真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第七十六話

 

 

旧呉領の国境付近の拠点を出立し、軍を益州成都に向けて進める曹操軍。

その数およそ50万が威風堂々、敵の本陣へと歩みを進める。

 

これに先んじて王蘭たち斥候部隊は、呉の周泰部隊と即席の連携を取りながら、周囲の警戒にあたる。

 

事前に仕入れた情報では、劉備軍は数に圧倒的差があるため、山間の隘路を利用した攻撃を展開してくるということだった。

それを受けて周泰と王蘭はそれぞれ進路の左右に別れた山へと昇り、敵の部隊が潜んでいそうなところを探す。

 

 

「そうですか、ご苦労さまです。………華琳さま、敵の将は情報通り山の頂付近より、進行予定の隘路に向けて構えている部隊が左右の山でそれぞれ確認が取れました。」

 

「そう、ご苦労。やはり斥候に強い部隊が複数居ると情報がより早くなっていいわね。」

 

「はい。蒼慈さんの斥候部隊は元より、それに引けをとらぬ明命殿の部隊も流石と言えるでしょう。敵の情報がこうも掴めるのであれば、あとは軍師の我らの仕事です。」

 

「稟ちゃんの言う通りですねー。あまり敵さんを待たせても悪いので、さっさと予定通り罠にはまってあげちゃいましょー。」

 

「そうね。桂花、作戦を実行なさい。」

 

「はっ。季衣に伝令! 大盾を用意して、軍を進めなさい。」

 

 

敵の作戦に対して、曹操軍がとる作戦は単純至極。

わざと敵の罠に掛かったように見せて左右から来る敵を迎え撃ち、更に別働隊が横撃を入れるというもの。

 

曹操、荀彧からの命令によって、部隊を進ませる許褚隊。

こうして劉備軍の襲撃の対処を開始していくのだった。

 

 

 

………。

 

 

 

何度かそんな状況を繰り返し。

劉備軍の襲撃を全て弾き返してはその歩みを進める曹操軍。

 

劉備軍軍師の諸葛亮、鳳統も現場からの報告を聞いてようやく自分たちの策がバレていることを理解する。

これを受け、2人は直ぐ様主の劉備の元へと急ぐ。

 

 

「桃香さま………誠に残念ながら、今回のこの作戦、敵軍に既に見破られている様子。このままでは伏せている将たちが討ち取れられてしまう可能性も高い状況です。………これ以上、内部の将を見て立てる策では、あの強大な曹操軍には打ち勝てません。どうか、どうか! 今一度この諸葛亮めに機会をお与えください!」

 

「い、今からでも遅くありましぇん! 私や朱里ちゃんだけで立てる作戦が不安と仰るなら、愛紗さんや鈴々ちゃんに入っていただいても構いませんから!」

 

 

2人の真剣な眼差しを受けた劉備は、ほんの少しだけ考え込む。

そして、2人の提案を受け入れるのだった。

 

 

「そう、だね。そうだよね! 朱里ちゃん、雛里ちゃん。今までちゃんと支えてあげられなくて、ごめんなさい………。今からでも大丈夫なら、また2人の力を貸してください。」

 

「と、桃香さま………よろしいのですか? 今の我々の内部状況では、2人の指示に従うものも限られてきますが………。」

 

「愛紗ちゃん………。もちろん、それもわかってるよ。でも、今の私たちの状態ってやっぱり少し変だと想うんだ。皆味方なのに、今は敵みたいに感じちゃってる部分………ない? 朱里ちゃんも雛里ちゃんも、どんなに大変な状況に居たとしても、私や皆のために頑張ってきてくれてるのは間違いないことだし、焔耶ちゃんの言うこともわかるよ。でもね、それって本来は同じ方向を見ていける事なんじゃないかな? 対立しなきゃいけない事じゃないような気がするんだ………。」

 

「確かに………そう言われてみればそうなのかも知れませんが。機会を与えるには遅すぎるのではありませんか?」

 

「………例え遅かったのだとしても、王であるこの私が部下に遠慮して何も言わない、何も決めないのって違うって思うからさ。だから、今からでも間に合うなら、私は2人を信頼したいんだ。」

 

「桃香さま………。承知致しました。であれば、この青龍堰月刀の力、朱里、雛里。お主ら2人に預けるとしよう。存分にこの私を使ってくれ!」

 

「愛紗さん………! わかりました! お任せくだしゃいっ!」

 

「愛紗さん、ありがとうございます! でもその前に、桃香さま。まずは曹操軍がこちらに向かってくる道中に配備している将たちを全てこの城に集まるよう手配を頂けますか? 既にこちらの立てた策を全て見破られているならば、はじめから策を練り直す方が損失も時間も小さくて済みます。魏延さん………いえ、焔耶さんに何か言われたとしても、そんな事でもうめげたりはしません!」

