真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第六十八話

 

 

 

「どうやら、孫策軍で内紛の様なものが発生した様です。」

 

「内紛?」

 

「はい。聞くところによると、孫堅の代より仕える武将の黄蓋が、軍師の周瑜と意見の食い違いにより衝突したのだとか。」

 

「ふぅん………? うちでも軍師と武将の意見の対立はよくあるけれど。ねぇ?」

 

「「か、華琳さまぁ。」」

 

「孫策軍もこちらが江東に向けて兵を動かすことを察知したのでしょう。これを受けて黄蓋は江東の太守と孫家の安寧を条件に降伏を勧めた様です。その際、周瑜と激しい言い合いになったらしく、売り言葉に買い言葉というやつでしょうか。それがあまりに度を越したのか、公衆の前で黄蓋は罰則を受けるなどしたようです。」

 

「そう、それで?」

 

「我が軍としてはそれを飲んでくれたならば大きな戦もなくなって助かるのですが、やはり一戦交えずに屈する事はできぬ、と。これを受けて、黄蓋は前線の将としてではなく、孫権や孫尚香の妹君たちの護衛を主な任務とされたようです。」

 

 

孫策軍への侵攻がいよいよかという所で、陳留では軍議が開かれていた。

この日、ようやく孫策軍の内情がちらほらと入ってきており、それを軍議の場で王蘭から共有がされているところである。

 

 

「これまでこれだけ細かな情報が入ってくる事はありませんでした。通常であればこれは喜ばしいことなのですが、情報が入ってくる時期が我らの出立間際という点がどうも引っかかります。」

 

「………そうね。まぁそれを気にした所で、こちらの動きは変わらないわ。これまで通り用意を進めて、整い次第出立するわよ。」

 

 

その後、軍師たちにより江東制圧の作戦概要が説明され、この日の軍議は終了。

今回の話に左右されず、これまで通りの計画を進める事となった。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

そしていよいよ用意が整い、出立の日。

大軍勢で城を出た曹操たちは、領民からの見送りを受けて江東へと向かう。

 

これだけの大軍が移動する様はまさに圧巻。

楽進、李典、于禁らの調練の成果もあり、毅然とした態度で整列、行進を行う兵たちの姿を見て、領民も歓声を上げる。

 

そうしてしばらくの日数を進んだところで、曹操が王蘭に声を掛ける。

 

 

「蒼慈、何やらいつもの出陣よりも医薬品の類が多いようだけれど、これはあなたの指示なのかしら?」

 

 

そう、今回の出陣には王蘭も将の1人として構成されていた。

守りに一定の評価を得ている王蘭が、他勢力への侵攻に組み込まれているのだ。

 

というのも、今回のこの出立までに、やはり多くの情報を孫策軍から仕入れる事ができなかった事が1つ。

軍議の報告を最後に、その情報の正確性は調査ができたのだが、それ以外についてはこれまで同様全く入ってこなかった。

 

こうして見ると、その情報が明らかに故意によって流された情報であることが見えてくる。

だとすれば、現場に近づいて小まめに諜報指示を出す事によって、何か他に重要な情報が得られるのではないか? と考えたためだった。

 

劉備軍に対しては、かなり深いところの情報を持ち帰る事ができているのに比べてしまうと、やはり有用な情報が何も得られていないような感覚に陥ってしまう。

それを危惧した王蘭が、自ら名乗り出ることで今回の構成員に加わる事になったのだ。

 

 

そしてもう1つが、逆に孫策軍の斥候兵からこちらの情報を守るため。

 

普段の陳留の軍師達の部屋や軍議の間、玉座の間などの主要な部屋については、賈駆と相談してネズミ取りを強化しているが、今回はその情報の守りを行軍中に於いても強化する必要があると判断されたためだ。

 

孫策軍の軍師である周瑜は中々の切れ者として評判高く、今回の大戦に於いても幾通りもの策を用意していると見られる。

それに対応すべく、共に行軍している軍師たちの作戦会議などは頻繁に行われるであろう中で、その内容を傍受されてはたまったものではない。

 

