真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第六十話

 

「でぇぇぇえええええりゃぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

 

 

 

張遼の攻撃が、馬超、馬岱の騎馬隊に襲いかかる。

 

 

立ち止まっている騎馬隊など、ただの的でしかない。

馬を全力で駆らせた騎馬隊最大の一撃が、馬超たちを襲う。

 

 

「っ! 走れぇぇぇぇえええ!!!」

 

 

だが黙ってやられるだけの馬超ではなかった。

騎馬隊としての長所も短所も熟知しているからこそ、咄嗟の判断も最適な動きだった。

初速が明らかに通常の騎馬隊よりも素早い動きを見せ、その衝撃の大きさをなるべく小さくした。

それによって張遼の横撃を食らいながらも、何とか壊滅を逃れた馬超たち。

 

流石は西涼の騎馬民族といったところか。

 

 

「ちぃっ、やるやんけ! 錦馬超!」

 

「お前………張遼か!」

 

「あん時は逃げられてもうたけど、今度は逃がさへんで! 覚悟しぃ!」

 

 

壊滅は免れたと言っても、奇襲による張遼の初撃は相当な威力を持っており、馬超らの負った傷は端から見ればかなりの状態。

 

まさか張遼が、というよりも、なぜ張遼がここにいるのか?

それに気を取られ、咄嗟に騎馬を走らせる事はできたものの、未だ部隊の混乱や動揺を抑えきれていない。

 

 

「翠ちゃんっ!」

 

 

少し離れた位置で構えていた黄忠隊が、堪らず馬超、馬岱を助けようと動き出そうとする。

 

 

 

だが………。

 

 

 

「おや、お前によそ見をしている暇などあると思っているのか………? 流琉っ!」

 

「はいっ! 全軍、突撃ぃぃ! はあああっ!!」

 

「えっ? そ、そんなっ!」

 

 

そこに突如立ちはだかる典韋と夏侯淵の両名。

 

 

 

神速の張遼による攻撃。

通常は、それこそを攻撃の切り札として作戦を組み立てるのだろう。

黄忠もそう考えた為に、張遼の攻撃を何とか対処しなければ、と咄嗟に判断して行動に移そうとした。

 

だが、曹操軍はそうではなかった。

張遼の攻撃すらも、敵の思考を逸らすための布石とした。

 

本命は、この夏侯淵、典韋隊による黄忠隊への攻撃。

 

 

 

戦略の天才、郭奉孝。

 

 

 

彼女は碁盤を見つめる棋士の様に、戦場の全てを把握し駒を動かすかの様に作戦を組み立てる。

今回のこの定軍山の戦いでも、まるでその場に居るかの様に、全ての状況を事前に予測していた。

 

 

「さすが稟と言ったところか………。ほとんどあやつの言った通りに動いているな。」

 

 

夏侯淵もその凄さを目の当たりにして、感嘆の言葉を漏らす。

そしてそれを離れた場所から見ていた馬超はすぐさま馬岱に救援の指示を出す。

 

 

「紫苑っ! ちっ、たんぽぽ! ここはあたしに任せてお前は紫苑の所に行けっ!」

 

「えっ? う、うんっ、わかった!」

 

 

「そう簡単に行かすかいなっ!」

 

 

そう言って馬岱目掛けて突撃を繰り出そうとするが、それを馬超が牽制する。

 

 

「おっと、お前の相手はこのあたしが引き受けたんだ。こっち見ててくれなくっちゃ、なぁ?」

 

「そんなん要らんっちゅうに………全く。でもまぁ、久しぶりに滾る相手や、楽しませてもらおかぁ!」

 

 

ここが勝負どころ、と肝を据えた馬超を無視してはかえってこちらに損害が出てしまう。

ニィっと笑った張遼が、馬超に向けて攻撃を開始した。

 

 

 

──────────。

 

 

 

一方、典韋隊の突撃を一身に受けてしまった黄忠たちは、堪らずその場に停止。

 

弓兵を集めた部隊とあって、あまり重装備をつけていない彼女の隊にとって、典韋たちの攻撃はかなり厳しいものがある。

だがそこは黄忠の経験が成せる技。典韋隊の攻撃を受けつつも、上手く部隊を操りながら、それをいなし続ける。

 

これによって、典韋たちは黄忠隊を突破できずにその場に停滞。攻撃を続けているが、突撃の勢いは完全に殺されてしまっている。

そして、典韋隊の突撃が抜けきった所に矢の雨を降らせる用意のあった夏侯淵隊も、射る先に味方が居ては攻撃を仕掛けられずにいる状態だ。

 

 

「紫苑っ! 助けに来たよ!!」

 

「たんぽぽちゃん! 助かるわ、前線をお願い!」

 

「まっかせてー! やぁぁぁぁ!」

 

 

そうしているうちに、馬岱の騎馬隊が到着。

すぐさま典韋隊に向けて突撃を開始する。

 

 

「流琉っ!」

 

 

夏侯淵もすぐさま馬岱目掛けて矢を射るが、歩兵と違って騎馬隊を狙うのはやはり難しく、あまり効果が得られなかった。

夏侯淵の目線が逸れたその隙に、黄忠は崩れかけていた体勢を立て直す。

 

 

「さて………。これで仕切り直しね? 夏侯妙才!」

 

 

黄忠隊は絶体絶命の危機を乗り切ったこと、馬岱の救援と好材料が整っていることから、明らかに士気が高い。

相手がそんな状況とあっては、勝てる戦も困難となってくる。

 

 

「くっ、馬岱の相手は流琉、任せたぞ! 黄忠はこちらで引き受ける!!」

 

 

兵数的には曹操軍の優勢。

だが、それ以上に士気は圧倒的に劉備軍が高く、一進一退の攻防が続いた。

 

武将として、士気が大きく戦果に影響を与える事は重々承知している夏侯淵。

だからこそ、この奇襲の勢いのままに敵を打ち倒せなかったのは大きな失敗だった。

 

更に、先程の典韋隊の攻撃をいなした様子からも分かる様に、黄忠の部隊運用は目を見張る物がある。

それが万全の体勢を整えた状態とあっては、更に冴え渡るというものだ。

 

そのうちに、黄忠隊が夏侯淵隊を押し始めた。

ジリジリと押し返される夏侯淵隊を見かねた典韋が、駆け寄ろうとする。

 

 

「秋蘭さまっ!!」

 

「流琉、こちらは良いから目の前の敵に集中しろ!」

 

「は、はい………!!」

 

「………あら? それはあなたもではなくて? 夏侯妙才!」

 

「なっ! しまった!!」

 

 

 

その一瞬の隙を見逃さずに黄忠が夏侯淵に向けて弓を引く。

その矢は綺麗な一筋の軌道を描き、夏侯淵へと向かう。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

「………あれ?」

 

「んー? どうしたのにーちゃん?」

 

「季衣………いや、何か胸騒ぎがして、さ。季衣は特に何も感じなかった?」

 

「んにゃ? 特に何も感じなかったけどなぁ………。さっきのお店で、何か悪いものでも入ってたかな?」

 

「どうだろうな、なんか気のせいな気もするし。まぁ気にしなくていっか。」

 

「にーちゃんが良いならいいけど、大丈夫? ………じゃー次あのお店いこっ!」

 

 

 

陳留の街中ではいつもと変わらぬ日常が広がっていた。

 

 

 

 

 

 




定軍山の戦いその2をお送りしました。

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