真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第七十七話

 

 

 

「さて………どこからお話したものでしょうか? 逆に、お聞きになりたいことはありますか?」

 

「もうこの際だから全てを話してしまいなさい。蒼慈、あなたにその順序は任せるわ。」

 

 

曹操にそう言われて、少しの間思案顔を浮かべる王蘭。

 

 

「ふむ………わかりました。では、ずばり彼女の名前から申しましょう。」

 

 

そう言って言葉を切った王蘭は、皆を見渡す。

誰かがゴクリと喉を鳴らした。

 

 

 

 

 

「彼女の………。劉備軍に潜っている斥候兵の名は………孫乾。そう、皆さんご存知の彼女です。」

 

 

 

 

 

その名を聞いた曹操軍の将達は一様に言葉を失った。

 

まだ記憶に新しい、赤壁の戦い。

その戦いに向け、呉の宿将黄蓋が決死の覚悟を持って曹操軍へと偽装降伏をしにきた時のこと。

黄蓋と共にこちらに降ってきたのが孫乾だった。

 

呉と同じ様に、劉備軍も恐らく必勝の策として軍師達が必死に考えたであろうこの作戦。

それを任される程の人物が、実は曹操軍からの密偵だと言うのだ。

 

その名を忘れている曹操軍の将は誰一人としていない。

 

 

「………それは本当なのかしら?」

 

「はい。彼女は私が手塩にかけて育てた、大切な部下です。」

 

「ねぇねぇ華琳、その孫乾?って誰なの?」

 

 

事態を飲み込めていない孫策たち呉の将。

 

 

「孫乾………。先の赤壁の戦いで、黄蓋殿と共に我が軍に偽装降伏してきたものよ。」

 

「なっ!?」

 

 

孫策たちにとっても黄蓋に関する話は決して他人事ではなかった。

宿将とまで言われるまでに呉に仕え、貢献してきた黄蓋。

 

その最期の時間を共に過ごしたと思われる人物と言われれば、興味を引かれぬはずがない。

 

 

「………だとするならば、私たちもより真剣に聞く理由ができちゃったわね。」

 

 

ただ楽しげに聞いていただけだった孫策も、姿勢を正して王蘭へと向き直る。

それに倣う様に、周瑜や周泰も居住まいを正した。

 

それほどまでに、赤壁の戦いというのはどの軍にとっても重大な爪痕を遺した戦だった。

 

 

「あの時………私たちが赤壁に向かう道中、黄蓋殿が私に策を提案しにくる理由を知っていたのはそう言うことね。」

 

「はい。あの夜、華琳さまに何故知っているのか? と聞かれお答えするつもりでしたが、今までその機会を失ったままでした。申し訳ありません。」

 

「………別に構わないわ。これで納得したから。」

 

「ねぇ蒼慈。祭は何かあなた達に策を用意したの?」

 

「はい。黄蓋殿と言うよりも、これは劉備軍の諸葛亮や鳳統の考えた策といった方が正確でしょうか。船に慣れぬ我らに対して、鎖で船同士を繋げば揺れも収まり、船酔いも軽くなるだろう、と。」

 

「鎖で繋いでしまえば簡単には解けない………それで火計の威力が増す、というわけか。確かに祭殿の考えに沿った策だな。」

 

「どうやら彼女の報告では諸葛亮、鳳統も風向きが変わることは知っていた様です。そこに冥琳殿と黄蓋殿の諍い、軟禁の情報、そして赤壁の地………恐らくたったそれだけの情報で諸葛亮と鳳統の2人は結末に辿り着いたのでしょう。その知謀はまさに、というほかありません。」

 

「そうか………不確定な要素を多分に含んだ今回の我らの作戦、看破できるはずが無いはずだったのだが、華琳殿達が看破していたのはむしろ諸葛亮、鳳統の立てた作戦だったか………。」

 

「そう言うことです。明命殿、思春殿を相手に中々情報は得られませんでした。であれば、他の経路から相手の作戦を打ち崩すのは当たり前の考え方ですよね。………とまぁ、そう言う経緯であの夜、華琳さまに黄蓋殿、孫乾の両名より連環の計が献策されました。」

 

