真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第六十七話

 

 

しばらくの間、益州の街を歩いてその様子を見て回った程昱と夏侯淵。

毎日趙雲に案内させるわけにも行かず、関羽や張飛らにも案内をしてもらいながら、街の様々な景色を見て過ごしていた。

 

 

そうして数日が過ぎていき、いよいよ指定した期日となった今日。

 

 

再び玉座の間へと招かれた程昱と夏侯淵は、劉備の座る玉座を前に立っている。

 

 

「さてさてー。あっという間の5日間だった気がしますねー。で、ご返答はどうなりましたかー?」

 

「仲徳さん、数日の期間待って頂いてありがとうございました。我が軍としては、紫苑さんの娘の璃々ちゃんの引き渡しを決定しました。ただ、これは紫苑さんが囚われている状態を許容するものではありません。紫苑さんの一日も早い解放を願ってやまないということだけは、曹操さんにお伝えください。」

 

「そうですかー。伝言は承ったのですよー。」

 

「曹操さんへの伝言もだけど、紫苑さんにもお願いしてもいいかな? 私たちは、ずっと紫苑さんが無事に帰って来てくれるのを待ってます、って。」

 

「それも承知しましたー。ちなみに幼いとは言え、娘さん本人にはお話されているんですかー?」

 

「………うん。正直、わかんないところも多いんだと思うけど、やっぱり当人に話をせずに決めちゃうのはなんか違うかなって思って。」

 

「そうですかー。まぁそこまでお話されているのであれば、風は特に何も言うことは無いのですよー。」

 

 

そうして侍女に連れられて1人の女の子が玉座の間へと入ってくる。

 

程昱は劉備に頭を下げ、その彼女へと向き直る。

膝立ちになって彼女と目線を合わせると、ニコッと微笑みを向ける。

 

 

「はじめましてー。風の名前は、程仲徳と言うのですよー。これから風と、横にいるこのお姉ちゃんと一緒に、お母さんの所に行きましょうねー。」

 

「は、はじめましてっ! 私、璃々っていいます! あ、あの、よろしくおねがいしますっ!」

 

「うむ、よく言えたな。私は夏侯妙才という。お母さんのところに辿り着くまでは、この私が安全に送ってやるから、安心して良いぞ。」

 

 

夏侯淵も腰を折り、彼女の目線の高さに合せて微笑みかける。

このあたりは、流石の2人。普段子供の居る環境ではないが、相手を思いやれる2人だからこそ、こうして優しく接する事ができたのだろう。

 

璃々が2人を見てしっかりと頷いたのを確認すると、姿勢を正して劉備へと向き直る。

 

 

「さてさてー。早速ではありますが、風たちはこれで失礼するのですよー。あ、もちろん今回のお返事は、しっかりと劉備軍としてのお返事として認識しているので、後から私は反対だったんだ!とか、言わないでくださいねー? ではではー。」

 

 

劉備の周りに控える一部の将に言うかのように言葉を紡ぐと、程昱は璃々の手を取って夏侯淵と並び3人で玉座の間から退室する。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

陳留への道中、程昱と夏侯淵は璃々との交流を深めるべく色々な話をしていた。

もちろん、幼い子どもが故にいつも以上にこまめに休息をとりながら。

 

 

「ほう? 璃々はその年で既に弓を扱うのか。」

 

「うんっ! お母さんがね、璃々用にね、小さな弓を作ってくれたの!」

 

「おぉーそれはすごいですねー。璃々ちゃんはどれくらいお上手なんですかー?」

 

「えっとねー、桃香様より上手だって褒められた事あるよー! すごいでしょー!」

 

「おぉー大の大人でも敵わぬほどの使い手とは。いやはや、風は感服ですよー。ちなみに秋蘭さまも弓の使い手なんですよー?」

 

「えー!? じゃあ今度璃々が弓使うところ見てー!」

 

 

既に出会った時の緊張は溶け、すっかり話が弾む程には仲が良くなっているようだ。

楽しそうに笑う璃々の顔を見て、程昱と夏侯淵も顔を綻ばせる。

 

 

「ふふっ、楽しみにしているよ。………さて、そろそろまた移動するとしようか。璃々、なにか不都合はないか?」

 

「うん、特に何もないよ! 妙才さまも、仲徳さまもたくさんお話してくれるから、璃々たのしい! はやくお母さんに会いたいなー。」

 

「風も璃々ちゃんとお話できてとても楽しいですよー。頑張って移動すれば、お母さんにすぐ会えますからねー。」

 

「うむ。では、行くとしようか。」

 

 

そう言うと、夏侯淵は兵たちに出立の指示を出す。

 

璃々の体調に気をやりながら、ゆっくりと。だが着実に陳留へと近づいていた。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

陳留にある客室。

 

この部屋に1人、妙齢の女性が窓辺の椅子に腰掛けて外を眺めていた。

彼女の名は黄忠。

 

先の定軍山で身柄を確保された劉備軍の将、その人だ。

 

