………? なにか聞き覚えのあるような………。」
「兄様、どうかしましたか?」
「流琉。いや、きっと思い過ごしかな。何もないから大丈夫。」
「劉備軍がこちらへの諜報活動を活発に行ってきているなら、孫策軍についてもそのうち同じことが言えてもおかしくはないわね。この際だから、国境付近への警備も少し強化する意味も込めて、偵察部隊対策として、数人には国境警備に行ってもらおうかしら。」
「はいー。風もそれがよろしいかとー。これまでの戦績が、情報の有用さを物語っていますからねー。」
「では孫策軍方面に、秋蘭、流琉、霞の3名を任じます。数日は国境での警備を続け、敵の視察兵がどれくらいやってきているか報告なさい。」
「はっ、承知いたしました。」
「承知しましたっ!」
「はいよー。」
こうして王蘭たちは軍師たちとの打ち合わせ通り、国境の偵察へと向かうことになった。
──────────。
王蘭隊、夏侯淵隊、典韋隊、張遼隊の4つの隊はそれから間もなく出立の準備を整える。
出陣の際には曹操自らが見送りに来ており、以下城に留まる将たちがそれに続く。
「蒼慈、あなたは特に気をつけて行ってきなさいな。実際に動いたと報告のあったのはあなたの方なのだから。」
「承知しました。現地についてからも数日は様子を見るつもりでおりますので、しばらく城を開けることになります。その間、軍師の皆様は我が隊の報告取りまとめなど、よろしくお願いしますね。」
「その辺は特に気にすることないわ。この賈文和が責任を持って引き継いであげるんだから。」
「そうですね。詠さんなら安心です。………では華琳さま、いってまいります。」
「えぇ、頼むわよ。秋蘭、流琉、霞の3人も、しっかりね。」
そう行って一足先に城を出る王蘭。
久しぶりに高々と掲げられている漆黒の牙門旗が、どこか誇らしげにたなびいている。
………。
定軍山の辺りにたどり着いた王蘭は、まずは近隣の村々に聞き込みを開始。
やはりこのあたりでは見かけない、という騎馬が数騎うろついている様だ。
これだけを切り取ると、やはり通常の偵察部隊がこちらの調査をしに来ているのだろう、で済ませてしまう内容である。
事前に情報をつかめている王蘭はすぐにそれと断じることなく、すべての村にて確認を実施。
初日の調査はこれくらいとして、最後の村の中に陣を張らせてもらい夜を過ごす。
翌朝。
この日はいよいよ定軍山の中の偵察へと赴く予定である。
兵たちには今回の偵察任務の経緯と、その作戦内容については説明が完了している。
今回編成されている兵たちは、皆王蘭も認識がある兵たちばかり。
信頼のおける兵たちを中心に編成しているため、情報の漏洩については特に心配していない。
「さて、皆さん準備はよろしいですか?」
兵たちの表情を見渡すと、くっと引き締まった表情を見せる。
一人ひとりの顔をしっかりと見渡して号令をかける。
「これより定軍山内部の偵察を開始します。敵の偵察部隊が山中にまぎれている可能性もあります。心して任務にあたるように!」
──────────。
劉備軍の待ち構える定軍山内部へと足を踏み入れた王蘭たち。
しばらくは敵の攻撃などあるわけもなく、徐々に深部へと向かっていく。
そしていよいよ。
普段の訓練の賜物だろう、隊員たちは場の空気が変わったことを察する。
隊員それぞれが頷きあって、より慎重に歩を進めるが………。
「っぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「敵襲! 敵襲!!」
兵の悲鳴が周囲に響き渡った。
劉備軍からの攻撃が、王蘭隊を襲う。
「皆さん! 姿勢を低く保って敵の攻撃に備えてください! 全軍避難を開始!」
事前に伝えてあった通り、敵軍からの攻撃が開始された場合はすばやく転身して避難を開始する王蘭隊。
普段の訓練通り、身を屈めて一斉に走り始めた。
──────────。
「姉さまー。また見失ったって。」
「またか………。相変わらずうまく逃げるな。もう一度、捜査網を広げないと。」
ここは定軍山すぐそこの平原地帯。
定軍山内の活動の報告を聞いた馬岱が、従姉の馬超、そして今回の作戦に同行しているもうひとりの将、黄忠にその報告を上げている。
「それにしても………敵兵の将は王蘭だったかしら? あまり聞かない名ね。翠ちゃんは相手のこと知ってる?」
「いや………あたしらの涼州に攻め込んでくる部隊の中にはいなかったな。たんぽぽはどうだ?」
「んーたんぽぽも詳しくは知らないかなー。でも確か、桃香様が反董卓連合のときにお世話になったって話、聞いたことあるよ。朱里と愛紗も言ってたよー。」
「そうなの………だとすれば、曹操軍でもかなり古参の将なのね。」
「悔しいけど、あの曹操が無能な将をずっと登用し続けるわけがないよな! ってことは、ここでその王蘭? を撃ち倒せば、曹操に大打撃を与えられるってわけだ! しばらくは南蛮討伐だって邪魔をしてこないだろ。」
「だと良いのだけれど………翠ちゃん、少し慌てすぎではなくて?」
「慌ててなんてないってば! ここまで十分引きつけたんだ。このまま一気に連中を仕留めて見せる! なぁ、たんぽぽ!」
「うんっ! おばさまの弔い合戦だよね!」
「それはわかったから、もう少し落ち着いて頂戴。こんな闇夜に森の中に騎馬隊で入ったところで、自滅するだけよ?」
「うっ………。」
「今は歩兵部隊が連中を燻り出すのを待ちましょう。この平原に出てきた時こそ、翠ちゃんたちの機動力の出番なのだから。」
血気に逸る馬超をなだめる黄忠。
劉備軍、曹操軍それぞれの思惑が重なり合うこの地で、夜が更けていく………。
いよいよ劉備軍からの攻撃が開始されました。
相手の作戦を知っていた王蘭隊は皆うまく逃げられている様子ですね。
いよいよ次回、ですね。
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