真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第六十九話

 

 

南征を始めてから数日。

拠点を確保した曹操軍は次の侵攻を開始すべく、その拠点へと次々に物資を運び始める。

 

全ては順調にいっている………かのように見えていたが、やはりと言うべきか。

南方の地独特の風土病に、多くの兵士がやられてしまっていた。

 

その多くの要因は北から南へ移動したことによる温度の変化。普段の環境からの変化に、体がついて行かなかったのだろう。

それに加えて、陳留から行軍を続けてようやくたどり着いたこの城で、いきなりの戦闘である。

 

兵数に物を言わせて圧勝したとは言え、体力は損耗していたのだろう。

無事戦に勝利したことで、多少気が抜けてしまうのも無理のない話だ。

 

病は気から、とは良く言ったもので、体力を減らした末端の兵士ほど、それは顕著だった。

 

そんな状況では次の行動に移せるわけもなく、しばらくの間孫策軍の情報収集や周囲の状況の把握などに努めることになった。

 

 

「おや、北郷さんに、沙和さん。重そうな荷物を抱えてどちらに?」

 

「あ、蒼慈さん。お疲れ様です。病人の皆に使う水を運んでるんですよ。」

 

「そうでしたか。………今回の薬品に関しては、北郷さんのお手柄でしたね。」

 

「手柄だなんて、そんな………。俺が言わなくても稟や風が気づいていたでしょうし。」

 

「ふふ、あまり謙遜するものじゃないですよ。こういうのは初めに言ったかどうか、が大事なのです。」

 

「………蒼慈さんにそうやって褒められると、なんだかくすぐったいですね。」

 

「そうですか? 私は良きところは褒め、悪しきところは直す様に言いますよ?」

 

「あー、そう言うの蒼慈さんすげー怖そう。」

 

「………それ、沙和もちょっと分かる気がするのー。」

 

「むぅ、どうしてそうなるんです………。部下を思えばこそですね………。」

 

 

于禁に北郷、王蘭が共に歩きながら会話をしていると、そこに楽進が慌てた様相でこちらに駆けてくる。

 

 

「隊長! 侵入者ですっ!」

 

「侵入者ぁ!? 門番はどうしたんだよ?」

 

「それが、少々の押し問答の後、あっさりと突破されてしまったそうで………かなりの手練れかと。」

 

 

楽進が北郷へと報告する。

北郷も于禁も慌てた様子を見せているが、その横で1人何やら思案している王蘭。

 

 

「ふむ………侵入者、ですか。」

 

「蒼慈さん? 何か思い当たる者でも?」

 

「あぁ、いえ………。それで現在は誰が?」

 

「今霞が先行している。流琉に華琳さまの護衛を頼んでいるが、何が起きるかわからん。凪と沙和は華琳さまの護衛に加わってくれるか。」

 

「あ、秋蘭さま! わかったのー!」

「はっ、承知しました。」

 

 

そこに夏侯淵が現れて状況の説明と指示を出す。

すぐさま楽進と于禁は行動に移り、曹操の元へと向かう。

 

 

「蒼慈、北郷、我らは霞の元に急ぐぞ。」

 

「お、おう!」

 

 

そう言って城の門へと急ぐ3人。

そして、辿り着くとそこには………。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ………。何やこいつ!」

 

 

苦戦しているらしい張遼と、曹操軍の将ではない2人の女性がいた。

 

 

「筋は悪くないんじゃがのう………まぁ少し頭を冷やすと良かろう。孫乾、わしから離れるでないぞ。」

 

「承知しました。」

 

「………どわっ!?」

 

 

赤子の手をひねるかの様に、簡単に張遼の攻撃をいなして捌く妙齢の女性。

流石の張遼もこれには驚いたようで、尻もちをついてしまう。

 

 

「霞さん! ………はぁ、私が行くので援護をお願いしますね。」

 

「うむ………頼んだぞ。」

 

「なんじゃなんじゃ。次はこの優男か?」

 

「えぇ。我が名は王徳仁。お手柔らかに願いたいものですが………あなたの名は?」

 

「む………ようやく話の通じる相手が出てきたか。先程のやつも門番の兵も、自分が名乗りもせんくせにこちらばかり問い詰めよって。」

 

