真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第七話

斥候部隊を新規で立ち上げるに当たって、しばらく王蘭は事務仕事に追われていた。

 

 

設立してはどうか?と簡単に提案したものの、予算配分の草案、人員選別と適性検査、さらには訓練内容の検討まで、多岐にわたる内容の報告をまとめ、夏侯淵に報告しなければならなかった。

 

これに加えて小隊のとりまとめも行わなければならない。

これほどまでに兼任が大変だとは思っていなかった様子である。

 

 

ようやく斥候部隊の立ち上げから数日が過ぎ、多少慌ただしさは落ち着いたようで、王蘭も時間にゆとりが出来てきた。

 

 

この日夏侯淵から呼び出された王蘭は、指定の中庭まで歩みを進める。

 

 

「おぉ王蘭、来たか。」

 

「はっ、お待たせして申し訳ありません。………北郷様もいらっしゃったんですね。」

 

 

中庭に着くと、すでに夏侯淵が待っており、また北郷も一緒にいる様子。

北郷を目に入れた途端、若干気落ちしたように見えたのは気の所為だろうか。

 

 

「あ、あぁ。こないだはどうも。………それで秋蘭、こんなとこに呼び出してどうしたんだ?」

 

 

王蘭は斥候部隊立ち上げの相談の後、夏侯淵に言われた通り北郷の部屋を訪ねていた。

二、三ほど挨拶を交わした程度だが面識は持っている。

 

だが北郷の言葉を聞いた王蘭の額には、ピクピクと血管が浮き出ている様に見える。

………これは気の所為ではなさそうだ。

 

 

「うむ。お前の指導係に適任かと思ってな、我が隊より選別した。この王蘭がお前の教官を務める。」

 

王蘭の表情が見えていないのか無視しているのかはわからないが、夏侯淵が話を進める。

 

 

「将軍………?一体何のことでしょうか………。」

 

「今申したように、お前にはこの北郷の面倒を見てもらいたいのだよ。

どうやら此奴は文字もろくに書けぬし、馬も乗れぬときた。

それらが出来ぬと、これから仕事を任せることも出来ぬと思ってな。

お前なら北郷の面倒を任せられると、私の独断で決めたのだよ。頼めるか?」

 

 

「………将軍からのご用命とあらば、喜んで務めさせて頂きます。

北郷様、不肖の身ではございますが、よろしくお願い致します。」

 

「あぁ、うん。何もできないのは本当だから、正直とても助かるよ………こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

お互いにお辞儀を交わす。

 

 

「では、あとのことは任せた。よろしく頼むぞ。北郷も、まぁ頑張れよ。」

 

そう言って、夏侯淵は執務室へと戻っていく。

 

 

「あ、秋蘭行っちゃうんだ。まぁ頑張るよ。

………お手柔らかにお願いします。」

 

「えぇ。将軍に任されましたので、”誠心誠意”務めさせて頂きます。

早速ですが………。恐らくこの先馬を使う機会がすぐやってくるでしょう。

また、文字は知識で何とかなりますが、乗馬は身体が覚えるほかありません。

乗馬から始めましょうか。こちらにどうぞ。」

 

 

そう言って乗馬の練習を始める2人だった。

 

 

 

 

それから二週間ほど、練習を繰り返した北郷は、ようやくある程度1人で馬を操れるようになっていた。

 

「そうです。馬は賢い生き物ですから、自信を持って導いてあげてください。

手綱はもちろん、北郷さんの四肢から気持ちが全て伝わっていくのですから、堂々と。」

 

 

さらには、北郷”様”から、北郷”さん”へと呼び方が砕けている。

どうやらこの乗馬練習の間に、少し打ち解けてきている様子が伺える。

 

教官に任命された時、夏侯淵の真名を呼んだ事への怒りは、何とか収まったようである。

 

 

練習開始直後、まずは北郷が実際どれくらい乗れるのかを確認するため、多少強引だが馬に乗せてみた。

 

 

