真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第六話

 

 

「報告!前方に人影を発見!!」

 

 

曹操の元に兵から報告が入る。

 

「総員、駆け足!賊であれば引っ立てなさい!」

 

 

 

人影の元へたどり着く曹操軍だが、引っ立てる様子がない。

夏侯惇が兵たちの視線の先を確認するが、賊と思わしき風貌の人影はなかった。

 

 

「華琳様!…こやつは………。」

 

「………どうやら違うようね。連中はもっと年かさの、中年男だと聞いたわ。」

 

 

曹操の所感に、夏侯淵が返す。

 

 

「どうしましょう。連中の一味の可能性もありますし、引っ立てましょうか?」

 

「そうね………。けれど、逃げる様子もないということは、連中とは関係ないのかしら………?」

 

「我々に怯えているのでしょう。そうに決まっています!」

 

「怯えているというよりは、面食らっているようにも見えるのだけれど………。」

 

 

曹操たちが不審人物を前に議論をしている様子を、王蘭は隊の中から見ていた。

 

見るからに盗賊ではなさそうだが、珍しい着物を着ており、どこかキラキラと光って見える。

外見は10代後半くらいの、まだ少年といった感じだろうか。スッと背も高く顔の造形も優れている様だが、線が細く少し頼りない感じもする。

 

 

 

 

そうこうしているうちに、その少年が喋りだす。

 

 

「あ、あの………。」

 

 

「………何?」

 

曹操が代表して、会話を続ける。

 

「君………誰?」

 

「それはこちらの台詞よ。あなたこそ、何者?名を尋ねる前に、自分の名を名乗りなさい。」

 

「えっと………。北郷一刀。日本で、聖フランチェスカ学園の学生をしてる。日本人だ。」

 

 

王蘭たちは、この者が何を言っているのかさっぱりわからない。

言葉は通じるようだが、意味のわかる単語があまりにも少なく判断がつかないでいると、

 

「………はぁ?」

 

夏侯惇が皆の心境を代表して言ってくれた。

 

 

「それより、ここはどこなの?日本でも、中国でもないって言うし………。」

 

 

曹操様の名を尋ねた件は良いのだろうか、と王蘭は心の中で突っ込みながらも、黙って耳を傾ける。

 

 

「貴様、華琳様の質問に答えんかぁっ!生国を名乗れと言っておるだろうが!」

 

「い、いやだから!日本だって、ちゃんと答えてるじゃないか………っ!」

 

 

夏侯惇としては曹操の言葉を無視した様に聞こえたのだろう。

それを彼女が許すはずもなく、声を荒げて詰め寄る。

 

 

「姉者、そう威圧しては、答えられるものも答えられんぞ。」

 

 

「ぐぅぅ………。し、しかし秋蘭!此奴が、盗賊の一味である可能性もあるのだぞ!そうですよね、華琳様っ!」

 

「そう?私には、殺気の一つも感じさせないほどの手練れには見えないのだけれど。春蘭はどう?」

 

「………それはまぁ、確かに。」

 

 

 

少年を目視できる場所に立つ、軍の全員が思っていることだった。

 

このあと、曹操がこの辺りの刺史を務めていることと、その職務を説明し、少年に今どういった状況かを理解させた。

 

十分以上に怪しい者であるとして、彼を引っ立てる。

 

 

 

「まだ連中の手掛かりがあるかもしれないわ。半数は辺りを捜索。残りは一時帰還するわよ。」

 

曹操の号令により、軍の半数は不審者の少年を引き連れ街へ引き上げた。

 

 

 

王蘭は辺りの捜索隊としてこの場に残り、盗賊たちの形跡がないか調査を続ける。

各将軍部隊の副隊長たちは帰還組に含まれており、危険の少ない捜索隊の指揮は小隊長の肩書を持つ王蘭が取ることになった。

 

 

 

「それでは我々は引き続き、盗賊たちの捜索を続けます。

盗賊が見つかれば引っ立ててください。見つからないにしても、手掛かりだけは掴んで帰還しましょう。」

 

 

盗賊の報せがあってからすぐに出立が出来たとは言え、先程の不審者騒ぎもあり時間が経ってしまっている。

足跡を追うにしても、特に泥濘みがあるわけでもないため、なかなかに捜索は困難な状況だった。

 

 

「無闇に周辺を探っても、手掛かりを見つけるのも難しい状況です。

十人で一組となり、今この場所を拠点として各方面に捜索を広げましょう。

 

半刻ごとにこの場所まで報告をお願いします。僅かな手掛かりでも構いません。

二刻が経った時点で、一旦総合的な判断をします。では、始めてください。」

 

 

こうして捜索活動が再開された。

 

 

 

………。

 

 

そして二刻後。

 

 

「ふむ…。皆さんの見つけてくれた手掛かりを加味して考えると、あちらの山向こうの方に逃げていったのでしょうね。

皆さん、大変ご苦労さまです。山向こうであれば、曹操様の領地ではない場所となります。

一旦捜索はこの時点で切り上げましょう。」

 

 

 

 

こうして捜索隊は城に帰還。

そして帰還してすぐ、王蘭は夏侯淵に報告を上げに執務室に向かった。

 

 

「夏侯妙才将軍、王蘭です。捜索のご報告に参りました。入室してよろしいでしょうか?」

 