「そうでしたか………。で、失礼でなければお聞かせ願いたいのですが?」

 

「あぁ、すまんすまん。我が名は黄公覆。孫呉に仕える武将じゃよ。………お主らの主、曹孟徳殿に面会願いたい。」

 

「華琳さまに………? どうして、また?」

 

「そう結論を急くでないわ。男はずっしり構えていた方が好まれるぞ?」

 

「ふふっ、蒼慈、その通りよ? 女性の言うことは一度飲み込んでから返しても遅くなくてよ?」

 

「………華琳さま。」

 

 

丁度そこに曹操がやってくる。

護衛についていた楽進や于禁、流琉をつれて騒ぎのあった門へとやってきたようだ。

 

 

「あなたが孫呉の宿将、黄蓋殿ね? 私が曹操よ。まずはこの者達の無礼を詫びさせてもらうわ。」

 

「ほう………主君も話が分かる相手じゃったか。見直したぞ。」

 

「皆があなたの姿を知っていれば結果は違ったのでしょうけど………。できれば初めに名乗って欲しかったものね。」

 

「それはすまん。つい、いつもの癖でな。その件についてはこちらも詫びよう。」

 

「それで? 何やら私への面会を求めていたのが聞こえていたけれど?」

 

「うむ、曹操殿。少々話をさせてもらいたいのじゃ。良ければ、席を設けてはくれんか?」

 

「ふむ………良いでしょう。流琉、沙和、席の用意をなさい。他の将も同席しても構わないかしら?」

 

「無論だ。それこそ、わしがお主を害する可能性もあるのじゃしな?」

 

「「「………!!」」」

 

「冗談に決まっておろうが。そう殺気を安売りしては、いざというときに困るぞ?」

 

 

そう言って曹操軍の将を煽りつつも曹操との面会が叶う事になった黄蓋。

至急、于禁と典韋が場を整えて早速その機会を設けることになった。

 

 

 

──────────。

 

 

 

「我が軍に降りたい………だと?」

 

「左様。既に我が盟友、孫堅の夢見た呉はあそこにはない。ならば、奴の遺志を継いだこのわしの手で引導を渡してやるのが、せめてもの弔いであろう。」

 

「周瑜との間に諍いがあったと聞いたが………原因はそれか?」

 

「やれやれ、もう伝わって居るのか。夏侯淵よ、それをどこから聞いた?」

 

「………どこでもよかろう? で、事実なのか?」

 

「うむ、事実だ。その証拠に………ほれ。」

 

「ぬぉわっ!?」

 

 

急に黄蓋が自身の服を脱ぎ、豊満な胸を露出させる。

北郷と王蘭は慌てて体を反転させて、それを見ないようにする。

 

 

「はっはっはっ! なんじゃ、おなごの乳房など、別に初めて見るわけでもなかろうに。」

 

「お主っ! 早く隠せっ!」

 

「やれやれ、呉はもう少しおおらかじゃぞ?」

 

「………兄様、蒼慈さん、もう平気ですよ。」

 

「ふぅ………流琉さん、ありがとうございます。」

「ありがと、流琉。」

 

 

「その傷が、周瑜に打たれたという痕?」

 

「あぁ。赤子の頃には襁褓も変えてやったと言うにな。それが孫呉を好き勝手にかき回した挙げ句、この仕打ちだ。」

 

「なんだ、ただの私怨ではないか。」

 

「まぁそう思われても仕方ないじゃろうな。ただな、夏侯惇よ。仮に曹操殿が志半ばで倒れた時、後を継いだものが………仮にそこの白い服を着た男だったとする。そやつがその遺志を踏みにじったとしたならば、お主は何を思う?」

 

「「殺す!!」」

 

 

夏侯惇に加えて、なぜか荀彧までもが加わってそれに答える。

 

 

「まさに今わしはそう言う気持ちをしておるのじゃよ。袁術の元で恥を忍んで生きてきたのも、盟友孫堅の理想を叶えるため。じゃが、いざ蓋を開けてみれば………。」

 

「………そう、ならば黄蓋。我が軍に降る条件は?」

 

