真・恋姫†無双 - 王の側にて香る花を慈しむ者   作:ぶるー

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第七十八話

孫乾の存在を皆に打ち明けてから数日。

帰還命令を出されていた孫乾その人が、曹操軍へと戻ってきた。

 

もちろん、蜀軍の情報を携えて。

 

 

「美花、長い間ご苦労様でした。」

 

「蒼慈様………。ただいま、戻りました。」

 

 

彼女の帰還を出迎えたのは部隊長と務める王蘭。

孫乾は王蘭の顔を認めると、すぐそばまで歩み寄り、深々と頭を下げた。

 

彼女が仲間になったのは黄巾の頃。

そこから斥候兵としての訓練を実施し、洛陽にもともに潜り込んだ。

 

そして反董卓連合が結成され、そのあたりから今まで、ずっと劉備軍として活動を続けてきている。

何年も何年も、己を殺し続けてきた部下を、王蘭が出迎えない訳がない。

 

 

「本当なら休みを与えてあげたいのですが………。申し訳ない、軍議にともに出ていただけますか? あなたのことを曹魏の皆さんに改めて、紹介したいのです。」

 

「畏まりました。私のことでしたら、一向に構いませんので。」

 

「そう言って頂けると、助かります。では………参りましょうか。」

 

 

 

………。

 

 

 

 

「孫乾、久しいわね。」

 

「はっ、ただいま戻りました。赤壁の戦いでは、身分を隠したままで申し訳ありません。」

 

「別に構わないわ。あなたのおかげで我が曹魏は大躍進を遂げているのだから。蒼慈、この子には存分にこれまでの苦労に報いてあげなさい。いいわね?」

 

「はっ。」

 

「孫乾………あなたの活躍に免じて、私のことを華琳と呼ぶことを許しましょう。あなたの真名も、私に預けてくれるかしら?」

 

「ありがたき幸せ………。我が真名、美花。華琳さまにお預けいたします。」

 

「美花ね。確かに預かったわ。………さて、早速で悪いのだけれど、諸葛亮たちの作戦について報告してくれるかしら?」

 

「畏まりました。朱里様………失礼しました。諸葛亮と鳳統の2人は、華琳様の軍が伏兵のことごとくを打ち破っている状況から、作戦が漏れていると察し、すぐさますべての兵を成都に集めました。その後、すでに成都の近くまで進軍されていることから、あまり大掛かりな作戦の決行は難しいと判断。その結果、決戦の際に搦め手ではありますが、舌戦直後の戦闘用意が整う前に急襲し、こちらの隙をつくる作戦のようです。」

 

「そう………確かに舌戦後の戦闘開始機会は別に決まっているわけではないものね。」

 

「はい。諸葛亮はその一瞬の隙を狙って仕掛けてくる様です。」

 

「逆に言えば、それを乗り越えたらあとはこちらのものね………。」

 

「もちろん、本隊出陣の機会も戦況次第ではありますが、この第一陣を乗り越えれば、こちらの流れになろうかと思います。」

 

「桂花、詠、禀、風の4人は相手の動きを予測した上で、明日の作戦を立てなさい。」

 

 

「「「「御意。」」」」

 

 

 

 

 

 

──────────。

 

 

 

 

 

 

 

孫乾からの情報がもたらされた事により、曹操軍は再び進軍を開始。

あっという間に成都前へとたどり着いた。

 

成都城壁前へ辿り着いた曹操軍は、すぐさま戦闘準備として部隊を布陣させる。

それに呼応するように、成都からは劉備軍が次々に出てきた。

 

 

「華琳さま。城門が開きました! 敵部隊、各方面から展開してきます。」

 

「そう、劉備は?」

 

「まだ………いえ、出てきました。関羽、張飛たちも付いているようです!」

 

「まずは舌戦ということかしらね………。何人か付いていらっしゃい。」

 

「はっ!」

「ボクも行きますっ!」

「私も………。」

 

「………一刀、あなたもいらっしゃい。」

 

「え? 俺も?」

 

「そうよ。残る皆は敵の陣形に応じて配置を調整しておいて。秋蘭、桂花、禀、風。判断は任せるわ。」

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

 

「ようやく出てきたわね。劉備。」

 

「曹操さん………やっぱり戦うんですか?」

 

「えぇ、そのためのここまで来たのだから。それとも、ここで私に降るかしら?」

 

「………それは出来ません。」

 

「そう………あの時から少しは成長したのかしら? 理想を叫ぶだけのお嬢さん?」

 