「そうだったの………。冥琳は祭の作戦のこと、知ってたの?」

 

「いや、知るはずもない。あれは本当に不確定な要素が絡み合っている状態だったのだ。知らぬことだらけだよ。」

 

「赤壁での出来事、ご納得頂けましたか? これまで、劉備軍に対して圧倒的優位に進められていた情報戦、ご理解頂けたと思います。彼女は劉備軍の侍女長と諜報員を務めるもの。軍議でも皆に茶を出し、自身もその末席で内容を聞いているのですから作戦が筒抜けになるのは当たり前。更には、日頃侍女長としての業務で各将の部屋の片付けも請け負っているのですから………。」

 

「あっ………あの偽の情報を記した地図って………。」

 

「はい。諸葛亮に他の資料を届けるのとあわせて潜り込ませたのも彼女です。」

 

「諜報員だからこそ、偽装降伏にも抜擢されたってわけね………。なんだかボク一気に疲れちゃった………。」

 

 

賈駆の零した言葉を聞いて、王蘭はふふっと笑った。

 

 

「彼女が劉備軍の諜報員になると聞いた時、流石に笑ってしまいました。彼女の斥候能力は、何せ我が隊の訓練によるものなのですから………。」

 

「あんた性格悪くなってない? 桂花みたいよ………。」

 

「ちょっと詠! どういうことよ!?」

 

 

賈駆からチクリと刺される。

荀彧のことは無視するようで、次は郭嘉が質問を投げた。

 

 

「蒼慈殿、私からもいいですか? 孫乾殿はいつ頃から我が軍に?」

 

「彼女が我が隊に加わったのは………黄巾党の頃ですね。」

 

「そ、そんな前から………。」

 

「はい。あの当時、華琳さまは上に掛け合って他領への進行許可を取得されましたよね。その許可証なんですが………まぁこの辺りは流石といいますか、進行可能な期日や対象領地の明記が無い許可証を取得されていたようで………。お陰で堂々と他領にも斥候を放つことが出来ていたのです。その時、とある村で黄巾党が暴れているのを確認して様子を伺いに行くと、そこで賊らに見つからない様に隠れていたのが………。」

 

「孫乾だった、ってわけね。」

 

「はい。彼女は青州出身………。黄巾党の活動が最も荒れていたのは青州だったと言いますからね。運良く彼女だけでも助けられてよかったです。そのまま彼女は私たちに恩義を感じてくれ、斥候部隊へと加わってくれた、というわけですね。彼女が加わってくれた時期は、私はまだ夏侯淵隊の副隊長だった頃。ですので、秋蘭さんも彼女の顔に見覚えがあった、というわけです。」

 

「まぁ私の直属の部下ではなかったから、かなり怪しい記憶ではあったがな。」

 

「それでも彼女が降伏してきた時、反応を示さないでいてくれて助かりました。」

 

「お前が彼女の事を覚えてないわけが無いと思ってな。お前が動じずに接しているのに、私がボロを出すわけにはいかんだろうさ。」

 

 

そこで会話が途切れ、少しの静寂が生まれる。

 

 

「さて………私からお話する情報としてはこれくらいですが、何か他にご質問は?」

 

 

皆の顔を見回し、様子を伺う。

軍師たちも、ようやく答えが知れたことによる満足感と、過去の内容のすり合わせにかなり頭を使ったようで、ぐったりしているように見える。

 

 

「………ないようね。さて、答え合わせも終わったことだし、これからの方針を確認するわよ。桂花たち、もう少し頑張ってちょうだい。」

 

 

 

 

劉備軍に潜む魏の影、孫乾。

 

その正体がいよいよ皆に伝わり、彼女が戻ればいよいよ成都の攻略に向けて進めていくことになる。

曹操の大陸制覇はすぐ目の前に来ていた。

 

 

 

 

 

 





ということで、皆さん予想通りの孫乾さんでした。
急に出てきたわけですから、やっぱりな、感が強いですよね…笑

でもまぁ彼女が曹操軍のダブルスパイだったならばこれまでの対劉備戦の圧勝具合も納得頂けるかと思います。
いろいろ辻褄合わないところもあるかも知れませんが、勘弁したってください笑



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