 

「うん、わかったよ! 二人共、改めてよろしくお願いします。」

 

 

そう言って劉備は小さな軍師に頭を下げる。

2人は顔を見合わせ、慌てた様子で主の体を起こした。

 

こうして再び自身の主からの信任を得た2人の小さな軍師。

今までの軍議で見せていた様な、生気を失ってしまった様な表情はそこにはなく、劉備軍立ち上げ当初の様な、生き生きとした表情が戻っていた。

 

 

………だが2人は知らない。

自分たちのすぐそばに、曹操軍の密偵が潜んでいる事を。

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

それから数日後。

敵の襲撃がなくなった事によって、曹操軍は周囲の警戒を継続しつつも、休息を取りながら確実に歩みを進めていた。

気づけば、敵軍本拠地の成都はすぐそこまで来ていた。

 

最初は敵の襲撃がパタリとなくなった事に対して、何かあったのか、自分たちの予測できていない事態に陥ってしまっているのか、などと緊張が走っていたが、すぐに劉備軍に潜ませている斥候兵たちからの報告が入り、曹操軍全体はその緊張を解く。

また、王蘭は新たに2人の軍師が作戦の練り直しを実施している事をの報告を受けたのだった。

 

 

「………とのことです。再び報告が入る時にはその練り直した作戦内容の概要くらいはわかるものと思いますので、我々は軍を進めながらしっかりと備えていく事が肝要かと思います。」

 

「そう、わかったわ。引き続き、情報収集に務めなさい。」

 

「はっ。」

 

 

早速、その内容を道中の軍議にて皆に共有する王蘭。

曹操からの檄を受けて、身を引き締める。

 

 

「すごい………。蒼慈さんの部隊、どうしてそんなにすぐ情報が仕入れられるのですか?」

 

「う、うむ………明命の言う通りだ。出立前にも聞いていたが、やはりその情報力は異常だぞ?」

 

 

やはり同じ斥候部隊として、王蘭のその類まれな情報収集能力には舌を巻くのだろう。

羨望とも、畏怖ともつかぬ様子で声を上げる周泰、そして周瑜。

 

 

「褒め言葉として受け取っておきますね。ありがとうございます。………まぁ、そろそろ皆さんには共有してもいい頃合いでしょうか? こうして敵の策の練り直しの情報も掴んで来てくれましたし、果たすべき役目も次で終わりそうですしね。帰還命令を出しておきましょうか。」

 

 

出立前にはまだ時期尚早として誰にもその秘密を語らなかった王蘭。

だが、いよいよ益州成都を目前にまで軍を進めたことによって、重要な情報を仕入れる目処がたったのだ。

 

これによって、今まで徹底的に秘してきた情報、それを打ち明けることにしたようだ。

 

 

「………い、いよいよ、なのね。ボクも知らないから、いざ答えを聞けるとなるとちょっと緊張しちゃうわね………。」

 

「えぇ………詠は蒼慈殿と連携を取り合っていたのに、知らなかったのですか?」

 

「そう言う存在が居ることは聞かされてたけど、その他は全く知らないわね。いつから潜んでいるのかもわからないし、なんて名前の人材が向かっているのかも。桂花はどうなの? 筆頭軍師として、相談とかは?」

 

「無駄に男と関わろうと思わなかったし、その情報が正確なものであれば誰が何人どこにいようと知ったことじゃないわ。」

 

「桂花らしいわね………。風は?」

 

「そうですねー。以前益州に秋蘭さんと伺った際、劉備軍の内情を記したお手紙がお部屋に差し込まれた事があったので、そう言う存在が居ることを実際に体験して認識はしていましたよー? ですが、それが誰だったのかまでは見られていないのでわかりませんー。」

 

 

どうやら軍師たちもそわそわとしているらしい。

軍師というのは知りたがりの質があるのだろう。今まで存在を匂わされていても、その実態はつかめずにいた、まるで幻かの様な存在。

 

それが解明されるとあって、少女の様にはしゃいでいる様にすら見受けられる。

 

 

そしてその間に自身の部下を呼び、その対象への帰還命令を出す旨を伝え、兵を走らせた王蘭。

要件が終わり皆の方へと振り返り、こほん、と1つ咳を払うと、周囲の将や軍師達は姿勢を正して王蘭へと視線を向ける。

 

 

 

「まぁそこまで改まって言うことではないのかも知れませんが………劉備軍に潜ませている斥候兵についてお話しますね。」

 

 

 

 

 

 

 

 




さてと。ずっと存在だけをお伝えしてきた影のような存在。
その斥候兵の正体が明らかに。

予想ついてたとしても、そわそわするフリしてお待ち下さい笑



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