「あの時と同じです、私にとって大切な事は何も変わりません。ただ、私は私の理想を信じるだけ………。そして、それに賛同してくれる皆のことも! 今、大陸に必要なのは、皆で協力してこの疲れた国を立て直すことなんです!」

 

「そうね………その考えはある意味では正しいわ。けれど、皆で仲良く協力して………そんな甘いやり方で立て直せるほど、この大陸はあなたに都合よくなんか出来ていないのよ?」

 

「そうは思いません! 私だって、これまでずっと戦ってきました。けれど、南蛮の美以ちゃんとも仲良くなれた! 恋ちゃんやねねちゃん、焔耶ちゃんや桔梗さんとだって、戦ってたこともあったけれど、今はみんな仲間なんです! だから、きっと皆分かりあえるんです!!」

 

「分かりあえる………ねぇ。あなたが南蛮や荊州、益州の将を従えたことはもちろん知っているわ。けれど、それは最初から話し合って分かりあえたのかしら? あなた達のやり方もこちらは知っているのよ? 力で打ち倒し、それを示してからの服従だったのでしょう? しかも、南蛮は7度も8度も倒さねば分かってもらえなかった、と聞いているけれど?」

 

「そ、それは………。」

 

 

「劉備、あなたの理想や考え方は尊いものでしょう。けれど、その理想の弱さは、話し合うことを第一と掲げながらも、結局は拳を振り上げることにあるのよ。そしてその弱さは………あの時から何も変わっていない。拳を握ったままの相手を、誰が信じられようか? 疑心暗鬼に駆られたまま従うことが、あなたのいう”仲良く”とやらの正体なのかしら?」

 

「違いますっ! それに、拳を振り上げるのは曹操さんだって同じじゃないですかっ!」

 

「えぇ、そうよ。けれど私は、あの時も言ったように拳を振り上げることを高らかに宣言するわ。そして、その言葉に従って振りおろす。そして、あなたの言うこの疲れ切った国、大陸は、一つの強い意思に導かれた王に従うべきだと、私は判断している。………ぬるま湯の理想を追うのは、その王の元で国を立て直してからでも十分すぎるわ。」

 

「それも違います! 力で押さえつけたって、いい事なんか何もない! ………あの時から変わりません。甘い理想だと言われ、指を刺されて笑われようとも、私はわたしの理想を信じ、貫くんです! 矛盾していても、おかしくても………それでも意思を貫けば、力を貸してくれる人が、理解してくれる人がいるから!」

 

「そう………劉備よ、あなたの言いたいことはよーくわかったわ。その言葉を聞いた上で、私の言いたいこと、わかるわよね?」

 

「………自分の意思は、己の力で貫き通せ。」

 

「結構。 ならば、この終わりのない議論に決着をつけましょうか………。互いの力のすべてを振り絞って、ね?」

 

 

しばらくの間、2人は互いの目線だけに意識を向ける。

言葉を用いての会話はこれで終わった。あとは意思の強さを拳に乗せて語るのみ。

 

 

「………いいでしょう。春蘭っ!」

 

「御意! 全軍、戦闘態勢! 我が曹魏の新たな歴史、この一戦にあり! 命を惜しむな! 名誉を………そして、我らの歴史に名を刻まれぬことを惜しめ!」

 

「この戦い!はるか千年の彼方まで語り継がれるであろう!」

 

「長く苦しいこの戦いだらけの日々も、最後の決戦となった! 黄巾の乱より始まったこの大陸の混乱も、反董卓連合、そして官渡から連綿と続くこの戦いによって、いよいよ収束を見る! すべての戦いを思い出せ! その記憶、その痛みと苦しみ、経験と勇気のすべてを、曹魏の牙門旗のもと、この一戦に叩きつけるのだ!」

 

 

 

 

「魏の王としてではなく、この国を愛するものとして皆に願う!………勝て!!!」

 

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

「愛紗ちゃん、お願い!」

 

「御意! 曹操の野望を食い止められるものは、もはや我らしかおらぬ! 敵は強大。されど我らの団結をもってすれば、打ち破れぬものはなにもない!」

 

「全軍、戦闘準備! 我らが子孫に、永久の平安をもたらすために!」

 

「劉旗のもと、私達は私達の理想のために戦う! 私達には多くの勇者と賢者が味方してくれている! だから、みんなもあと少しだけ力を貸して!」

 

 

 

 

「大陸の平和のために………」

 

「大陸の繁栄のために………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「総員、突撃ぃぃぃぃいいいい!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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