真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第六十五話

 

 

時は少し遡る──────────。

 

 

 

劉備軍の玉座の間には程昱と夏侯淵の姿があった。

先の戦から間もなくの事とあって、怒気とも殺気とも、警戒ともわからぬ気配がその空間を満たしている。

 

 

「我が名は程仲徳と申すものですよー。今日は我が主、曹孟徳の使者として参りましたー。お目通り叶って感謝なのですよー。あ、ちなみに同席させて頂いておりますこちら、我が軍の将、夏侯妙才………はご存知ですよね? 今回はただ私の護衛としてついて来てくれてるだけですのでー。今回の事は全てこの風が全て一任されているのでよろしくなのですよー。」

 

 

劉備軍がこれだけ殺気だっているのも、定軍山で劉備軍に強襲した時の将、夏侯淵本人がそこに居る、というのもあるだろう。

何人かは鼻息を荒くして程昱、夏侯淵の2人を睨むものがいる。

 

 

そんな中でも彼女たちは動揺を見せない。

特にいつも通りのゆったりとした口調で話す程昱の雰囲気は、劉備軍の将の気を削ぐものであり、徐々に部屋の空気が浄化されていくかのようだ。

 

 

「はじめまして、程仲徳さん。私が劉玄徳です。よろしくお願いしますね。」

 

「はいはいー。お願いされましたー。」

 

「あの………仲徳さんの頭の上に乗ってるのは、お人形さん?」

 

「おうおう、バインバインほわほわ姉ちゃんよう、俺をお人形さんだなんて言ってくれるじゃねえか?」

 

「これ宝譿、玄徳さんは相手方の王様なのですよー? 不敬罪に問われてちょん切られても風は知りませんからねー。」

 

「おぉー! 愛紗ちゃん愛紗ちゃん! すごいよ! お人形さんが喋った!!」

 

「と、桃香さま、お人形ではないのではないかと………。」

 

「えっ!? じ、じゃあ生きてるのかな!? えっとえっと、宝譿さんこんにちは! 私、劉玄徳って言います! よろしくねー!」

 

「あっ、いや、そういう意味じゃ………。」

 

「黒髪ツヤツヤバインバイン姉ちゃんよう、こまけぇこと気にしてたら禿げちまうぜ? おう姉ちゃん、俺は宝譿。よろしくしてやるぜー。」

 

 

宝譿の手を取り小さく上下に揺らす劉備。

 

程昱だけでなく、劉備軍の大将がそもそもなのである。

完全に2人の雰囲気に巻き込まれた軍議の間は、いつしか落ち着いて交渉が出来る場となっていた。

 

それが程昱の狙い通りだったのかはさておき、話を切り出す。

 

 

「さてさてー。我が主曹孟徳より、劉玄徳殿宛にお手紙を預かって来たのですよー。」

 

 

そう言ってその文を懐から取り出した程昱は、それを関羽へと手渡す。

そこから劉備が受け取り、早速中を検める。

 

流石に先程までポワポワしていた彼女も、中を読み進めるにつれて表情が険しくなっていく。

一通り読み終わったところで天を仰ぎ、ふぅとため息を付く。

 

 

「と、桃香さま………?」

 

「あ、うん………。これ、皆も読んで。」

 

「よろしいのですか?………では、失礼します。」

 

 

そう言って、関羽は中を読む。

すると、劉備と動揺に徐々に表情は険しくなっていくが、彼女と違って関羽はどこか悲痛な表情のようにも見える。

 

読み終えると隣の将へと手渡し、そこにいる将全てがその中身を読み終え、劉備の手に戻ってくる。

 

 

「皆さん中を読まれましたかー? 皆さんもご存知の通り、我が軍は先の定軍山の戦いにおいて、あなた方の軍の将、黄漢升さんを捕らえましたー。そしてこちらとしては、無闇に命を奪おうとは考えておらず、また彼女の解放を条件とした交渉も特に考えていないのです。まぁ仮に交渉した所で、いただきたいものも特に無いですからねー。えっと、そちらの軍師さんでしょうか? は、どうお考えですかー?」

 

 

