真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

62 / 86
第六十二話

 

 

 

夏侯淵が放つ矢が、黄忠を襲う。

 

先程まで構える矢の本数は3本だったが、気づけば5本へと増えている。

また、それを放つ間隔も徐々に徐々に狭まっていく。

 

王蘭も、それにあわせて黄忠の攻撃を防ぎつつ体を動かすが、その表情からは余裕がなくなっている。

 

 

 

………。

 

 

 

夏侯淵が矢を放ち続けて、幾ばくかの時間が過ぎ。

矢を放つその指は擦り切れて、血が滲み始めている。

 

もちろん、弦が引かれた弓を見れば、構えられた矢の羽が赤く染まっている。

 

それすらも矢の軌道の計算に含めて攻撃を続ける夏侯淵は、流石は弓の名手。

血が滲むほどにまで放たれ続けた攻撃は、徐々に黄忠の体力を損耗させて、いよいよその時を迎える。

 

 

「んあぁっ!!」

 

 

………夏侯淵の放った矢の1つが、黄忠の右腕に突き刺さり血が流れ落ちる。

 

弓を引くためには腕の力が必須。

こうなっては反撃など出来るわけもなく、終に膝をつく黄忠。

 

 

「全く………ようやくか。本当に手こずらせてくれたな。」

 

 

彼女が抑える右の腕には、夏侯淵の放った矢が今も突き刺さったまま。

そこから血が流れ続ける。

 

 

「悔しいけれど、見事な腕前ね。同じ弓使いにやられたならば、納得が行くわ。………翠ちゃんたちも撤退できたみたいだし、最低限の役目は果たせたかしらね? さぁ、やりなさいな。」

 

 

大人しく頚を差し出そうとする黄忠。

 

 

「私個人としてはこのまま頚を落として構わないとも思うのだが、な………。我が主の命令でお前は捕縛せよ、ということなのでな。良かったな、命を拾えて。………誰か、こやつを縄で縛り上げよ!」

 

 

こうして黄忠を打ち破った王蘭と夏侯淵は、無事彼女の捕縛に成功。

それからしばらくして、馬岱とやりあっていたであろう典韋もここに合流した。

 

 

 

──────────。

 

 

 

ほんの少しだけ時間を戻して、張遼の場所へと視点を移す。

 

 

張遼は馬超と一騎打ちをしているようだが、なかなか決着がつかないでいる。

 

お互いに馬上から繰り出す攻撃は、熾烈。

馬を操り、渾身の一撃を相手に打ち込みあうその戦いは、見るものを魅了する。

 

見るものを魅了するのであれば、それを繰り広げる本人たちにとっては尚の事なのだろう。

2人の顔にはどこか笑みが浮かんでいる。

 

 

「あかんなぁ………楽しゅうてしゃあないわっ! おりゃああああああ!!」

 

「っしゃおらああああああああ!」

 

 

2人の振るう武器によって、金属が激しくぶつかり合う音が響く。

それからしばらく、何度もその音がなり続けた。

 

将としては兵を動かし、敵兵を倒さねばならない。

だが、一瞬でも気を抜けば一太刀でやられてしまうほどの攻撃を、相手は繰り出してくる。

 

 

そうなると、2人はなかなかに周囲の状況を掴めずにいた。

 

 

そこに、馬岱が駆けつける。

 

 

「お姉さまぁっ! 撤退! もうこれ以上は保たないって紫苑が! それにもうお姉さまの部隊ももうそろそろやばい状態だよっ!」

 

「た、たんぽぽっ!?」

 

「こら、どこ見てんねん!」

 

「ちょっ!? うわぁっ!」

 

 

馬岱の声に少し気を抜かれた馬超。

そこに張遼の一撃が襲い来るも、体勢を崩しながら何とか弾き返す。

 

咄嗟に足で馬を操り、張遼から少し距離をとった馬超。

改めて周囲を見回せば、自身の部隊は確かにそのほとんどが張遼の兵士にやられており、壊滅的な状況だった。

 

 

「な、なんだよ、これ………。」

 

「もうどんだけ頭に血が上ってたの!! 早く、撤退指示出して!!」

 

 