するとどうだろう。………なんと跨ることすら叶わなかった。

跨ごうとはするのだが、その北郷を嫌ってなのか、馬がそうさせようとしないのだ。

 

 

その状態からわずか二週間で、無事手綱を握り馬を操るまでに至っている。

王蘭の指導が良いのか、北郷の素質がよかったのかはわからないが、驚異的なことである。

 

 

 

 

そんな練習を続ける2人の元に、至急の招集命令が伝えられた。

北郷は曹操の元に、王蘭は夏侯淵隊集合地に急ぐ。

 

 

 

――軍議にて

 

 

 

「ようやく、他領への盗賊討伐の許可がおりたわ。」

 

 

軍議の開始早々、曹操が皆に伝える。

どうやら太平要術の書奪還のために申請していた、他領への行軍が許可されたらしい。

 

これを受けて、いよいよ兵をあげて盗賊の討伐に赴く事になった。

そのための会議のようだ。

 

 

「上の役人に話を伝えてから一ヶ月………。余りに愚鈍だったけれども、ようやく機会が回ってきたわ。皆のもの、早速出立の準備を整えなさい。細かいところは秋蘭、あなたに任せるわ。」

 

「はっ。畏まりました。」

 

「出立は明後日の朝。遅れは許さないわよ。いいわね!」

 

 

 

 

こうして出立の準備が始められ、王蘭たちの小隊は輜重隊として後詰めを任されることになった。

 

 

王蘭は夏侯淵より、監督官として新たに文官として登用したらしい、荀彧という少女を紹介される。

 

 

「王蘭、彼女が今回の輜重に関する監督官に任命した荀文若だ。用意する糧食の量や矢束の数などは彼女の指示に従うように。」

 

「はっ、承知致しました。荀文若様よろしくお願い致します。」

 

「………荀文若よ。必要な指示はこちらから出すから、あまり話しかけないで頂戴。」

 

「は、はぁ………。承知致しました。」

 

 

初対面にもかかわらず、余りに素っ気ない態度を取られて面食らう王蘭。

それを見て、夏侯淵が、

 

「まぁ気難しいところもあるが、これで仕事は早くて正確なのだ。

少し我慢してやってくれ。では後は頼むぞ。」

 

そう言い残して、部隊の調整に向かう夏侯淵。

早速、必要な糧食を集める指示を荀彧から受ける。

 

 

「必要な糧食はこの帳簿に記してあるわ。あなたはこれに書いてある通りに用意なさい。

四の五の言わずに、言われたとおりに動けばいいの。わかった?」

 

「は、はっ。承知致しました。帳簿を拝借致します。」

 

 

そう言って帳簿を王蘭に渡すと、荀彧は別の作業監督のためにこの場を去る。

 

 

 

それを見送った王蘭はため息をつきつつ、隊員らと糧食の用意に取り掛かろうとする。

しかし、帳簿の中身を確認して自分の目を疑う。

 

 

「これは………。聞いていた行軍日数よりもかなり用意する糧食が少ないですね。

将軍がお認めになられた方なので間違いとも言い切れないしな………困りました、どうしましょう。」

 

 

頭を抱えた王蘭だったが、万が一の事を考えて決断する。

 

 

「皆さん集まってください。ここに今回の行軍における糧食についての帳簿があります。

ですが………。将軍からお聞きしている行軍日数と比べると、余りにも少ない量しか記載されていません。

 

監督官殿も、将軍からの信任を得て今の役目を果たされている方なので、お考えあっての事なのでしょう。ですので我々輜重隊としては、彼女の顔を立てる意味でも、表向きはこの帳簿通りに用意します。

 

ただしこれとは別に、本来用意しておくべき量との差分について、一切を私の責任に於いて秘密裏に用意しておくことにします。くれぐれも別隊の方々にも内密に。よろしいですね?」

 

 

荀彧や夏侯淵に黙って食料の準備に取り掛かる王蘭の小隊一同。

果たして良い結果へとつながると良いのだが………。

 

 

 

 

 




荀彧さん登場。原作ストーリーがあると話が進めやすいですね。

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