不意に劉備の側に控える、鳳統へと話が振られた。

 

 

「あわわっ! ………我が軍には仲徳さんが仰ったように、紫苑さんの解放に見合うだけのものは何もない状態です。こちらとしては解放の嘆願を出して、曹孟徳さんの出方を伺うのが精一杯というところでしょうか………。」

 

「雛里! それでは紫苑の事は見捨てると言うのか!?」

 

「見捨てるとは言っていましぇん………。 でも、諦めたくないのが心情ではありますが、交渉とは互いに利があって初めて動くもの。おそらく、曹孟徳さんが我が方に望むのは、こちらの領土、国のみ。経済に於いても残念ながら我が国では太刀打ちもできないため、金銭での交渉も難しいです。かと言って、城や街を明け渡す選択は、それこそ我が軍にとっては状況が更に悪化して、曹操軍に立ち向かう事を困難にさせてしまいましゅ………。」

 

「はいー仰る通りですねー。というわけで、黄忠さんの解放はそもそも実現することはあり得ないと。それを前提として、先程のお手紙の内容についてお話しますねー。………我が主、曹孟徳はこの地にいる黄漢升さんのお嬢さん、璃々ちゃんを我が国へお招きしたいと考えています。」

 

 

誰かがゴクリ、と息を飲む音が聞こえた。

 

 

「人として、また同じ女として。自分の腹を痛めて生んだ我が子に会えない黄漢升さんの辛さは、多少なりとも理解できるもの。であるならば、是非その娘さんを陳留へと招き、彼女の心労を少しでも減らすことができれば、という完全なる善意によるお願いに参ったというわけなのですよー。あ、もちろんこちらに反抗しない限りは、監視下ではありますが自由に暮らせる生活は保障しますよー? 徳の王としてこの地に名を馳せる、劉玄徳様への、我が主からのお願いですー。」

 

 

嫌な所で”徳の王”を切り出してくる。

鳳統としては、そもそもこの交渉自体が回避すべきものだったと考えていた。

 

程昱は上手く劉備軍の感情を煽り、自分の話す言葉へと注意が向かないように折衝に臨んでいた。

だからこそ、一度たりとも黄忠自身への説得は行わない、とは言っていないのだ。

 

ただでさえ、黄忠という要所を担える将を失った状態。

それを劉備軍へとつなぎ留めておく最後の鍵は娘の存在だと認識していた。

彼女さえ保護していれば、決して曹操軍へと降ることは無いと。

 

その最後の砦というべきものが、今奪われようとしている。

自分が悪役になったとしても、阻止しなければならないと鳳統は覚悟を決めた。

 

 

「桃香さま………ここで簡単にお返事をしてしまっては、かえって蔑ろにしている、とも取られかねません。一度程仲徳さん、夏侯妙才さんには客室でお休みいただき、我が方の意見がまとまってからお返事する、というのは如何でしょうか?」

 

「………うん、そうだね。仲徳さん、申し訳ないんだけど、それでもいいかな? この益州に滞在している間は、その身の安全は保障しますので、どうか安心してくださいね。」

 

「はいー。承知しましたー。でも期限は設けさせて頂いてもいいですかー? 流石に風ものんびりしすぎると怒られちゃうのでー。そうですねぇ………5日。5日でどうでしょう?」

 

「5日ですね、わかりました。ではそれまでにまとめます。………じゃあ、今日のところはこれまでとして、まずはお部屋まで案内しますね。」

 

 

そう言って控えていた侍女へ部屋まで案内するように声を掛ける劉備。

程昱と夏侯淵は暫くの間、益州の城へとどまる事になった。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

場所は変わって益州劉備軍の軍議の間。

玉座の間から一同は移動して、それぞれの椅子に腰を掛けている。

 

鳳統から腰を掛けてじっくり議論すべきだ、と提案され劉備がそれを受け入れた形である。

 

 

「では、早速ですが議論を続けたいと思います。………先程の玉座の間でもお話した通り、こちらとしては交渉に使える材料は乏しく、大きな損失なく紫苑さんの解放を願う事は困難と思われます。ただ、幸いにも曹操さんからの手紙は飽くまで善意によるお願いでした。裏を返せば、大義をかざした宣戦布告とは異なり、断る余地があるということになります。」

