真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第五十九話

 

 

 

夜を通して敵の伏兵から逃げている王蘭隊。

流石にこの辺りは情報を持ち帰るための訓練を実施しているだけあって、多くの兵が王蘭の元に残っている。

 

また、事前に相手の行動が読めていたのはやはり大きい。

なんと8割もの兵が未だ王蘭の元にいるのだから。

 

それでもやはり、身を屈めながらの逃亡は兵たちの体力をすり減らし、疲れているのが見てわかる。

 

山の深部からかなりの時間をかけて、なんとか平原の手前までたどり着いた王蘭たち。

ここまでの間に敵の伏兵も撒けているため、一時の休息をとる。

 

日の位置を確認するために、王蘭は空を見上げる。

どうやら既に夜は明け、周囲の空には明るさを取り戻していた様だった。

 

 

………そして太陽がもう少し高く登れば、こちらの作戦開始となる。

 

 

「皆さん、夜通しお疲れ様でした。敵が居ることを承知の上で、そこに踏み入るという難しい任務、よくぞ共に実行してくれました。改めて感謝します。………さて、こうして夜が明けるまで敵の攻撃を掻い潜ってきたわけですが、いよいよです。我々曹操軍が攻撃に移るための、最後の仕上げです。皆さん、準備は良いですか?」

 

 

大きな声を出すわけにもいかないため、すべての兵が首肯で返す。

 

 

「ここから先は森を抜けて平原となります。敵の部隊、騎馬隊として馬超と馬岱が、弓兵部隊として黄忠の3隊が待ち構えていることでしょう。ですが、それに気を取られる事なく、一気に駆け抜けて下さい。経路は事前にお伝えしていた通り、小隊ごとに割り振りをしています。敵に的を絞らせないためにも、しっかり自身の通る経路を確認してくださいね。………では、参ります!」

 

 

そう言って王蘭隊は森の中から姿を現す。

無論、そこに待ち構えるは敵の軍勢。

 

 

「弓隊、構え! ってーー!!」

 

 

平原に出た王蘭たちを襲うは、黄忠隊から放たれる矢の雨。

 

 

「散開!!」

 

 

相手が矢を放った瞬間を見定め、王蘭が指示を出す。

すると、今まで一塊で駆けていた隊が、いくつかの塊へと別れ始めた。

 

 

「もーうろちょろしちゃってさ! 逃さないよーっ! てやああああああ!」

 

 

そのうちの一つの集団へと攻撃を仕掛けるのは劉備軍の将、馬岱。

騎馬に乗った彼女の攻撃は、馬超ほどでは無いしろ、それでも目を見張るものがある。

 

 

「ぐあっ!!」

 

 

先頭を走っていた兵士は、この攻撃を避けられずに倒れ込む。

 

が、それを全く気にする様子もなく、不気味な程に動じず。

後ろに続く兵士たちは彼を枝木を飛び越えるかのごとく、淡々と飛び越え走り続ける。

 

 

「えっ………な、なんなのこの兵士たち!! たんぽぽこういう不気味で怖い系、ちょっと苦手………。」

 

 

周囲を見渡してみると、馬超の騎馬隊あたりでも同じ光景が見られている。

 

 

仲間の死が微塵も影響を与えない。

死兵であったとしても、闘志を奮わせるなどの何かしらの反応があるものだ。

 

それが一切見られず、隊列を崩さずに走り続けるそれは、確かに見るものに対して何とも言えぬ恐怖を与える。

 

 

 

目の当たりにした劉備軍の兵は、すべからく全ての隊が足を止めてしまっていた。

 

 

 

すると散り散りになっていた王蘭隊の兵士たちが、ひと処に集まりだす。

そして列を整え、くるりと反転。

 

集合するのをただじっと見ているだけだった劉備軍がわずかにそれに近づく。

 

 

 

互いに足を止め、睨み合う。

 

 

 

戦いの最中というのに、不自然な静寂が彼らを包む。

それはまさに耳鳴りが聞こえてくる程に。

 

 

そして急に、バッと王蘭隊が持っていた武器を天高く構える。

それを見た劉備軍はビクッと体を硬直させ、彼らの動きを待つ。

 

 

王蘭隊は高く掲げた武器の柄を、同時に、かつ力強く地面に叩きつけた。

 

 

ダンッと大きな音が鳴り響く。

 

 

もう一度、再び天高く武器を掲げ、地面に打ち下ろす。

掲げ、打ち下ろす。また掲げ、打ち下ろす。

 

 

一定の間隔で鳴り響く力強い音と、兵たちの息の揃った動きがずっと繰り返される。

 

流石に焦れてきた馬超が騎馬隊を動かそうとするが、馬たちが恐怖を覚えてうまく動いてくれない。

それでもなんとか走り出せそうなところまで馬を宥め、号令をかける。

 

 

「あんなまやかしに騙されるな! 所詮子供だましみたいなもんだ! あたしに続けえぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「翠ちゃんっ! 待ちなさい!」

 

 

黄忠の停止も聞かず、そう言って走り初める馬超と馬岱の騎馬隊。

だがそこに、再び王蘭隊から、声という大きな”音”が襲い来る

 

 

 

 

 

「「「「遼来っ! 遼来っ!」」」」

 

 

 

 

 

ずっと繰り返されていた武器を掲げ、打ち下ろす動作にその掛け声が合わさる。

それは再び馬超たち騎馬隊の馬を、再び恐怖へと陥れるには十分だった。

 

 

「ちょっ! うわっ、落ち着け! どうどう! いい子だから。………っつーかあいつら、なんて言った?」

 

「うわーん、いい子だから落ち着いてっ! ねっ? よしよーし! ………えっとたしか、”りょうらい”だったかな?」

 

「りょう、らい………?」

 

 

馬をなんとかなだめる馬超たち。そこに再び………。

 

 

 

 

 

 

「「「「遼来っ! 遼来っ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

「っだーもう! うるせーー!! なんだその”りょうらい”っての!!」

 

 

 

 

王蘭隊が見つめる先は、馬超隊に非ず。

戦場横から立ち上る砂煙が反撃の狼煙。

 

 

 

 

 

「でぇぇぇえええええりゃぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

神速と謳われた曹操軍が誇る最強の騎馬隊。

 

紺碧の張旗が、威風堂々この戦場にはためいた。

 

 

 

 

 

 

 

 




遼来!遼来!
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