陳留では捕虜という立場にありながら、その生活は考えられないほど豊かなもので、しっかりとした食事に寝具、監視がつく条件であれば外出すらも許可されていた。

破格の待遇だと言えるだろう。

 

だが、それでも彼女の表情が優れないのは、やはり娘の存在が心配だということだろう。

益州に残っている将たち、特に厳顔は旧知の仲であり、娘の世話もしっかりしてくれているだろうとは思っているのだが、自身の目で確認できないことを中々信じ込むのは難しいものだ。

 

ふぅ、とため息を突きながら、遠くを見つめるその瞳には、何を浮かべているのか………。

 

 

するとそこに、彼女部屋の扉が3度叩かれる音がする。

この国ならではの風習で、最初は戸惑ったものだが次第に慣れてきたならば、良い習慣であると好意的に受け入れていた。

 

 

「はい? 開いていますわ。」

 

「失礼するわよ。」

 

 

そう言って部屋に入ってきたのは曹操と北郷の2人。

 

 

「あら、孟徳殿に北郷さん………。どうかなさいましたか?」

 

「あなたの様子を見にね。顔色は優れないようだけれど、どうかしら?」

 

「体は健康そのものです。美味しい食事に柔らかな寝具。外出まで許可して頂いているんですもの。これでまだ捕虜として不満があれば、それは流石に烏滸がましいですわ。」

 

「そう? ならば、心の健康によるものってところかしら?」

 

「えぇまぁ………。」

 

「やっぱり、娘さんの事が心配ですよね………。」

 

「えぇ、そうね。北郷さんはまだお子さんはいらっしゃらない………かしら? 子が出来ると、今の私の気持ちも少しはお分かりになると思いますわ。」

 

「………そう。あまり確かな情報ではないから伝えるのは気が進まないのだけれど、その前にあなたの心が潰れてしまってはそちらの方が問題だから伝えておくわ。………もうそろそろ、あなたにとって良い情報が届くでしょう。心待ちにしていなさいな。」

 

「良い情報? 一体何でしょう………?」

 

 

黄忠が顎に手をやり考える素振りを見せる。

そこに、再び部屋の扉を叩く音が。

 

部屋の前に立っていた警備の兵が、曹操に情報を伝える。

 

 

「そう。………私は少し失礼するわ。一刀はもう少しここにいて、彼女の気が紛れるよう話でもしていなさい。いいわね?」

 

「あ、あぁ………。何だったの?」

 

「それはすぐにわかるわ。それじゃあ黄忠、またあとで来るわ。」

 

「え、えぇ………。」

 

 

そう言って部屋を出ていく曹操。

残された北郷は黄忠と目を合せて苦笑いを浮かべた。

 

 

 

………。

 

 

 

それからとりとめのない話を続けていた北郷と黄忠。

こういった目的や終点の見えない話であっても、相手に合せて話し続けられるのは彼が多数の女性にモテる秘訣なのだろう。

 

再びその扉が叩かれるまで、黄忠との談笑は止まることを知らなかった。

 

 

「………あら? 今度は誰かしら? どうぞ。」

 

 

扉が開けられて顔を見せたのは、再び曹操。

そしてその後すぐに入ってきたのは………。

 

 

「おかあさん!!!!!」

 

「えっ………?」

 

「おかあさぁぁぁぁぁぁあああああん!!!!」

 

 

先程話に上がっていた、黄忠の娘の璃々だった。

 

彼女は部屋に入るなり、慌てて黄忠の元へと駆け寄った。

大きな声を上げながら、そして目には涙を浮かべながら。

 

自分の大好きな母の胸元へと飛び込む璃々。

 

 

「璃々………璃々っ! あぁ、璃々、璃々!!」

 

 

それを抱きとめた黄忠も、自分の娘の存在を確かめるかの様に何度も名前を呼び、体をさすり、強く抱きしめる。

璃々も母の温もりを体全体で感じ取るかの様に、なされるがままにそれを受け入れている。

 

 

「どうして………どうして璃々がここに?」

 

「あのね、仲徳さまと妙才さまに連れてきてもらったの!」

 

「え………?」

 

「あなたが娘を思って心を痛めていた事くらい、どんなに鈍い者であろうとわかるわよ。益州の劉備に手紙を書いて、こちらに引き渡すように頼んだのよ。」

 

「そんな………でもどうして?」

 

「最早あなたを解放するだけの条件に見合うものが、益州にはもう無いのよ。ならば、徳の王として自軍の将に出来ることをしなさい、と言っただけよ。今日は誰もこの部屋に来ないようにしておくから、あとは2人でゆっくりしなさいな。」

 

 

そう言うと曹操は北郷をつれて部屋から出ていく。

黄忠は両の腕で愛する我が子を強く抱きしめながら、自身の頭を深く下げてそれを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 




無事璃々ちゃんが陳留の母の元にたどり着きました。
まずは彼女たちの再会を純粋に喜びましょうかね。


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