「あぁ。待っていた。入ってくれ。」

 

「失礼します。」

 

 

部屋に入ると、いつしかと同じ様に竹簡を広げて仕事をしている夏侯淵の姿が見えた。

 

「捜索ご苦労。こちらも北郷………、あの少年の取り調べが完了してまとめていたところだ。

そちらはどうだった?」

 

そう言って話を振ってくるが、王蘭が答える前に、

 

「………いや、その前にまた茶を淹れてもらおうか。無論、お前の分も用意してくれ。」

 

「はっ。かしこまりました。では少々お待ちを…。」

 

 

 

しばらくして、茶を淹れた王蘭が戻ると、椅子にかける様勧められる。

向かい合わせで座った2人が、一口茶を啜る。

 

 

「ふぅ。やはりお前の淹れる茶は美味いな。

………さて、先にお前の報告を聞こうか。」

 

「承知しました。まず近隣の捜索の結果ですが、やはりこれと言って盗賊らだと確たる痕跡は見つかりませんでした。

ただ、あの辺りの状況、そしてこの城から出立した方角、隊員の見つけた賊らのものだろうと思われる三人組の足跡があった場所などから、山向こうの方に逃げた可能性があります。」

 

「ふむ…。もし山を超えられていれば厄介だな。華琳様の領外になってしまう。」

 

「はい。ですので、例の書の奪還に拘られるのであれば、上の方々にお話を通して頂いてから行軍せねばなりません。」

 

「そうか………。委細承知した。後のことはこちらで引き取ろう。今回の事を報告書にまとめておいてくれ。」

 

「はっ。畏まりました。」

 

「ではこちらの取り調べについてだが、お前にも共有しておく。

そうだな………。まず結論から言おうか。

 

彼は天の国から来たのだそうだ。

 

以前、お前が報告してくれていた、あの噂を覚えているか?

あの噂に非常に近い状況にあった少年が見つかった、という感じだな。」

 

「天の国………ですか?俄には信じがたいですが………。

あのキラキラ光る着物も、天のお召し物だからこそ、なのでしょうか?」

 

「恐らくな。詳しくは聞いていないが………。

取り調べでわかった内容だが、彼の名は北郷。そして字だろう、と思った部分だが………。

そのところまで、彼を引っ立てた際に聞こえていたか?」

 

「はい。確か………。」

 

「いや、言わなくていい。少し厄介な話なのだが………。

天の国には真名がないそうだ。」

 

「………?真名が無い、ですか………?」

 

「うむ。私も姉者も華琳様も、そんなことは無いだろうと確かめたのだが、本当に無いのだそうだ。

そして………だな、厄介な所なのだが、今お前が口にしようとした、字だと思っている名前が真名にあたるそうだ。」

 

「それは、なんと………。では彼は、初対面の人間にいきなり真名を預けたと………?」

 

「うむ。だから彼の名を呼ぶときは注意してくれ。北郷までは呼んで構わないようだ。

その北郷の処遇だが、どうやら此度の盗賊の顔や背格好を把握しているようで、我々の捜索に協力してもらうことになった。」

 

 

真名の話に驚きつつも、王蘭は頭を切り替える。

 

 

「………そうでしたか。それは我々としても助かりますね。」

 

「現在は城に部屋を用意させ、休ませている。

今後も何かと顔を合わせる事もあるだろう。改めて面識をもっておいても良いかもしれぬな。」

 

「承知致しました。後ほど、部屋を訪ねてみます。」

 

「うむ。………さて、報告はこんな所か。他になにかあるか?」

 

「はっ、報告ではなくご相談なのですが………。もう少しお時間よろしいでしょうか?」

 

「あぁ、構わん。申してみよ。」

 

 

「今後曹操様は領地を広げられ、より出世なさる事と思います。

そうなった場合、すぐさま情報を収集できる様、専門の部隊を設立してもよいのではないか?と思った次第です。

正しく早い情報というのが、今より比べ物にならないほど大きな価値を持つ気がしているのです。」

 

「………ふむ。確かに一理あるな。」

 

「はい。此度の盗賊についても、軍の編成を待たずに情報の収集さえ行えていれば、逃さずに捉えられたかも知れません。

曹操様の軍として、隊を独立して構えるのが難しければ、将軍管轄の隊内で試験的に運用を開始してみても損は無いかと。」

 

 

「………うむ。今は確かにあまり軍勢としても大きくはない。少ない軍隊の中で、いきなり独立した専門部隊を構えるのは厳しいかもしれんな。………わかった。我が隊で運用を実施してみよう。」

 

「はっ。」

 

「もちろん、言い出したお前が隊長を務めてくれるのであろう………?」

 

 

笑みを浮かべて、夏侯淵が問うてくる。

 

 

「え、えぇ………ご指名頂けるとあらば、喜んで。今の小隊長の役目は如何致しますか?」

 

「先程も申したであろう?独立した部隊はまだ持てぬ、と。

今の役目も”引き続き”、よろしく頼むぞ?」

 

「は、はっ。………承知致しました。」

 

 

 

こうして、夏侯淵隊は新たに斥候部隊を内部に設立。

王蘭がその隊長として任命されるのであった。

 

 

 

 

 




小隊長の次は斥候部隊の隊長も兼任することに。


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