 

「それでは、紫苑が! 璃々を心配してやつれていると、あの文には書いてあっただろう! 我らには子はおらぬが、その心の辛さは考えられよう!?」

 

 

早速関羽が鳳統に反対する。素直で心優しき将なのだ。

曹操からの文を見た時の悲痛な表情はやはり気の所為ではなく、実際に彼女の心境を慮ったのだろう。

それに賛同する声が上がってくる。

 

 

「………まぁそう熱くなるな。そもそも雛里は、何をそんなに気にしているのだ?」

 

 

流石は趙雲。

白熱し始める折を見て、その熱を冷ます。

 

 

「………最も恐れているのは、紫苑さんがこちらに弓を引く展開です。」

 

「なっ!? 雛里、それはどういう意味だ! 返答次第では、この鈍才骨を振るう事になるぞ!!」

 

「焔耶! 落ち着かんか!! お前はすぐ頭に血がのぼるのう………。雛里かて、そう簡単に紫苑が裏切るとは思っておらぬよ。なぁ?」

 

「は、はい………。璃々ちゃんが兗州へと迎えられる事によって、状況だけを見れば紫苑さんがいつこちらに離反してもおかしくない状況となります。そして璃々ちゃんを迎えてやったのだから一度くらいは、と曹操さんの軍として戦に出ることになってしまえば、それが恐らく決別の時。一度としてこちらに弓を引いた将を、例え解放されたとしても再び迎え入れる事は怖くてできません。」

 

「どうして紫苑を信頼してやらないんだっ!!」

 

「最悪を想定して動くのが、軍師の務めだからです。信頼したい、その気持は私にだってあります。ですが仮にその状況になったとして、どうして本当に解放されたのだと言い切れますか? どうして敵の密偵ではないと言い切れますか? 向こうには璃々ちゃんを無事に連れてきてくれたという恩義を感じてしまうことだってあるんです………!! そうならないためにも、璃々ちゃんにとっては辛いことかも知れませんが、受け入れるべきではありません。」

 

「ふむ………愛紗に焔耶よ、雛里の言うことも確かに一理あるのではないか? 冷静になって考えてみよ。それくらいの理性は持ち合わせているだろう?」

 

「星っ! お前までそんな事を言うのか!」

 

 

いつもであれば、真っ先に声を上げるであろう馬超はじっと黙って皆の意見を聞いていた。

それがようやく、口を開ける。

 

 

「なぁみんな、私の意見もいいか? ………あたしは愛紗に賛成だな。こういうのはちょっと卑怯かも知れないけどさ、あたしとたんぽぽはもう、母さまに会おうと思っても、会えないんだよ。だってもう、さ。居ない………から。でもさ、紫苑と璃々はお互いにちゃんと生きてるんだ。生きてるのに会えないってのはさ………やっぱり悲しいよ。雛里の言うように、あたしたちに向かって弓を引くような事があったとしても、親子はなるべく一緒に居るべきだと思うんだよな。」

 

「翠………。」

「お姉さま………。」

 

 

一旦の静寂が、軍議の間を包む。

 

 

「………うん。みんなありがとう。雛里ちゃんの言うことも尤もだし、愛紗ちゃんや翠ちゃんの言うことも正しいと思うの。今回のことって、何を見るかで正解が違ってくるんだと思うんだ。国を思えば雛里ちゃんの言う選択肢しか無いはずだけど、人としてどうするべきか? を考えると、愛紗ちゃんや翠ちゃんの言う方が正しいかなって。………それでね、私はやっぱり………。」

 

 

劉備の選んだ選択は──────────。

 

 

 

 

曹操の願いを受け入れることだった。

 

 

 

 

 

 

 




風ちゃんの交渉シーンと、劉備軍の様子をお送りしました。
風ちゃん無双…( ゚д゚ )

そしてまた蜀軍、特に桃香かな笑
いろいろ思うところがあるかも知れないなーなんて思いながら書き上げちゃいました。
お手柔らかにお願いします…笑


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