 

「薬については、北郷さんから助言を頂きましたので。大陸の北南でかなりの距離があれば、その地域ごとに流行り病の種類も全く異なるはずだ、とご意見を頂いたので、大陸中を旅して回られた稟さんと風さんにお話を伺って用意しました。」

 

 

丁度そこに北郷が顔を出して会話に加わる。

 

 

「あぁ、蒼慈さんの言った通りだよ。俺の世界でもその土地その土地で、風土病があってね。今までは北を相手にしたり、逆に北上してきた劉備軍との戦いが中心だったから、気候や土地についてはあまり加味しなくてよかったけれど、南征をするならそうも行かないでしょ。」

 

「………そう、一刀にしてはずいぶん気が利いているのね。」

 

「まぁ、な。これからこの大陸の行末を決める大きな戦いだって待ってるんだろ? なら、俺は自分のできる事をするだけだよ。」

 

「どうしたの? えらく殊勝な態度じゃない。」

 

「どうしたのってひどいなー。俺だって華琳のために出来ることがあればやるって。」

 

「ふふっ、冗談よ。そろそろ敵の城を見に行かせている兵が戻ってくる頃でしょう。あなた達もすぐ動けるように準備をしておきなさいな。」

 

 

それからまたしばらくの行軍が続き、いよいよ孫策軍の守る城までたどり着いた曹操たち。

城を前に軍が一通り並び終わると、城の中から誰かが出てきたことを確認する。

 

それを見た曹操は舌戦のために馬に乗って前へと出ていった。

 

 

「………何やら激しく言い合っているようだな。華琳さまと言い合える心胆を持っているだけでも凄いことだが、アレは誰だかわかるか?」

 

「えっと、旗が桃地に孫なので、恐らく孫家の末娘の孫尚香でしょう。」

 

 

軍を並び終えて本陣の曹操隊が構えるあたりにやってきた夏侯淵と王蘭が言葉を交わす。

 

 

「ほう、江東の虎の妹か。あれだけ肝が座っているならば、孫策を仮に討ち取ったとしても簡単には崩れてくれぬのかも知れんな。」

 

「そうですね。孫策を打ち倒すよりも、膝を折ってくれる展開に持っていくのが最善かも知れませんね。………あ、終わったようですよ。」

 

「うむ、ではすぐに戦闘に入れるように準備をしに戻るとしよう。何か私の隊に特別な指示があれば伝えてくれ。頼んだぞ。」

 

「はい。秋蘭さん、ご武運を。」

 

「あぁ、お前もな。」

 

 

そう言って再び自分の隊の場所へと戻っていく夏侯淵。

夏侯淵が戻っていった後、曹操が戻ってきたのだが、北郷のスネに突然の蹴りをかましたり、夏侯惇の胸を揉みしだいたりと、戦前とは思えぬ様子が繰り広げられた。

 

 

「やっぱり一刀も大きい方が………。」

 

「………はい?」

 

「………なんでもないわ。総員、戦闘準備! 江東の連中は戦って散る気十分なようだから、遠慮なく叩き潰してあげなさい!」

 

 

こうして何とも締まらないままに、孫策軍との戦いが幕を開けた。

 

 

 

………。

 

 

 

初戦はあっけなく勝負がついてしまった。

大軍に押し切られる形で曹操軍があっという間に勝利。

 

だが、孫策軍の孫尚香やその他の将も含めて、まるで予め撤退することが規定路線だったかのように見事な撤退を見せ、敵の損害も軽微だったと見られている。

 

 

「隊長~。一通り見てきたけど、罠らしき仕掛けはなかったで。ただの空城や。」

 

「そっか、空城の計ってわけじゃなかったか………。」

 

 

あまりの呆気なさに、北郷は空城を使った敵の作戦かと思い、李典を中心に工作員に城の調査をさせていた。

だが、文字通りただの空城だった様である。

 

 