あまりの光景に絶句してしまう馬超。

状況を飲み込めずとも、撤退を開始しなければ、と危機感を募らせる馬岱は、従姉を急かす。

 

 

「誰が逃がすかあほんだらぁっ!!」

 

「くっ、たんぽぽ下がれっ!」

 

「下がらないよっ! 紫苑がせっかく時間を作ってくれてるのを無駄にする気っ!? いい加減にしなよ!!」

 

 

その間も張遼の攻撃が止むはずもなく、馬を使って距離を作ってはまた詰められる。

だが、それもいつまでも続けられるわけもなく、ようやく馬超は決断を下す。

 

 

「くそ、くそ、くそ! くっそぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「お姉さまっ! 早く! 撤退指示!!」

 

「っぐ、撤退だっ! 総員、撤退!!! ………張遼、悪いがこの勝負はお預けだっ!」

 

 

そう言ってすぐさま撤退を開始する馬超。

張遼もそれに食らいつこうと後を追う。

 

 

「逃がすかっ! 張遼隊、追うで!!」

 

 

だがしばらくの間追い続けるも、差は徐々に広がっていくばかりだった。

 

 

「あーもうっ! くそったれ!! あいつ、また逃げよって、もうっ!! しかもめっちゃ速いし………。馬岱も速いっちゅうことは、西涼の馬ってみんなあないに速いんか? ………だーっもう! けったくそ悪いなぁ! ………しゃあない、張遼隊も秋蘭たちのとこに加わんで! はよしぃ!」

 

 

戦いに敗れようとも、西涼の錦馬超である。馬を操らせれば一級品。

 

張遼も騎馬隊としての実力は突出しているものの、本気で逃げる馬超や馬岱が相手ならば、全力で追っても離されずに着いていくのが精一杯なのだろうか。もしくは馬超たちは兵数が少ないが故に小回りがきき、素早く動けるのか。

そのところは不明なままであるが、攻撃を意識した追走では追いつけなかったようだ。

 

張遼の性格ならば、死んでも追いかけたる! などと言いそうではあるが、そこは軍師たちが事前に手を打っているようで。

城を出る前に口酸っぱく軍師たち、主に郭嘉と賈駆の両名から、無理に追撃を仕掛けずとも良いと言い聞かせられたならば、飲み込まぬわけにもいかない。

 

 

適当な所で馬超、馬岱への追撃を中止して、張遼も夏侯淵たちの元へと駆け寄るのだった。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

「おっ、なんやもう捕まえとったんか。秋蘭も蒼慈も流琉もご苦労さんっと。………ん? なんや、秋蘭機嫌悪ない?」

 

「………っふぅ。気の所為ではないか? 黄忠も捕らえたことだし、我々もさっさと引き上げるとしよう。流琉も一人で敵将の相手、ご苦労だったな。」

 

「はいっ! 秋蘭さまがご無事で何よりです!」

 

「霞さんも馬超のお相手、お疲れ様でした。」

 

「ん? あぁ蒼慈、おおきに。それは別にええよ、まーた逃げられてもーたしな。帰ったら騎馬隊の訓練、もっとようせなあかんなぁ………。」

 

 

こうして定軍山での戦いを終え、陳留へと引き上げる王蘭たち。

曹操軍には大きな損害もなく、敵将の黄忠を捕らえることに成功して幕を下ろすのだった。

 

 

 

 

………。

 

 

 

帰路にて。

 

 

 

「秋蘭さん、ほら、右手。」

 

「なんだ蒼慈、右手がどうした?」

 

「良いから、大人しく出しなさい。」

 

「む………何時になく強気で言うではないか。」

 

「早く。」

 

「………むぅ。」

 

「痛むと思いますが、我慢してください。」

 

 

そう言って差し出された彼女の右手を掴み、衛生兵からもらってきた軟膏を彼女の指先へと塗りたくる。

 

 

「ほら………こんなになるまで。戦だから多少の無理も仕方ありませんが、終わったのなら、もう少し自分を大切にしてください。いいですね?」

 

「………はい。」

 

 

 

 

 

 

 





定軍山の戦いその4をお送りしました。
ようやく終わりましたー!思ったより長くなったー!笑


Twitterやってます。気軽にフォローしてくださいまし。
@blue_greeeeeen
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。