「孫呉を討つこと。そして………全てが終わったあと、このわしを討ち果たすこと。孫呉が滅びたならば、わしも生きておる意味などありはせん。せめて、あの世で友に詫びの一言でも言わせて欲しい。」

 

「あなたが江東を納める気はないのかしら? あなたほどの人物ならば、この一帯を任せても構わなくてよ?」

 

「わしは孫家に仕える身。それを飛び越えて江東を納めるつもりなど毛頭ない。」

 

「………分かったわ、黄蓋。この孫呉の討伐に、あなたを加える事を許しましょう。」

 

「感謝する。このわしの命、しばし曹孟徳殿に預けるとしよう。」

 

「真名は。」

 

「祭。」

 

「その名、しばし預かっておきましょう。それで、そちらの娘は?」

 

「あぁ、此奴の名は孫乾。呉でわしが面倒を見てやっていてな。呉というよりわし個人の弟子、従者のような者じゃ。」

 

「我が名は孫乾と申します。何卒、よろしくお願いします。」

 

「そう。あなたも黄蓋と一緒にこちらに降る、というので良いのね?」

 

「はっ。我が身は黄蓋様と共に。」

 

「そう、ならいいわ。あなたも此方に降る事を認めましょう。………ではすぐに軍議を開く! 黄蓋、あなたも参加して呉と戦う上での意見を述べなさい。良いわね?」

 

「御意。」

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

「なんじゃとっ!? 夏侯淵、それは真か!?」

 

「うむ。劉備、関羽、張飛を筆頭に、劉備軍の主力部隊が呉の領内に移動を開始している様だ。」

 

「なんと………血迷ったか、冥琳め………。」

 

「黄蓋も初耳だったようね。その情報は本当なのかしら?」

 

「は。また、劉備たちを先導しているのは呂の旗のようです。ですが、深紅ではないようで………。」

 

 

夏侯淵からの報告は、思いもよらなかったのであろう。

彼女の口から伝えられた内容は、孫策軍領地に劉備軍を迎えているという報告だった。

黄蓋の様子からするに、呉を強く思うが故に、他勢力を自分の国に容易に迎え入れたことを許せぬようだ。

 

 

「………恐らく、呉の見習い軍師だった呂蒙じゃろう。一隊を率いるようになったか。」

 

「予測されている呉の部隊に、劉備軍の部隊が加わったことで………敵の総兵力は、我々とほぼ同程度となりました。」

 

 

黄蓋の予測を受けて、郭嘉が情報を補足する。

それを聞いた曹操は、何やら嬉しそうな顔を見せる。

 

 

「そう………兵力は五分と五分。ふふっ、面白くなってきたわね。」

 

 

また悪い癖が、と思ってもそれを口に出す者は居なかった。

 

 

「周瑜に諸葛亮か………。あまり相手にしたくない組み合わせだな。」

 

「ふんっ、別に相手がどこの誰であろうと、華琳さまに捧げる勝利に違いはないわよ。」

 

「そうですねー。相手がどれだけ強かろうと大きかろうと、それはそれで策に盛り込んでしまえばいいだけなのですよー。」

 

「………春蘭さまぁ、どういう意味ですか?」

 

「うむ! 要するにいつもどおり戦えば負けることはない、ということだぞ! 季衣!」

 

「なるほどー! 流石春蘭さまっ!」

 

「………それもある意味で真理よ。慌ててむざむざと相手の罠に掛かってあげる必要もない。いつも通りに戦えば、我らに負けはないわ。」

 

「………なぁ、そういえば相手ってどこに移動してるんだ?」

 

 

ずっと黙って聞いていた北郷が、気になっていた事を問う。

それに応えたのは郭嘉。

 

 

「長江の………ここです。」

 

 

 

彼女が指し示した先に記された文字は………赤壁。

 

 

 

 

 

 




前回の話が盛り上がったようで、なんと日間TOP10入りを果たしていました。
これも偏に皆さんが読んでくださってるからですね。ありがとうございます。


さて、いよいよ赤壁の文字が実際に見えてきました。
いよいよなんだなーと思うと、寂しくもあり、嬉しくもあり、が今の心境です笑


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