「真桜、罠はなかった?」

 

「華琳さま! はい、特にそれらしいもんは。」

 

「そう、ならここは前線基地として使わせてもらいましょう。輜重隊は荷を解くように、と指示を出しておきなさい。」

 

「了解っ! ほら、隊長も行くでー。」

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

「むぅ………。」

 

 

建業の城の一室。

窓から入ってくる光によって綺麗な銀髪がキラリと光る。

その髪の持ち主の体は何とも艶めかしい曲線を描いており、身にまとった南国の衣装も彼女の魅力を引き立てるかのように、僅かな光に照らされる。

 

孫策軍に仕える将、黄蓋だ。

 

彼女は現在、軍師周瑜との衝突により懲罰を与えられ、部屋に監禁されている状態にあった。

もちろん部屋には他の誰の姿もなく、また部屋の入口には警備兵が立っている様だ。

 

 

「………のう。少し庭を見たいんじゃが。」

 

「申し訳ありません。周瑜様より黄蓋様を部屋よりお出しすることはまかりならん、とキツく言いつかっておりまして。」

 

 

その警備兵に向かって声を掛ける黄蓋。

だが、やはり接触は取らないようにとキツく言われている様だった。

その後も会話を続けて外に出る為の手段を講じるも、中々に難しいようだ。

 

 

「ふむ、そうか。つまらんのう。痛………っ。」

 

「ど、どうかなさいましたか?」

 

「冥琳のやつに打たれた傷が、少々な………。すまんが、薬を持ってきてくれんか………?」

 

「はい。おい、黄蓋様の傷に効く薬を………。」

 

「はっ。」

 

「………なぁ、そこのお前。薬が届いたら、塗るのを手伝ってほしいのじゃが。手の届かぬ背中や、尻の傷口に塗ってくれるだけで良いのだが。」

 

「し、尻………。」

 

「座っておるだけでも響くのだ。なぁ、頼めんか?」

 

「は、はぁ………。」

 

「薬をお持ちしました。」

 

「よ、よし………では黄蓋様、失礼します。」

 

「おぉ、塗ってくれるか! これはありがたい。」

 

「お、おい! 部屋には入るなって………。」

 

「手の届かん所に傷があるらしいのだ。すぐ戻るから、お前は誰も来ないか見張っておいてくれ。」

 

「つ、次塗る時は俺が行くからなっ!」

 

「ふふっ、すまんなぁ。………そうだな、まずは背中から塗ってもらおうかの。」

 

「………ゴクッ。」

 

 

女の武器を使って、ようやく警備兵を部屋に招き入れた黄蓋。

さて、どうやって出し抜いてやろうかと考えていると………。

 

 

「お、おい、貴様、何奴! ………ぐはっ!」

 

 

部屋の外に居たもう1人の警備兵が何やら騒いでいる。

そしてそれを好機と見た黄蓋。

 

 

「………お、おい、どうした! 何かあったのか?………ぐはっ!」

 

「すまんのう。お主はあまりわしの好みではないのじゃ。………開いているぞ。」

 

「………失礼します。黄蓋殿とお見受け致しますが、よろしいですか?」

 

「如何にも、わしが黄蓋だが………貴公らは? 冥琳の手のものか?」

 

「いえ………。それはお答えできません。ですが、あなたの意志を貫くための、お手伝いをしに参ったものです。」

 

「このわしを前にして、言えぬと申すか。………面白い。わしも所用があるでな。しばし貴様らに付き合ってやろう。」

 

「はい、では参りましょう、黄蓋様。」

 

「うむ。………して、お主の名は?」

 

 

 

 

 

 

 

「これは失礼致しました。………我が名は、孫乾と申します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




孫策軍との戦いが始まりました。

はい、ついに新キャラ登場です。
オリキャラじゃないけれど、真恋姫時点では出てきていない彼女の存在。
恋姫革命とかをご存知無い方は、オリキャラだと思って読み進めて貰えるといいかなと思います。

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@blue_greeeeeen

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